第39話「無意味」
これが一種の遊戯だというなら参加者は当然ながら勝ちたいと考えるだろう。
神様が天使でもない者に力を与えることになっても
魔王が眷属以外の者に力を与えることになっても。
この遊戯にさえ勝利することができたなら得られる利権の方が大きいのだからプライドや価値観など捨てて使える駒は全て使う。
ただし強制的に参加させられた者は別だろう。
自分に与えられた役割を延々とこなしていればいいと考え、他との干渉を断ち切った存在にとって他の血の気の多い神格と戦わされる遊戯は実に面倒なもの。自分が手を出さなくても終わるのなら傍観していたいほどのものだろう。
しかし、それが許されない。
勝ち負けが決まるのは駒によるからだ。
自分の意志に反して駒となってしまい力を持ってしまった者が負けてしまえば即ち持ち主の敗北と同義。
ましてや不参加の意思を示す者が本当に遊戯の存在を知らされていたかなど不明なのだ。
いつのまにか参加させられ敗北していることもあるかもしれない。
それらに関しても考えはあるが気になるのは別のことだ。
誰にも勝てず誰にも負けることのない能力は何のために存在しているのだろうか、と。
「そっちは一通り終わったんすか?」
「まあ、教えることは教えた。あとは二人の努力次第って感じだ。そっちは?」
倒木に腰を掛けてテイムに視線を向けた。
ギガスとの組手を終えて川の水で顔を洗っていたテイムは難しい顔をしながら答える。
「複雑な権能ってことは理解したっす」
「強い奴には強く、弱い奴には弱くなるって言ってたのにか? ギガス自身が理解してないことでもあると?」
「そうっすね。兄貴だと強さの定義ってどう考えるっすか?」
強さの定義、か。
これが喧嘩なら単純に力があって体格がある方が有利だし強いと表現できる。
しかし、賢い者を相手だと意味がない。
まず喧嘩になる前に言葉で言い負かされる。そういう意味では賢いことも強さの一つと言えてしまう。
テイムが質問しているのはそれらのことではないだろう。
ギガスの持つ権能が強いと判定する基準がどこに存在しているのか、という意味だ。
力のものさしで言えばテイムはそれなりに強い。
そのテイムを相手に権能が発動したならギガス自身もそれなりの力を持つことになるはずだが複雑というからには簡単に説明できるものではない。
何より自分達はプロトタイプだ。
肉体的な強さに意味がないとは言わないが権能のことも考慮して考えなければならない。
と、頭で考えていても埒が明かないので思いついたものを答える。
「人の優れた能力、かな」
「どういう意味っすか?」
「力がある奴は殴り合いとかで強いし足が早いやつは競争したら他が勝てないんだから強いってことだろ? そういう比較した時に差のある能力を言うんじゃないか?」
「一理あるかもしれないっすね」
テイムが腕を組んで頷いているとその横にギガスが来た。
どうやらテイムとの模擬戦中に何度か転んでいたらしく泥だらけになっているし所々に切り傷がある。
いや、この切り傷の深さは剣で切られたものか?
テイムのことだから手加減はしているだろうが軽く手当てくらいしないと何があるか分からない。
彼も傷口を洗うために川に来たようだ。
「俺の権能の話、してたのか?」
「剣に切られそうになった時に体が硬くなったりはしないのか?」
「対象、人だけだ。相手がエイルなら、俺も鋼並みに硬くなるけど」
「武器や道具は権能が効果を発揮しないのに権能によって得た状態は効果として『反映』されるのか」
「兄貴、それが単純なものじゃないんすよ」
「俺、テイムさんの権能、自分に『反映』できない」
ギガスの言葉を聞いて複雑の意味を理解した。
簡単な能力としては相手の肉体が持つ状態を『反映』させるものだから力が強いなら力が強くなるし硬いなら硬くなれる。
ただ対象は人だけだから武器や道具は反映されない。
そして、権能によって肉体の変化を及ぼしているエイルの翼のように体を硬くすることはできるが、テイムの使っている自己暗示による瞬発的な行動は反映できず対応が遅れた、と。
体の無数の切り傷はそれが原因らしい。
たしかに複雑な権能だ。
単に権能といっても能力のタイプはかなり分類が別れてしまう。
体に影響を与えるものでも物理的に影響があるタイプと間接的に肉体に影響を与えるものがあるし、その中でもギガスが『反映』させられるものが限られていたりする。
テイムの権能の使い方も言ってしまえば身体能力の強化だ。
自分に命令することで反射的に回避したり攻撃したりしているから運動神経の延長線のようなもの。
それを『反映』できない理由……。
「よし、ギガス。俺と腕相撲するか」
「ガルム、さんと? 俺は、必要だと思えない」
「何でもかんでも意味があると思うな。力比べだよ力比べ!」
ギガスは戦うことに対して積極的ではない。
彼の心が幼いというのもあるだろうが、力のある者が引き起こす争いを止めるために同程度の力を『反映』させる力を願ったのかもしれない。
しかし、彼がグラグラやエイルと今後も組織として仲良くやっていきたいと言うなら権能の使い道くらいは知っておいた方がいい。
いざ戦わなければならないという時に何も任せられないのでは困る。
誰も人を殺せとは頼まない。
ただ、自分や仲間を守るために必要な武力を最低限度で発揮してもらいたいだけ。
自分は単純に興味があるだけ。
本当の戦争ではなく模擬戦で特殊な権能を身近に体験できるかと思ったら歳柄もなく、わくわくしてしまっている。
近くにあった切り株の上に肘を立てて構えてギガスを呼ぶ。
躊躇っていたようだがギガスは自分の手を掴んで同じように肘を立ててお互いの腕が切り株に対して垂直に立てられている。
ギガスの腕は自分よりも一回りは大きく油断すれば一瞬で負かされてしまう。
彼の権能がなかった場合はという話だ。
テイムの合図でお互いに力を入れて手の甲を付けさせようとする。
「ギガス、ちゃんと全力出してるか?」
「本気出してる。こんな、押し返す力あるのは初めて感じた」
「まあ相手が俺だから仕方ないだろ。相手の力に合わせて強化も弱体化もできる権能を使ってても相手がどのくらいかって違いは感じられるんだな」
本来なら相手に合わせて強くも弱くもなってしまうのだから相手の力が強いかどうかなんて比較のしようがない。
それを感じられるということはギガスは感覚的に力の強弱を認識することはできているということだ。
できることならどのように感じるのか教えてほしいものだが……。
人の考えや感じ方など自分には知る由もない。
いま調べるべきなのは彼の権能の詳しい出力方法だ。
「じゃあ少しだけズルしちゃおうかな」
「ガルムさんの体が大きくなった?」
自分の『成長』は様々な意味での成長を意味する力。
故に文字通りの『成長』としての意味も兼ねているから十二分に食事を摂取できているなら余剰となるべきエネルギーを全て今の自分を成長させるために使うこともできる。
つまり体を一回りと言わず二回りだろうと大きくできる。
これでギガス以上に手が大きくなったのだからパワーも先程とは比較にならず、あれで全力を出していると言うなら一気に押し返せるはずだろう。
しかし、確かめたいことがあっただけで勝つことに興味はない。
自分の『成長』という権能についての詳細を細かく知っている者は誰一人としていないのだからギガスがそれを知っているはずもない。
この場にいる他の者も力を使い続ければ体が大きくなっていくことは知っていても、その場で大きくすることも可能とは知らない。
その状況下でギガスがそれを予測したとは考えられない。
故にギガスの手が少しだけ押されて切り株に対して垂直だった腕が傾いている。
「やっぱり簡単には勝てないか」
「ず、ズルいぞ! 体大きくできるなら俺、負けるの決まってる!」
「ちゃんと事前に申告しただろ?」
「何をするか言ってない」
「ってことは警戒はしてたんだな」
自分は今まで腕に込めていた力を抜いた。
当然だが全力で押し返そうとしていたギガスの力が抜けるわけではないので勢いよく切り株の上に腕は叩きつけられる。
さすがに腕だけで受けたら折れてしまうから体ごと腕が押された方向に倒れることで受け身を取ったが痛いことは痛かった。
「わざと負けた。やっぱりガルムさんズルい。もう信じない」
「そんなこと言うなよ。ちゃんと収穫はあったんだからな」
テイムが心配していたが気にするなと合図して体を起こす。
自分がギガスと腕相撲をして得た情報を頭で整理して彼にとって必要な部分のみを伝える。
無駄な部分は教えられない。
彼の心が幼いというなら簡単に傷つけてしまう可能性もある。
「まず、俺の権能に対しては間違いなくギガスの『反映』の権能が働いた。俺は小さい頃から『成長』の権能をノエルが譲渡されてるからほとんど権能の影響を受けているのにギガスは均衡した。権能により腕力の変化も許容範囲ということだ」
「だから体を大きくしたんすね?」
「一応な。あの体で『成長』がどのくらい効果を及ぼしてるか分からなかった。他にも理由はある」
「もしかして俺に警戒させた、あれか?」
それだ、と彼の言葉を肯定する。
事前に「ズルをする」と申告して警戒させた。
彼が文句を言ったとおり自分は体を大きくすると説明していなかったが普通に考えても「ズルをする」と言われれば相手を負けさせるための反則をするという意味なのだから警戒はする。
腕は強ばるし対戦相手を警戒する。
「警戒していてもギガスは俺の力の変化に対応できていない」
「俺全力だった。だから、急に強くなられても困る」
「だろうな。お前は『反映』された最大出力で戦ってた。ここで腕相撲を始めた時の俺の全力でな。ただ、その後は大きくなった俺の力を『反映』して維持していた」
「ラグがあるっすね。ギガスが兄貴の変化に気づいて判断するまでのラグっすか?」
「たぶんな。そこは皆の抱えてる制限と似たようなものだと思う」
ギガスは他の二人と同様に自分の弱点について客観的な意見を聞けて何かしら対策を思いついたのか頷いている。
やはり彼は幼い。
ここまで話されれば勘付く者もいるが、疑いすらしない。
ギガスの考えた対策は相手の力量が変化した際に発生するラグによる隙を距離を取ることで再び攻撃する際には同じ土台にするというものだろう。
間違ってはいないが正解でもない。
自分がギガスと腕相撲をした時に分かったこと。
彼が変化に対応できるようになったところで相手より強くなるわけではなく、均衡を維持するのみ。
つまり、一瞬の間に生まれた戦況の差は元に戻らない。
もしギガスの戦う相手が自分のように段階的な変化も起こせるような敵だったら確実に敗北する。長い時間をかけて少しずつダメージを蓄積させ均衡させることすらできないように弱らせてしまえば終わってしまう。
誰にも勝てず誰にも負けない。
否、誰にも勝てず負けることもある権能。
彼が願った力でもあるが与えた神格は彼に何を望んでそのような力を与えようなどと考えたのだろうか。
「ガルムさん、ありがとう。お、俺ちょっと賢くなったかも」
「そ、そうか。それはよ――」
「聞いたことを試すだけじゃだめっすよ」
テイムが自分の言葉を遮った。
絶望的な権能を与えられたギガスに自分から与えてやれる助言がこれ以上は見つからないように感じて諦めようとした矢先に、だ。
少し前のテイムとは違う。
それを見せつけられているような感覚だ。
ノエルから『成長』を与えられた者として自分自身の成長もそうだが他人の成長を見ると嬉しくなる。
自分と同じでプロトタイプであることを否定して権能を使うことを避けていたのを誰かを守るためならと使うようになったこと。
このままではいけないと自分に相談せず、レイスとこっそり特訓していたことも。
他のプロトタイプに意見をできるくらいになっていることも。
親友とはいえ自分のことのように嬉しくなるものだろうか。
「わ、分かった。俺も考えてみる」
「…………すごいな、お前は」
「何言ってるんすか。兄貴の方がすごいっすよ。戦いを共にしても得られる情報は見える部分だけなのにグラグラとエイルに的確にアドバイスしてるっす。それに俺には気付けなかったギガスの性質だって……」
「でも知らない方がいいことだったかもしれないだろ?」
変に希望を持たせても勝てない事実は変わらない。
彼が自分自身でそれに気がついてしまった時に何も変われないことに絶望してしまうのか、それとも教えなかった自分のことを恨むのか。
それなら権能を使いこなせていないから負けたと思ってくれた方がいい。
ギガスは、その方が傷つかずに済む。
自分はそう思って「このままだと勝つことはない」という事実を彼に話していなかった。
テイムは「それは違うっす」と首を横に振る。
「ギガスは俺と近いプロトタイプっす。普通に戦ったら負けるのが当たり前な弱い奴。当然っすよ。どんなに有効な権能でも攻撃ができないんじゃ勝ち目がない。相手と同じ条件にできても相殺されるなら意味がない」
「さっきギガスにそれを言ったのか?」
「言葉は変えたっすけどね。兄貴もギガスが幼く見えたから躊躇うような言い回しをしてたんすよね?」
そこまでテイムは気付いていたらしい。
グラグラ達と話しているギガスを見ても子供らしい仕草などが見受けられる。
どんなに見た目が強そうでも中身が伴わない。
出逢った頃のテイムと同じ。
それを考えるとテイムの言う「近いプロトタイプ」という意味合いも分かるかもしれない。
聞こえ方では強く聞こえてしまう権能。
グラグラやエイルのように工夫すれば自己完結可能な能力とは違って他の誰かからの一押しがないと厳しい力。
テイムはそれを自身に求めた。
相手に命令して動きを止めたりするだけではなく自分自身に命令して攻撃の確実性を上げる。
それによって彼も前線向きの行動ができるようになった。
ギガスにもそのように自分自身で起こせる変化が必要だということに気がつけたのもテイム自身がそうだったからなのだろう。
と、こちらが感心しているとテイムが擦り寄ってくる。
さすがに少しだけイラッとしたがたまには少しくらいテイムの気持ちに応えてやった方がいいのだろうか。
面倒ではあるが顎の下を指で撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らす。
「あっ! ガルムを一人占めするなんて僕が許さないぜ!」
それに気づいた駄犬がすごい勢いで駆け寄ってくると自分の前で腹を見せて地面に転がる。
腹を撫でろ、と。
さすがに男に群がられても嬉しくないし暑苦しいので立ち上がって手を鳴らした。
「戦略会議終了! 解散しろ解散!」
「ええ〜! 僕も撫でてくれよ〜!」
「暑苦しい! しがみつくな!」
――その日の夜。
眠りに就こうとした矢先にノエルに「待って」と言われて何事かと体を起こした。
何故か自分の手をまじまじと観察している。
ノエルは何度か頷くと爪を削るためのヤスリを取り出して自分の爪を削り始めた。
「勝手に獣人の基礎攻撃力を削り取るな」
「犬は攻撃力と欲求をのどっちが大切?」
「何のことだ?」
「ノエルのことむにむにしたりぬくぬくする欲求」
「欲求です」
この際、ぬくぬくしたいのはノエルの方という分かりきった話は置いておくとしてノエルのことをむにむにするために攻撃力を捨てなければならないのなら甘んじて自分は爪という大切なポテンシャルを捧げよう。
手を前に差し出すとノエルは椅子に座っている自分の太腿の上にその手を置いて爪を整えてくれる。
既にむにむにした感触を得られて感無量だ。
と、ノエルのことだから用事はそれだけではないだろう。
今はニムルも家事を終えて寝付いた頃だから、自分がニムルのいる場所では言いにくいと感じてることがあると察して話す時間をくれたのだろう。
「ノエルが俺に『成長』の権能くれたのってさ」
「犬が好きだからだよ? 生きてほしかった、強くなってほしかった。色々な理由を含む。あと犬が大きくなってくれたらノエルとエッチなことしてくれると思って」
「して欲しいなら少しくらいするけど! そうじゃなくて、神様が俺達に権能を与える理由って様々だけど結局は守りたいとか助けたいとかだろ? 中には願いを叶えただけとか、この遊戯で勝ち残るための駒が欲しいからとか悲しい理由もあるだろうけどさ」
ノエルは爪を削りながらも話はしっかり聞いてくれているのか頷きながら相槌を打っている。
たぶん人に一番干渉したのはノエルだ。
力を与えて終わりではない。
力を与えて、知恵を与えて、心を支えて側でずっと言葉を掛けてくれた。
そんなノエルなら答えてくれるだろう。
ギガスに権能を与えた神格の考えを……。
「負けることも勝つこともできない権能を与えた神様って、どういうふうに考えて権能を渡したんだと思う?」
「愛してるから」
「愛? 絶対に勝てない力なのにか?」
「勝たせた方が愛されてると思うの?」
ノエルは爪を削り終えた指と別の指を比較しながら問い返してきた。
それに対して自分は首を左右に振って否定した。
勝つことが全てだとは思わない。
ただ勝たなければ生存できないこともあるかもしれないと考えた時に負け前提の権能は愛している者に与えるべきものではないように感じた。
「理不尽だとしても本人がそう願った。なら答えてあげるのも愛だよ」
「願いに答える?」
「傷つけることを拒んでいる人に戦うための力を与えるのは自己満足。押し付けた愛情でしかない。ノエルも犬がお人好しで人を傷つけるのが好きじゃないと思ったから自主性を持てるような力を与えたんだよ?」
たしかに自主性はある。
どのように使うかは本人次第で能力の方向性も変えられるし権能自体に誰かを傷つけるような効果はない。
ギガスの権能も同じ?
他人を傷つけたくないという願いなら相手と均衡させるのはちがう。
でも、ノエルを見ていれば分かる気がする。
基本的には相手の考えを尊重するが、それだけではダメだと判断した時は自分の考えで行動する。
自分がどのように生きるかは自由にさせてくれているが危険だと判断した時にノエルは止める。遠慮して思い切った行動に出たり要求したりしないからノエルが代わりに唆してくれる。
ギガスのもそういうことなのかもしれない。
彼の願いは聞き届けてあげたい。
しかし、それで彼が傷つくのは我慢できないから彼を守るための効果を権能に付与した。
まさしく愛情だ。
「無意味じゃないんだな」
「当たり前。意味もなく権能を与えたりしない」
「生きててほしいから負けることのない権能。誰かを傷つけたくないって願いを守るために勝つことのない権能か」
ギガスに向けられたものが心からの愛情なのか、別のものなのかはどちらでも関係ない。
同情だとしても愛されていることは変わらない。
「ところで犬はエッチなことしたいって言ってたけど」
いつの間にか爪を削るのは終わっていたらしい。
ノエルは椅子から立ち上がって自分の体に引っ付いて挑発するように胸の辺りを撫でてきている。
そもそもエッチなことをしたかったのはノエルでは?
いや、事実として自分もノエルが要求しているのなら自分もその気だと答えてしまったような気がする。
ひとまずノエルを持ち上げつつ自分自身もベッドに横になる。
相変わらずノエルのことを少しでもそういう目で見ると一瞬で早まってしまう鼓動が腹立たしい。
恥ずかしく思いつつノエルの胸から腹にかけてをさすりながら口を開く。
「せっかくだからおさわりしたいな、と」
「おさわり?」
「ノエルが爪を削ったから傷つけるの気にしなくていいし、たまには自分が頭を撫でられるんじゃなくてノエルの体を撫でたいな、と」
どこかノエルに誘導された感じもあるが自分がそうしたいと感じたなら自身の欲求なのだろう。
ギガスのことは頭の片隅に寄せて今は目の前のことに集中することにした。




