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N. E. O. S  作者: オルトマン
起源のしるべ
33/71

転生

 扉が開くとともにそれは彼の目に入った。部屋の中央の巨大な水槽様のカプセルの中で、確かにそれは生きており、ただ静かに眠っているだけだと彼は何故だか理解した。そして、それは彼が以前に夢の中で見た巨大な生物であった。4対の紅い眼、3対の巨大な触腕、褐色の外骨格に覆われた黄色の肉質。

 それを見つめたまま固まるノメリアにギルバードは語る。


「どうだい?出会ったことがなくとも、懐かしい気分になるだろう?」

 彼はカプセルの前へと足を進める。


「これは”LILITH”…。我々の真の母親だ。」

「母親…。」

 彼はノメリアに振り向く。


「ノメリア。君はある男の転生のために作られたただの器だ。」

「転…生…?」

「君はただ一人の存在ではない。君は複数いて、君はその男の遺伝子を改良して作られた24番目のクローンだ。」

 微かな頭痛が頭をめぐる。ノメリアは額に手をかざす。


「君に入れられているWというのは複数の意味がある。1つはそのまま兵器の”Weapon”、2つ目は君の出生地であるウエストハイランド24番地病院の”West-highland”。そして、最後はウィッカーマン・キルケの”Wickerman”。」

「ウィッカーマン・キルケ…!?」

 明らかに動揺するノメリアに構わずに彼は続ける。


「同情するよ。君はあのウィッカーマンのクローンだ。」

「バカ…な…!!俺が…!」

 ノメリアを強烈な眩暈と頭痛が襲う。脂汗が噴き出し、立っているのがやっとであった。


「俺は…俺はただの器…?ば、馬鹿馬鹿しい…!何が転生だ!!そんな、フィクション誰が…!」

 ギルバードは目を閉じて彼の問いに答える。


「残念ながら事実だ。私も当時は小馬鹿にしたものであったが…実際に、奴の人格が君の人格を支配したことがある。ルミネットのお陰でそれは免れたが。」

「ど、どういうことだ…?」

「今はもう取り除いてないが、君の脳内には小型の機械が埋め込まれていた。それは奴の、ウィッカーマンの電子化した記憶をインプットし、そのパターンを電気的刺激としてアウトプットする機械だ。」


「電子化した記憶…?」

「人格、意識とは様々な要因によって決定づけられる。そして、その要因は過去の経験、つまり、記憶に起因する。記憶というのは広大に広がった脳内シナプスの唯一無二の回路。それは、様々な経験、体験を通じた刺激から形成される。」

「…」

「要するに、その機械は記憶をそっくりのままウィッカーマンの記憶に書き換えるということだ。」

「なんだ…と!?」

「電気刺激を与え続けることによって、疑似的に奴の過去を経験させるということだ。確かに、君の意識も存在するが…君らは幼年期、青年期を過ごすことなく培養カプセルから成人の体で生まれ、初歩的な教育を受け、その後は奴の望む強靭な体のために、日々、殺し合いをさせられた。つまるところ、君らの過去の大部分の経験と言えばその殺し合いぐらいだ。その死の淵に立った強烈な経験は脳と体に深く刻み込まれたが、それ以外の記憶はそう大したことでもない、容易く上書きできる。殺し合いの経験は消せないが…それこそが奴の狙いだ。その結果として、奴は若く強靭な体と、自身の過去の経験から優秀な頭脳も引き継ぎ、転生できるというわけだ。」

「バカな…そんな馬鹿なことが!!」

 頭痛と眩暈は激しさを増していく。


(馬鹿馬鹿しい…!野郎のこんなほら話に…だが、なんだ?様子が…おかしい。あの化け物を見てから、頭が…!何だ…何だよこれは!!俺は…俺は…!!)



『ようやくこの時が来たか…待ちわびたよ。』



 気付くとノメリアはどこかの施設にいた。今まで来たことがないはずであったが、強烈な懐かしさが彼を包み込んだ。


「な…!?…ここは一体…?野郎はどこに行った!?」

 すると、廊下の向こう側から誰かがこちらに向かって歩いてくる。それは2人で両方とも白衣を着ており、研究員のようであった。


「やべえ…隠れる所がねえ!」

 しかし、二人は焦る彼に気付いていないのか、彼に構わず話しながらこちらに向かってくる。


「俺もジェスター所長に進言して、ここを離れればよかったぜ…。あんな実験してたら気がおかしくなっちまうよ…。」

「ああ…全くだ。おかげで不眠症だよ…。」

「…何だ、こいつら?俺に気付いてないのか…?いや、こいつらの顔どこかで…。」

 すると、後ろの方から慣れたにおいが鼻に着いた。


「…血の匂いか…?」

 後ろを振り向くと、そこには血まみれで倒れた研究員が複数転がり、血や内臓やらが壁や地面に飛び散っていた。


「…は?」

 突然の光景に唖然としていた彼であったが、2人のことを思い出し直ぐに振り返る。


「…な、何だよ…。何だよ、これは!!?」

 先度の2人は変わり果てた姿で横たわっていた。白衣は真っ赤に染まり、切り裂かれた部分からピンク色の内臓が零れだしていた。

 彼は両手に違和感を覚えた。


「どういうことだよ…!俺は何も…。」

 彼の手は血で汚れ、右手には血まみれのナイフが握られていた。


「俺が…やったのか?」


『ああ、お前がやったんだ。』


 耳元で誰かが囁く。


「誰だ!?」

 振り返ると辺りは一面真っ暗になっていた。


「…ハ、ハハ…何だよ、遂にいかれちまったのか、俺は?ここはどこだよ?」

 正面に何かがあるのが見える。


「…あれは…。」

 それはいつも夢に見ていた鏡だった。彼はそれの前に向かう。鏡に映った彼の顔は相変わらず黒いもやがかかっている。


『やはり、君こそが私の理想の器だ』


「また、この声か…。誰だ!?」

 声の主に向かって怒鳴るノメリア。


『24…。私の体を返してもらおうか。』


「まさか…!」

 その声は鏡の中から響いていた。

 鏡をのぞくと、自分の顔が年老いた男になっていた。


「お、お前は…!!」

『この時を待っていた。暗く、冷たい、闇の中で…。』

 鏡からその男が這い出して来る。ノメリアは後退りながら距離を取った。


「バカな…。バカなバカなバカな!!!!」

 ノメリアの目の前にウィッカーマンが立ちあがる。不気味な笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。


『お前はここで終わりだ。その体を返してもらう。』

「何言ってやがる!この体は俺のものだ!」

『既にお前の意識は消えつつある。抵抗したところで、ただただ苦しいだけだ。素直に従えば、楽に逝かせてやるよ。』

「ぬかせ!老いぼれが!!」

 ノメリアは意を決して彼にとびかかる。彼の拳がウィッカーマンの眼前に来た時、周囲から触手が一斉に伸び、ノメリアを拘束する。


「な、なんだ!?」

『バカが…。苦しんで消えるがいい。』

 触手がノメリアの体と同化していく。激しい痛みが体中を巡っていく。


「がああああああああ!!!」

『懐かしい悲鳴だ。確か、あの時もお前はこんな声をあげていたな。』

 目の前が霞み、段々と意識が遠のいていく。


(これが…俺の結末なのか…?)

 不完全に触手と同化し、ノメリアは暗い地の底へと沈んでいった。


『フン…。まだ、抵抗するのか。だが、これでこの体の主導権は私に移った。お前の意識が完全に消えるのも時間の問題だ。』

 ノメリアを見下すウィッカーマンに光がさす。彼が見た先には光が溢れる扉があった。


『目覚めの時だ。』



「どうした、ノメリア?」

 ギルバードはうずくまるノメリアに向かって言う。すると、彼はすっと立ち上がり何かを確かめるように腕や手を動かす。そして、ギルバードの顔を見て鼻で笑いながら言い放つ。


「過ぎる年月には勝てなかったか、ジェスター?老いたなぁ。」

「…なぜ、君がその名を…?」

 不敵な笑みを浮かべるノメリアを見て、訝しみながら彼に問う。


「…まさか、お前…。消えたのではなく、眠っていただけだったのか…?」

「ククク…。」

 ナイフを取り出して手慣れたようにくるくると回す。


「あいつの記憶も少し見せてもらった。随分といいように使ってくれたものだ。大事な私の器だというのに…。しかし…こんな場所を作っていたとは驚きだ。しかも、スコール君が捜していた“LILITH”を捕らえていたとは…。彼女のお陰で、目覚めることができた。感謝しないとな。」

「…ウィッカーマン…。」

「“LILITH”の遺伝子を持つ者は同じ遺伝子を持つ者と共鳴するというのは本当のようだな。私も元は人間の親を持っていたが…これで私の親は、彼女ということか。そして、私もホモ・エクセルサスとかいうものの仲間入りか?」

「君は純粋ではないがね。」

「…フッ…まあいいよ。老人の君はここでお役ごめんだからね。」

 ナイフの刃先をギルバードへと向ける。


「…スコール君は私の親友でね。血が繋がってはいないとはいえ、君はその息子だ。生意気な態度は鼻についていたが…殺すのは忍びないなぁ。」

「思ってもいないことをぬけぬけと…。」

「フフ…だが、君には生き残れる選択もある。」

「…言ってみろ。」

 ギルバードに向けていたナイフを再びくるくると回しながら彼は答える。


「RAS長官の座を私に譲れ、ジェスター。私ならそれにふさわしいことは、君も重々承知しているだろう?私ならRASをさらに発展させられる。それに、私は不死身だ。転生を繰り返し、何世紀にもわたって続けられる。」

「……。ああ、フフ…そうか。お前は私の計画を知らなかったな。」

「計画?」

 眉間に皺を寄せるウィッカーマン。ギルバードはそんな彼を一瞥し、LILITHを見上げる。


「…まさか、こんなことになるとはね。彼のことは気に入っていたのだが…。残念ながら、お前に長官の座を譲るつもりはないし、ここで選択をするのはお前だ。」

「何を言っている?」

「ここで死ぬか、私に絶対の服従を誓うか…好きな方を選べ。これは今まで協力してもらったせめてもの慈悲だ。」

 それを聞いたウィッカーマンは高笑いをする。


「ハハハハハ!!老いぼれが何をぬかすか!!この体には今まで培ってきた戦いの経験が記録されていて、私はそれをこいつと同様に扱うことができる。例え、君が銃火器を持っていたとしても及ばんよ!ここで選択を迫られているのは、君の方だよ、ジェスター!ここで死ぬか、RAS長官の座を私に譲るか、決めたまえよ!」

「…そうか…お前は死にたいのか。」

 ギルバードがウィッカーマンに振り返る。

 その姿を見て彼は驚嘆する。


「…な…どういうことだ…!?ありえない…!!」



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