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偽物でも許されたい  作者: 厚狭川五和
『己を軽んじる者』グラグラ
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第33話「盤上遊戯」

 ――フィアの教会、懺悔室。


「今日は情報共有、という感じよろしいですか?」


 毎日のように教会で集会されることを不快に感じているのか不機嫌気味にフィアは尋ねてきた。

 それに頷いた自分は同じ部屋にいる他の面々に視線を向ける。

 今日の話し合いのメンバーは自分とノエル、テイム、レイン、フィアの五人だ。

 前回はレイスもここに頭だけ連れて来られていたが今は悪事を働くよりも良い仕事を見つけたらしく首より下と連結し直し街で活動しているそうだ。

 それは別として毎度のこと教会で場所を借りていることもあるが今回はフィアが仕事中だったので懺悔室という場所を借りることになったのも不機嫌な理由の大半を占めているのだろう。

 話し合う内容としては主に三つだ。

 一つはここ最近のプロトタイプ達が語る組織(グループ)、一種の同盟のようなものについて。

 二つ目はグラグラ達が所属している『拡張を望む者達(エクステンダー)』について。

 三つ目は自分やニムルが該当しているという『罪深き異端者(ルールブレイカー)』という存在に関して。

 まず一つ目の議題に関してだ。

 自分やレインは「組織」という集団で活動しているプロトタイプに関しては把握しているがテイムは現場に居なかったため知らないので共有しておく必要がある。


「プロトタイプが利害関係の一致から同盟を結んでいることについてなんたが」

「ありえる話じゃないっすか? 兄貴と自分やレインみたいに協力関係にある奴等が他にもいるだけっすよ」

「それは余りにも安直だ。それに俺はレインと面識があったしテイムも一緒に仕事してたから繫がりはあるだろ? そうじゃなくて無関係だった奴が、って話だ」

「ガルムの言う通りよ。アステルは基本的に皆を羨むような正確だったから誰かと一緒にいることも少なかったのよ?」


 そう、性格的にありえない。

 同業者だからと自分とテイムのような気楽に絡める関係になれる性格ではない。

 むしろ自分の知るアステルは相手がプロトタイプと見るや自分より優れた能力を持っているのではないかと僻む。所属していた『略奪者(インベーダー)』でも誰かと親しげに話しているイメージを持てない。

 それはそれとして、だ。

 ただ仲が良いから協力関係にあるだけならいい。

 同じ目的のために組織立って行動しているから気になるのだ。

 その彼らが目指す目的というのが個人、または組織のための事であることは仕方がないとして問題になるのは影響。何を糧に、何を犠牲にその目的を達成しようとしているのかを確定付けるまでは自由にさせておくわけにもいかない。

 情報を共有するのはそのため。


「まずカダレアで聞いた『略奪者』という組織は他のプロトタイプから権能を略奪し、その能力を自分のものとすることで完全に近いものとなろうとしていた」

「そんなこと可能なんすか?」

「本来は無理。権能はプロトタイプに対して神様から与えた戦うための恩恵。犬みたいに仲良くなった相手に許諾してもらって真似をしたりすることはできでも自分のものとして使うのは不可能」

「他にもニムルみたいな条件付きで扱える者もいる。ただ、自分やニムルの場合はあくまで真似たり使わせてもらってるだけだ」


 本人の意志だけで使用の可否を決定することはできない。

 それに条件も通常、プロトタイプが権能を使う時よりも制限を受けていることは考えるまでもない。

 たとえば自分ならば出力不十分&燃費非効率。

 本人が使った際の火力と比較して減衰するし自分が与えられている権能を使うよりも消耗が激しいため長期戦を想定するならばなるべく使用を控えるべきもの。

 ニムルの場合は複数の力を扱えるわけではない。

 つまり二つ以上の権能を完全に使いこなすことなどできない。

 そもそもが神格が与えた力だと言うなら人間にとっては規格外(オーバースペック)なのだ。

 テイムは発言する端から否定されていたからか真剣に考えているらしい。

 次の回答までやや間があった。


「例えばっすよ? 俺達がヒトっていう器なんだとしたら与えられた権能が中に注がれるとして一つだけでも受け入れきれないものってことでいいんすか? 俺の場合は『傲慢』から貸与されてるだけだから違ったりするんすか?」

「ノエルの個人的な見解でいい? まず前提として考えた話は合っていると思う。単にヒトという器と言っても容量の悪さで受け入れきれる分量も変わってくるから認識として近い」

「たしかにレインの権能なんかは一般的な人間には荷が重いよな」

「あ、あたしだって要領が良いかと言われると悪い方なのよ?」


 謙遜だとしても今の環境では本人が言ってはいけない発言に全員からの視線が一斉にレインに向いた。

 レインはただでさえ「影渡り」という能力や血液操作という難しい能力を持っているのに追加で「権能を打ち消す」権能を使っているのだ。一般人なら頭がパンクする。

 そもそも「影渡り」は移動先の座標の計算から運ぶもののサイズや質量まで大雑把にでも計算していないと成功しない。

 血液操作だって流れ続けるものを止めたり形状変化させたり何も考えずにできることではない。

 そこへ制御の難しい権能だ。

 権能の効果を与える対象を固定したり、どの程度まで抑制するのか制御するのは今のレインでも完璧にはこなせない。


「とにかく人間には限界がある。強奪した権能は神様側で調整できないから権能の全てがヒトという器に流れ込んで許容範囲を超えた権能は反動として使用者の体に負担をかける。ガルムの場合、強奪じゃなくてノエルが渡した権能で、ガルム自身も半分だけ神様みたいなものになりかけてるけど肉体そのものはヒトと同じだから反動はある」

「他より食欲が強かったり過剰に身体が成長したりするのが反動か?」


 ノエルは肯定する。

 強奪した権能、譲渡された権能は神格と直接やりとりしないから調整することもできず溢れた分が体の負担になる、か。

 ある意味、自分の反動は優しい方なのかもしれない。


「虎の質問にあった貸与された権能に関しては問題ない。貸与した側も何かしらの考えがあって権能を貸与してるからデメリットを残すメリットがない。ちゃんと相手が扱える程度の権能として抑制してくれてるはず」

「なるほど……。じゃあ、二人が言ってる『略奪者』って組織の連中は略奪した権能分も……むりっすよね」

「そう、不可能。一つでも溢れる権能をヒトの身体で受け入れるなんて無理なはず」

「別の器があれば可能じゃないの?」


 レインの言葉を聞いてノエルは予測する。

 テイムが考えた仮の説明て使われたヒトという器。容量も小さくすぐに溢れてしまう器がいくつあっても結果は同じことだと言える。

 しかし、別の器というのがヒトでなければ可能性はある。

 そういう補助的にヒトが受け入れられる権能を拡張するような権能を有した神格がいるならば……。


「そういう権能って仮定すれば可能かも」

「信仰というのは個人より集団の方が強くなるものです。もし組織に所属する者達が同じ信仰を持っているのなら強い信仰を得た神格は彼らに対して恩恵を与えることが可能なのではありませんか? それこそ()()()()()()()()()()()()()を行使する、など」


 個として神様の代理戦争を果たすプロトタイプ達にとってのメリット。

 仲間内で争わずに済むだけであれば裏切りが発生してすぐに瓦解するものがこれまで残り続けてきた理由。

 フィアの言う通りだとすれば実質二つの権能を有することができる。

 また、それは組織により異なり『略奪者』においては他のプロトタイプとの間に優劣を決することができた場合に相手の権能を奪うことができるものだとすれば、孤立気味だったアステルがそこへ所属する理由としても申し分ない。

 自分がレインを超えるための努力として、他のプロトタイプを殺すことを提示されたとしてもアステルは頷く。

 彼女にあったのは目的を達成することだけ。過程には興味がない。

 と、個人的な感傷は置いといて重要なのは組織単位で使える第二の権能だ。

 神様は代理戦争をさせるだけで自ら猛威をふるうのはこのゲームとしては禁じ手のはずだが、実際にそれをしている者がいる。

 言うなれば規則違反(チート)だ。

 いや、そもそも戦争なのだから規則も何もないことくらいは分かっていたが……。


「そして、彼らの規則違反に対する罰は発生していない。この意味が分かりますか?」

「俺等がお行儀よくしすぎていただけで主催者側としては規則違反でも何でもない」

「むしろ主催者側はルールなどあなた方に語ったのですか?」


 自分を含むプロトタイプの三人が首を横に振る。

 そもそもが作られた理由は人間の戦争に使う道具としてという名目であり、神様の代理戦争の駒だと聞いたのは後だ。神様から借りた力であることさえ知らずにプロトタイプにされている連中も少なくはない。

 つまり主催者はあえて教えていない。


「何も分からずにあたふたしている状況さえ楽しんでいる。おそらく主催者である可能性の高い神様とやらは紆余曲折を経て最後に残った奴を相手に余裕で勝てる自信があるんだろうな」

「それもっすけど俺達もプロトタイプであるからには狙われる可能性もあるんすよね」

「もちろんだ。共有したい情報は組織のことだけじゃない。俺達が奴らの駒として敗北しないためにも必要な情報だ」

「それが『拡張を望む者達』という組織と『罪深き異端者』と呼ばれるプロトタイプの中でも一部にだけ該当する事象」


 信頼に足る味方の存在と対抗し得る手段。

 実際にはグラグラ達がどこまで協力してくれるのか不明瞭な部分が多いことや、自分やニムルの力量に関しても分からないことの方が多すぎる。安堵するには早計だろう。

 とはいえ、だ。

 何も対策が無いよりか遥かにマシだと言える。

 昨日の『拡張を望む者達』とのやりとりや会話を三人に説明した。

 概ね理解に苦しむ部分に関してはグラグラからの説明をそのまま伝えることで理解はできなくとも納得はしてくれた。


「じゃあ二人は『拡張を望む者達』に所属した訳ではなくて手を貸し借りする関係に落ち着いたってことね?」

「そういう解釈でいい。あくまで俺らにとっては情報源であいつらからすれば貴重な戦力ぐらいの認識だ。聞いた話だと俺達が知る三人と少し前に行方知らずになった一人を含む四人だけの小さな組織らしいからな」

「兄貴が決めたことだから文句はないっすけど、そういうことはなるべく教えてほしいっす」

「つ、次からは気をつける」

「?」


 テイムには悪いが一つだけ隠してることはある。

 あくまで必要な情報を共有するだけのつもりだったからグラグラが自分に向けている好意に関しては伝えるべきではないと感じたのだ。

 まあ、嫌いになることはないだろうが……。

 それでも保険を掛けとくに越したことはない。今すぐに会って真意を確かめたいなどと言われればグラグラ達に迷惑が掛かるのもそうだし面倒事に発展するのはまず間違いない。

 なるべくは偶然居合わせた程度のタイミングで顔合わせをさせたい。

 と、テイムのことを考えているとレインが懺悔室の入り口に向かって歩き始めた。


「どうした?」

「これでも忙しい身なのよ? とりあえず大切そうなことは聞けた訳だし帰るの」

「解散っすか? じゃあ俺も用事があるから退散するっすね」

「………………」

「落ち込まないの。レインもテイムもガルムと同じで色々と考えていることがあるんだよ」


 それは分かっている。

 自分は落ち込んでいたのではなく、二人のような仲間がいることを心強く思っているだけだ。

 テイムは商人としての活躍はもちろんだが小さな子供達に救いの手を差し伸べるような心を持った者。

 レインは夜に生きる者でありながら区長として自らを蔑んだり悪く言うような連中さえも見捨てずに彼らの生活についてを考える懐の広い者。

 二人がいると、自分だけではないのだと安心する。

 いや、正確には二人以外にも同じ志を持ってくれる者達は多い。

 だからこそ頑張らなければ、と思うのだ。


「さて、皆さんが解散したならお二人も帰ってください。ただでさえ狭い部屋に獣人がいればむさ苦しいと入りにくいのにあなたみたいな巨躯の者がいたら懺悔する前に命を取られないかと心配で皆が逃げてしまいます」

「俺はそんなに怖くねぇよ!」

「本人が何を言っても無意味ですよ。外見なんて他者からの目が評価基準なのですから」

「ちっ。帰るぞ、ノエル」

「ああ、そうそう忘れていました」


 おい、とフィアの方を振り向く。

 帰れと言ったくせに呼び止めるなど良い度胸をしているな、と。


「お二人が来る前に来た方が謝罪したことがあるのだと懺悔していきましたよ? 心当たりがあるようなら顔を出してみては?」

「…………()()()()()()()()なら仕方ねえな」


 隣でこちらを見ていたノエルが視線で訴えかけていた。

 応じるべきだと。

 思い当たる節なら当たり前のようにある。



 ――騎士団本部。


 謝罪、と聞いてまず頭に浮かぶのはニムルへ届いていた手紙だ。

 ルイーズという騎士は自分の立場というのもあるのだろうが守らなければならないという責任感からだいぶ偏った意見を持っていたからニムルのことを良く思っていなかった。

 それによって二次被害を招きかけたことを反省しているという文言を見た記憶がある。

 しかし、どうして俺はルイーズではなく騎士団長の前に立たされているのだろう。

 この状況を理解したくない。

 しかも普通に立たされているのではなく自分の両隣には重装備の騎士が待機していて、自分自身も何故か手枷をされている。

 何故か自分が重罪人のような扱いを受けているのだ。

 ちなみにノエルに関してはルイーズと別部屋にて待機している。

 まあ、現場にいたら自分のこの状況を見て黙っていられる程うちの神様は優しくはない。


「ふん、その表情は貴様がこの状況からでも余裕で脱出できるという意思表示か?」

「理解に苦しんでるのが伝わらないんだな」

「理解? 貴様にそんなものは求めていない。戦略兵器にそんなものは無用だ」


 長らく忘れていた記憶が思い出されて気分が悪い。

 自分がこの街に来てすぐの頃はこの男、騎士団長キースと同じような反応をする人間が大半だった。

 テイムが普通に接してくれていたこともあって皆も少しずつ態度が改善されていったが唯一、この男だけはいつまで経っても自分のことを戦略兵器として認識し続けている。

 人を守る騎士ならば人を殺す兵器を嫌うのが当然だという。

 この男と自分の意見で一致することがあるとすればプロトタイプを作り出した者達を憎んでいることぐらいだ。


「最近、うちの部下と揉めたそうだな」

「お前の部下への教育が足りないせいでな」

「貴様の意見は聞いていない! 貴様が私の部下へ分不相応な説教をしたせいで騎士としての自信を失い気を病んでいたらどうするつもりだ!」

「…………そいつは、気を病んでるのか?」


 低い声で唸るとキースは言葉を詰まらせる。

 たしかに一般人が生意気にも騎士に説教をしたことを責められるのであれば納得もできるというもの。

 ただ、それはあくまで説教をしたことに関して。

 それを受けて当該騎士がどのように思ったか知るのは必要だろうが他人の客観的な意見ほど無意味なものはない。

 ルイーズが自信を失くした?

 自分に説教されて心を病んだ?

 それはルイーズ本人から言われたのか、と。

 ただ、いつもは明るい女が急に暗くなり落ち込んでいるように見えたからと仲間内で勝手に解釈し、本人に実情の確認もせずに動いたのではないか?

 やはり好きになれない。

 プロトタイプだからという理由で偏見を持つのは自由だが、それを理由にありもしない不名誉を押し付けられるのは堪ったものではない。


「憶測で話をするな。俺は頑固者に別の見方をしろと言ったが騎士としてのあり方云々をとやかく言ったつもりはねえぞ」

「たかが戦略兵器ごときに物事の見方など教育される筋合いはないだろう」

「俺の方がよっぽど色んな連中を見てきてるんだが?」

「黙れ!」


 よっぽどプロトタイプ相手に話をするのが嫌いなのだろう。

 キースが拳を叩きつけた机は天板がひび割れていた。

 自分は一呼吸置いて言葉を続ける。言い争いをするためにここに居る訳では無いことは察しがつく。

 ルイーズの件はおそらく、ついでだ。


「理性を手放すんじゃない。人間が理性を捨てたら獣以下だぞ」

「…………まったく、貴様は本当に好かん奴だ。獣のくせに理性的で気持ち悪いまである」

「理性がなかったらプロトタイプとて生きることを許されちゃいないさ」


 キースは落ち着いたのか深く溜め息を吐きながら自分の両隣にいた騎士に席を外すように手振りで伝える。

 護衛を兼ねてる連中にも聞かれてはまずい話、ということか。

 自分は手枷を外してもらえなかったことを半ば残念に思っていたが諦めて来客対応用の席に腰を下ろす。

 大体の内容は予想してある。

 毛嫌いしているプロトタイプと一対一の状況まで作ってしたい話は、騎士団長としての立場を守りつつ、その上で自分を頼らなければならない時。

 もしくは、プロトタイプ関連で問題が発生した時だ。


「貴様の知り合いに姿を消すことができる者は?」

「いや、見聞きしたことはないが」

「そうか。面倒だな」

「まさか姿を消すことができるプロトタイプが現れたとでも言うのか?」

「現れただけなら良かったがな」


 どうやら当該のプロトタイプが問題を起こしたらしい。

 キースが先に「知り合いにいるか?」と尋ねてきたのは知り合いにそのような能力を持ったプロトタイプがいるならば会いに行って話をつけてこいという要望をするため。それが一番、被害を小さくできる。

 それにしても「姿を消す」ことが可能な権能……。

 ミツキのようにアブソルートに近しいものでもなければ強力すぎる権能な気がしないでもない。

 制限くらいは無いと勝ち目ないぞ?


「悪さにしても度合いによるぞ? 俺が協力できるかどうか」

「そうだろうな。同じ境遇、同じ生い立ちの者を相手に戦うのだからな。それに関しては問題ない。奴は賊を率いて何やら企てているという話だ」

「それで、進軍先がこっちとか?」


 その通りだ、とキースは深刻な顔をする。

 プロトタイプが個人活動するのはよくある話だが普通の人間と群れて行動するのは珍しい。

 そもそも今回のような国盗りでもしようという話ならプロトタイプは道具として使われるだけ使われた挙げ句、用済みになれば捨てられるというオチがあるので協力したくないはずだ。

 何かが引っかかる。

 この情報自体がデマということはないはずだ。

 キースはプロトタイプのことを毛嫌いしているが明らかに民衆まで巻き込むような話を冗談で呟くような男ではない。

 まして、騎士である以上は責任感の塊のような男。

 なら話自体は本当のことだが中身に誤りがある?

 例えば進軍を目論んでいるがプロトタイプと協力関係にあるのは人間の賊ではなく、他もプロトタイプで構成された一種の組織のようなもの、とか。

 いや、疑っても仕方がないことくらいは分かっている。

 この街に攻め込まれたら困るのは自分とて同じこと。


「騎士団の協力は?」

「不可能だ。正直な話、見えない奴を相手に戦う訓練などするだけ無意味だと知っているだろう?」

「だろうな。お前がわざわざ俺に頼むってことは単純に力業ではどうにもならない相手か、人間じゃ手に負えない場合、だ。今回は俺の嗅覚に引っ掛からないか期待してるんだろ?」

「自惚れるな。貴様が失敗し死んでしまおうが騎士としては損失にならないから頼んでいるだけだ」


 騎士としての信頼は失うと思うけどな。

 何れにしても人間では何もできないのは明確。犬死にさせるより可能性に賭けたい気持ちは分からないでもない。

 ただでさえ人手不足の騎士団なら当然だ。


「場所は?」

「ここから西、地図の上から消えた街は知っているか」

「魔物によって壊滅したっていう?」

「そうだ。ダズロフという場所だ。その街から少し離れた位置に古い城がある。そこに奴は潜伏してるそうだ」

「そこまで分かっているのに放置してたのか?」

「何度も言うが太刀打ちできない相手だ」

「分かった。じゃあ、明日から行動に移る」


 本当にそれだけが理由なのだろうか。

 疑念はあるがプロトタイプ関連ならば自分が動かないという選択肢はない。

 きっと、こちらが動かないのなら向こうが動く。そうでなければ奴等が計画した遊戯は進行しない。

 それならば少しでも自分から動いておいた方が被害も少なくて済むのかもしれない。

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