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N. E. O. S  作者: オルトマン
遺産
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切り札

「それで…ルナの様子はどうだ?」


 F-4保管室でエクスシスがシャオロンに訊ねる。この保管室はRAS高官のNo.4以上の権限がないと入ることができない厳重区画であり、ここにはマリオネットMk-Ⅲが2体保管されている。マリオネットは防弾ガラスの窓越しに冷凍保管されており、その外にある管理端末で朝倉と他の職員がそのAIシステムに改良を加えている。


「レナートさんが精密検査に立ち会ったけど、特に問題はなかったと言ってたネ。意識は戻ったみたいだけど、しばらく様子を見るみたいヨ。」

「そうか…。状況が整い次第、テストをしよう。もしかすると、今後の戦局をこちらに傾けることができるかもしれない。」

 シャオロンは端末を操作している朝倉に目を向ける。


「ここの最終防衛の1つのマリオネットを使用するのは大丈夫なのカ?」

「…できれば温存したいところだが、他の生体兵器は制御することができない。ゴア・ドールにはマリオネット同様に制御機構があるのだが、起動すること自体がリスクだ。」

 それを聞いたシャオロンは苦笑いをする。


「確かにそうネ。」

「それに、ゴア・ドールは切り札の一つでもある。」

「一つ?」

 エクスシスはマリオネットの方へと足を進める。


「ずっと、考えていた…どうして、ギルバードはここへと攻めてこないのか、と。おかしいとは思わないか、シャオロン?」

「…言われてみればそうネ。」

「RAS長官であれば、支部はともかく本部の位置や情報くらいは知っていて当然だ。我々がここを根城にしていることも想像できるはず。なのに、一向にここに来る気配はない。」

「…ゴア・ドールを恐れているってことカ?さすがの長官もアレには手出しが出来ないト?」

 エクスシスは首を横に振る。


「違う?」

「いや、半分正解というところかな。」

「?」

 シャオロンは首を傾け疑問を呈する。そんな彼女を見てエクスシスは答える。


「ジェノサイダー…ゴア・ドールの強化版がここに保管されている。」

「ええ!?ジェノサイダーはデータ上の存在じゃないのカ!?」


 ゴア・ドールは人工恐竜遺伝子であるArti-Dino遺伝子から作成された、驚異的な戦闘スペックを有する生体兵器。その作成コストの高さや運用の難易度から数十体ほどしか作成されておらず、そのほとんどは本部の最終防衛ラインとして配備されているが、その事実を知るものはRAS高官でも少数である。


 そして、そのゴア・ドールのさらに数段上を行くスペックを有するのが、強化版のジェノサイダー。その名はスコールランドAIから得られたデータの中から見つかったものであり、副長官のエクスシスでさえ知りえなかったものだった。しかし、その情報は断片的で正確性に欠けており、ゴア・ドールの強化版で非常に高い攻撃性故に運用・配備され得なかったとしか判明していない。そのため、彼を含め、元RAS高官たちはその存在を信じておらず、VR訓練システムのデータもただ、ゴア・ドールの数値をいくつか上げただけのものとなっている。


 しかし、エクスシスがここRASアメリカ本部の中枢データにエクセルサスコードを用いて解放した際に、暗号化を施されたファイルを発見した。それを技術班に解析させた結果、ジェノサイダーの登録データとその実戦データ、それは被害報告書ともとれるものだが、だと判明した。

 ジェノサイダーはゴア・ドールを遺伝的及び機械的な改造によって、その身体機能を大幅に上昇させたサイボーグで、桁外れの戦闘能力を有する最強の生体兵器である。過去に2体作成されたが、現状、その内の1体がこのRASアメリカ本部に保管されている最後の個体である。


 ジェノサイダーはギルバードによって、ロシアにある第6スペンサー管轄シェルノブ研究所で秘密裏に作成された。マリオネットシリーズのように機械で増強された新たな生体兵器を生み出すため、ゴア・ドールに目を付けたと考えられ、「NEO HUMAN PROJECT」発動に際しての運用を考案していたようだった。作成についてはコストが想定以上にかかりすぎ、資材や金の流れを隠せなくなってきたことから2体までで打ち止めとなった。


 戦闘能力を測定するために1体を起動させたが、結果は予想の斜め上を行くほど上々であった。ジェノサイダーの脳内には制御装置が埋め込まれており、その行動制御装置のAIはゴア・ドールやマリオネットシリーズのものよりも性能は高い。しかし、行動停止の命令をジェノサイダーの意志が抵抗し、結果として暴走を引き起こしたとファイルには記載されていた。


 その被害はすさまじく、これを止めるために放ったすべての生体兵器、研究所専属部隊は皆殺しにされ、ギルバードの専属私兵“パンゲア”、そして、ルミネットが投入され、最終的にギルバード自身も出動したようだった。当初の目的は生け捕りだったようだが、結果は処分となっており、“パンゲア”、ルミネット、そして、ギルバードは重傷と報告されている。

 この結果から、ギルバードはジェノサイダーの運用計画を打ち切り、シェルノブ研究所封鎖と共にRASアメリカ本部にこれを移送した。


「…とんでもない化け物ネ。」

 シャオロンは信じられないような顔でそういう。


「ジェノサイダーは我々の命綱と言っても過言でない。こいつがいなければ、ギルバードはここを襲撃していただろう。」

「でも…仮にこれを起動した場合に、どうやって無力化するのカ?ギルバードが攻めてきて、それをそのジェノサイダーが倒したとして?」

「ジェノサイダー運用の目下の問題はそれだが、打開策はいくつか考えてある。」

「それは?」

「検討中だ。決まり次第、全高官に伝達する。」


―???研究所

 薄暗い廊下をギルバードが中位種のN.E.O.Sの遺骸を引きずりながら歩いていく。廊下にはN.E.O.S出現による騒動により、機材や薬品類が散乱している。彼は適当な実験室の一部屋に入ると、実験机の上にある器具等を振り落とすように中位種の遺骸を置く。懐からサバイバルナイフを取り出して中位種の胸元へ深く突き刺し、切り開く。

「…これだな。」


 N.E.O.Sの体内には新人類ホモ・エクセルサスの胚へと至る胚細胞を生み出すため、絶えず遺伝子編成が行われているが、その編成能力は上位種で顕著となる。中位種にはその能力は発達段階であり、下位種に限ってはない。しかしながら、全てのN.E.O.Sの体内に胚を育成するための子宮に似た専用の器官が存在する。そして、その器官の中に存在する胚細胞の遺伝子内には、どの段階でもLILITH由来のある配列を持つ遺伝子がコードされているのが、検証実験の結果であった。


 ギルバードはその器官を手でむしり取り、目の前に掲げる。朱い体液が滴るそれは不快な臭いをあげている。


「思い過ごしかとは思っていたが…やはり、違和感がある。この感覚は…なんだ?」


 NEO LILITHが全世界に飛翔し、ウイルスをまき散らしたその後すぐにN.E.O.Sは人間から生じた。N.E.O.Sにはどの生物以上にLILITH遺伝子を保持しているため、その遺伝子を同様に保持しているギルバードには互いの位置や感情等を共有する、共鳴反応が少なからず生じている。彼はN.E.O.Sとの共鳴反応の中で、気にはならない程度ではあったものの違和感を覚えていた。


 気のせいだとは思っていたのだが、先の件もあって見過せないものと考え、その原因を調査しにここへとやって来たのだった。


「DNAの抽出作業をやるとは…随分と懐かしいものだ。しかし、あまり設備が整っていないのが心許ないな。次世代シーケンサーはこの研究所に配備していなかったか。」

 ギルバードはN.E.O.Sの器官をビーカーに入れて部屋を出る。


「アメリカ本部であれば、最新鋭の設備が整っているが…。」

 彼は苦笑いする。


「ジェノサイダーは早急に他管轄の施設に移すべきだったな…。いくら計画が早まったとはいえ、奴らの牙城となるのは分かりきっていたはずなのに。」


 ジェノサイダーはGenocideから名を取った、生体兵器の頂点に君臨する戦闘能力を持つ極秘の存在。マリオネットシリーズのようなサイボーグ生体兵器の新シリーズとして着手され、それは計画的に敵対組織やテロ組織を圧倒的な戦力により虐殺するためかつ、ゴア・ドール以上の戦闘能力とその行動制御の正確さを売りに中東政府、アフリカ諸国の政府とのパイプをより強固にするのが目的であった。


 だが、結果は散々なものに終わった。暴走の際に投入された生体兵器、専属部隊を全滅させたのは良い実戦データとなったのだが、専属私兵のパンゲアの総動員ですらジェノサイダーを抑えることが出来ず、調子づいてたルミネットも参戦したが、それすらもろともしなかったのは想定外であった。


 あまりの被害状況に四の五の言ってられず、ギルバード自身も身を投じることとなった。当初は生け捕りを考えていたのだが、ジェノサイダーと対峙したことでそれの桁外れの力を目の当たりにし、それは無理だと悟った。結局、処分することになったのだが、彼らは再生能力が追い付かないほどの痛手を負い、研究所を永続的に封鎖する結果に終わった。


 甚大な被害が起きてしまったものの、かかったコストとその異常なまでの戦闘能力を見過ごせず、運用は保留として残りの1体をRASアメリカ本部に封印していた。「NEO HUMAN PROJECT」での運用も考案していたのだが、その発令段階が早まったため、そのまま取り残される結果となった。

 


―RASアメリカ本部:運用試験室

 生体兵器等の実戦データを取るための運用試験室に、装備を整えたルナが待機していた。強化ガラス越しにエクスシスとレナート、シャオロンが彼女を見下ろしており、後方で朝倉と職員が端末を操作している。エクスシスはマイクを手に取る。


「ルナ、調子はどうだ?」

 ルナは彼らの方へと顔を向ける。


「良好です。」

「そうか…よろしい。」

 エクスシスの後方で朝倉が言う。


「長官。準備が整いました。」

 それを聞いて彼は続ける。


「ルナ。VR訓練ですでに目にしたと思うが…これから君にはマリオネットMk-Ⅲを相手にしてもらう。」

「!」

 その言葉を聞いて、彼女は明らかに動揺する。


「マリオネットは制御できる数少ない生体兵器だ。危険な場合は行動を止めるよう命令を出すが、絶対的な保証はできないことを先に言っておく。」

 前方の隔壁が開き、マリオネットMk-Ⅲが1体現れる。それは試験室に入ると立ち止まり、戦闘態勢に入るルナと対峙する。


「今からマリオネットに戦闘命令を出す。…全力でそれを無力化してみろ。」


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