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1−8


 これは『むかしむかし』、といっても一年前ぐらいの話。

 国語の授業で『相原』という人物が、ある本をモチーフにして創作した物語の一部分を抜粋したものであること。それを最初に述べなくてはならない。




――オオカミ少年が罪深いことについての考察――




 ある生徒が質問をしました。嘘をつくことはいけないことですか、と。

 すると先生は答えました。嘘をつくことは悪いことではありません、と。

 そして、先生はたたみかけるようにこう言いました。

 なぜなら、社会は欺瞞に満ちているからですよ。

 だからですね、私たち先生の立場から、もう少し嘘の使い方を教えなければいけません。

 だって正義だけを教えていれば、やがて理想論ばかりを振りかざす折り合いのつかない人になってしまいます。

 または騙されやすい人になってしまいます。

 なによりも偽りの社会を信じ込んでしまいます。

 それに正しい嘘を教えないと、ついてはいけない場面でしてしまいます。

 後は、ホントにピンチの――肝心な時に使えなくなりますね。

 なんていったって、ウソはとっておきの切り札なんですから――。


「そうなんですかー。じゃあ、もう一つだけ質問していいですか?」


「はい、どうぞー」


「あのー、先生はオオカミ少年の嘘についてどう思いますかー?」


「う〜ん、そうですねえー。私は女の子だったら許しますねー」

 








――ヴオオオーオ ワオーン ワオ――――ン ワオ――――――――ンッ―― 




 十時五十分。少し離れた小麦畑の森も、やや斜面のあるサクラナイトの草原も、たった一本の咲かない桜の大樹も、そしてここ、サクラミステリーの外部や内部にも同じようにあの咆哮が響き渡った。

 彩穂が着ているTシャツの胸の部分には、一般に認知できる言語ならばそれを音声化させる代物――つまりは、音を変換させるボイスレコーダのような機械が括りつけてあった。しかもそれに、小型の拡声器もプラスして使っていた。

 だからこそ、あそこまで本物に似せた狼の音が再現できたのだった。


「優介、こっちは任せなさい! ザッー」


「ああ!」


 よし、返事が返ってきた。さあ、ここからだ……。ここから本領を発揮しないと。なんてったって、ここの桜がまだ咲いていた時期でさえ……。そう、小学生の時から優介のいいところとは、天才的に、呆れかえるほどに扱いやすいと自負してきたんだから。


「うん……」


 彩穂の鼓動を乗せた小さな掛け声は狼の咆哮でかき消される。

 その中でも思う。

 人は考える足なんだ。だから、考える前に自らの行動でもって事を押し進め、気がかりなことがあったらどんな手を使ってでも行使して、そして真実をつかみ取るんだ。

 彩穂は行動を取り始めていた。





 狼の咆哮が鳴り響いて間もなく、サクラミステリーの入口からやや右側に離れて石段よりの方に所在地をずらした彩穂。そしてここからもう少し離れた場所で――入口からだと左側のサクラナイトの方――待機させていて、掛け声とともに侵入した優介。

 今まで二人は死角になりつつも、サクラミステリーの入口から一番近くになる場所を調整して連絡を取り合っていた。

 ただそうなると、見張りによる無線の傍受を懸念しなくてはいけないのだろう。だからこそ、わざわざちゃっちい作りの玩具トランシーバーを使用していたという事実があった。

 それと二人が事前に確認していたことは、ミステリーサークルを囲んでいる壁が上からの見取り図でいうとほぼ正方形の形をしていること。さらには、警備の見張りが入口がある正面と対角になるその裏側の二人しかいないこと、であった。

 それは、まず正面の入口の駒を不可解なイレギュラーを発生させてひっぺがし、あわよくば裏側の駒もその場で足止めさせる。もしくは悪くても遅らせることだった。

 通常なら、裏側の駒がこの石段にやって来るための道のりは二通り。単純にサクラナイトの方の通路か、石段のある方の通路か。だから、優介と遭遇する可能性は五十パーセント。ただ、その場に待機することも考えるともう少し可能性は下がる。それにこの石段の方から問題が発生したと分かっていれば、わざわざサクラナイトから遠回りするわけがない。パーセンテージは三十ないし、二十か。いや、サイコロを振って一を願う目の確率ぐらいには下がるのだろうか。


「お〜い。そこで何をしているんだぁー」


 予定調和な男の声が聞こえた。

 大きくて、野太くて、でも頼りにならそうな、存在感が足りないような声。

 彩穂はもちろんの如く、入口にいた警備の男が自分の方に向かってきているのを感じていたし、もうすぐ声をかけてくるだろうことも少し前の時点で悟っていた。だから、そのときのための準備は既にできていたのだ。

 気がかりといえば、脳内のアドレナリンがドーパミンの拡散作用によって異常なまでに気分を高揚させていることぐらいだった。


「……あ、ああのぉー……、ごごごめんなさいっ!」


 作戦開始。

 そう思って、ぺたんと石段に座った状態で頭を下げる彩穂。

 エアリーな質感のミディアムヘアーがぱさっと覆いかぶさるのも気にしない。


「えっ?」


「オオカミ……」


「あっ、あれってお穣ちゃんがやったの?」


「――は、はい……。あの、わ、わたし、怖かったから……。変な人がきたからこれを鳴らしちゃったの。それで、どうしても、警備の人にここまで来てもらいたかったの」


 一瞬、男はいぶかしんだが、それもすぐに柔和な顔になった。


「そうかそうか……。大丈夫かい。それでこんな時間にどうしたのさ?」


「――はい、ここの近くで大切な宝物を落としちゃって……」


「そうかそうか。大変だったね」


「は、はい」


 ここはそう……、時間配分に気をつけないと。男が無線を手に取り、裏側の相方と連絡を取り合う前に――。いやもしかしたら、もう連絡している可能性だってある。それにあの音を聞いたなら自主行動を――あるいはマニュアルにのっとった対処をしているのかもしれない。よって、入口に新たな駒が置かれるのはまずい。


「もうびっくりしたさ。狼の遠吠えが聞こえてきて女の子がいる……」


「はっ、はい……」


「だから、耳とかシッポが生えているんじゃないかとねー」


 男はおどけた様子でそう言った。


「はぁー……」


「よかったよかった」


「はい……」


「耳とかシッポがなくて……」


「はい?」


「ん?」


「あー、あのー……、じゅー、獣耳萌えなんですか?」


 あ――――っ。なーにを聞いているんだぁー! いくら適度な時間配分だって、愉快なショータイムだって、や・り・す・ぎだよー。

 この自分の発言に笑いがこみ上げそうになる。そして、必死にシリアス展開と心の中で呟く。


「えっ、お、お穣ちゃん。なんで分かっちゃうの?」

 

 不思議そうな顔をして聞いてくる男。だが、その執着さ加減は誰であっても勘付いてしまうだろう。

 そして彩穂も思う。

 ビ、ビンゴなんて?! なんか、なんかどんどん涙があふれてきそう。しかも必要なのは目薬じゃなくって動物の耳だったのね――。


「あっ、あの……おじさん。そ、それよりもわたし怖かったの。で、それでね、変な人があっちのほうに逃げて行ったの」


「なーに! それを早くいわないと」


 男は声を荒らげた。そして、いまにも援軍を増やして探すべきではないかと言い始めたのだ。しかし、彩穂にとってそれはまずかった。少なくともその援軍が来るまでは、この辺りで警備の人と待機しなくてはならない。それでは十一時十一分という設定時刻に間に合わなくなる! ということは、真相が闇へと吸い込まれてしまう。


 だから――。


 ここはおおごとにしてはいけない。一人を引きつけて一人の動きを怠慢にさせるぐらいで丁度いいのだから。


「でもでも、もうだいじょーぶだから。ねっ」


 あわててひらひらと手を振る。

 最善のプランは計画通りにいかなかった。入口の男だけにでっちあげた変な人を捜索させること。やはりそこまでは上手くはいかない。それならば――、と次なる展開を考える。


「やー、でも心配だからさ――」


 男が無線を取った。するとそれを見た彩穂が、胸の近くで両手を組み目を瞑る。

 その姿は敬虔なクリスチャンか、あるいは修道院のシスターかがお祈りを捧げているような格好だった。

 だけどそれは、次なるプランを実行する覚悟を決めた瞬間でもあった。





【後書きを下に書かせていただいてますが、ネタばれするかもしれません】








































はい、ここまで読んでくださった方、貴重な時間を割いてくださって本当にありがとうございます。

まずわかりにくかったと思われるプロローグを、全て削除してしまいました。ここは試行錯誤ということでどうかお許しください。

内容の方は、6話あたりからなんか書いていて恥ずかしくなるような演劇をしています。

まだ主要たる人物の登場は三人ですが、着々と内堀や外堀を埋めるがごとく、名前を出しているのででてきそうな気配ですね。

それともう一つは、視点が頻繁に飛んだりしているのでわかりにくさの点で心配があります。どうなんでしょうか……。

では、作者の励みになりますので一言感想をお願いしますね。

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