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N. E. O. S  作者: オルトマン
崩落
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蘇る記憶

 スペンサー・タワーに向けて爆走してくる一台の車の存在に、屋上のギルバードは勘付く。それに目をやったとき、偶然にも窓から顔を出したエリーと目が合う。


「そうか、戦力を最小限度に抑えたか。残りの部隊は軍と協力して、民間人の保護に回すということだな…賢明な判断だ。」

 彼は空を仰ぐ。


「だが…どう足掻いても結果は大して変わらん。そもそも、軍の多くは機能しない。ヘカトンケイルの無数の手によって遮られるのだ。さぁ…共鳴が始まるぞ。」


 何かが全世界に発信される。スペンサー・タワーを中心に、それはスピーカーなど様々な音響装置を媒介にして。

 タワーで待機していたルミネットが背筋をなぞられるような感覚を覚える。そして、次の瞬間、脳裏に走馬灯のように映像が流れる。それは過去にも目にしたことがない光景であったが、まるで今まで体験してきたかのような懐かしい気分に浸された。

 ファンタジーのような奇奇怪怪の生物、巨大な爬虫類、そして、空から落ちてくる巨大な隕石―。気が付けば彼はひどく汗をかき、過呼吸になっていた。


「はぁ…はぁ…。な、何が…。何をしたのですか、ファースト様…?」


 同じくして、エリーにも同様の感覚が全身を襲う。


「ぐ…う…!な、何…?」

 頭を押さえて気分が悪そうにうずくまる彼女を見てブレイドが言う。


「ん?何だ、君も車酔いか?」

 彼の声はエリーの耳には届かず、彼女はその急に襲い来た強烈な懐かしさに浸る。途方もない長い時代を一気に現代まで飛ばしたような錯覚が彼女の体を駆け巡る。一瞬、自分が何者であるのか、ここがどこであるのか分からなくなり、精神に乱れが捲き起こる。まるで、自分が何者かの一部になるような…気味の悪い錯覚は次第に晴れていき、彼女の精神に平穏が訪れるが、動悸は激しいままだった。


「はぁ…はぁ…タワーから何かが…。さっきのアレは一体…?」


 タワーの屋上で額を抑え、ふらつくギルバード。彼は苦しそうな表情を露わにするも、口元は綻んでいた。


「…中々に、強烈なものだった…。だが、苦しい思いをしただけあったようだな。」

 そう言った彼が見据える先には、無数の黒色の巨大な腕が煙とともに立ち上っていた。



 スペンサー・タワーの地下。LILITHの培養カプセルの光が怪しく輝き、その中を循環する空気の泡の音が小さく響く。そのLILITHの前に、腹部から血を流し、今にもこと切れようとしているノメリアが倒れている。

 多くの血を失い朦朧としている彼の眼は霞み、周りの景色にぼんやりと黒いもやがかかる。その彼の目に、自分の方へと向かってくる素足が見える。


「…だ…れ、だ…?」

 もう、体を動かす気力も体力もない彼だったが、急に舞い降りた懐かしい雰囲気に押され、最後の力を振り絞って顔を上げる。

 彼の眼にははっきりと、翼のような器官が生えた女性が写る。女性の姿が歪み、頬に何かが伝うのを感じる。


「…母さん…?」

 ノメリアの目から涙がとめどなく流れる。そんな彼の頬を優しく、その女性が触れる。懐かしいぬくもりが彼を包み込んでいく。


―あぁ…いい気分だ。さっきのことが嘘のように。

―これが死ぬということか…。不思議と悪くない。

―……。

―…だが、どうして、俺は。

―あいつが長官だとわかったんだ…?


数多の声が彼の耳の内に響いていく。


「これで24体目か…。いつまで続くんだよ、この狂行。もう、家に帰りたい。」

「おい、お前あれ見たか…。最悪だったよ。ゴア・ドールと実践させるなんて狂ってる。」

「一応、自分自身でしょ彼らは?よくあんなことできるわ…。」


「あの基地外野郎、シャヘナトラを殺しやがった!」

「勘弁してくれ…あんな部屋、入りたくねえよ。」

「聞いたか?誰かがウィッカーマン率いるマリオネットに連れて行かれたらしいぞ。」

「科学者のくせに転生なんてバカげているよな?」


『素晴らしい。ここまで来たのは君が初めてだ。』

『ようやく、この計画が成就する。私の長年の願いが。』

『さぁ…私を殺せ…そして―』


 暗い眼の前に光がさし、場面が映る。そこには多くの研究員が白衣を赤く染めて通路に倒れ、彼らの飛び散った臓物が辺りを彩っていた。


「これは前にも。…あぁ、俺がやったんだ…。」

 懐かしくもあり、憎く忌まわしい記憶がノメリアの脳裏に蘇りつつあった。そんな最中、通路の奥から見覚えのある人物が歩いてくる。


『あの老いぼれが…やってくれたな…!』

「あいつは…あの時の…。」

 冷静さを装った振る舞いをしているが、彼は明らかに苛立っているようだった。


『緊急信号が届いたので、もしやと思ってきてみればこの惨状…あいつも死んだか?』

「あいつ…?」

『無理にでも止めるべきだったか。死体の掃除、奴の抹殺…事件の隠蔽…この島の封鎖…。金がかかるし何よりも…。』

 彼は壁に向かって拳を叩きつける。壁は大きくへこみ周りにひびが走る。彼の顔には、目から頬にかけて黒い血管状の組織が浮かび上がっていた。


『下手をすれば組織からこの私に疑いがかかる…。ふざけやがって…!』

「野郎…人間じゃなかったか。」


『おっと、この私としたことが。…気が付けば…ついたようだな。』

 彼は近くの半開きになった自動扉に近づき、それを開く。

『…!これはどういうことだ…?』

 彼の目線の先には血塗れのナイフを握りしめて倒れている青年と、腹部から血を流して絶命している老人がいた。

「こ、これは…!」

『ウィッカーマンとこれは…奴が用意した器か。』

 彼はウィッカーマンを確認する。瞳孔は開いて脈もなく、それは完全にこと切れていた。

『フン…殺す手間が省けたか。しかし、不気味な面だ。』

 ウィッカーマンの死に顔は奇妙で不気味な笑顔に固定されていた。何かを成し得たかのようなその表情に、彼はウィッカーマンがこの島に残って行っていた計画を思い出す。そして、その前で倒れている青年に目を向ける。

『まさか…。』


 ノメリアに記憶が流れ込んでくる。

「ぐ…あああぁ…!」


『なるほど…時折、同じ夢を見ると…?』

『夢というのは過去の経験、つまり、記憶を基にしていると。かの有名な心理学者がそう示唆しています。』

『それで、貴方の見る夢の内容はどういったもので?えー…っと…』



『ノーネーム。名無しのノーネームだ。』


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