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N. E. O. S  作者: オルトマン
リリスの娘たち
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生体兵器の覚醒

 リリムがエミリアたちに向かって右腕を伸ばす。

「…!…みんな!あいつから何か放たれたよ、気を付けて!」


 リプリカの紅い眼は極小の物質を捉えることができる。彼女はリリムの体から放たれた何らかの物質に気づいたようだ。その物質は一気に広がり、彼女たちを包み込んだ。その刹那、リリムの背後の暗闇から、複数の触手が彼女たちに伸びてきた。

「あいつが出した物質が、幻覚を見せているみたいだよ。幻覚だから、恐れることは…。」

「油断するな、リプリカ!」


 リプリカは一瞬の間気を抜き、構えを解いてしまう。その隙に一気に距離を詰めた触手が彼女の両腕、両足に絡みつく。触手に締め付けられる確かな触感に、彼女は驚嘆する。

「な、何これ!?幻覚じゃない!?」

「エミリア、リプリカがやられちゃう!」


 エミリアはリプリカに絡みつく触手を手刀で切断する。切断された触手はリプリカを解放し、地面に落ち、しばらくもがいて消える。

「た、助かったよ、エミリア。」

「何でも油断するのは、貴女の悪い癖よ…。」


 その様子を見たリリムはつまらなそうに、腕を組み、顎に手を当てる。

「…やっぱり…貴方たちは、私のために死んでくれないみたいね。…ま、同性に死んでもらってもつまらないからいいけど。」

 

  エミリアがリリムを睨んで言う。

「私たちに何をした?」


 リリムは彼女を無視して続ける。

「抵抗性っていうのかな?…同族にはある程度しか効かないんだね~…。面倒臭いけど、この手で死んでもらうね。」

「また、あいつが物質を放つよ!!」


 リリムから放たれた物質が室内に広がっていく。暗闇から、無数の触手が現れ始める。

「ま、不味いよエミリア!」

「なんて能力なの…。みんな、構えて!」

「うん!」


 リリムが両腕を大きく広げて、目を見開く。

「私のために、死ね!」


 彼女が叫んだ時、室内に警報が鳴り響く。リリムを含め、エミリアたちはこの事態に戸惑う。

「これは一体…?」

「あなた何をしたの!?」

「…知らなーい…。」


 培養器内の培養液が抜けていき、眠っている生体兵器に管を通して、電気信号が送られる。生体兵器の心臓が電気信号によって脈動し、仮死状態から覚醒する。目覚めた生体兵器は培養器のガラスを破り、培養器の外へと出てくる。


 培養室内に灯る仄かな光が、生体兵器の白い甲殻を照らす。鋭い牙と爪を持つ生体兵器はリリムたちを見つけるや否や、悍ましい叫び声をあげて、彼女らに襲い掛かる。

「エミリア、襲い掛かってきたよ!」

「この数を相手にするのは不味い。部屋から逃げるよ!」

「邪魔な奴だけ殺すね!」


 生体兵器の凶爪が彼女たちに降り注ぐ。エミリアは手刀でこれを弾き、エリリンは背中の強靭な足で生体兵器をなぎ倒す。リプリカは紅い眼で生体兵器の微小な筋肉の動きを洞察し、攻撃の流れる方向を先読みすることで、攻撃を躱しながら前に進む。その時、生体兵器がエリリンの隙をつき、背後から襲い掛かる。

「きゃああああ!!助けて―!」

「エリリン!!」


 生体兵器の鋭い爪がエリリンの柔らかい腹部を切り裂こうとしたとき、その横から何者かが生体兵器に殴りかかる。

「こんのおおおおお!!!」


 ベベルの放った拳が、生体兵器の甲殻を砕きながらそれを殴り飛ばす。

「べ、ベベル!」

「おお、ベベル!!生きていたか!リプリカは嬉しいぞ!」

「私があんな奴にやられるかよ!」

「よかった…ベベル…。」


 ベベルの生還に喜びを隠しきれない一同。

「喜んでる暇はないわ!とりあえず、ここを抜けるよ!!」


 

 リリムは後ろから彼女たちの様子を見て、肩をすくめる。

「あの子たちは後でいいか…。今はこの子たちに、死んでもらいましょう。」


 触手が生体兵器の腕に巻き付くが、鋭い爪ですぐに切断される。

「…フ~ン…この子たちにも、あまり効き目は無いみたい。…あまり、動くの好きじゃないけど…。」


 背後から生体兵器が彼女めがけて、爪で切り裂く。リリムはすっとしゃがんでそれを軽くよけつつ、足払いをする。そのまま、彼女は地面に倒れる生体兵器の正面に向かい、それの胸元に力いっぱい掌打をする。掌打を受けた胸元の甲殻は粉々に砕け、その衝撃はそのまま背中まで伝わり、その道筋にあった組織をズタズタに破壊する。生体兵器は仲間を巻き込みながら吹き飛んでいき、最後には壁に叩きつけられ、絶命する。


 リリムはその体に見合わぬ剛力で、生体兵器の甲殻を貫き、切り裂き、叩き潰し、一匹ずつ確実に肉塊へと変えていった。一方で、エミリアたちは生体兵器との戦闘を最小限度に抑え、培養室から脱出する。そのまま、彼女たちは連絡路を駆け抜けていく。右へ左へと、当てもなく、がむしゃらに、ただ今はリリムと生体兵器からできるだけ距離を取るように道を進んでいく。



「あ~…。やっぱり、こういう野蛮な戦いは嫌いだわ。」


 培養室内は解き放たれた生体兵器の無残な死体で埋め尽くされ、その死体を踏みつけながら彼らの血液で服や体が彩られたリリムが歩いていた。その先には、右腕を折られ、生体兵器の攻撃で足を負傷したロウディが体を震わせ、近づいてくるリリムから体を引きずり逃げ出そうとしていた。リリムはその彼の姿に嗜虐心をくすぐられ、口端が不気味に吊り上がる。


 生体兵器培養室から絶叫が木霊する。生体兵器たちの死体に紛れて、顎を引きちぎられた男の死体が放置されていた。


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