到着した話
「あ~!疲れた~!」
竜車から降り、思いきり伸びをする。
待ちに待った新天地、エリン・ノールの首都に着いたのだ。
目の前には俺たちが新たに住むこととなる家が立っている。
「結構、大きな家ですね」
「まあな」
なんとか、刺客に襲われることもなく、無事にたどり着くことができた。まずはこれに祝杯である。
「でも、どうしてこんな大きな家に?別荘とかですか?」
ティアがいかにも不思議だというように言った。
「ないない!別荘買えるほど金持ちではないって!」
「じゃあ……どうして?」
「それはな……」
「私のつてなのです!」
答えようとするといきなり現れた第4者に言葉を遮られる。
「えっーと……この人は?」
「テオの知り合いの子。なんでもテオがある依頼を受けたときに助けたみたいよ」
ミレイユがそう答える。
淡々とした説明口調とは反対にその目はとても嬉しそうだ。
「ミラナ、無理を言ってすまない……」
「全然!前に助けてくれたことの恩返しみたいなものなのですよ!」
元気よくそう言ってくれる少女。その子供のような様子は頭から「追われている」という事実を少しは忘れさせてくれる。
俺がそんな風に思っているとティアがこうつっこんだ。
「テオさんって女の人の知り合いが随分と多いんですね。」
「ほんと、"たらし"よね」
「ティア、ミレイユはたまに適当なこと言うから無視していいからな?」
それとなく、ミレイユの発言を否定するテオ。
その様子がおかしく、4人目の少女が笑う。
「それで……お名前を教えてもらっても?」
ティアが少女にそう尋ねる。いつも以上に積極的だ。
「私はミラナ・アウロフ!君は!?」
「ティア・カペルです。これからよろしくお願いします。」
「うん!よろしくなのですー!」
快くティアを受け入れてくれる。
ちなみにミラナもティアと同じく15歳。
同年齢仲良くやってくれるか少し心配だったが、その必要はなかったようである。
「じゃあ、早速部屋に行くのです!」
ミラナのかけ声に従って、一同、屋敷内に入っていった。
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「大きい家ですね……。」
「ふふ~ん。でしょ!?」
驚嘆するティアに対して、「どうだ!」と言わんばかりにミラナが胸を張る。
大広間、キッチン、バスルーム、庭など屋敷内の大体の場所を回ったが、それの広いこと広いこと。
途中で何人もの執事やメイドに会い、ティアは改めてミラナの凄さを実感した。
「ミラナはこの国の商会ギルドを束ねるボスだからな。俺とは比べ物にならないくらい財を持ってるんだよ。」
ミラナの経歴を補うようにティアに説明する。
商業をなによりも重要視する、エリン・ノールにおいて、同分野でトップになるというのは国のトップになることにも匹敵する。故に大きな財力と権力をもつことができているのである。
「へへーん!」
子供のように自慢げにするを見ているととてもそうは思えないが。
「ところで俺たちの部屋って……?」
「こっち!こっち!」
カムカムとジェスチャーをしてくる。いちいち行動があどけなく、可愛らしい。
「ここの部屋です!どうぞ!」
ドアを開くと、赤い絨毯が床一面にしかれた豪勢な部屋が目に入ってきた。
ベッドも最近、話題になっている低反発フカフカベッドだ。なんでも、ユン・ロンとかいうドラゴンの一種が作る綿を原材料にしているとか。
「この床だったら……血とかこびりついても分かりにくいし、後片付けが楽だな……」
「……テオ、物騒なこと言わないの。」
「テオさん!怖いですよ!」
「冗談だってば。」
ただのジョークのつもりだったのに。
そんなに俺は殺伐としたイメージなのか?
「ところで、ひとつ聞きたいんだけどさ」
またひとつ、俺はミラナに質問をする。
「なんか今日は凄い質問されてるけどなーに?」
そこについては善処だ。特に俺とティア。
「この部屋さ、やけに広くね?」
さっきのベッドも3人は横になれる大きさだ。
ミラナはただの貴族様ではなく、商会のトップ。
いたずらに無駄な贅沢はしない人間だ。
では、なぜなのだろう?
「"3人"が不自由なく過ごせるようにね。用意しておいたんだよ!」
「……え?ちょっ……もう一回言ってくれるか……?」
「3人が快適に過ごせるように用意したよ!」
「……ってことは、俺とミレイユとティアは同室……ってこと?」
「そうだね!」
「「「はあああああ!?」」」
「~♪」
3人の「おかしいだろ!」という声をどこ吹く風とでも言うようにニコニコしている。
超がつくほどのど天然。それがミラナだ。
流行にはやたら敏感なくせに空気に関してはこれでもかというほど疎い。
「私、テオと同じなんて!」
「えっ……俺のことそんな嫌いなの……?」
一番大きな声をあげてるのはミレイユだ。
そんな様子を見て、悲しそうに呟くもミレイユには全く届かない。
しかし、ティアには届いていたようで憐れむような視線をもらう。
「テオと一緒になんか天地がひっくり返っても無理よ!」
世間には、好き故にツンケンとした態度やもの言いをしてしまうものもいるようだが、ミレイユに至って、それはないだろう。
ミレイユとの付き合いはかなり長い。
本音と嘘を見分けられないほど、俺はボンクラではないのだ。。
「ま、まあそんなに嫌なら分けるよ……」
結局……
あまりの態度に気を使ったミラナがそう言い、「3人でのルームシェアはなし」ということになったのだった。
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『コンコン』
夜21時30分。
ティアの部屋番号である201室のドアを叩く。
「どうぞ?あっ!テオさん!」
「今時間あるか?」
「大丈夫ですよ。ちょうど手持ちぶさたで何をしようかと困っていたところですし」
「前に言ってた護身術……教えても平気か?」
「はい!是非お願いします!」
護身術の演習。
敵がまだ現れていない今、絶好のチャンスだと考えたのだ。
「じゃあ、中庭に行こっか?」
「了解です!」
…………。
……。
そうして場所を移して中庭。動きやすい服装に着替えた俺とティアが剣術試合をする人達のように向かい合う。
「まず、俺が教える護身術についてなんだけど……護身術というよりただの殺人術なのでそこんとこはよろしく頼む」
「はい!」
「最初からそう言えばよかったな」と思うが、そこはスルーだ。
ティアも気にしていないみたいだしよいだろう。
「まず、敵と戦うときは負けないことを第一に考えてくれ。勝とうとはしなくていい」
「なんでですか?」
「人っていうのは感情的に、罠だって分かってても目先の勝利があれば飛びついちまう生き物だからな。最初から負けないことだけを考えて、無理して勝とうとしなきゃ、そんなくだらない罠に引っ掛かることもないだろ?」
「なるほど……」
それこそ、剣術大会や魔法大会、武道大会なら一定のルールやマナーを守って、正々堂々と戦うだろう。
だが、自分の命がかかった実践ではそんなバカ正直に戦おうとするものは当然だがいない。いたとしたら相当の純粋くんだ。相手はいろいろと罠を仕掛けてくるのが普通である。
「ま、とりあえずは俺の動きの真似してみてくれ。こうやって……」
そう言って、ティアに自分を真似るように求める。
古来より強き者はより強き者から技を盗むものだとはよく言われたものだ。
そうしてティアはナイフの扱いに、体術、素手での戦闘技術と覚えていった。
……一通りのことを流し終わり、俺は疲れたように息をはく。
「はぁー……疲れたー……」
「結構、濃密な時間でしたね」
軽く四時間ほどはやったのではなかろうか?既に日付は変わってしまっている。
「さて、今日はもう遅いからこのくらいだな。これからもできるときにボチボチやる感じで」
「わかりました!テオさんができるときにお願いします!」
……正直、俺としてはあまり多くを教えるつもりはなかった。
なんだかんだでまだ子供。そこまでの技術向上はないだろうと考えていたのだ。
しかし……
(これはかなりの逸材かもな……)
既にティアの動きはたった一日目なのにも関わらず、アマチュアの武人くらいなら互角に戦えそうなほどの力量になっている。
大きな期待を俺はティアに抱いた。
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