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N. E. O. S  作者: オルトマン
起源のしるべ
31/71

第4層

スペンサータワー最上階、長官室。


「ホモ・エクセルサスだと…?」


「ホモ・サピエンスの繁栄は直に終わる。…次は私が奪い返す番だ…。」

「奪い返す?…どういう」

「さて…」

 ノメリアの言葉を遮るように長官は言葉を発する。彼は小型エレベーターの前に立ちノメリアに確認するように問う。


「君は自分の過去を知りたいということだが…本当にそれでいいのかね?」

「…どういうことだ?」

「…君とは長い付き合いにはなる。まあ、君の本心は察することはできないが、私は結構優秀な部下には配慮してきたつもりだ。」

「ハッ…俺のことを気にかけているというのか?泣けるね~…いい上司だよアンタは。」

 皮肉っぽく言う彼を見ながら長官は続ける。


「なあ、ノメリア?…ヒトが絶望を感じるのはどういうものだと思う?」

「そんなの…人それぞれだろ。御託はいいんだよ、長官殿?俺は既に腹は決めてあるんだ。俺はこの時のために、長官殿…アンタに従ってきた!この手を血で汚し続けたのも、全てそのためなんだよ!アンタだってわかってるだろ!?」

「…。」

 真実を目前にし、高ぶる感情を抑えられないノメリアは大声で発する。


「俺は…俺自身の過去、記憶を取り戻すことで完全な俺になるんだ!!それが目前に来ているのに、諦めるはずがねえだろが!!」

 しばしの沈黙の後、長官が切り出す。


「なるほど…なら、いいか。だが…後悔しても、私を恨むなよ?」

「ああ、上等だよ…!」



「なれば、“始まりの地”へ…起源のしるべを辿ろうか。」





ウエストハイランド島24番地病院、シークレットラボ第3層。


「ンで、その第4層ってのはどうやって向かう感じ?」

「年上には敬語を使え…。ブレイドの教育が成ってないな。」

「俺は教育係じゃありませんよ。神崎さんに言ってください。その姿で行ったらぶっ倒れると思いますけどね。」

「…おまけに死んだことになっているしな。と、まあ、そんなことよりも…第4層への行き方だが。君らがここへ入ったようにいこうと思う。」

「…もしかして、アンタもそこから来たの?」

「まあな。本当はエレベーターを起動させていこうと思ったが、肝心の中身がなかったもでね?」

「だってよ、ブレイドさん?」

「…いや、もう使えないとばかり思ってたので…何かすみません。」

 3人はブレイドが切り落としたエレベーターへと向かい、そこからワイヤーを降ろして地下深くにつけられている扉を切り開き、秘匿されていた第4層へと降り立つ。


「ここが第4層…か。」

「ふ~ん…あんまり3層と変わらないね。隠されているんだから、もっとヤバいところかと思ってたのに。」

 何故かがっかりするエリーをよそに、ブレイドは先程の第3層とは違った雰囲気を感じ取っていた。それは廊下の奥にある二手道の右方向から漂っているようであった。


「あの二手道の右通路方向だが…あそこがD-4区画に繋がる道の一つだな。ただならぬ雰囲気を感じる…。正直、オカルトとかは信じていないが、何だろうな…ヒトの怨念のような何かを感じる。」

 浅羽は廊下の奥を見つめながらそう話す。


「えぇ…?」

 エリーは呆れたような顔をしながら、彼の見つめる先を眺める。しかし、何も感じ取ることができずに肩をすくめる。


「俺もなんだか肌寒いですよ…。封鎖されてなくても近づきたくない。」

 彼らは廊下の突き当りまで向かい、D-4区画へと繋がる道の奥を見る。そこは確かに、先ほど見た資料に書かれていた通りに封鎖されており、鋼鉄の壁が道を塞いでいた。


「扉までに至る道を鋼鉄の壁で封をしてコンクリか何かで完全に塞いでいるなこれは…。中々の力技だ。」

「一体何があるっていうのかしらね?」

「D-4区画はウィッカーマンの主任室と中規模の研究室と培養室が2~3部屋。そして、一番巨大な戦闘実戦室…生体兵器の性能をテストする巨大な空間がある。恐らく、この区画はウィッカーマンが個人的に使っていたものだから、君らが必要とするものはないだろう。」

 それを聞いてエリーは思い出したように答える。


「“W複製体”…ノメリアさんに似ていたけど…一体あれは何なの?ウィッカーマンとやらが作成していた生体兵器?」

「普通に考えればそうだろうな。」

「W-024…察するに24番目ということですかね?そうすると、複数体いることになりますが。…実はノメリアはそのうちの一体…?」

 浅羽は歩を進めながら答える。


「その可能性はあるが…関連付けれる証拠が少なすぎる。それはひとまず置いておくんだ。まずは目の前のことに…。」

「あ!そういえば!」

 エリーが何か思いついたように声を上げる。


「急にどうした、エリー?」

「ゴア・ドールの時に聞いた人工恐竜遺伝子のこと!教えるって言って、教えてくれてないじゃん!」

 興味津々に答える彼女を見て浅羽は疑問を呈する。


「不思議なものだな、君は…。女性と言うのはそういったものに興味を示すことはあまりないんだが。逆にブレイドが聞いてこないとはな?」

 ブレイドは苦笑いしながら浅羽に答える。


「俺はそういうのに興味があまりないので…。」

「ふん、そうか…。まあ、目的の場所まで時間があるし、向かいながら話そうか。」

 道を進みながら彼は2人に向かって話し始める。


「今から30年ほど前になるかな。シベリアの永久凍土からほぼ完全な状態のある恐竜の遺体が発見された。」

「シベリアの永久凍土に…?なぜ?」

「さあ…理由はどうかはわからないが、偶然に偶然が重なった奇跡的な結果だろう。…さて、その恐竜だが…発見したのはRAS高官であり、スコールランド・スペンサーの右腕と当時言われていたローゼン・ジルコニス…現RAS高官のレナート・ジルコニスの母親だが…彼女はこれを秘匿した。」

「レナートさんの母親が、先代長官の右腕…。」

「それをレナートが知っていたかは断言できない。そもそも、多忙なローゼンはレナートの世話を父親に任せていて、彼女とはほとんど会っていないと聞いている。…久しぶりに会った母親の姿が、写真と違い過ぎて困惑したと彼女も言っていたし…その当時にローゼンは…認知症を発症して娘の顔すらわからなくなっていたからな。」

「うわぁ…結構悲しい過去を持っていたのねあの人。」

「…。」

 ブレイドは浅羽が認知症と言う単語を言った時の声の微妙なトーンの変化に違和感を覚える。そのことを聞こうとしたが、エリーに遮られてしまう。


「で、何で恐竜の発見を秘匿なんかしたの?」

「その存在を公にしてしまえば、世間の目を集め、研究に制限がかかってしまうからだ。その当時のRASの世界的な立ち位置はまだそれほどではない。確かに、スコールランドの権力は強大であったと聞いているが…。さて、上手いこと自身の管理するRASの研究所にそれを持ち込んだ彼女は、まず、その恐竜が何であるかを特定した。彼女はX線画像…つまり、レントゲン写真を撮り、その骨格の特徴がどれに当てはまるのかを調査した。そして、それがヴェロキラプトルであることが分かった。」

「ヴェロキラプトルって、よく恐竜映画に出てくるあれよね?」


「まあ、よく知られている恐竜ではある。…さて、その氷漬けにされたラプトルの遺体からローゼンはDNAの抽出を始めた。彼女の目的はラプトルを完全な形で現世に蘇らせることだった。」

「まあ、ありがちですね。…DNAは結構丈夫だと聞きましたけど、さすがにその年代のものとなると不可能じゃないですか?」

「その通りだ。結果はローゼンの予想の通り、冷凍保存されていたと言えどDNAの損傷は激しく不完全なものであった。そこで、彼女は不規則に断片化したDNA片を片っ端からRASの次世代シーケンサーで配列を調べ、それらをデータベース上に登録していった。そして、彼女は現代の恐竜の祖先…近縁種である鳥類、爬虫類、両生類のものから分子進化の複数のパターンを考慮に入れ、コンピューターにそれらの断片を組み合わせ、疑似的なラプトルの遺伝配列を数種類作成した。」

 なんだかよく分からないといったような顔をするエリー。


「ふ、ふ~ん…そ、それで、結果はどうなったの?」

「…残念ながら、映画のようにはいかなかった。これらの遺伝子を導入した全ての受精卵は、卵割が最後まで進むことはなかった。」

「そうなんだ…。」

 がっかりしている彼女をよそにブレイドが聞く。


「…その出来損ないが疑似恐竜遺伝子なのですか?」

「まあ、話は最後まで…。結局、彼女はラプトルの再誕を諦めるどころかそれ自体からも離れてしまった。」

「優秀な割に諦めが早いんですね。」

 彼の言葉に対して彼は首を横に振る。


「損切が早いだけだ。そして、このプロジェクトとラプトルの遺体はそれを知らされたスコールランドに引き継がれたわけだが、その出来損ないの遺伝子は…例の生物のウイルス遺伝子によって状況が変わった。」

「状況が変わった…。」

「そのウイルス遺伝子の一部には、どうやら他の遺伝子の一部を都合が良いように改変するタンパクがコードされているらしい。」

「都合が良いように改変?」

 目を丸くするブレイドに彼は続ける。


「完全ではないがな…。恐らく…ウイルス遺伝子の複製をより促進させるためのものだろうが。つまり、スコールランドはこのタンパクの性質を利用し、ローゼンの作成した疑似恐竜遺伝子…Arti-Dino遺伝子を改良していったのだろう。そして、前に言っていたようにこのウイルス遺伝子には生物の肉体を強化するタンパクがコードされている。それらも合わさって、恐竜とは程遠いがあの凶悪なゴア・ドールが生まれたということだろうよ。」

「全然ラプトルじゃなかったんだけど…てか、恐竜って見た目でもなかったし…。でも、不思議よね。」

 彼女の言葉に浅羽は反応する。


「何が不思議なんだ?」

「前にアンタはコストがかかるって言ってたけど…。そのすごいウイルス?を使って作ったのがあのクソトカゲと木偶の棒だけって、そんなの本当なの?絶対、他にも作ってるはずでしょ?」

「そう思うのも無理はないが…調べた限りじゃ、そんなものはいない。」

「あるとすれば…“W複製体”ですかね。処分されたと書かれてましたが…どうなんですかね。」

「さあな…。情報がほぼゼロなものを尋ねられても答えることはできないな。セキュリティはすべて解除してあるし、この4層目に来て何かが発動した気配もない。敵の気配もな。警戒するに越したことはないが、張り詰めすぎることはない。」

「そうですけども…。」

 話は一旦終わり、3人は無言のまま道を進んでいく。研究所内には3人の足音が小さく響いているだけであり、他の物音はほとんど聞こえない。代わり映えのない無機質な景色が続いていく。

 しばらく、進んでると十字路に差し掛かる。すると、エリーが突然足を止める。彼女は右奥にある扉の方をじっと見つめていた。


「どうした、エリー?」

 気づいたブレイドが彼女に言う。すると、彼女は口を開く。


「この感じは…まさか…。」

 そう言ってエリーは突然駆け出し、見つめていた扉の方へと向かう。


「ちょ、エリー!勝手に行動するな!」

 彼はエリーの元へと駆け寄る。扉は自動で開き、彼女は部屋の中へと入っていく。彼もそれに続き部屋の中へと急いで入る。


「ふぅ…どうしたというんだ一体。」

 小さくため息をついた浅羽は2人に続いてその部屋の中へと入るが、部屋の中に2人の姿はなかった。その部屋は低温フリーザーや遠心分離機が置かれている広めの部屋で奥の方に実験卓とデスクトップPCが置かれていた。


「彼らはどこに…。」

 彼が部屋を少し見渡すと、入ってきた扉の少し遠くに扉の空いた部屋があり、そこからすすり泣くような声が聞こえる。彼が覗き込むようにその部屋を見ると、何かの機械の前でへたり込んですすり泣いているエリーとそれをなだめるブレイドがいた。

「…どうしたというんだ?」

 不審に思った浅羽が部屋越しに訊ねる。浅羽に気付いた彼は困惑しながら答える。


「いや…どうしたと言われても…。俺が来た時にはこれで…。」

「そうかい…。はぁ…泣き止むまで傍にいてやってくれ。」

「は…はい。」

 浅羽は頭を掻きながら、奥にあった実験卓の方へと向かう。すると、遠目では見えなかったが、PCの横に隠れるようにボイスレコーダーが置かれてあった。


「…。」

 彼はそれを無言で手に取り再生する。レコーダーは問題なく起動し、男の声が流れてくる。


「私は…私はブライアン・ケイリー。この研究施設に従事していた研究員だ。これを手に取ったものがウィッカーマン・キルケならば…フッフフ…くたばれクソ野郎!!手前はイカれたサイコ野郎だ!!!地獄に落ちやがれ!!!」


 急な罵声に一瞬だけ彼は驚く。男の声は続く。

「ふぅ…。スゥ~…もし、そうでない者。この研究施設の秘密でも暴こうとここまで侵入した不届き者ならば…。喜べ、この研究施設の真の存在意義と…あのクソサイコのウィッカーマンが立てた、頭のイカれた狂気の計画…Reincarnation計画の全貌を教えてやる。」

「Reincarnation…転生…か。」


 ”W複製体”、表示されたノメリアに似た青年の画像が浅羽の脳裏によぎる。


「…まさか。」





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