集結
倒壊したビルの瓦礫の上にギルバードは立っていた。銃口を向けるアランの部隊を意に介さず、彼はレナートに向けて声を発する。
「久しいな、レナート。君のような重要人物が、危険極まりない地上に出てくるとは…何か重要な用でも?」
彼女は彼を睨みつける。
「ギルバード…!」
「そのカプセルに入っているのは…ゴア・ドールか?周りの護衛に比べれば格段にましだが…そんなものでこの私が…」
続けようとしたギルバードだが、何かに気づきルナの方へと目をやる。
「…何を持っている?」
「…え?」
何かを察したギルバードは表情を崩す。彼は瓦礫の山から飛び降り、彼女たちと対峙する。場に尋常でない緊張が走る。アランの部隊は彼の行動に注意しながら、レナートの攻撃命令を待つ。
『エクスシスだ。…レナート、交戦を許可する。ただし、あくまでゴア・ドール起動までの時間稼ぎだ。起動後はすぐにその場を離れろ。』
「…了解。」
エクスシスからの無線が入る。レナートはアランに目で合図をする。
「ファイア!!」
アランの合図とともに部隊員は一斉にギルバードに向って発砲する。彼はすぐに前方にシールドを張り、銃撃を防ぐ。その隙にレナートはゴア・ドールの起動プログラムを実行しようとする。
「時間稼ぎか…。こんなもので足止めできると思っているのか?」
「クソッ!攻撃が届かない!!」
アイリスの狼狽をよそに、アランはルナに命令する。
「ルナ!!」
「!」
彼女は発砲を止め、右手をギルバードの方へと向ける。
「?…何の真似だ?」
その束の間、強烈な雷が彼に襲い掛かる。ルナから放たれた強力なエネルギーは彼のシールドを粉砕する。
「な…に!?」
無防備になった彼の体を銃弾がいくつか貫通していく。彼は痛がる様子も見せずに、大きく飛び上がり、近くの倒れたビルの上へと退避する。
「何発か受けたはずだが…化け物め…!」
ギルバードはルナを見下ろす。
「あの小娘…ただの強化兵ではないな。いや…それよりも…。」
彼はレナートの方へと目をやる。様子を見るにゴア・ドールの起動まで秒読みであった。
「奴ら、ゴア・ドールを起動して撤退するつもりだろう。それはそれで戦力を削れて良いが…あの小娘から放たれる不穏な雰囲気が気になる。…まずは、あれの起動を止めようか…確実に。」
ギルバードの姿が一瞬で消える。
「消えた!?」
「まさか…!」
アランはレナートの方へとすぐに振り返る。彼の目に、ギルバードが今にもレナートを殺めんとする光景が入り込む。咄嗟に行動に移すも間に合いそうにない。
(クソが…!!)
レナートの指が起動ボタンに届く前に、ギルバードの変異した黒い鉤爪がその体に迫る。その時、眩い閃光と共にギルバードの右腕が宙を舞う。
「な…!?君は…!!」
彼の懐に謎の男が迫り、その手に持った高周波ブレードを再度振りかざそうとしていた。ギルバードは左腕を一瞬で鋭い鉤爪に変異させ、反撃に出ようとする。しかし、アランの部隊とは別の方向から彼の左腕めがけて銃弾が放たれ、その反撃は阻まれた。
「なんだ…と!!?」
男のブレードが力強く振りかざされ、彼の腹部を深く切り裂く。その剛力さに、彼は思い切り後方へと数メートル吹きとばされる。
「フィフス、フォース!!」
その合図と同時に遠方から2つの射出物が煙を上げながら向かってくる。それはギルバードが吹き飛ばされた地点へと正確に着弾し、爆発する。
「ロケットランチャーか!?」
「や、やったの!?」
アランの部隊がざわつく。煙を上げる着弾地点を見ながら、男は無線で指示を出す。
「ジェイド、アンバー…着弾地点から目を逸らすな。フィフス、フォース…次弾に備えろ。」
『セブンス。アンバー、ジェイドは了解。』
『こちら、フィフス。流石に生きてはないんじゃねえか?』
「…次弾に備えろ。」
『へいへい…。』
セブンスは着弾地点へと歩を進める。煙に紛れて、黒い触手が幾重にも現れ、彼に向って勢いよく向かってくる。
「やはり、あれくらいでは…。」
彼に伸びる触手だが、遠方から放たれる銃弾に次々と撃ち落されていく。
「まさか…君がここに来るとはね。どういうつもりだ?」
煙が晴れると、そこには先ほど受けていた傷を全治しているギルバードがいた。
「アンバー、ジェイド、援護しろ。フィフス、フォース、隙を狙え。」
『了解。』
『了ー解!』
ギルバードは不敵な態度を崩さない。
「ヘイブンに籠っていれば、死ぬことはなかったのになあ?…私の善意を蔑ろにした罰を受けてもらおうか。」
彼の姿がセブンスの目の前から消える。一瞬にして背後を取ったギルバードは彼の延髄めがけて一撃を放つ。
「そうは…。」
「させない。」
ジェイドがギルバードの攻撃を銃弾で阻む。そして、息を合わせるようにアンバーが彼の両足を打ち抜いて体勢を崩す。
「…小賢しい。」
セブンスがブレードを振りかざそうとするが、彼は即座に触手をはやして距離を取りかわす。
「…。」
「やってくれるな…。だが…いつまでも、有利な状況は続かない。」
セブンスに無線が入る。
『すまねえ、セブンス!援護が難しくなった!』
「どうした…?」
『敵襲が…!何なの一体!?』
「フィフス!ジェイド!何があった!?」
焦りを隠しながら、セブンスは彼らに応答を仰ぐ。しかし、彼らからの応答は来ない。彼の異変に気付いたギルバードはにやりと口角を上げる。
「どうやら…支援は望めないようだな、セブンス?」
セブンスの額から一筋の汗が流れる。ギルバードの一挙手一投足も見逃せない状況となったことに、彼は大いに焦燥する。確実な死が迫ろうとしていた。
「最後に聞いておこうか。なぜ、ヘイブンを抜け、ここに…私と対峙した?」
彼はセブンスの表情を窺う。
「確かに…これまで、色々と君らをこき使った。君らがやりたくないこともやらせた。かつての仲間もその手にかけさせた。“仕事”と割り切れなかったこともあるかもしれないが…私は約束を果たしたはずだ。」
「…ええ…そうですね。」
その答えに彼は首をかしげる。
「…では、なぜだ?」
「…これ以上…。」
「うん?」
溜めた言葉を彼は吐き出す。
「貴方が苦しまないように…です。」
その発言にギルバードは目を見開くも、すぐに表情を元に戻す。
「戯言を抜かしおって…。そろそろ、終わりにしよう。」
彼の姿が目の前から消え、セブンスの眼前に現れる。
「!!」
鋭い手刀が彼の喉元へと迫る。それを何とか反射で躱すが、すぐに次の攻撃が襲い掛かり、彼の胸元を深く切り裂く。
「く…そ!!」
咄嗟に反撃に出ようとするも、それがギルバードに届く前に彼は蹴り飛ばされる。空中で体を翻し、何とか地面に膝をつきながら着地する。
「仲間の助けがなければ、この様か。」
彼の背後からギルバードが語り掛ける。
「死ね、セブンス。」
セブンスはすぐに振り、反撃に転じようとする。間に合わないのは分かっていたが、自身の死と引き換えに少しでもギルバードに爪跡を残そうと覚悟したまでだった。
ギルバードの手刀がまさに彼を引き裂かんとした時、見知らぬ二人の少女が突然現れ、その腕を切り飛ばし、さらに、腹部から胸部を引き裂く。それを好機と見たセブンスは乗じて、渾身の一撃を彼の胸へと放つ。
「ぐ…が…!ば…馬鹿な!!?」
油断していたギルバードは吹き飛ばされ、受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
「…君たちは…?」
セブンスは二人の少女に目を向ける。
「感謝しなさいよ。私のおかげで助かったんだから!」
「…そうですね、エリーさん。」
ギルバードがふらつきながら起き上がる。その目は二人を睨みつけている。
「エリー…エミリア…!なぜだ…!」
彼らの前に現れたのは行方不明になっていたエリー・ブライトと、ギルバードがノメリアに抹殺させたはずのエミリアだった。
「アンタを殺すために地獄から蘇ったってわけよ。」
「皆の仇は…討たせてもらうわ。」
彼は表情を強張らせる。
「ほざけ…!!」
すぐそばにあった巨大な瓦礫を触手で掴み、思い切り投げつける。
「パパ!!」
エミリアがそう声を上げると、3人の前に大きなシールドが現れ、それを防ぐ。
「なん…だと…!?」
3人の後方から一人の男が歩いてくる。一見普通に見えるが、その顔には黒色の血管状の模様が浮かんでいる。
「長官…久しぶりですね。」
「君は…!」
彼の姿を見たギルバードはすぐにそれが赤髪蔵馬だと認識した。
「その姿…浅羽と同じく、LILITH遺伝子を…!」
「…パパは隠れていて!」
「……分かった。」
エミリアの忠告を素直に聞き入れ、彼は近くの物陰へと避難する。
「まあ、いい…!ここで君らを皆殺しにできれば…後が楽になる…!」
狼狽えながらも彼は再び攻撃を仕掛けようとする。しかし、体に異様な違和感を覚え、それを取りやめる。
(思うように力が…入らない!まさか…!!)
彼は胸部の傷に手を触れる。切り裂かれた胸部は未だに癒えておらず、吹き飛ばされた腕も再生しない。それどころか少しばかりの崩壊が起こっていた。
「こんな…ことが…!ぐ…!!」
彼は地面に膝をつく。エリー、エミリア、セブンスが詰め寄ってくる。
「ここで終わりよ、ギルバード。」
「…ほざけ。ただのまぐれで粋がるな!…この…私を本気にさせたことを!後悔させてやる!」
彼の体から複数の黒い触手が生える。
「なっ!?」
「離れろ!!」
その触手が彼の体を包もうとした時、彼方から微かな風切音が聞こえてくる。それを耳にした彼はほくそ笑む。
「ククク…そうか。私が手を下す必要はなくなったようだ。」
「はぁ?何言って…」
エリーが言い切る前にセブンスが彼女を制する。
「ちょっ…!何よ?」
「何か聞こえないか…?」
何かを感じたエミリアがそれに続ける。
「強大な何かが近づいてくる…!」
晴天の空の彼方から黒い影が猛スピードでこちらに接近してくる。ギルバードは隙を見て大きく跳躍し、離れたビルの瓦礫の上へと降り立つ。彼は大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
「ふぅー……少し油断しすぎた。次に会うときはこうはいかない…。次があればだがね?」
彼はそう言い放ち、その場を立ち去ろうとする。
「クソ!待ちなさい!!逃がさな…!!」
「危ない!!」
彼を追おうとするエリーをエミリアが引き留める。空から放たれた衝撃波がエリーの目の前に降り注ぐ。
「きゃあ!!!?」
「伏せろ!!」
すぐにセブンスが2人の頭を押さえて地面に伏すと共に、彼らの頭上を衝撃波が走る。
「ちょちょちょ!!何なのよ!!」
切れ気味のエリーに構わず、セブンスは冷静に新たに現れた敵を捉える。巨大な黒い影が彼らを覆う。
「こいつは…一体…。」
彼らの前に現れたそれは巨大な両翼を備えた、飛行型リリンの上位種であった。




