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偽物でも許されたい  作者: 厚狭川五和
『死者の声を届ける者』イルヴィナ
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第27.5話「能動的組織」

 ――カダレア東区。


「目を覚ましたなら、良かったよ」


 スティグはレインからの報告を受けて安堵し紅茶の注がれたカップに口をつけた。

 自分の目が間違っていなければイルヴィナが目覚めるかどうかは五分五分で少しでもイルヴィナ自身が今生に対しての考えを揺らがせたなら戻ってこれない方の可能性が高い状態にあった。

 それを覆した運命力。

 彼女が持つ愛情なのか、それともガルムが持つ信じる力のようなものが働いたのか。

 いずれにしろ悲しい結末は二度も見ずに済んだ、と安心したのだ。

 妹のように悲しい別れを他にもしてほしくない。

 スティグは視線をレインに向けて「それで?」と続きを促す。

 以前、レインが東区へガルムを連れてきた頃のことを思い出すと、それは仲のいい二人を見せつけられているような気がして、きっと二人は離れないだろうと考えていたが、そんなレインがガルムをイルヴィナと二人きりにして自分への報告を優先した理由。

 スティグはレインが気を遣える女だとは考えていなかった。


「それで、って何よ」

「他に報告は?」

「無いわよ。イルヴィナが目を覚ましから早く教えてあげようと思って」

「じゃあ二人きりにした自覚はないんだね」

「え? あっ、うそ!」


 レインは慌てた。

 その様子を見てスティグは確信を得た。

 レインは一ミリもガルムを諦めてなどいないのに天然なのか責任感の強さが原因なのか報告を優先してしまった。

 つまり恋愛ベタだ。

 イルヴィナに盗られるなんて考えてなかったのだろう。

 レインはバカだと思われたくないのか必死に弁明するが、逆にそのせいで子供のように見えなくもない。


「だ、だってイルヴィナ病み上がりだしガルムが手を出すとか考えられないじゃない!」

「イルヴィナの傷は完全に塞がっていた。君の応急処置もあるけど第一は無意識に体から放出する程の魔力だ。目が覚めるまでは植物状態と言っても過言ではないけど目覚めたら無抵抗なガルムを押し倒して襲うくらい安易にやりかねないよ?」


 スティグの追い打ちを受けてレインはあからさまに落ち込んでみせる。

 部屋の隅で膝を抱え始めたのは見てられない。

 少し考えてはみたがスティグにはレインを励ましてやれるような言葉は見つからず、せめて気を紛らわす話題でもないかと考えた。

 そこで思いついたのが組織について。

 あまりにも情報が少なかったからリースは話題に出した程度で細部は答えることのなかった組織についてだ。

 ガルムが得たであろう情報を聞けばより確実だろうが今はイルヴィナとの時間を大切にしたいだろうから後回しにするとして、自分達なりに見解しておくのも悪くはないだろう、と。


「アステルとイルヴィナは面識があったのかな」

「え? 無いはずよ? アステルが近くに来たのは最近だし、話してる限りイルヴィナの知人は仮面の女の子だけよ」

「じゃあ、どうしてカダレアに来たんだろうね。明確にイルヴィナを狙っているようだったし、レインと違って恨まれるような覚えもないはずだろ?」

「あたしだって無いわよ!」


 レインは怒りながらも真剣に考えた。

 カダレアの人間さえイルヴィナが持っている力について知ったのは最近のことであり、その詳細まで知っているのは区長とガルムくらいなもの。

 しかし、区長に関しては情報を外に漏らす疑いはない。

 スティグが何よりも大切に思うのは妹だけ。

 リースは自分が守るべき子供達。

 自分は……二人には伝えていないだけで、一人だけ。

 このことを真実だと捉えるなら誰一人としてアステルに情報を与えることに何のメリットも持たない。

 ならばアステルはどのようにして知った?

 イルヴィナの持っている能力を元から知っていた人間が意図的に伝えたと考えるのが一番簡単だろう。


「でも意味不明よ、なんで今なの?」

「レインの考えは読めたけど僕も分からない。正直タイミングはどうでもいいのか、それとも彼らにしか分からない何かがあるのか。何れにしてもプロトタイプの情報を知るのは研究していた者達を除いて本来の持ち主くらいだ。イルヴィナの能力の持ち主は自ら負け戦をするようなタイプでも無いだろうし、前者が濃厚かな」


 ガルムの話を聞いた限りレインも不死の魔王が自ら負ける可能性のある行動を取る可能性は低いと考えた。

 自分の能力を分け与えた者が敗北するということは自分が他の支配者よりも劣っていることを意味し、それ即ちこの代理戦争においては上位に位置付けられた存在に力などを譲り渡すことを言う。

 不死の魔王は自らの力で死者達に命を吹き込んでいるという話が真実なら力を手放すことはないだろう。

 そして、スティグが明言したプロトタイプの研究者達。

 彼らなら詳細まで知っていてもおかしくはない。

 アステルに情報を与えたのも何かの実験と仮定すればあり得る話だ。


「研究者達もまた影で動き始めてるってこと?」

「可能性は高いだろうね。それにアステルの組織も彼らからの情報提供を受けたなら能動的な組織だ。そして、彼らが組織として行動するメリットは?」

「協力できること?」

「それもある。しかし、アステルは単体行動だった。他にも何かある」


 スティグはそこまで話すと調べ物をするから、と奥の部屋へ入っていく。

 取り残されたレインは一人で考える。

 組織として動く理由……。

 他のプロトタイプた協力して目的を達成できることの他にも何か優位になることがある……。

 アステルが今回イルヴィナを狙った理由。

 それと、ガルムがノエルと共にプロトタイプを倒しても起こり得なかったのに今回は発生してしまった事象。


「アステルの能力は噛んだ相手の眷属化とあたしと同じ血の操作。死にかけたイルヴィナが能力を奪われたのは……」


 倒した相手の能力を奪うのは組織として得られるメリット?

 それはプロトタイプ単体の能力としては他を圧倒的に不利にするものだからアブソルートでも無ければ可能性は低い。

 いや、それ以上の存在なら?

 ノエルのような神様なら他の複数の者に自分の持つ能力を分け与えることが可能だったら?


「情報を集めないと決められない。ただ、あたし自身も強くならないと、組織的に動かれたら勝てない……」

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