報告書083《未来を育む者》
【見守るだけの存在】
まだ彼が若い頃、家族に楽な生活をさせるためだと言われて与えられた仕事は戦争へと向かうはずの兵士候補達の世話をして送り出すこと。幼い頃から面倒を見て「戦場に身を投じよ、逃げ帰るな、敵を殺せ」と、そう彼らに教え込み適齢となった頃に軍部へと連絡し武器を持たせ送り出す。生き残らせるための教育ではなく、戦争に勝つための礎として死なせるための教育を施すのを快くは思っていなかったが家族のためと自分に言い聞かせているうちに何も考えられなくなり心を殺して戦場へと向かう子供達の肩を叩いた。数年を務めて家族の様子を見に行くと彼は休みを取ったが周囲の者は「止めておけ」と何度も帰ることを止めた。その理由を知ったのは彼が家に到着し、そこがもぬけの殻になっていると気がついた時だった。
【未来を育む者】
彼が家族の行方が分からないことを同僚に伝えると静かな声で「遠い所へ」と答える。子供達を戦場へ送り出していた彼らが常々口にしてきた「帰ってくることの叶わない場所」を意味する言葉に激怒し、嘆き、自分を恥じた。今まで家族を救うためだと思い心を殺して未来ある者達を死なせていったのに全ては無意味だったと、自分も、彼らもまた利用されているだけで駒でしかないのだと理解すると他人と顔を合わせられないほど自分の存在が悪く思えた。自分の行いが組織に対してどれほどの影響を与えるのかなど知らない。彼は同僚に一言だけ「生きろ」とだけ言い残し戦場へ連れて行かれるはずだった子供達を連れ出して、戦争とは関係のない無意味なことを教えて他の子供達と同じように笑って過ごせるように支援した。彼も知らないうちに芽生えた力は庇護下にある者をそこから抜けるまでの間、あらゆる危険から守るというもの。それは彼の贖罪の意識が力ある者に届いた結果である。




