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N. E. O. S  作者: オルトマン
遺産
60/71

空の支配者

「とんでもない奴が来やがった!」

 アラン隊長は宙に浮かぶ飛行型の上位種を見つめ、険しい表情をしてそうこぼす。


「ここに上位種は来ないんじゃなかったのかよ!?」

「皆殺しにされるわ…!もう、終わりよ!」

 部隊員は絶望した顔で情けない声を上げる。彼らの体は恐怖で震えていた。


「もたもたしないで下さい!ここから離れれば助かる可能性はあります!」

 レナートが彼らに声を上げる。アランもそれに続く。


「ビビってる暇があったら足を動かせ!!ほら、早くしろ!!」

 彼は怒号を上げて行動を促す。それを聞いた部隊員たちは腰が引けながらも、退避を始める。そんな中、ルナはエリーたちの方をじっと見つめ、動こうとしない。それに気づいたアランは再び怒号を上げる。


「ルナ!!聞こえなかったのか!?早くしろ!!」

 彼女は一向に行動に移そうとしない。しびれを切らした彼は彼女のもとに向かおうとする。その時、彼女は何かを決心した表情で彼に振り返る。


「アラン隊長…私は加勢しに行きます。」

「何を言ってやがる?これは上官命令だ!!」

「…命の恩人を…見捨てて逃げることはできません!!」

 ルナはそう言い放ち、エリーたちの下へと駆け出す。


「ルナ!?ルナ!!…クソが!!!」

「アラン隊長!!ルナは何をして!?」

 異変を察したアイリスが彼の下へと駆けよる。


「ルナが命令を無視しやがった…!」

「…一体どうして?」

「分からん。」

「アラン!ルナは!?」

 レナートが声を上げる。


「ルナが奴らの下へ向かいました!!」

「なんですって…!?」

 予想外のことに彼女は珍しく焦燥した表情を浮かべる。


「レナート!指示を!!」

 アランが指示を仰ぐ。それと同時にエクスシスから無線が入る。


『レナート!状況は!?』

「そ…そ、それが…。」

 尋常ではない彼女の声色を察した彼は、事の重大さを感じ取る。


『いいか、落ち着け。何があったか端的に話せ。』

 彼女は深呼吸をする。


「く、詳しくは分かりませんが…飛行型の上位種が…。それに、ルナが向かって…。」

『な…!?…襲撃を受けたのか?』

「…い、いえ…こちらに損害はありません。上位種はギルバードを襲った第3者達に敵対して…。」

 レナートはセブンスの方へと目をやる。そこには彼の他に2人の少女の姿があり、その一人には見覚えがあった。


「嘘…エ、エリー!?」

 彼女の目にエリーの姿が入る。思わず彼女の名前をこぼす。


『エリー…?エリーがそこにいるのか!?』

「は、はい…!確かにエリーが…エリーが上位種と対峙しています!」

 司令室が騒然とする。


「エリー…!生きていたのネ!」

 シャオロンが思わず歓喜の声を上げる。良くない状況ではあったが、感情を抑えることが出来なかったようだ。


「エクスシス…ここは、彼女たちに助力をした方がいいのでは?」

 神妙な顔をしたキルギスがエクスシスにそう告げる。


「しかし…。」

 判断を下すのに躊躇いがあった。そんな彼を後押しするようにキルギスは助言する。


「ここは賭けだ。ルナとエリー…そして、あの男…恐らく長官の専属私兵“パンゲア”の一人だ。」

「パンゲア…!そんな、まさか…。」

 朝倉は驚きの声を隠せない。RAS高官、そして、副長官ですらその名しか知らない極秘の存在だったため無理もない話だった。


「確証はあるのか…?」

 エクスシスがキルギスにそう返答する。


「噂では、パンゲアには右目から右頬にかけて逆十字の刺青がある。反神の現れだと言われているが。」

「…レナート、確認してほしいことがある。男の顔に逆十字の刺青はあるか?」

『逆十字…。…!』

 彼のその問いに最初は疑問を抱いたが、すぐにその意味がつながる。急いで男の顔を確認すると、確かに、その顔には右目から右頬にかけて逆十字の刺青が入っていた。


『あります…逆十字の刺青が…。まさか、本当にパンゲアが…!』

 それを聞いたエクスシスはキルギスに向って頷く。そして、意を決したように呟く。


「やる価値はある…か。」

『長官…?』

「レナート…ルナに続いてエリー達を援助しろ!最悪の状況に備えて、ゴア・ドールの起動の準備をしておけ!」

『…了解!』

 それを聞いた彼女はアランに指示を出す。


「アラン、ルナ達を!!」

 それを聞いたアイリスは引き気味にアランに訊ねる。


「おいおい、マジですか…。私たちに死ねって言ってるようなものですよ!?」

「だったら、お前もあいつらと一緒に逃げておけ。」

「え?」

 アランの表情が獣の様に恐ろしく変貌する。それは強大な獲物を前にした、捕食者の顔であった。アイリスは彼のその表情に気圧される。


「上等だ…。兵士の死に場所は戦場…何の問題もない!」

 そう言い放ち、彼はルナ達の下へと猛スピードで駆け出す。


「た、隊長!?」

 彼女の声は彼には既に届かなかった。残されたアイリスはしばし狼狽え、この場から逃げるか彼について行くか決めかねていた。しかし、情けなく逃走する自分の姿を思い浮かべてしまい、それに嫌気がさした彼女は遂に決心する。


「ああ!!もうっ!!…やってやる!!やってやるんだからー!!!」

 涙目になりながらも、彼女は全速力でアランの後をついて行く。


「…生きて帰ってきてくださいね…。」

 そんな彼女たちの後姿を見ながら、レナートはそうこぼす。



 幾重もの強烈な衝撃波がセブンスたちを襲う。空に座す、上位種の圧倒的な力は尽きることを知らず、辺り一面を思うがままに吹き飛ばしていく。


「一方的すぎない!?どんだけバカスカ撃ってくんのよ!?」

 防戦一方のエリーは段々といら立ってきていた。


「いずれ力が弱まるはずです!だから…我慢してください!」

「なんでこんなガキに諭されないと…!!」

 エミリアの説得はエリーに対してあまり良くなかったようだった。しかし、彼女の言うように上位種の力は次第に弱まっており、破壊力もキレをなくしていっていた。


「エネルギーが切れかけている!畳みかけるぞ!」

 セブンスがそう言い放つ。彼は右腕に鋭い鉤爪をはやし、上位種に向って一気に詰め寄る。

それに続いてエリーは高周波ブレード、エミリアは手刀で応戦しようとする。すると、上位種の後方から無数の黒い影が彼らに迫ってくる。


「!?」

 現れたそれらは小型の飛行種リリンであり、上位種に向ってきた彼らに襲い掛かる。


「クソ…!」

「なんなの、こいつら!?」

 突如現れた飛行種たちに阻まれ、その対処のせいで上位種への強襲は失敗に終わる。下位種は上位種を守るように取り囲む。


「奴らを従えているようだな。」

「ずる過ぎない!?」

「ずるとか卑怯とかないですよ…。」

「うっさい!」

「おい…奴らの様子が変だぞ。」

 上位種が口を開き、自身を守るように飛び交っている下位種を捕食し始める。ぼりぼりと貪れていく仲間に構わず、下位種は変わらずに上位種の周りを飛来し、次々とその腹の中へと送られていく。


「奴はあれを護衛と栄養補給に使っているようだな。…便利なレーションだ。」

「え…じゃ、じゃあ…一生相手のターンってこと…?」

 エリーは呆然とする。


「!…来ますよ!」

 エネルギー補給を終えた上位種が動き出す。それが再び攻撃に転じようとした時、青白い閃光が走る。それは飛び交っていた下位種を吹き飛ばし、上位種の右羽に到達する。右羽の一部は焼け焦げ、衝撃で引き裂かれる。


「!」

 セブンスたちがそれが放たれた方向に振り返ると、そこにはルナがいた。


「貴方は…。」

 あの時の記憶がエリーの脳裏に浮かぶ。NEO LILITHが放たれ、混沌とした街中で助けた姉弟。彼女は嬉しそうに安堵の笑みを浮かべる。


「…生きていたのね。」

「あの時の…恩を返しに来ました…!」

 それも束の間、上位種が雄たけびを上げる。それを取り囲んでいた下位種が一斉に離れ、彼女たちに襲い掛かる。さらに、それに加えて上位種は衝撃波を下位種に構わず解き放つ。


「本当にただの道具みたいですね…!」

 エミリアは下位種の扱いに憐れみすら覚えてくる。力がものをいうこの地上では、弱者はただ搾取されるだけの存在だということをまじまじと見せつけられる。

 容赦なく襲い来る下位種と上位種の猛攻にやっとの思いで対抗していたルナだったが、遂に限界が来たのか、衝撃波による地面の爆発で吹き飛ばされてしまう。


「ぐ…!!」

 倒れこんだ彼女に下位種が襲い掛かる。それに気づいたエリーは高速移動で彼女のもとに駆け寄る。


(せっかく助けたのに!!ここで死なれたら夢見悪いわ!!)

「まだ死なせねえぞ、ルナあああああ!!!」

 アランがさっそうと現れ、滑り込みながらライフルを乱射する。弾丸は全て襲い掛かってきた下位種に命中する。


「マジか…。」

 エリーは呆然と立ち尽くす。そんな彼女に構わず、彼は強引にルナを引き起こす。


「アラン隊長…!」

「帰ったら始末書じゃ済まねえからな?」

 上空を飛んでいた下位種が2人に襲い掛かる。しかし、それらの攻撃が彼らに届くことはなかった。


「お前…。」

 彼らの後方にアイリスがライフルを構えて立っていた。泣き顔で後悔した表情だが、覚悟は決まっているようだった。


「隊長…!私が死んだら、アンタのせいですからね…!!」

「フン…死んだら地獄で責任取ってやるよ。」

 彼はそう彼女に言い放った後、ルナの肩に手を置いて確認する。


「ルナ…まだ能力は使えるな?」

「は…はい。」

「全てを出し切るつもりで奴に放て。道は俺たちが切り開く。」

 そう言った彼の表情は落ち着いていた。彼はエリーに言い放つ。


「俺たちは奴の注意を引く!お前はルナに降りかかる火の粉を払え!…行くぞ、アイリス!!」

「うおおおおお!!!」

「ちょっ…!何指図して…!」

 彼らは襲い来る下位種を打ち落としながら、一心不乱に上位種に向ってかけていく。


「聞いちゃいない。」

 呆れた表情をしていた彼女だが、集中するルナに襲い掛かる下位種に気づく。


「四の五の言ってらんないわね!」

 彼女は高速移動で一気に詰め寄り、ルナに襲い来る下位種に対処する。

 

「切りがない!」

 止むことがない上位種と下位種の猛攻にセブンスとエミリアは苦戦を強いられていた。上位種は再び下位種を纏い、エネルギー補給を行いながら、際限なく強大な力を彼らにぶつけていく。

 休みも取れない彼らは次第に疲労が蓄積していき、動きの切れがなくなってくる。既にエミリアは息が上がりつつあり、体力の限界も近づいていた。


(打開しなければ…マズい!)

 そうセブンスが思った時、アランとアイリスが合流する。


「君は…」

「協力しろ!!下位種を引きはがすぞ!!」

 そう叫び、彼らは上位種に向って乱射する。その攻撃を防ぐために下位種が次々と集まり盾となりつつ、彼らへと反撃するためにいくらかの下位種が突撃してくる。


「アイリス!!」

「全部は無理ですよ!!」

 打ちそびれた下位種が2人に向かう。しかし、それをエミリアが手刀で切り裂いていく。


「はぁ…はぁ…何か、考えがあるのですか?」

 アランはにやりと笑みを浮かべる。


「やるじゃねえか、小娘。説明している暇はない!下位種を落とし続けろ!!」

 それに応えるようにセブンスとエミリアは動く。しかし、次から次へと湧いて来る下位種を処理が追い付かない。

 ルナは上位種に手を向ける。全神経を集中させ、その力の全てを出し切る準備は整っていた。エリーは彼女に襲い掛かる下位種を一人ですべて切り捨てているが、段々と息が上がってくる。


「いつまで…待たせるのよ…!」

 体力の限界に近づき、一瞬、気が抜けてしまう。そのすきを突き、下位種が一斉に彼女に襲い掛かる。


「しまっ…!」

 銃声が鳴る。


「え…?」

 エリーに襲い掛かろうとした下位種は討ち抜かれ、地面へと落ちる。彼女たちの後方には2人の少女と2人の男が立っていた。少女はスナイパーライフルを、男はロケットランチャーを持っている。

 彼らの姿がセブンスの目に入る。


「生きていたか…心配させてくれる。」

 安堵した彼だったが、下位種の群れが洪水のように迫ってくる。それを見たアランは咄嗟にエミリアとアイリスの前に立ち、自身を盾にしながら下位種を撃ち続ける。


「隊長!?」

「小娘を連れて、逃げろ!!!」

「助成する…!」

 アランに続いてセブンスもそれに加わる。彼らが押し返させそうになった時、巨大なシールドが現れ下位種の猛攻を阻む。


「これは…?」

 アランが呆然としていると、瓦礫の影から赤髪が現れる。


「早く…逃げてくれ…!」

 険しい表情で力を入れる赤髪。エネルギー消費が追い付いていないのか、既にシールドは下位種の攻撃で崩れかけていた。


「パパ!」

「すまない、エミリア。…戦っている君たちを…見ているだけは嫌なんだ。」

 セブンスが叫ぶ。


「フィフス、フォース!!」

 その合図とともに彼らは上位種に向けてロケットランチャーを構え、そして、放つ。放たれた2つの弾頭は勢いよくそれに向っていく。それに気づいた上位種は下位種の群れを前方に集める。


「吹き飛べ!」

 弾頭が着弾し、大爆発を起こす。下位種の盾は吹き飛ばされ、上位種の姿が一瞬露になる。すぐに下位種を呼び集めようとするが、ルナはこの瞬間を逃さず、全身全霊を持って渾身の一撃を解き放つ。その電撃は自身の腕を焼き、引き裂きつつ上位種へと向かい、それの右羽はおろか半身の一部を焼きちぎる。


 しかし、絶命させるには至らず、上位種は耳をつんざくほどの絶叫を上げ、下位種を纏いながら空の彼方へと消えていく。


「あれでも死なねえのか…!」

 上位種の圧倒的な生命力に絶望を覚えるアラン達。あの存在を倒せるビジョンが思い描けず、この先に不安を覚えざるを得なかった。

 飛び去る上位種を掠れる視界で見つめるルナは、安堵の表情をしてこぼす。


「やった…。」

 彼女の意識が遠のいていく。既に目の前は真っ暗になっていた。


「ルナ!?」

 エリーが崩れるように倒れる彼女をすぐに支える。彼女は明らかに衰弱しきっており、ほぼすべてのエネルギーを使い果たしてしまったようだった。


「大丈夫!?…!…脈が!」

 彼女の心肺は停止していた。


「ちょっと…!嘘でしょ!?ルナ!!ルナ!!!」


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