報告書022《妬み続ける者》
【顔も知らない少女】
誰も彼女の名前を知らず、顔を知らない。産まれてすぐに捨てられ、一人の老いた女に拾われた後も窓のない暗い部屋に閉じ込められて育った少女は自分の顔が醜いから捨てられた、自分の顔を見たくないから閉じ込められた、そう考えるようになった。しかし、決まった時間に与えられる3度の食事と退屈しのぎに渡された木材は一度、捨てられたことのある彼女にはこれ以上にない恩義を感じるに充分すぎる。もし、二度と誰にも顔を見られることがないのだとしても与えられた恩義に報いるため外に出たい。そう考えて時間をかけて木材を削り自分の顔に合うようにして面を作り、彼女はやっと外に出ることができた。それからは老いた女の手伝いをしながら何の不自由もなく生活していけると考えていたが、窓の外に見える同年代の子供たちを見ていると自分だけが家の中で寂しい思いをしなければならない事に嫌気が差した。絶対に外に出てはいけないと言われたがどうしても友達が欲しかった彼女は外へ繰り出し声をかける。そんな自分に投げられた言葉に少女は絶望した。
【妬み続ける者】
少女は自分であることを止めた。悲しい思いをするだけの人生に疲れてしまい、誰かを演じ与えられるものを自分のものとして受け取るようになった。自分では得られなかったものを周囲の者は手に入れている。子供たちは友達がいて、大人は新しいものを買うことができて、若い女は恋をすることができる。自分では手に入れられなくても、その人になりきれば手に入れられるのだ。しかし、自分をそれとして見てもらうには本人が生きている必要などない。彼女は自分が妬む者として生きるために相手を殺し、その者に成り代わっては満たされない心を嘆いた。誰も自分として見てくれないのだから当然のこと。どんなに演じても心まで成りきれないことから名前を呼ばれたり、自分と違う体の特徴を言われる度に満足感か薄れていく。故に終わることのない妬みを抱えながら生きていくしかなかった。
【狐面の殺し屋】
自分の生い立ちから恵まれた生活をしている者を極端に嫌うため、貴族はもちろん、周囲から無条件に愛されるような者との交流は受け付けない。また、私利私欲のために集う者も嫌う。上辺だけの言葉で「綺麗だ」等と彼女に伝えようものなら自分勝手な評価をするなと切り捨てる。ただし、根拠のない褒め言葉には敏感だが殺気を向けても意見を変えず濁りのない瞳で評価をする者であれば期待から会話を続けようとすることがある。




