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N. E. O. S  作者: オルトマン
CODE:N.E.O.S
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母の願い

 3人は床の下に現れた通路を進んでいく。その通路の壁には様々な種類の動植物のシルエットの映像が流れており、それは通路の最奥へと続いていた。


「いかにもな場所だな。」

「気配を強く感じます。…この先に、LILITHが…。」

「変に凝ったところね~。」

 暫く進んでいくと、彼らの前に巨大な扉が現れる。壁のシルエットの映像はその扉の内へと流れ込んでいる。


「……。」

 アランが扉の制御盤の方に向かおうとその近くを通った時、扉は自動的に開いてゆく。


「なっ…!?ロックがされていない?」

 部屋の中は照明で照らされており、その奥に巨大な保管器がはっきりと確認できる。床には黒ずんだシミが見え、それから微かな血の匂いが漂っている。


「あれは血か…?」

 警戒をしながら彼は部屋の中へと進んでいく。そして、巨大な保管器の方へと目を向けると、その内には今まで目にしたことがない奇妙で巨大な生物の姿があった。


「こ…これが、LILITH!!」

 目を見開き、驚きの表情を表す彼をよそにルナとエリーは静かであった。それに違和感を覚えた彼が振り返ると、彼女たちはLILITHへと目を向けたまま固まっていた。


 二人の脳内に映像が流れる。

 青い海に蠢く、奇妙な形の生物。気付けばそれらの姿は消え、それらととってかわるように魚たちが現れ、地上では恐竜たちが繁栄を謳歌する。そして、空から輝く宇宙からの贈り物が地上へと降下し、巨大な火球が天地を焼き尽くす。

 眩い光と熱に包まれた後、気づけば二人は月明かりが照らす大海原の上に浮かんでいた。懐かしい雰囲気が二人を包み込む。


「ここは以前にも…。」

 すると、目の前の海面が盛り上がり、LILITHが二人の前へとその巨体をあらわにする。怪しく光る4対の紅い目が二人の眼前へと迫るが、不思議と恐怖は全く感じることはなかった。二人の脳内に言葉が響く。それは人間の言語ではなく、以前はとぎれとぎれで全てを聞き取れたことはなかったが、彼女を目前にしたためか、はっきりと理解することができた。



―我ガ遺伝子ヲ再ビ全テノ生物ニ…蔓延ル紛イ物共ヲ滅ボセ―



 アラン達が地下へと行った数十分後、タワー上層でアイリスの部隊は各階を調査していた。中層はそれほどでもなかったが、上層に向かうほどにタワー内の損壊は激しくなっており、壁が崩れ外にむき出しの部分も多々あった。


「良い景色ね…。こんな世界じゃなければ、もっと良かったのでしょうけど。」

「全くですね。」

 アイリス達は崩れた壁から眼下に広がる荒れ果てた景色を眺める。


「…ジェイドとアンバーは?」

 二人の姿が見えないのに気づき、彼女は部隊員に聞く。


「二人は上階に残っています。なんでも、行きたいところがあると。」

 アイリス達は一通りタワー内を捜索したが、想像した通りに大した成果はなく、アラン達が戻る間まで時間を持て余していた。期待を寄せていた長官室がある上階はミサイルが撃ち込まれたせいでそのほとんどが吹き飛ばされており、目ぼしいものは見当たらず、その時点で彼女たちは調査を打ち切り、本部に指示を仰いでいた。


「まあ、いいわ。とりあえず、本部からの連絡を待つだけね。…アラン達は上手くいっていればいいんだけど。」


 ジェイドとアンバーは以前に自分たちが住んでいた部屋へと進んでいく。廊下はボロボロになってはいたが、二人には当時の面影が残っていた。


「懐かしいね、ジェイド。」

「そうだね、アンバー。」

 彼女たちは自分たちの軌跡をたどっていく。味気なく、素っ気ない思い出だったが、不思議とその記憶は消えることなく脳裏に残っていた。一通り思い出の場所を回り、最後に長官室を訪れる。


「もう、何も残ってないね、アンバー。」

「そもそも、ここに来たのって、ここを出る前の一回きりじゃなかったっけ?何がったのか正直記憶にないなー。」

 長官が座っていた机があったであろう方を眺めるジェイド。アンバーはそれを見て、頭を掻きながら同じように見つめる。


「なにか思い出した?」

「…ううん…ごめん、私もさっぱり。」

「もう、ジェイドったら。」

「ふふ、それじゃあもう戻ろうか。薄々気づいていたけど、やっぱり、ここには何もないみたいだし。」

 二人は部屋を出てアイリス達が待機している場所へと戻ろうとする。その時、突如として彼女たちに共鳴反応が起こる。それはかなり強力なもので、今まで経験したことがないその反応に彼女たちは強烈な頭痛や眩暈を覚える。


「なに…これ!?」

「頭が割れそう…!」

頭を押さえて壁に腰かけた時、かつて聞いたことのある声色が背後の廊下から聞こえた。


『あの…場所…へ…』

 それは以前、ここを離れる最後の時に長官室で聞いた声だった。その声の主は男にも女にも見える容姿をしており、あまり口数は多くなかったものの、その言葉の節々から微かな殺意が漏れ出ているのを感じていた。

 その声を聞いた二人はふらつきながらも態勢を直し、廊下の方へと警戒しながら出ていく。


『体が…崩壊……していく。おのれ…ノ…メリア…!』

 声は廊下の奥から続いてくる。その怨嗟のこもったおどろおどろしいその声を慎重に辿っていくと、先ほどまでは気付いてなかったが、廊下にはうっすらと引きずったような赤黒い血液の跡があった。

 それは奥へ奥へと続いており、進むにつれて若干の腐敗臭が鼻へとつく。


「気味が悪いわね。…それにどうして、急に共鳴反応が?」

「分からないけど、気を付けたほうがよさそうね。」

 ボロボロになった階段をのぼり、二人はある一室の前へと辿り着く。その部屋は他とは異なり、損傷はほとんどなく扉は閉まっていた。腐敗臭は微かであるが、確かにその扉の先から漂ってきており、血の跡もその中へと続いているようであった。


「…。」

 二人は目を見合わせて頷き、アンバーが扉に手をかける。施錠はされておらず、彼女はゆっくりと扉を開く。何かの気配は感じなかったが、念のためにジェイドは銃を構えて部屋の中へと素早く入りクリアリングをする。


「これは…?」

 二人の鼻腔にツンと不快な臭いが流れ込む。


「臭いの原因はそれみたいね。」

 二人の視線の先には奇妙な装置があり、その中央にある座席には白骨死体が座しており、その頭蓋には機器が接続されていた。


「…これは何なの?」

 アンバーはその装置に近づき、まじまじと見る。装置の動力は既に止まっており、ボタンを押しても何の反応もない。


「やっぱり、この人があの人なのかな?」

 ジェイドは白骨死体を見ながらアンバーに訊ねる。


「多分…。だって、いやな感じがするし。」

 二人はじっとその死体を見つめる。


『後は…後の私に…任せま…しょう。』

「!?」

 驚く二人の耳にははっきりとその声が確かに、その死体の方から聞こえた。


「さ、さっきから何か変ね…。疲れてるのかな…?」

「そ、そうだね……もう、もどろっか?」

「うん、そうしよう!」

 二人は背筋に悪寒が走るような不気味な雰囲気にのまれ、そそくさとこの場を後にする。


「こんなところで何やってんの?」

「ぎゃあああああ!!!」

 彼女たちが部屋を出ようとした時、アイリスが顔を出す。それに不意を突かれた二人は思わず絶叫を上げる。


「な…急になによ…?」

「アイリス副隊長…!あー…びっくりした。」

「心臓止まるかと思った…。」

「いつも静かなアンタたちが取り乱すなんて、何があったって……。」

 アイリスは何気なしに彼女達の後方を見る。彼女の目に先ほどの装置に繋がれた白骨死体が入る。


「何よこれ?」

 彼女はその装置に近づき調査しようとする。


「今までRASの研究所を回ったけど、こんな装置は見たことないわ。収穫なしかと思っていたけど、どうやら、それは回避できそうね。調査が雑過ぎたようね…こんなものを見落としていたなんて。」

 彼女は本部と連絡を取ろうとする。


「アイリスです。本部、応答願います。」

『こちら本部。アイリスか…どうした?』

「スペンサー・タワー上層で奇妙な装置を発見しました。映像を繋ぎます。見えますか?」

 アイリスはカメラをオンにし、本部へ映像を送信する。


『…確かに、奇妙な装置だな。こんなものがタワー上層に?それに、その白骨死体は何だ?』

「わかりま…。」

 アイリスがそう言い切ろうとした時、ジェイドが口を開く。


「私たち…この人を知っています。確証はないんですけど、ここを去る時に長官室にいた人だったと思います。」

『パンゲアの誰かではないのか?』

「いえ、パンゲアのメンバーにあんな人はいませんでした。名前は確か…ルミネット。」

『ルミネットか…。聞いたことがない名前だな。長官は?』

 司令室でキルギスがエクスシスにそう訊ねる。彼は記憶をたどり、暫し黙り込む。


『…記憶にない名前だ。恐らく、パンゲア以上に秘匿されていた存在だったのかもしれん。セブンスたちはそれを知っていたのか?』

「それは…多分、知らないと思います。あの時、セブンスに話をしたけど、何かを知っていそうな雰囲気はなかったです。」

 ジェイドは彼にそう答える。


『そうか。しかし、一度、直接聞いてみる必要はあるかもしれないな。その人物についても、その装置についてもな。』

 その時、本部にアランから無線が入る。


『こちらアラン。研究所下層にてLILITHを発見した。これより、タワー調査中のアイリス部隊の協力を仰ぎ、サンプルの入手にかかる。』

 その報告を聞いたエクスシス達は一先ず安堵する。


「無駄足にならなかったな。これで、ウイルス兵器の開発がすすめられそうだ。フィリア博士の作り話でなければいいんだがな…」

「現状、我々は上位種達に対抗できる手段を見いだせていない。たとえその可能性があったとしても、どの道、亡き彼女を信じる他ない。」

 


 LILITHサンプルを回収した部隊は車両に乗り、本部へと向かう。その帰還中、アランは後部座席に座っているエリー、ルナに声をかける。


「おい、大丈夫か?さっきから、やけに静かだが。」

 LILITHと対面してからというものの、二人は妙に静かになっていた。ルナはともかく、お調子者のエリーが寡黙になっているのは少々不気味に感じていた。


「大丈夫です…。ちょっと気分がすぐれないだけで、少し時間が経てば治ると思います。」

「ホントか?念のため、帰ったら診てもらった方がいいんじゃねえのか?正直、お前らに何かがあっては困るからな。」

「大丈夫だから…ちょっと放っておいてくれない?」

 窓の外を眺めながら、気怠そうにエリーがそう答える。遠くを見つめる目はどこか虚ろで、心ここにあらずという感じであった。アランは彼女たちの様子を見て、ため息をつき、小さく首を振る。


「…大丈夫かしら、この子たち?」

「少し診てもらった方がいいかもしれんな。」

 アイリスの発言にアランはそう返す。


「……。」

 ルナは遠ざかるスペンサー・タワーを見つめる。ふと、エリーの方を何気なく見ると彼女も同じようにタワーの方へ眼を向けていた。


「…エリーさん…。」

 二人には母の遥かな記憶がまだ、脳裏にこびりついていた。繁栄と滅亡を繰り返す世界で唯一生き残り、ただひたすらに自身の遺伝子を数多の生物に保管させる、長く孤独な旅。その記憶が一気に流れ込んだため、二人の脳は一時的にキャパオーバーを起こしてしまった。

 頭の片隅で母の記憶が流れ続ける。頭の中に母の願いがこだまし続ける。それは怨嗟のように。


 紛い物共を滅ぼせと。


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