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N. E. O. S  作者: オルトマン
CODE:N.E.O.S
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決戦前夜

年内に終わんないわ・・・

「ほらほら!もっと食べないと!」

「神崎さん…も、もう…ギブ…。」

 テーブルに色とりどりの神崎の手料理が並んでいる。一部はエリーがすでに完食しているが、神崎が張り切って作りすぎたため、その多くは手つかずのままだった。既に彼女は満腹であったが、慕っている神崎のために残さまいとしているが、既に限界であった。


「ほら!エリー!貴方の大好きな、イチゴのタルトもあるよ!!」

 そう言って、神崎はホールでイチゴのタルトをエリーの目の前に差し出す。それを見て青ざめる彼女だったが、神崎の眩いばかりの笑顔に断れるはずもなく、覚悟を決めてそれをかきこむ。


(し…死ぬわ…これ…。)


 ルナは元の居住地に顔を出していた。明日の朝に、このすべての元凶であるギルバード・スペンサーとの激闘が予想されており、彼女は最悪の事態を想定し、弟に会いに来ていた。一緒に食事をとり、たわいない話をした後、彼女は自室に戻ろうと支度をする。


「お姉ちゃん……本当に行くの…?」

「ごめんね。」

 真輝は表情を暗くする。死地に向かう姉を止めたかったが、今更、彼女が抜けることが許可されないのは分かってはいたのだが。


「絶対…帰ってきてね。」

 彼は無理をして笑顔を姉に向ける。


「うん。」

「約束だよ!」

 その言葉に嘘はなかったのだが、必ず守れるものではないことを彼女は肌身に感じていた。あの時、対峙したギルバードは本気ではなかったことに彼女は薄々気付いていた。もし、こちらが彼の根城に攻め込めば、彼も本気で戦うことは容易に想像でき、その激闘を生き残れる保証はどこにもない。


 全ての手の内をまだ見せていないホモ・エクセルサスの力は未知数であり、彼女の背筋に死の気配が忍び寄っていた。しかし、彼女は死の恐怖よりも自分たちの両親、ひいてはその生活、人生を奪ったギルバードへの復讐が近づいたことに大きな興奮を覚えていた。例え、死ぬ運命だとしても、奴に一矢報いる―彼女の胸の内はその覚悟に満ちていた。


「やっと…この時が来た。」

 彼女は居住区を後にして、明日の準備に取り掛かるのであった。


―長官室。

「さて…予定より遅くなってしまったが、君に話を伺いたい。君と、エミリアをここに置いているのは私の慈悲みたいなものだ。全て、正直に、話してほしい…いいな、赤髪?」

「…ええ、エクスシス長官。」

 長官室にエクスシスと赤髪が対面で席についている。その傍には、万が一のことを想定し、武装したアランが配置していた。長官室は重苦しい雰囲気で包まれており、赤髪はいささか息苦しそうではあった。


「君はRAS長官から、LILITHのウイルス産生能力を持った人間…”Queen”を作成しようとしていた…合っているかな?」

「LILITH…」

 その名を聞いた彼は小さく呟く。


「”X”…ゼノ・エクディソゾア…。」

「ゼノ・エクディソゾア?」

「私は長官からあの生物の名を知らされてはおらず…そのように伝えられていました。」

 異質を意味する“ゼノ”と脱皮生物群を指す“エクディソゾア”。それは、LILITHが生存に脱皮を必須とする無脊椎動物であることを示唆しており、彼女が異常なまでに長寿なのはそのことにも起因しているようだ。

 脱皮動物群には節足動物も属しており、その中でもロブスターは不老ということで知られている。彼らは脱皮により、表皮はおろか内蔵ですら新しい組織へと置き換える。そのため、仮に外因的要因を限りなく除けば、理論上は不死であると言える。しかしながら、内臓すら置き換える脱皮には莫大な労力を費やすため、成長していき、体が巨大になればなるほどそのリスクは上がり、最終的にはそれが要因で死に至る。


 彼らの最高年齢は推定140歳前後であるが、LILITHはそれを軽く凌駕しており、その異常性が窺える。様々な要因が考えられるが、彼女の生態は依然として不明なままであるため、想像の域を出ないのだが。

 エクスシスが考えを巡らせている最中、赤髪は続ける。


「…私はその研究の真意を予め知らされてはいませんでした。人類の起源に迫る研究だと、あの人から、そう言われ…好奇心から引き受けました。私が気付いた時には、既に後戻りが出来ない場所まで来ていました。ただ、そのLILITHが確かに我々、ひいてはこの地球上のすべての生物の起源であったのは皮肉ですが…。」

 彼は俯き、話を続ける。


「結局のところ、私の研究は真の”Queen”を作り出すまでには至りませんでした。いや…恐らく、あのまま、研究を続けていてもできやしなかったでしょう。」

「計画は失敗に終わったということか?」

「ええ…。長官も恐らく…最初から、ヒトでは無理だと気付いていたのかもしれません。」

 エクスシスは眉をしかめる。


「ならなぜ、続けさせたんだ?奴なら…ある程度の結果から、それを導き出すのは難しくないはずだ。」

「…他の研究に流用するのが一つ。そして、もう一つは…エリーから色々と聞きました…それを鑑みるに、新人類の母を人間にしたかったからだと…今になれば思います。怪物ではなく…人間に。」

「……。」

 それを聞いたエクスシスとアランは顔をしかめる。


「…それで、その研究を終えた後、君は何を?」

「”Queen”達の研究です。彼女たちが持つ能力、そして、そのLILITH遺伝子が生体内でどのように作用しているかの研究です。…その成果は、私の体にも受け継がれています。…元々は彼女たちを守るためだったのですが、皮肉にもその彼女たちから手をかけられ…結果として、私は今ここにいますが。」

 赤髪は大きくため息をつき、震えた声で話す。


「研究所は…私の不始末で地獄へと変わりました。とっくに破棄された”Queen”処分の書類を置きっぱなしにしていたせいで…純真な彼女たちは…私が裏切ったと思い込み、暴走しました。そして、守るべき”Queen”達に手をかけられ…そして…そして、彼女たちは…エミリアを除いて……。」

 彼の頬から雫が落ちる。それを見たエクスシスは、首を小さく横に振る。


「すまなかったな…身の上話はそこまでにしようか。最後に聞きたいが、長官の協力者について知っていれば教えてほしい。」

「協力者…ですか。」

 彼は腫れた目を隠しながら、少し考えこむ。


「申し訳ないですが…浅羽さん以外に特には…。」

「…そうか。何かしらつかめればよかったのだが、まあ、仕方ないか。さて、赤髪…君の今後について話をしようか。」

 エクスシスは立ち上がり、机に置いてあった資料を持ち出し、それを赤髪へと差し出す。


「これは?」

「フィリア博士が残した遺産…リリンに対して有効なウイルス兵器“三天使の護符”の作成に関する資料だ。レナートの尽力により、収量は大幅に上がったが、それでもまだ不十分だ。」

 赤髪は手渡された資料に目を通す。


「つまり…私にこのウイルス兵器の生産拡大を?」

 エクスシスは彼の返答に深く頷く。


「圧倒的な力を持つ上位種に対して、この兵器の効果は致命的だ。これが軌道に乗れば、地上の奪還は現実味を帯びることになる。人類の明日はこれにかかっていると言っても過言ではない。」

 赤髪は非常に大きなプレッシャーを感じ、表情を曇らせる。自分の手に今後の人類の未来がかかっていると考えると、気が気ではなかった。


「君は前長官にRAS高官へと推薦されていた。この事実に関しては自信を持っていい。」

「私を長官が…推薦…。」

 実際のところ、長官推薦でRAS高官へとなるものはほとんど事例がなく、それは彼にその成果を非常に高く認められたことを意味している。その事実を知らされた彼の心の中には、自然と自身が満ちてきた。


「エクスシス長官…やってみます。エミリア…そして、人類の未来のためにも…必ず…!」

「頼んだぞ。」



「…すぅー…すぅー…。」

 自室でエリーは深い眠りについていた。神崎の手料理を詰め込めるだけ詰め込んだ結果生じた、血糖値スパイクによる急激な睡魔のせいなのだが。その深い眠りの中で、彼女はあの日の夢を見ていた。


「俺はもう……だめだな…。」

 腹部を大きく切り裂かれたノメリアは、力なく壁にもたれかかっている。そのまま深い息を切りながら、ずるずると床へと座り込む。壁には赤い鮮血がべったりと張り付いている。


「しっかりして!」

 エリーは小声で、しかし、ノメリアに聞こえるように言い放つ。崩壊した街の店の中で、彼女は瓦礫などの影に身を隠し外の様子を窺っていた。彼女の見つめる先には、黒い九尾の様な怪物ブラック・ナインが辺りを徘徊していた。


(何なのアイツ…!私たちを探してるっているの?…いくら何でもしつこ過ぎない!?)

 ルナ達を逃がした後、彼女たちはブラック・ナインと対峙した。それは、今まで相手にしてきた敵とは一線を画しており、すぐに彼女たちは窮地に追いやられる。手も足も出ないとすぐに判断した彼女たちは逃げに徹し、障害物の多い商店街の店内へと駆けこんだ。

 そこで息を殺して潜んでいたのだが、エリーはすぐにノメリアの異変に気付いた。慣れない手つきで彼女は応急手当てをするも、彼の容態は良くならず、刻一刻と死への時間が近づいていた。彼を担いでここを抜け出したかったのだが、数十分経ってもブラック・ナインは辺りをうろつきまわったりと異常なまでの執拗さを見せていた。


「…エリー……俺が囮になる…。その間に…。」

「何カッコつけて…!」

「エリー……俺は…俺の夢は叶った。もう、悔いはない…。」

「ノメリアさん…。」

 エリーはやるせない表情を彼に向ける。それを見て彼は小さく笑う。


「はは……そんな顔をするなよ、エリー…。俺にはもったい…ないくらいの末路だ。」

 彼はそう言って銃を取り出す。


「最後に…お前に言いたい…ことがある。」

 息も切れ切れに彼は声を振り絞る。体力の限界が近づいているようだった。


「長官についている…RAS高官をお前に伝えて…おく。も…し、生きて、エクスシス…にあった時に…!」

「ノメリアさん、しっかり…!」

「はぁ…はぁ…。ボーマン・ヴァ―ロット…そして…レナート・ジルコニス…だ。」

「…レナートさんが…?嘘…。」

 エリーは彼の発言に絶句していたが、彼はそのまま続ける。


「そして…ギルバード……奴の…エクセルサスの弱…点は恐らく、体のどこかにある…コアだ。」

コア…?それは何!?何なの!?」

 彼女が聞き返したところで、彼は急かす。


「すまねぇ…エリー…!そろそろ…限…界…だ。早く…行……け…!」

 彼の瞳が虚ろに濁り、光が消えていくのが見える。


「っ……!…分かった。」

 彼女は音を立てないようにノメリアの下から離れていく。彼女が離れた店内の方へと姿を消したのを確認してから、彼は外で彼らを探しているブラック・ナインに向って発砲した。銃弾はその体に命中したが、厚い鎧の様な表皮がそれを弾き飛ばし鈍い音が響く。

 エリーの背後からその鈍い音が数回響いた後、何かが崩れ落ちるような轟音が鳴り、彼女は夢から目を覚ます。


「……夢、か。」

 彼女は暫し、先ほどの夢の余韻に浸る。その中で、彼女は1つの違和感を覚える。


「あの時、何か聞こえた気がする。」

 彼女は記憶を巡らせる。最初は小さなノイズだったが、繰り返しあの場面を思い起こすうちにそれは段々と大きくなっていき、言語として認識できるようになった。


―そこにいたのか、ノメリア―


「まさか…ね。」

 彼女は苦笑いし、起き上がる。時計を見ると午前6時を回っていた。


「今日の8時に出発だったわね…。2度寝するのもなんだし、準備でも始めますか。」



 星がちりばめられた夜空に満月が輝く。辺りは不気味なほどに静まり返っており、それは嵐の前の静けさを仄めかしていた。ギルバードとの決戦前夜ともあってか、目がさえて寝付けないセブンスは研究所の屋上で夜風にあたり、物思いにふけっていた。彼はヘイブンでのX-オリジンであるフィオネと過ごした日々、そして、彼女と初めて出会った時を思い出していた。


 Xシリーズ―それはLILITHの全ての特殊染色体の遺伝子情報を持ちながらもヒトの形を保って生まれた最初の人間、X-オリジンであるフィオネを起点に作成された者たちであり、それは当初、兵器としての運用は想定されていなかった。それらは計8体まで作成されており、作成された順で番号が与えられている。セカンド、サードは人の形を保てないテラトマ体であり、フォースからはセブンスまではオリジンと同様に人の形を保っている。


 それらは最初期にはXと呼ばれていたLILITHの遺伝子情報の解明と、人間への応用による難病の克服など、ひいてはその未来のためへの研究ではあったのだが、それに一区切りがついた段階でフォースからセブンスはギルバードの専属私兵“パンゲア”として編成される。それは研究対象外、いわゆる用無しになった彼らに対する、彼のささやかな配慮であり、当初はただのボディガード、警護といった意味合いが大きかったのだが、ある日を境にそれは抹殺部隊へと変わっていった。その時に彼らの間で一悶着あったのだが、フィオネを人質に取られたセブンスは不本意でありながらも従うしかなかった。


 セブンスは目を閉じる。彼の瞼の裏には優しい笑顔をしたフィオネがそこにいる。彼が彼女と出会ったのは、彼が生まれてから2年が経とうとした時であった。研究所内での生活には厳しい制限がかかっていたが、研究所内での行動順守を徹底することで彼に自由が与えられた。そして、ギルバードに連れられて、彼はフィオネと会うことになった。

 ギルバードが何かを話していたのだが、強化樹脂ガラス越しに優しい笑顔を向けた彼女に心奪われた彼の耳には届かなかった。それから、彼はしきりに彼女に会いに行き、次第に関係も深まっていった。本来、彼女との面会には厳しい制限が課されていたのだが、ギルバードの意向でそれは撤廃された。夢の様な時間だったが、それは突然として終わりを告げられた。


 パンゲアが様変わりした際に飛び込んできた最初の任務は、今まで彼らが経験したような、穏やかなものとは到底呼べるような代物ではなかった。任務の内容は目を逸らしたくなるような凄惨なものではあったものの、それ以上に、あの人の怒りと悲しみに満ちた顔が脳裏に焼き付いていた。

 その任務以降、パンゲアは兵として使用され、日に日にそれの内容は血生臭くなっていく。フィオネのためにセブンスは心を殺してそれに従事してきていたが、彼についてきた仲間はそうではなかった。この生活に耐えられなくなったシクスはパンゲアを抜けようとし、さらにギルバードの情報を他のRAS高官に流そうとしたため、裏切り者としてセブンスに彼の処刑が言い渡された。彼はそれに異を唱え抵抗をしたが、結局、フィオネを盾にされ、自身の手でシクスを処分した。


 それ以降、何かとフィオネのことをちらつかせ、ギルバードはパンゲアに任務を押し付けていった。フィオネの安否も分からないまま、正直なところ、既に彼女は処分されており、ただ良いようにこき使わされているかと思っていた。だが、そうではなかった。

 あの連絡を受けた後、ヘイブン研究所へと飛んで行った。彼は到着するや否や、駆け足でフィオネの下へと向かったのだが、それも杞憂なことだった。息を切らして膝に手をつく彼の前には、あの時と変わらない彼女の姿があった。呆然とする彼に彼女は、以前と遜色ない優しい笑顔を向けた。彼女はあのころから何不自由なくここで過ごしていた。それどころか、ギルバードは月に数回はヘイブン研究所と連絡を取り、必要な物資を送っていたようだった。その時に、彼女とオンラインでの面会もしていたようで、彼女から彼からよくしてもらっていたと聞いた。


 それを聞いた時は唖然としたが、彼女の口から次第に彼を案ずる言葉が次々と零れてきた時はさらに困惑した。


―ねぇ、セブンス。あの人は大丈夫?…何か、ずっと思い詰めていたようだけど…。私が聞いてもすぐにはぐらかされちゃって。


―画面越しに会うんだけど…。隠しているみたいだけど、いつも苦しそうだった。


 彼から受けた仕打ちを全てぶちまけようと思っていたが、彼女の心配そうな顔を見るとそれはできなかった。結局、彼女が永遠に目を閉じるまで、嘘を言ってごまかし続けてきた。


―あの人を助けてあげて、セブンス。貴方の思う方法で。


 最後に彼女はそう言って、息を引き取った。

 彼は目を開け、立ち上がる。


「ああ…約束だ、フィオネ。」

 帰路の無い道を進んだ、あの人を救う唯一の方法。死こそが救済。彼はそれを強く心に刻み、部屋へと戻っていった。


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