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N. E. O. S  作者: オルトマン
遺産
58/71

面談

―長官室

 エクスシスは自室のPCである資料を閲覧していた。それは鬼亡村に関わるもので、スコールランドAIからエリー達が入手したものだった。資料は2つあり、1つは実験記録でもう一方はその村に存在していた伝承で、洞窟の祠に描かれた絵の写真には、禍々しい黒い九尾が鬼を食い殺すさまが描かれている。


「黒き体の九尾様、天より舞い降り、悪しき鬼どもを喰らう…か。」

 彼は黒い九尾に似た謎の怪物ブラック・ナインを思い出す。


「…ブラック・ナインは奴が作成した生体兵器でほぼ間違いはないだろう。恐らく、これを参考に…。」

 彼はもう一つのファイルを開く。それには悍ましい実験記録がつづられていた。ギルバードは鬼亡村の住民を捉えて人体実験を繰り返していたようだった。


「あのウイルスを実験的に投与していたようだな。…人の所業ではない…!」

 顔をゆがめながら彼は一つ一つ記録を読み解いていく。まるで使い捨ての実験動物のように杜撰に扱われている鬼亡村の住人達。それは最早実験というよりは拷問であった。

 しかし、最後の実験記録はこれまでのものとは毛色が全く違っており、それは治療や蘇生を試みているものであった。


「これは…一体…?」

 被験者はカオリという少女であった。何があったのかは書かれてなかったため不明であるが、この少女は瀕死の重傷を負っていたようだった。どういうわけか、ギルバードはこの少女を救おうと研究所の最先端技術を使用したようだが、健闘空しくそれは叶わなかったようだった。


「この少女が事の発端なのか?…推察するに…鬼亡村の住人がこの少女に重傷を負わせ、その復讐として奴が村を滅ぼした…。しかし、なぜだ?両者の動機が分からない。」

 資料には事の発端は記載されていない。彼は思考を巡らせる。


「もし…これが正しいとすれば、この少女は何者なのか…。」

 そう考えている折にローズから連絡が入る。


『長官、シャハラの件ですが。』



 F区画のシャハラの部屋へとエクスシスとローズは進んでいく。


「食事をとってからだいぶ調子を取り戻したみたいで、今はかなり元気になりましたね。」

「それは何よりだ。処分するようなことにならなくて安心したよ。」

「それで…彼女からウエストハイランド島の話を聞きだすと?」

 ローズは気怠そうにそう聞く。


「ああ…可能性は低いが、何かしらの役に立つ情報が得られるかもしれない。」

「そうだったらいいわね。」

 そう話し合っているうちにシャハラの部屋にたどり着く。強化ガラスで隔てられた部屋の向こう側でシャハラはベッドに腰かけ足を組んでいた。彼女は知らない顔のエクスシスを警戒しているようで、じっと視線を向けている。彼はマイクに手をかける。


「調子はいかがかな、シャハラ?」

「アンタは誰よ?」

「私はここ…NRASの長官、エクスシス・クロイツフォードという。君から話を聞きたいことがあってね。」

「…聞きたい話?」

 シャハラは不思議そうな顔で答える。


「恐らく、君はまだわかっていないと思うが…君がカプセルの中で眠っている間に20年以上の時が経っている。」

「へぇ~…驚いたわ。そんなに時間が経ってるなんて!」

 わざとらしく彼女はそう驚く。


「…察してはいたのか?」

「まーね。…スコールおじいちゃんにカプセルに入れられた時に、長ーい時間、眠るんだろーなーとね?」

「…なぜ、スコールランドは君をカプセルに?」

「さあ?」

 白を切っているのか、仰々しく肩をすくめる。


「ふむ…話を変えようか。スコールランドだが、彼はウエストハイランド島で何をしていたんだ?」

「それは…私たちの治療よ。」

「治療か…。」

 彼女は背中の翼状の器官をパタパタと動かす。


「あの島には悪い精霊がいたの。その精霊は気まぐれに、女の人だけに悪い病気を与える…それがこの翼ってわけ。…この翼から出る何かが人を狂わせる……。村の牢獄に隔離された私たちをスコールおじいちゃんは救ってくれた。」

 ローズはエクスシスに耳打ちする。


「有用そうな情報はなさそうじゃない。浅羽たちから聞いたものと大差ないわよ?」

「まあ、待て…。」

 彼は話題を変えようと少し考える。すると、先にシャハラが口を開く。


「もうやめない?…アンタたちは知っているんでしょ?」

 彼は一瞬面食らうが、すぐに取り繕い冷静に答える。


「…何をだ?」

「とぼけちゃってぇ。スコールおじいちゃんは言ってたわ、『ここは秘密の場所』だって。そんな場所から私を連れ出したアンタたちが、本当に何も知らないわけないじゃない。ま、私もだまそうとして悪かったけど、お互い様でしょ?」

 あどけない笑顔でそう答える彼女の表情の影に、エクスシス達を誑かすような小悪魔的な本性が見え隠れしていた。


「…なぜ、我々を騙そうとした?」

「それはこっちのセリフよ。大の大人が雁首並べてさ!こーんな可憐な少女を欺こうなんて!」

 彼女の態度は先ほどとは明らかに変わっていた。


「君の話の信憑性を確かめるために、敢えて知らないふりをしていた。君が本当に真実を話しているかどうかを確かめるためにね。」

「ふ~ん。」

「さて…君はどうして我々を?」

「アンタたちを信用してなかったからよ、最初は。でも、話していて危険じゃないってわかったの。だーかーら、ネタ晴らししたのよ。」

 彼女のその態度はエクスシス達を完全に信用したことの表れだったようだ。エクスシスは納得したように小さく何度か頷く。


「そうか…なら、互いに腹の内に何かを隠して話す必要はないな?」

「ふふ~、覚えていることなら話してあげる。」

 無邪気に微笑むシャハラ。


「なら…遠慮なく聞こうか。君はLILITHという存在を知っているか?」

 その言葉を聞いた彼女は少し不快な表情をする。


「…もちろん。私たちの体をこんなにした怪物…。スコールおじいちゃんが研究していた。」

「地下の研究所でLILITHに関する研究をしていたようだが…彼は何をしていたんだ?」

「さっきも言ったじゃん?私たちの治療よ。」

「本当にそれだけか?」

「さぁ?残念ですけど、詳しいことは分からないわ。ごめんなさいね~。」

 若干馬鹿にしたように答えるシャハラ。挑発をしているのか、エクスシスの様子を窺っているが、当の本人は全く意に介していない。


「そうか…なら…ジェスター・ハウローという人物は知っているか?」

 その名前を聞いた瞬間、彼女の目の色が変わる。そして、思い出したかのように小さく笑い彼に話す。


「そう聞くってことは…やっぱり、あの人が何かしたってことなんだよね?」

「…どういう意味だ?」

「ふふっ…共鳴反応って、スコールおじいちゃんは言っていたかな?LILITHの遺伝子を多く持つ生き物はお互いの位置や感情をある程度共有できるの。…上の方からとってもたくさんの気配を感じるわ。」

「…なるほど…君には地上の世界がどうなってしまったのか、ある程度は想像できるということか。」

 彼女は無邪気に笑いながら答える。


「やっぱり、スコールおじいちゃんの言ったとおりになっちゃったのね。」

「言った通りとは?」

「いつか、人間の世界を滅ぼしにかかるって言ってた。理由はー…えーっと、ふふ…忘れちゃった。ま、でも、私にとってはどーでもいいことだし。」

 彼は未だに他人事な彼女の態度に違和感を覚える。


「…世界は、地上はジェスター…ギルバード・スペンサーが生み出した化け物共の跋扈する地獄へと変貌してしまった。我々の築いてきた文明社会は破壊され、明日どうなるかもわからない状況だ。」

「ふーん?」

 興味ないと言わんばかりの素っ気ない返事を返すシャハラ。


「人類は岐路に立たされている。君を目覚めさせたのも、この状況を打破できる何かがあるかと、藻にすがるおもいの他ない。…君の態度からして少し、甘く考えすぎではないのか?君の生死にもかかわる問題なのだが。」

 彼女は嘲笑いながら答える。


「そんなこと言われてもね~。私が生きてきた大半は研究所の隔離室だし、地上とか人間社会とか…化け物の私に何か縁があるの?ねぇ?」

「…いや、君は人間だ。」

「はっ…よくいう…。」

 言い切り捨てようとした彼女だったが、自分を見つめる彼の目にスコールランドとジェスターの面影を見る。懐かしく優しい眼差しを。


「…あー…。」

「?…どうした?」

「な、何でもない!…もう、いいわ。」

 彼女はそう言って髪飾り外し、その中から小さな保護ケースに入ったメモリーチップを取り出す。


「それは?」

「スコールおじいちゃんから貰ったの。いつかその時が来たら、信頼する人に渡せって。」

 ローズが目配せし、職員に防護服を着させて受け取りに行かせようとする。それを見たシャハラはエクスシスに指をさす。


「言ったでしょ、信頼する人に渡すって?私はアンタを信頼する、だから…アンタは私を信頼して。」

 それを聞いたローズはエクスシスに耳打ちする。


「聞く必要はありません。無理やり取り上げます。」

「その必要はない。」

 彼は立ち上がり、ガスマスクをつけてシャハラの部屋へと足を進める。


「ちょ!長官!!」

 呼び止めようとする彼女に構わず、彼はシャハラと対面する。現場に緊張が走る。シャハラは満足そうに微笑み、彼の前にメモリーチップを差し出す。


「私がその気になればバラバラにできるのに、丸腰で来るなんて…度胸があるのね、気に入ったわ。」

「目を見ればわかる。君はそんなことをしない。」

「え?…あ…はぁ?」

 迷いもないその言葉に彼女はひるむ。気付けば頬が真っ赤になっていた。


「よ、よく言うわ!内心ビビりまくってるんでしょ!?さ、さっさと出ていったら!」

「ん?ああ…。」

 シャハラはベッドへと駆けこみ、毛布をかぶる。エクスシスは首を傾げ、部屋を後にする。


「…デレデレでしたね…。いや、それよりも今後はあんな無茶なことはしないでくださいね!」

 ローズはあきれた顔でそう言う。エクスシスは彼女にシャハラから受け取ったメモリーチップを手渡す。


「解析を頼む。それと…少し時間を置いた後に、彼女から組織サンプルを採取してくれ。」

「分かりました。…一体何のデータでしょうかね?…そもそも、前長官はこんな回りくどいことしないで、最初から浅羽たちに渡しておけって思うんですけど。」

 小さなチップをまじまじと見るローズ。


「その時の記憶までインポートされなかったか、あるいは何かの不備で欠落していたのか…。ウィッカーマンの技術を独自に流用した結果だろう。」

 彼がそう言い切ると同時に無線が入る。


『大変です、長官!』

「どうした?」

『レナート達の帰還中に…ギルバードが!!』


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