表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
N. E. O. S  作者: オルトマン
CODE:N.E.O.S
67/71

決断

今年中に終わらせたい

 アランの部隊は特にリリンの強襲に会うこともなく、無事に本部へと帰還する。彼は帰還するや否や、ルナとエリーを診察室へと送りメンタルチェックを依頼する。その後、エクスシスの下へと戻り、入手したLILITHのサンプルの一部を彼に手渡す。


「ご苦労と言いたいところだが、このまま、そのサンプルをレナートの下へと運んでほしい。これはもしもの時のための予備として保存しておく。」

「了解しました。」

「ルナとエリーを診察室へと送ったそうだが、何かあったのか?」

「深刻なものではないと思うのですが…LILITHと相対してからやけに静かになりましてね。念のために、メンタルチェックを。」

 それを聞いたエクスシスは眉をしかめる。


「そうか…今後に支障がなければいいのだが。」


 二人の不安は杞憂であったようで、程なくして、ルナとエリーはいつもの調子を取り戻す。メンタルチェックも特に気になる点はなく、二人は少しの経過観察後、部隊に戻された。

 LILITHサンプルはレナートのいるリリー研究所へと特段問題なく届けられ、フィリア博士の残したウイルス兵器の開発へと本格的に進められる。開発は期待以上に目覚ましい成果を上げつつあった。


 当初のことが嘘のようにことは上手く運んでいく。目的としていたオペロンの形成も確認でき、ウイルス遺伝子と思しき産物が精製された。ほんの数か月でここまで漕ぎつけることができたものの、一度に生成できる収量はかなり低く、予想を大きく下回るものであった。それもさることながら、さらに大きな問題が後に控えていた。


―本部:会議室

 会議室にてエクスシス含めたNRASの高官達が集まり、会議を行っていた。リリー研究所常駐のレナートはライブ通信でその会議に参加している。


「LILITHのサンプルを入手したアラン隊長の部隊とレナート達の尽力によって、フィリア博士の残したウイルス兵器の開発に成功はした。だが、一番の懸念点は果たしてこれが本当に効果があるのかということだ。」

 そう語るエクスシスの声は微かに不安げであった。それは今後の人類の存続を左右する重大なものであったため、流石の彼も不安を抑えることが出来ずにいた。


『得られた収量が少量であったため、十分な検証はできませんでしたが、フィリア博士の遺言を裏付けるような結果にはなりました。』

「説明を。」

 エクスシスのその返答に対し、レナートは検証実験の結果を映す。


『リリンの下位種、中位種。そして、パンゲアのメンバーとルナ、エリーの体細胞に得られたウイルスを感染させました。ウイルスのDNAは宿主の遺伝子へと組み込まれ、複数のタンパク質の発現を抑制しているような結果が得られました。恐らく、抑制されていたのはLILITH遺伝子由来のものだと考えられます。そして、この発現抑制作用は感染してからすぐに現れ、その効果は長期…あるいは不可逆的なものと考えられます。』


 いくつかのサンプルをウイルス感染させ、5分から最長3日までインキュベートしたものを用意し、それらを観察したところ、5分の時点でタンパク質発現抑制作用が起きており、それは最長の3日間のものでも同様な結果が得られていた。その作用が発生する最短の時間を調査したかったものの、実験に使用できる量がすでに残っていなかったため、ここで調査は打ち切られた。


「それが本当に彼らの超常的な能力を封じるものであれば、我々の地上奪還は現実味を帯びてくるが…。」

 エクスシスは頭を悩ませている。試してみる価値は大いにあるのだが、その判断を踏み切ることが出来ずにいた。最早、選択の余地はないということは分かっていたのだが。


 現在、日々を支える食料等の物資は消費されていく一方であり、リリー研究所確保を最後に供給は目下見込めていない。さらに、衛星グングニールによる他国のRAS本部との通信も未だ功をなしておらず、依然として先の見えない状況に置かれていた。その状況下でも多くの人々は希望を保ちつつ、暗雲たる日々の中、生活を送っているのだが、それももう限界に近くなっていた。それを脱却するためには大きな吉報が必要だった。


「……。」

 彼はしばらく黙り込む。飛行型の上位種との戦闘を目の当たりにし、表には出さなかったものの、かなり焦燥していた。パンゲア部隊の取得、消息不明だったエリー、そして、既に死亡していたと思われていた赤髪蔵馬とその創造物であるQueenのエミリアの存命…予想外の戦力補充は非常に喜ばしいことではあったものの、彼らの力を合わせても上位種を倒すまでには叶わず、撃退までがやっとの事実。フィリア博士の遺産であるこのウイルス兵器がもし、上位種に対して効果がなかった場合、それは詰みの状況を意味する。


「君の考えていることは大方分かるが…悩んでいる余地はないはずだ。」

「…もう少し、調査をすべきだと思うのですが。」

 ローズはエクスシスに推し進めるキルギスへ反論する。それに対して彼が彼女に反論しようとした時、レナートが口を出す。


『残念ですが、これ以上調査を進めることは非現実的です。発現抑制された遺伝子や翻訳タンパク質はデータベースに登録されていないでしょう。つまり、一から調査検討をしないといけないわけですが、この状況では膨大な時間がかかってしまいます。』

「…でも、今の結果では十分だとは思えないわ。発現抑制されたタンパク質群が特殊な能力を与えていると、この実験では示唆できていないわ。完全にではなくとも、それを示唆する結果が出るまでは…。」

『特殊な能力を持つものはリリンにおいては上位種のみです。それ以外ではLILITHの遺伝子を持つパンゲアやエリー、ルナ、そして、赤髪博士とエミリア。実際に彼ら、彼女たちでこの効力を見られればいいのですが、先ほども言ったように、永久的、そして、不可逆的に作用することが示唆されています。』

 彼女は続ける。


『それが生体内でどのような結果をもたらすのか、予測するのは困難です。能力を失うまでならまだしも、致命的な結果に終わる可能性もあります。そして、これがそのまま上位種に適用されるのか、それも結局分かりません。どうやっても、不安を拭えないのは変わらないんですよ、ローズ。』

「…それは……分かったわよ。」

 不満げな表情でローズはそうこぼす。彼女が諦めたところでレナートはエクスシスに話を移す。


『…長官、残念ですが、確証を示すことはできません。しかし、この兵器を作成するために、相当な労力を割きました。ここまで関わった人々の努力を無下にする理由はありません。どういう結果が待つにしろ……やるべきです。』

 それに続いてシャオロンが立ち上がる。


「そうヨ、長官!ここまで来たら、やるしかないネ!」

 エクスシスは高官達を眺める。ローズ、リカルドは思うところがあるような表情をしているが、その他はこれを肯定していた。彼は決心を固め、顔を上げる。


「3日後に作戦を実行する。パンゲア、そして、ルナとエリーの出動は確定とする。レナート、この件をパンゲアに伝えておいてくれ。詳細は決定後、速やかに伝達する。」

『了解しました。』

「リカルド。グングニールを用いて、標的を選定してほしい。作戦行動に注力できるよう、単独行動をとっている上位種を探せ。」

「ちょっと待ってください。」

 エクスシスの発言にローズが口をはさむ。


「グングニールの衛星画像・映像の解像度では、判別が難しいと思われるのですが…。」

「それは…」

「それについては問題ないよ。」

 エクスシスの話を阻むように、リカルドが得意顔で彼女にそう言う。


「グングニールのシステムは既にアップデート済みだ。そもそも、解像度が低かったのはシステムエラーによるもので、グングニールに搭載されてあるものは最新鋭のものだよ。先の作戦に最適な上位種の標的についても、グングニールのAIによる行動予測を活用すれば数時間程度で選定は終わるはず…問題はない。」

「…そうですか。はぁ…あまり気は進みませんが、やるしかないですか。」

 気乗りのしないローズはぼさぼさの髪をかき上げながらそう呟く。そのやり取りが終わるのを見て、エクスシスは静かに口にする。


「この先に待つのは希望か、絶望か…今の我々に知る由もない。後は天命を待とう…。」



―3日後、ポイント・旧市街地A。

 パンゲアのメンバー、そして、ルナとエリーは指定された地点へと集合していた。エミリアにも召集がかかってはいたものの、元よりQueenは戦闘用に設計された生体兵器の部類ではなく、そのような訓練を受けていないため、戦力に追加するのは当面先へと延ばされた。他の部隊も投入する予定ではあったものの、最悪の状況下では焼け石に水だと判断され、温存戦力として残しておくこととなった。                                       


 先日の衛星グングニールのAIを利用した上位種の探索で、この地点の付近で孤立した個体が出現すると予測された。それは以前から確認されていた上位種であり、NEO LILITHが解き放たれてから最初に現れ、その超常的な力によって一部の軍を壊滅させた“見えざる手(インビジブル・ハンズ)”と呼ばれるものであった。


「今更だけど、本当にそれが効くのかしらね?」

 エリーがジェイドにそう言う。レナートが作成したウイルス兵器は、特殊な弾頭に詰められており、ジェイドの持つパンゲアお手製のスナイパーライフルで射出する。ジェイドとアンバーは正式にはパンゲアに所属してはいないのだが、彼らと同等の訓練を受けていく中で、スナイパーライフルの様な長距離武器の扱いが上達していった。その腕前はパンゲアのメンバー及びNRASの軍を越えており、取り分けジェイドの精度は群を抜いていたため、彼女に白羽の矢が立った。


「私たちはフィリアを信じる。フィリアは私たちに良くしてくれた…だから…きっと…。」

 ジェイドはアンバーの方を見ながらそう話す。言葉こそ力強くはなかったが、彼女の表情は真剣だった。エリーは実際にフィリアと関わりのあったジェイドのその言葉を聞き、少し安心する。


「…はい、了解しました。」

 本部から無線を受けたセブンスは皆に合図を送る。


「我々が標的としている上位種をグングニールが捕捉した。ここから北に約1kmとのことだ。作戦としては陽動班と狙撃班に分かれる。陽動班が上位種の注意を引いている間に、狙撃犯のジェイドがウイルス弾を確実に撃ち込む……至って単純な作戦だが、ミスは許されない。」

「そうと決まれば、二人はあの建物に移動し、そこから狙う感じだな。」

 フィフスが北東方向にある一際高いビルを指さす。彼は二人以外は上位種にあたるものだと思っていたのだが。


「いや…フォース、フィフス…君らも彼女たちに同行してもらう。上位種と対峙するのは私とエリー、そして、ルナだ。」

 意表を突かれた彼は取り乱す。


「いやいやいやいや…セブンス!!血迷ってんのか!?これが効くっつう保証はねぇんだぞ!?最悪の場合を想定して、上位種には二人を除いた全員で…。」

「何より最悪なのは、ジェイドとアンバーに想定外の事態が起こり…そのウイルス兵器を上位種に打ち込めなかった場合だ。それだけは何としても避けなければならない。」

「だ…だったら、僕たちがエリーとルナの代わりに…!!」

 フィフスに続いてフォースはセブンスにそう申し出るも、彼は首を横に振る。


「上位種との戦闘にエリーとルナの能力は不可欠だ。上位種の力は想像をはるかに超えている……分かってくれ。…それに、ジェイドもアンバーも君らになら安心して背中を任せることができる。何が何でも、彼女らに邪魔が入らないようにしろ。」

 彼は強めにそう言う。それを聞いた二人は観念したのか、それ以上続けようとはしなかった。


「終わった?なら、とっとと行きましょう。」

 暇そうに先ほどのやり取りを眺めていたエリーは素っ気なく言う。


「早くしないと他のリリンたちに合流されるかもしれないです。」

 彼女に続いてルナが急かすように口にする。


「…すまない。」

 セブンスは申し訳なさそうな表情でそう詫びるも、すぐに切り替える。そして、皆に顔を向け合図を出す。


「では、始めるとしようか。…状況開始だ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ