プロローグ
シトシトとアスファルトへと水滴が落ち、次の瞬間には空から無数の矢のように雨がしきりに降り落ちてくる。
雨に塗られるアスファルトを見下ろし、今朝超大型の台風が日本列島に今日直撃するというニュースを思い出した。
どこかに出かけるとなるととても危険な1日になるだろうが私にとっては逆に好都合だ。
そんなことを考えていると急に耳につけた小型の通信機から見知った声が聞こえてきた。
『こちら魔女。スネークさん達は予定のところで、一服しています』
「了解しました。私もこれから向かいます」
ブツッと通信が切れる。外から聞けばなんだ煙草でも一緒に吸うのかな?と思うだろうがこれはあらかじめ仲間内で決めていた合図である。
鼻歌交じりに通路を歩いていたがそれをやめ、代わりに懐から2本のナイフを取り出すと足音、気配を消して階段を駆け上がった。
今日実は40の誕生日を迎える私は年に1回の誕生日を祝うパーティを開くはずだったのだが、この日に仕事が入ってしまい娘に激怒されたのはつい昨日の出来事で、その後なんとか怒りを鎮めたのはいいが今朝まで愚痴を聞かされて俺は少し疲れている。
しかし仕事にプライベート関係を持ち込むなどご法度私は切り替え自分に喝を入れて移動した。
指定された場所まで来るととある物陰に隠れた私は、ナイフを逆手に取ると耳にある小型の通信機を抑えて小声で呟く、
「所定の位置に着きました」
『了解。こちらの合図で片付けてください』
私がこの業界に入ってもう25年の時が経つ、10で親を亡くしそれから5年間師と仰ぐ人に修行をつけてもらい、15で殺し屋となった私は今では世界の殺し屋業界の中でも一番の腕を持っていると噂になっているほどには有名になっていた。
その殺しのスタイルから死神の異名がついたが、私にとっては只々恥ずかしい。つまり言いたいことは腕は確かだということだ。
室内を伺ってみると煙草を吸う者達や日本では違法な銃を整備していたり、何かをガムテープでぐるぐる巻きにしたりと様々な行動をしている人々が眼に映った。
依頼人から受けたターゲット達である。
彼らは国内テロを企てるテロ集団だそうだが、私はただ依頼された仕事をこなす始末するだけだ。静かに息を鎮め攻撃のチャンスをうかがっていると銃を持った男が1人がこちらへと向かってくる。
焦る気持ちはないが早くしないと見つかってしまう。魔女からの合図がまだかと待っているとブッ!と通信機がなって待ちに待った声が聞こえた。
『今です。全員物思いにやってください!!』
それが合図となり突如銃声が鳴る。
それだけで場が混乱に支配されテロリストである男達の怒号が響くが、銃弾は着実にターゲットである者達を殺してゆく、この仕事でチームを組んだ1人 スネークだ。
近づいてきたターゲットの注意がスネークへと向いたので、私も背後から忍び寄り首を掻き切る。
その要領で混乱渦巻くこの場所に紛れるように扉から堂々と入って行くとが私に気がつかないテロリスト達。どうやら未だスネークを見つけらないようだ。
そんなターゲット達に向かい手にしたナイフとは別の小型のナイフを取り出し、胸、眉間に投げつけ確実にその命を刈り取る。
倒れるテロリスト達は私を見て驚愕の表情を浮かべるがもう手遅れだ。ドサッと倒れる仲間に気がついたのか、1人がこちらを振り向き私に気がついて声を上げようとするが、それを左手で口を抑えることで阻止しそのまま物陰にまで連れ心臓を刺す。
最初は抵抗していた男だが徐々に動きを止め最後には完全に動きを止めた。
私は立ち上がると最重要ターゲットであるテロ集団のリーダーである男に眼を向ける。
するとなんの偶然かリーダーがふと目を外し私の方へと顔を向けた。
お互いの視線が交錯し私は急いで物陰へと隠れる。
「そこにいるぞ!」
という声とともに銃声が複数なり多くの弾丸が飛んできた。
その隙にリーダーの男は奥の部屋へと逃げ込んでしまう。
私は少し溜め息を吐く昔は殺気を完璧に隠せていたが歳かそれともこの空気に当てられたのかはたまた娘でか、殺気が漏れてリーダーの男がそれに気がついてしまったのだろう。
どうしようかと考えていると突如テロリスト達とは違う種類の銃声が鳴り響くと飛んでいた銃弾がやむ、物陰から出るとそこには煙草を吹かしているサングラスの男が俺を見てニヤリとした。
「最近腕が鈍ったんじゃねーか?死神さんよ」
同じチームのメンバー梟である。
「私も40ですよ?こんなおっさんに働かせないで、若いあなた方が働いてください」
「あんた世代が色々と強すぎたから俺たちの世代に仕事が回ってこないんだろうが」
「さてなんの話やら」
と軽く会話をしながら男が逃げた部屋へと入るとそこにはどこか勝ち誇ったような顔で男が私たちを見ている。
「お前ら動くんじゃね!!こいつらがどうなってもいいのか?!」
と拳銃を向けた先には恐怖で声も出せない高校生達の姿があった。
なぜここに高校生が?と疑問が出てくる。それは梟さんも同様なようである。
「なんでガキどもがいるんだ?」
「私にもわかりませんよ」
「てめえら!しゃべんじゃねえ!」
と興奮している男に怯えるように悲鳴が聞こえた。
「ヒヒッ!こいつらがビルに入ってきたときはどうしようか迷ったがまさかこんなことに使えるとはな!」
どうやら高校生達はただ巻き込まれただけのようだった。
「とりあえず落ち着いてください私達はあなたを殺すようなことはしません」
もちろん大嘘だが、
「うるせえ!さっさとそこをどきやがれ!」
と怒鳴った瞬間。
右手に隠してあった針のようなナイフを引き金にかけられた人差し指を狙い投げつける。
まるで吸い込まれたように命中し男は体の条件反射つまり痛みで腕を上へとあげた。
その隙を梟は見逃さず愛用のマグナムで銃を撃ち落とし、私はそれと同時に男の襟と手首を持ち体を捻り腰を使って投げそのまま腕を捻って拘束する。
それを見て梟はヒューと口笛を吹いた。
「さすがは死神だな。普通引き金にある指なんて狙わねえぞ?」
「そうでしょうか。あなたの射撃精度もすごいと思いますがね?」
と私は未だ怯える高校生達の方へと向け安心させるために微笑みかける。
「安心してくださいもう大丈夫ですよ。頑張りましたね」
すると高校生達の顔が赤くなり(主に女子高生が中心だが)、梟がボソッと呟く、
「女たらし・・・」
しっかりと耳に届いていたが私はそれを無視して男に刺さったナイフを抜き取り懐にしまった。
「それでは梟さん?高校生の方々をこのビルからお連れしてください」
「へいへい。俺はガキのお守りかよ」
と渋々引き受けた梟を見送りながら私も最後の仕事に取り掛かる。男の始末をするのだ。
「何か最後に言い残すことはありますか?」
と聞くと男は急に笑い出して私を見上げながら答えた。
「どうせ死ぬなら道ずれにしてやる!!」
男は関節が決まってない方の腕を振り上げ何かを投げる。
それが爆弾であることに気がつくまで、時間はかからなかったが逃げる時間もなかった。
とっさに頭を背け腕でガードすると突如爆発が起きて、男とともに吹き飛ばされ大きく壁に激突し体からボッキと嫌な音が響き思わず呻き声を上げる。
近くに爆発の衝撃で顔が血だらけになっている男の姿があり、動かないところを見るとどうやら死亡したらしい。
取り敢えずは目的を達成したと思っていると爆発音を聞いてか、通信機からの連絡が入った。
『こちら魔女!さっきの音はなに!』
「すいませんヘマをしました。傷から見ておそらく重症です。」
『!。ただちに人を向かわせます!」
と聞こえたので時計を見る。
この暗殺は秘密裏にやらなければいけなかったため、証拠を消すため爆弾をいたるところに設置し、時間になれば爆発してビルが崩壊することになっていた。
爆発まで残り5分を切っていてどう考えても間に合わない。
相手もそれはわかっているはずだ。
「梟さん?建物から避難しましたか?」
『こっちは無事だ!』
と返事が帰り私は1人頷く、
「後のことは頼みましたよ」
『あんた・・・!』
『ダメ!!』
と魔女の声が聞こえた。
どこか必死な声を聞きどうやら昨日のことはもう怒っていないことを知って少し安心してしまった。
そう魔女である彼女が私の娘なのだ。
『パパ約束したでしょ!これが終わったらみんなで誕生日を祝おうって!』
それを聞くととても辛くなるがもうどうしようもない。
通信機を通じて娘が泣いていることにはすぐに気がついた。
『パパ!また私を1人にさせる気なの!?」
という声で私は首を左右に振ると答える。
「違う!お前には生きる知恵を与えた。それにお前を大切にしてくれる人たちもいてくれる。今度はお前は1人じゃない!」
「でも・・・!でも!」
と言葉途切れ途切れに言う娘時間がもうない。
「お前との暮らしは私に希望を与えてくれた。そして生きる意味を与えてくれた。ありがとう!私の娘になってくれて!!」
ついには過去の思い出を思い出し私は涙を流す。
そして針が12時にところまで来ると爆発音が巻き起こり、ビルを崩壊させて行く、
「強くなって前だけを向いていきなさい!私はいつでもあなたを見守っています!」
『・・・!』
と娘の言葉が届く前に私の意識は瓦礫とともに闇へと落ち、その意識を完全に失った。
こうして私 白崎 一香 40歳はこの現代社会から完全にその姿を消したのだった。
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