無能な僕、有能な君
僕には前世の記憶がある。
この世界は残酷なのだと僕は自分が七つになった時に思い知った。
この世界にはマナが充満しておりほとんどの人間が大なり小なり才能によって差はあれど魔法を使うことが出来る。どれだけ魔法を使えるのかを表す単位を魔法的制度といい、1あれば火種に火が灯せ、10あれば簡単な詠唱魔法が使え、100あれば王宮に召し上げられ国を守る騎士として戦うことが出来る。
才能のあるものはその出自は関係なく持て囃され、才能のないものは同様にどれだけ高貴な身分の生まれであったとしても蔑まれ人以下の扱いを受けてしまう。
国民は皆七つになった次の月に魔法的制度を測る儀式を受けるのだが、そこで僕は才能なしのさらに下、魔法的制度0を記録した。魔法適性の無いものは、持たざる者を意味するネアンと呼ばれ差別を受けてしまう。
優しかった両親は僕を無視するようになり、いつも遊んでくれた友達たちは僕を虐めるようになった。今まで優しかった世界がたった数十分の儀式を挟んで手のひらを返したように僕に厳しい世界へと変わったのだ。
そんな中で唯一変わらなかったのが幼馴染の君だったんだよ。
君は100出せれば才能ありと言われるこの世界で900越えの適正値をたたき出し、王国始まって以来の天才児と祭り上げられた。
無能な僕と有能な君。捨てられないように生きるために媚を売りありとあらゆる技能を磨いてきた僕と取り入るために売られる媚を切り捨ててわが道を行く君。力を渇望して卑屈になる僕と、力に溺れず生き方を変えない君。
君はネアンと蔑まれる僕にでさえ優しくいつも助けてくれたんだ。いつもひとりだった僕のそばにいてくれて、いつも僕を助けてくれる僕のヒーロー。
だからね、大人になって君が魔王討伐の勇者に選ばれた時、真っ先にネアンの僕なんかをパーティーに誘ってくれたのが涙が出るほど嬉しかったんだ。
何も出来ない僕に俺はひとりじゃ何も出来ないから世話役を引き受けてほしいって、お前の料理が一番うまいって、僕のどうしようもない唯一の特技を褒めてくれたのが嬉しかったんだ。
どれだけ綺麗な女の人が入ってきても、どんなに強い男の人が入ってきても、いつもネアンの僕を優先してくれた優しい君。
ネアンの僕が馬鹿にされるのなんて当たり前のことなのに、悪口を聞いたら真っ先に僕のために怒ってくれた君。
どれだけ疲れていようとも必ず料理を食べ、お礼を欠かさなかった君。
思い出そうと思わなくても次々に脳裏をよぎる君の姿は僕の理想のヒーローだったんだ。
だから僕は勘違いをしてしまった。そんな君に認められた僕ならネアンだったとしても君のようなヒーローになれるんだって、そんな分不相応な夢を抱いてしまったんだよ……。
僕には前世の記憶がある。
結局僕なんかを大切にする君は誰とも馬が合わずに僕と君の二人ぼっちのパーティーで挑んだ最終決戦の魔王城。ここに来るまで君の圧倒的なパワーで事も無げに突き進んでこれた。それは僕の実力じゃないのに強い君のそばにいたせいで錯覚してしまった、僕が、僕も、強いんじゃないかって。
迎えた魔王戦、僕はそうそうに敵に拘束され優しい君は本当の力が出せずにいた。そして、魔王が僕を殺そうとその手を振りあげた時、君は僕を守るために僕の盾になったんだ。
君の体が崩れ落ちる時に僕を見てふっと緩めた目元が印象的だった。
僕には記憶がある。僕を守った君がそのまま死んでしまったことを覚えている。
駆け寄って抱き寄せた君の幸せそうな顔も、だんだん体温がなくなっていく君の身体の冷たさも、僕だけが覚えている。
君を腕に抱いたまま壊れたようにボロボロと涙を流して繰り返し名を呼ぶ僕の命を、どんな醜悪な顔で魔王が刈り取ったのか、僕はそれを覚えているんだ。
生まれ変わったと気づいたのは奇しくも僕のせいで命を落とした君を見た時だった。
君も何故か生まれ変わっていた。姿は違っても何故か僕は君が君だと気づいたんだ。それが罪悪感から似ている君に君を重ねただけなのか、本当に君なのかわからないけど、僕にとってはそれが真実だった。
この生で僕はかつての君と同じくらい才能があった。
一方で君はかつての僕と同じくらい才能がなかったんだ。唯一違うのは君は僕よりも人間関係も手先も何もかもが不器用だったってこと。
きっと君にとってこの世界は僕よりも数倍生きにくかっただろうに、でも君は泣き言一つ言わずにたったひとりで生きていたんだ。
そんな君を見ていられなくて僕はかつて君がしてくれたように君のそばにいて君を助けた。
そうすることによって、少しだけ気持ちが晴れる気がしたんだ。僕のせいで死んでしまった君の、君が歩むはずだった幸せな人生を、君に与えることが出来たなら僕は君に許される気がした。
全部全部僕のエゴなのに、そんな僕に君は優しいねって笑ってくれるんだ。その笑顔を見るたびに泣きそうになる。
僕は弱いから、あんなに渇望した力を手に入れてなお心が弱いから、心の強い君にいつだって憧れるんだよ。憧れ、てたんだよ……。
僕は一週間後かつての君と同じように魔王討伐の勇者として旅に出る。僕は君の旅について行ったことがあるからどんな旅なのかある程度は理解している。
だから君は僕のパーティーに入れてあげない、入れるもんか。あんな酷くて酷い旅に君を連れていくわけには行かないんだよ。
「わかって、僕は君が好きなんだ。守りたいんだよ。どうしようないくらい弱くて情けない僕でも君を守ってあげたいんだ……。」
ごめん、ごめんね。泣かないで、必ず帰ってくるから、君の元に戻ってくるから。僕が君を幸せにするから。
「だから、僕と結婚してほしい。心の弱い僕が魔王に勝てるように、勝って君の元に生きて帰ってこれるように。僕の帰る場所になってほしい。弱い僕一人じゃ何も出来ないから、君の力を貸してほしい。……貴女を愛しています。貴女が貴方だからじゃない、貴女だから好きなんだ。」
僕の言っている事がわからずきょとんとする君は、昔の君より細くて小さくて弱くて、誰よりも心が強い僕の愛しい人。
罪悪感から始まった関係だけど、今はそれだけじゃないんだよ。
明日僕らは結婚する。前世とか君とか僕とか関係ない。
だってこれ無能な僕と有能な君の物語でも、君の死によって始まった僕の罪滅ぼしの話でもない。
僕と君が死んだ後の、数百年後に生きた僕と君の恋の物語なんだから。




