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N. E. O. S  作者: オルトマン
崩落
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終わりの日

 体が宙に舞う感覚がエリーを包む。爆発によって、彼女はタワー屋上から大きく外へと投げだされていた。感覚が研ぎ澄まされ、周囲の時間の流れが遅くなる。彼女の目のさす方にはギルバードが一人、戦闘機の残骸の上に立っていた。


「くそ…!くそおおおおおおお!!!」

 エリーは下へ下へと落ちていく。その悔しさのこもった悲鳴はギルバードの耳に届くことはなかった。


 NEO LILITHを迎撃しに向かった戦闘機は彼女へとミサイルを放つ。発射されたミサイルは優雅に空を漂う彼女へと容易に着弾すると思われていた。しかし、着弾するその手前でオレンジ色の障壁が彼女を包み込み、ミサイルから身を守る。


「なんだあれは!?」

「こちらデルタワン!対象に攻撃が通じません!」

 その直後、機体を鋭いシールドが貫く。


「メーデー!メーデー!」

 制御不能となった機体は地上へと落下していった。


 その様を見ていたギルバードは安堵の表情を浮かべる。


「NEO LILITHはウイルス産生・散布能力に特化した存在だったが、ミサイルを防ぎ、鋼鉄をも貫くシールド能力も有していたとはね…。嬉しい誤算だ。」

 彼は彼方の地平線を見つめる。


「フフ…存外早く、ヒトを捨てる時が来たものだ…。これからは堂々とエクセルサスとして生きていける。」

 ギルバートの体から黒い触手がいくつも生え、それは彼の体を包んでいく。彼の脳裏に一人の少女が映る。彼女は悲しそうな顔をしていた。


「…済まないな…カオリ。」

 黒い触手がギルバードをすっかり包み込み、それは歪な球体となった。


「ヒトの世界、文明は崩落し…そこに残るのは古来より遜色なく変わらず続く自然の理…正義も悪もなく、強き者が弱き者を喰らう“弱肉強食”…。」


「赴くままに、多くを殺そう。全ては、エクセルサスの繁栄のため。」


 触手の隙間から紅い光が漏れた後、絡まっていた触手がほどけ、その中から巨大な怪物が現れる。9つの尾のような黒く太い触手を揺らめかせたそれは雄叫びを上げ、タワーから地上へと飛び降りて行った。


「馬鹿なぁああ…!貴方如きにこの私がぁ…!」

 体中から血を吹き出し、大部分の体組織が溶解していく。人の形が色濃く残っている怪物の姿に変形したルミネットは苦悶の表情を浮かべながら、ノメリアを睨みつける。対するノメリアも傷を負ってはいるが彼のような致命的なものではなく、目立つ傷は深く切り裂かれた左腕くらいであった。

 しかし、LILITHの遺伝子が不完全ではあるが発現している彼はエクセルサスに劣らない再生能力を持っており、少しずつ傷がふさがり既に出血も止まっていた。


「お前もここで終わりだな、ゾーム。」

「ぐぅう…!!」

「だが…お前の“弱点”がそれだとすると唯一の純血種とか言ってた野郎も同じだよなぁ?」

「それが…それがどうしたというのですか?フフフフフ…」

 体が崩壊しつつもそう言い放つルミネットは不気味に笑っていた。


「何がおかしい?」

「何がって…あの方は私なんか比べ物にならないほどの力を秘めていますからねぇ…。その弱点とやらが分かっていたところで、貴方如き、触れることもできずに殺されるだけですよぉ?…所詮貴方は…お母様ではなくどこぞの馬の骨とも分からない女に認められただけの成り損ないですからねぇ!!ハハハハハハハハハハハ!!」

 気がふれたように笑いだすルミネット。もはや体が崩壊していることも気にかけていないようだった。ノメリアは彼の挑発的なセリフにイラつきを覚えるが、溶解した体組織と流れる血が地面へどろりと零れ落ち、顔以外は原形をとどめておらず崩壊していく彼の姿に憐れみを感じていた。

 その時、タワーに爆音とともに激震が走る。よろめくノメリアは事態を把握できない。


「な、なんだあ!?」

 焦るノメリアに構わず、少し間をおいて再び同様な爆音と振動がタワー全体に響き渡る。その衝撃で崩れた分厚い天井のコンクリが笑い続けるルミネットを容赦なく押しつぶす。


 その時に飛び散った血と組織片がノメリアの赤いコートへと付着する。彼はそれを舌打ちしながらはらい、ふと、窓の方を見る。一瞬の出来事であったが、落下してくる破片に紛れて、屋上にいたはずのエリーと目が合った。


 その時、彼は無意識に窓を突き破って落下していく彼女の元へと、周りの破片を踏み台に向かう。到底無謀な行為だが、気づけばそう行動していた。


「ノ、ノメリアさん…!?」

「掴まれ、エリー!!」

 ノメリアの差し出した手を掴むエリー。その手を強く引き彼女を抱え上げると、彼は目の前を落下する破片を踏み台に次へ次へと伝っていく。


 タワー最上階から落ちてきた破片は地面へと衝突してバラバラに砕け散り、クレーターと残骸の山を築き上げる。その残骸の中には原形を留めいていない血まみれの肉塊もまみれていた。



 街はNEO LILITHのウイルスによって変容した化け物、N.E.O.Sが溢れかえり、建物内に避難した人々を容赦なく虐殺していく。そんな彼らを救助するために出動した軍とN.E.O.Sの激しい戦闘が至る所で勃発する。


 当初、両者の力は拮抗していた。しかし、突然現れた一部のN.E.O.Sの持つ超常的な力の前に多くの軍が壊滅し、彼らの遺体はN.E.O.Sの苗床となり、その分以上にN.E.O.Sが新たに生まれる。


 その地上の惨状を悠々と眺めるように空を漂いながら絶えずウイルスをばらまくNEO LILITH。



 これはこの1つの街ではなく世界中で引き起こされ、瞬く間にN.E.O.Sが地上を跋扈する。



 街中に響く人々の悲鳴、銃声、爆音…それによって生じる混乱と混沌が当たり前だった日常を吹き飛ばし、ヒトの世界、文明、繁栄の崩落を伝える。


 ヒトが踏みしめていた地上からは秩序と倫理が、ヒトが信じていた正義が失われ、力なきものが容赦なく奪われ蹂躙される、不変に続く自然の摂理が幅を利かせることとなった。


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