穏やかな日常と不穏な男
「ふわぁ~。……眠い」
ミラナの屋敷に来てから1週間が過ぎた。今のところは特に危険なことはなにもなく、穏やかに時間が過ぎている。
今日もいつも通りに朝食をとっている次第だ。
目の前にはいかにも貴族の食事といった料理がずらりと並んでいる。
希少な飛竜の1種・ワイバーンの卵を使って作られたフレンチトーストに、高級野菜をふんだんに使ったスープなどなど。
俺の純粋な稼ぎでは一生ありつくことのできないであろうものたちだ。
「ところで、今日どうする?」
なんでもいいから話したいと思うも、特に話題が思い付かなかったので今日の予定について聞くことにする。
黙って食事をするのは少し寂しい気がしてしまうので、嫌なのだ。
「私はいつも通り、留守さんに稽古してもらってーていう感じでいいですよ?」
あれから毎日ティアは俺の護身講座を受けている。
ティア自身、体を動かすのが好きらしく、性に合っているらしい。
特に予定もないので「じゃあ、今日もいつも通り教えて……」などと考えていると俺はミレイユに呼ばれた。
「ねぇ……テオ?私、提案があるんだけど……」
「ん?なんだ?」
「二人で町にお出掛けしない?」
「へ?」
つい、間抜けな声を出してしまう。
いきなり想定外のことを言われたのだから仕方ないと言えば仕方ない。
「最近、二人でゆっくりする時間なかったじゃん……?だから……」
「まあ確かにそうだなぁ」
確かに、刺客の撃退や引っ越しなどでドタバタしていた。
久々にゆっくりと1日を過ごすのも吉かもしれない。
「あっ!……じゃあ、ティアとも一緒に行って!」
そう提案するも、
「そ、そうだ!私、ちゃんとやらなきゃいけないことがありました!」
「そ、そうだった!そうだった!今日はあれやらなきゃだもんね! 」
二人揃って予定があったらしい女子たち。
一緒にいけないとわかり、思わず「シュン」としてしまう。
……余談だが、ティアは同年代ということもあって、ミラナとかなり親しくなっており、ちゃん付けで呼ぶほどだ。
「しょうがないか……そうすると二人で行くことになるけどいいか?」
一応、ミレイユに確認をとる。
「勿論、大丈夫よ!」
「じゃ、朝御飯食べたら準備して、早速行くか!」
「うん!」
嬉しそうに返事をするミレイユ。
外の天気も良好で羽を伸ばす俺たちを祝福しているかのようだった。
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「はぇ~。マジで人多いな……」
東西南北どこを見渡しても、人、人、人、
人、人、人、人、人、人、人、人、人……。
多すぎて文字で説明するとゲシュタルト崩壊を起こしてしまいそうなほどだ。
「もっと別になかったのか?例えば、博物館とか?」
ミレイユだって、そこまで人混みが得意なわけではない。ならなぜ、彼女はここを選んだのだろうか?
「でも……どうしてもここでやりたいことがあって……」
ミレイユが申し訳なさそうに俯いてしまう。
「ま、ミレイユが構わないなら俺もいいけどさ」
「……うん、ありがとう」
自分で言うのもなんだが……ベタな会話をしながら、俺たちは歩いていく。
「あっ!あそこ行こ!」
そう言って、なにかを指差したミレイユに手を引かれるままに歩いていく。
たどり着いたのは服屋だ。
うん……。
「なんか目が死んでるけどどうしたの?」
「いや、なんでもない」
俺の脳裏に過去の記憶が甦る。
この前まで住んでいた家に住み始めたばかりだった頃、「二人は日用品を揃えよう!」ということで此処と同じような商店街に繰り出した。
タンスや冷蔵庫、ベッドなどおおよそ必要な家具を買って帰ろうと思った矢先にミレイユが服屋さんを見つけてしまった。
それが辛い辛い体験の始まりだ。
「ルクス!見てみて!」とさしずめ、ファッションショーのようにミレイユに評価を求められるので、「しょうがないな」と素直に答えるも無視され、「うーん、やっぱり違うわね」と言ってミレイユは再び試着室のカーテンを閉めてしまう。
なので、「どの道、俺が意見言っても相手にされないだろ。面倒くさいし、適当でいいや」と思って、おざなりな返答をすると「真面目に考えて」と冷たい目で睨み付けられる。
そんな服屋イベントは俺としてはもう、懲り懲りだ。
「な、なぁミレイユ?」
「なに?」
「あっちに美味しいスコーンが食べられるカフェがあったから食べに行かないか?」
服屋とは別の場所に行かせるために適当な嘘をいっておく。
ちなみにミレイユは見た目によらずスイーツ大好き、ファッション大好きの女の子である。
「よ、よし……入るぞ?」
「ええ!」
そうして、店内へと入っていった。
………………。
…………。
……。
「はぁー……食ったな……」
「ルクス……あれは食べ過ぎじゃない……?」
カフェではコーヒーやら紅茶やらを飲むことが中心……のはずが、
どうも、そんな飲み物はそっちのけで例のスコーンを食べまくってしまった。
"お茶菓子"どころではなく、普通の食事レベルた。
あのスコーンが美味しすぎたのが悪い。
「うぷ……食べ過ぎた……」
「だから言ったのに……」
呆れたような口ぶりでミレイユが言ってくる。
俺は誤魔化すように話題を変えた。
「……さーて、次はどこにいく?」
「そうね……」
最初に決めてから来ればよかった。次からはそうしよう。
そんな風に思っていたちょうどその時、後ろから肩を叩かれる。
「少しいいだろうか?」
「……!なんでしょうか?」
振り返ると、見上げるような大男が立っていた。
俺の身長が180くらい。
それよりも15~20センチほど高いと見える。
ざっと、2メートルくらいだろうか?
「ルクス……という人物をご存知だったりしないかな?」
「……!!」
突然、自分の名を出され、反射的に驚いてしまう。
「……さぁ?……聞いたこともないですね……」
「そうか……。ここも違ったか。」
「……じゃあ、俺はこれで……」
俺のことを探している人間とはあまりかかわっていると危険だ。
さっさとこの場を離れるとしよう。
「ミレイユ~……次どこいこっかな?」
「う、うーん……どこがいいかしらね?」
そうやって、極力、「関係ありませんよー」という言動を心がけながら、歩いていく。
「……ルクス!逃げろ!」
「なに!?どこだ!?」
(あっ。)
あっ。
「やはりか……お前がルクスだったのだな」
まさかボロを出してしまうとは……。
ルクスとして一生の不覚だ……。
「……ああ。そうだよ。俺はルクス。どうにかしようってなら受けてたつぞ?」
今日はミレイユもいる。2対1だ。負けるはずはないだろう。
「……何か勘違いしているようだが……俺は別にお前に対して何かしたいわけじゃない。」
「……は?」
意外なことに俺を狙ってくるの人物じゃないらしい。
「……俺を欺こうとするなら無駄だ。やめとけ。」
「嘘じゃない。俺は本当にお前に危害は加えない。」
ミレイユに「どう思う」と顎をしゃくり、尋ねる。
「……(特に汗が垂れていたり、不自然にまばたきが多いわけでもない……本当だと思うわよ……?)」
ミレイユが耳打ちでそう伝えてくる。
昔から人間観察には定評のあるミレイユの言葉だ。
信用してよいだろう。
「……わかった。それじゃあ……俺になんの用があってここに?」
「……ここは人が多い。場所を変えよう。」
男がそう言って、俺たちに付いてくるようにジェスチャーする。
(仕方ない……行くか……)
……そうして、俺たちは男に従って、裏路地へと入っていっ
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