報告書074《己を軽んじる者》
【掴み所のない少年】
明るく誰にでも好意的に接する犬獣人の少年は育ちの村で誰よりもどうでもいい存在として粗雑な扱いを受けていた。食料の少ない時期になれば人数に対し食べるものが不足し「お腹が空いてるかもしれないけど、ごめんね」と自らの両親に言われ、彼は迷うことなく頷いた。自分よりも小さな兄弟がひもじい思いをするより自分が我慢すべき、と一人で納得した。友達と数人で狩りに行った際も彼がはぐれた時は誰一人として気にせずに帰ってしまう。そこに居ると認識されているのに重要視されない。彼の扱いは他の誰よりも軽かった。しかし、そんな扱い方をされていることを少年は認めたくなかった。皆に自分がどうでもいいと思われていることを認めたくなくて自らふわふわと掴み所のないキャラを演じた。何を考えているのか分からないから注目されないだけだと自分に言い聞かせる。いつしか彼は逆に「どうでもいい少年」として扱われることを嬉々として受け入れるようになっていた。それは彼が本当の自分を押し殺して新たに作り出した人格であって本来は承認欲求の塊のような少年だった。
【己を軽んじる者】
自分達に苦行を強いた研究者や神々相手に復讐を果たすために能力を強化したいと願う組織『拡張を望む者達』のリーダーであるグラグラの持つ能力は平たく言えば重力操作であり、対象の重さを軽くしたり重くしたりするもの。その条件は「対象が重いか軽い」ことである。自分よりも体重の重い相手は重くすることができ、軽いものはより軽くすることができる。しかし、対象が自分より軽いものであっても重くすることが可能であり、それは彼の認識力による。武器などは人の命を奪うことができるものだから軽々しく扱うものではない、転じて重いもの。お金は人の人生を簡単に左右してしまう代物、故に重いもの、などグラグラが対象に対してどのように認識しているかで能力の効果範囲は大きく変わるため大体の重力には干渉できる。過去の生い立ちもあり人間関係を重要視しない性格で、グラグラが関わりを持つ相手は裏切られても苦しくならない者に限られる。それはグラグラが誰に対しても世話を焼くお人好しであり目の前から居なくなってしまった時の喪失感を背負わないため。誰の手も借りず自由に生きていくことのできる強さを持つ者にのみ好意を示し、その中でも自分を圧倒するほどの実力を持つ者には心から愛情を示すことがある。




