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N. E. O. S  作者: オルトマン
CODE:N.E.O.S
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欠けたピース

 曇天の空の下、ギルバードは瓦礫の山に座り、虚ろな目で彼方に聳える異形の塔を眺める。塔の近傍には黒い触手のような有機体が壁や床を覆い、歪な構造体を形成しており、現実の世界とは思えないほど一変している。


「…結局…私は…。」

 彼は俯きながら立ち上がる。


「一人なのか…。」




 NRASの通信制御室のモニターに映し出された衛星グングニールからの映像には、この世のものとは思えない光景が広がっていた。


「…何なのこれは…?」

 ローズは映し出された異様な映像に目を奪われる。本国アメリカを含め、数か国の都市に奇妙な構造物が見受けられる。それは有機体の様であったが、衛星からの映像の解像度では詳細は分からなかった。

 彼女はエクスシスに連絡を入れる。


『私だ。』

「ローズです。長官…今、通信制御室まで来れますか?」

『何かあったのか?』

「衛星からの映像に、本国含めて都市の場所に奇妙な構造体が見受けられました。」

『構造体?何だそれは?』

「全くわかりません…が、リリンが作り出したあるいは…変異した結果できた可能性は高いと思います。」

『……次から次へと悪いことは出てくるものだな。…分かった、すぐにそちらに向かう。』

 エクスシスはそう言って連絡を切る。


「…次から次へと…?何かあったっけ?」

 彼女は首をかしげる。


―数時間前

 会議室にエクスシス、朝倉、そして、キルギスが集まっていた。重苦しい雰囲気の中、エクスシスは額に手を当て、険しい顔をする。


「……信じられないな。本当にエリーがそう言ったのか?」

「ええ、そうです。…私も未だに…。」

「まあ、待て。そもそも、それはエリーがノメリアから聞いた話だろう?」

 キルギスは朝倉に確認する。


「そうですが…。」

「奴はギルバード側だったはずだ。話をそのままを吞み込むのは好ましくないし、もしかしたら、奴の命令でこちらの混乱を招くためとも考えられる。」

 彼はもっともらしい指摘をする。


「確かにそうですけど…エリーがこれを口に出したのは恐らく、彼のことをある程度以上は信頼しているからだと思います。彼の素性を我々は分かっていませんし、実際に行動を共にしたエリーは我々以上に彼のことを理解しているかと…。」

 彼はキルギスに反論する。


「…ふむ、それもあるかもしれんが…私個人の意見としては、無視すべき案件だと思うのだが、長官としてはどうだ?」

 キルギスはエクスシスに意見を窺う。彼はしばらく考えた後、口を開く。


「現状、証拠という証拠は何もない。エリーの証言だけで、レナートをギルバードの協力者と決めつけるわけにはいかない。」

「なら、いつも通りで行くと?」

「……ああ…だが、無策で行くわけではない。最低限の保険は掛けておくつもりだ。…レナートが本当に裏切り者で、こちらに牙をむいた時のためにね。」



 あれから1か月程度が過ぎようとしていた。レナート含めたパンゲアを率いるチームは難なくリリー研究所にたどり着き、今のところ問題なく活動が出来ている。エリーの口から出た彼女がギルバード側の人間であるという疑念も、今のところはただの疑念にすぎないようではあった。

 リリー研究所ではレナート主導の下、フィリア博士の日記に書かれていたウイルス兵器の開発が進められていた。


「はい、研究は予定より早く進んでいます。パンゲアのバックアップのおかげで、大幅に。…ええ、あとはキーのLILITH遺伝子の採取ですね。」

『幾らかのリリンを捕獲したと聞いていたが…そいつらからの遺伝子ではだめなのか?』

 レナートが所長室で本部のエクスシスと連絡を取っていた。


「理由は調査中ですが、捕獲した下位種リリンの遺伝子では目的としたオペロンを形成することはできませんでした。これはただの推測ですが、下位種とLILITHでは遺伝子的には大きな隔たりが存在する可能性があります。恐らく、中位種以上の…リリンが体内で編成している胚の遺伝子でしたら…」

『パンゲア…それとアンバー、ジェイドの遺伝子では試したのか?彼ら、彼女たちもLILITH遺伝子を持っているはずだが。』

「それも試しましたが、ダメでした。彼らたちに導入された遺伝子にはオペロン形成に必要な部分が欠けているものと思われます。現在、この研究所のサーバーに保存されたデータ、フィリア博士の実験ノート等から、手掛かりがないか調査しているところですが、解析にかなり時間を要しています。」

『なるほど…パズルのピースがそろっていないという状況か。正直、すんなりと終ると思っていたが、LILITH遺伝子が思っていたよりも厄介なものだったと。』

「先ほどの中位種以上の胚の遺伝子も、ただの推測にすぎません。私は…フィリア博士が言っているLILITH遺伝子とは、純粋なLILITHの遺伝子を指しているものかと思っています。」

『…ウイルス変異で生まれたリリン、そして、LILITH遺伝子を導入して作成されたパンゲア含む強化兵たちのものでは、そもそも無理だということか…となると、エリーやルナのものでも期待は薄いということか。』


 予想よりも早く進んでいった開発だが、結局のところ、最後のピースが足りず、前進できない状況となっていた。純粋なLILITH遺伝子…それは他の生物に進化を促す特殊な染色体にあるものではなく、LILITH自身のゲノムを指している。

 そのため、LILITH遺伝子を改良して作成されたNEO LILITHのウイルスから生まれたリリン、LILITHの特殊染色体を導入して作成された強化兵たちの遺伝子では、オペロン形成に必要な遺伝子配列が不足、あるいは欠如しているため遺伝子発現が起こらないと考えられる。


「ウエストハイランド島にLILITHの触腕があったと…浅羽が言っていましたが。」

 レナートはウエストハイランド島から帰ってきた彼の説明を思い出す。ウエストハイランド島はスコールランドがLILITHを発見し、その全てが始まった場所でもある。


『ヘリも船も…あるにはあるが、現在、メンテナンス中だ。問題なく運航できるまで、少々時間がかかる。だが…問題は研究所が今も稼働しているのかどうかも怪しいという点だ。スコールランドAIは我々が訪れるのを見越して研究所を維持していた。しかし、その役目を終えた今、そこの保全をしていると思うか?』

 エクスシスは確信をもって続ける。


『断言できるが、全てを捨てたはずだ。研究所の機能は全て停止し、当然ながら試薬、サンプルはもう使い物にならなくなっているだろう。DNAの安定性は高いが……そこに向かうのは最後の手段としたい。』

「しかし、長官…現状は……。」

『一つだけ気になる場所がある。』

 彼女が言い切る前に、エクスシスがそう言う。


『スペンサー・タワーの地下に秘匿された施設があることが分かった。』

 衛星“グングニール”を用いて、近傍の予備電力で稼働しているRAS研究所を熱源探知で探していた時に、スペンサー・タワーの地下に微かな熱源を発見したことが発端だった。


『近いうちに、部隊を編成しそこに向かわせる。そこで、だ…済まないのだが、パンゲアの隊員を幾らか出してもらいたい。かつての奴の牙城…何が潜んでいるのか見当もつかないのでね。』

 スペンサー・タワーはかつてのギルバードの拠点でもあったのだが、上位種の生息域にギリギリかかっていたため、注視していたものの調査の優先度は低かった。

 しかしながら、レナートの報告によりそれは変わり、エクスシスはすぐさまそこに部隊を派遣する決断を下した。


「分かりました。…しかし、こちらの戦力を大幅にそぐことはできませんし、貴方もそれを望んでいないと思います。パンゲアの主要メンバーではなく、アンバーとジェイドを送ります。」

『それで十分だ。そちらが潰れても困るのでね。…しかし、LILITH遺伝子が必ず手に入る保証はない。その時のため、何かしらの策を考えておかねばならない。実験データをこちらにも共有するように。』

「承知しました。…それでは。」

 連絡を終えたレナートは深いため息をついて机の資料を手に取る。


「少し、休んだ方がいいのでは?」

 所長室にセブンスが入室してくる。彼は彼女に頼まれていた実験データを机の上に置く。


「…研究が行き詰っています。この状況を打開しないと…。」

「貴女が倒れた方が深刻です。…気持ちは分かりますが、お休みを。それに…一度、ゆっくり休めば何か閃くかもしれません。」

「…ふぅ…そうですね。それでは、少し休ませてもらいましょうか。……私の代わりに、本部にデータを送信してもらえないでしょうか?」

「お安い御用です。では…。」

 彼は小さく微笑んで部屋を後にする。セブンスが部屋を出たのを確認して、彼女はベッドの方へと歩み寄り、体を横たえる。自分の体のことはよくわかっていたつもりではあったが、よほど疲れて切っていたのか、少し瞼を閉じただけでそのまま深い眠りへと落ちていった。


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