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偽物でも許されたい  作者: 厚狭川五和
『死者の声を届ける者』イルヴィナ
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報告書092《死者の声を届ける者》

【冷血の魔王】

 無垢な少女の見た目をしているが前世は相手が敵であろうと味方であろうと気に入らなければ躊躇なく残虐な方法によって死に至らしめる『冷血』の名で知られる魔王の一人だった。彼女が持つ膨大な魔力は冷気として自然放出されていることも『冷血』と呼ばれる理由の一つ。自分の内にある魔力を制御することができず彼女の些細な感情の起伏で周囲が完全に凍ってしまうこともあり、誰一人として彼女の側に侍ることが名誉などと考える者もなく、ある意味では何者にも縛られることのない存在だった。しかし、一生の内でたったの一人だけ彼女が命を奪うことなく近くに置いていた男がいる。彼はイルヴィナを特別視することはなく、平気で物を言う性格だったが他の者のように自分を別の位に置こうとする者よりも話していて気分が良かったイルヴィナはいつしか心を許すようになり、自分が孤独から抜け出す方法は無いかと尋ねた。それに対する回答は新たに人生をやり直すことだった。


【小さな墓守】

 イルヴィナの人生のやり直しのために犠牲になるものは、そこまでに得てきた全て。そしてやっと出会うことのできた気の許せる相手との時間だった。その手段はイルヴィナが新たな生命を授かり、その子の目の前でイルヴィナを殺し、その際に体内から溢れた魔力を全て子の体内に移すというものだ。イルヴィナは新たな体を得て生まれ変わることに成功したが肉体に合わせて感情や記憶は奥底に封印され、彼女が望んだことといえど直接自分の手で命を奪ってしまったことに罪悪感を覚えた男はイルヴィナを子供に恵まれなかった人間の夫婦に預けて後日、自ら命を絶った。やがてイルヴィナが成長して言葉が理解できるようになると日常生活をしているだけで近くに存在していた浮遊する魂の声が聞こえてくるようになり、前世の記憶のほとんどが失われているはずなのに他人事のようには思えず、イルヴィナは荒れている墓地を見かけると手入れをし、弔われていない死体を見つけると自分で墓標を立てて祈るようになった。偽善でしかない行為でも彼女は聞こえてくる声を無視できなかったのである。


【死者の声を届ける者】

 イルヴィナに与えられた能力は死者の声を聞く力。それは『不死』と呼ばれる魔王の持つ不死族(アンデッド)系統の魔物を使役するための力の一部が期せずして彼女と共時性を示し譲渡されたものである。本来は声を聞くこと以外には何もできないはずだったがイルヴィナが死者達の声を聞いているうちに彼らの無念を晴らしたいと考えるようになり、その願いが強くなるのに合わせて声を聞くしかできなかった力が死者を操ることができるように進化した。また、本来の魔王としての力も一部は失われているが健在のため前世ほどではないが冷気を操る系統の魔法を得意としている。自分が命を大切にしなかったがために与えられた孤独を罰と考え甘んじて受け入れるように一人で生活をしているが実際は他人の温もりや愛情に植えているため、同じように温もりを求める者には仲間意識を持つ。他者を傷つけて喜ぶようなサディストや己の知的好奇心のために命を犠牲にする研究者とは相容れないため攻撃的になることが多い。

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