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程なくして、まばらに住宅が集まっていた場所も抜け出した優介と彩穂。ここまでは十分とかからない道のり。つまり、少し歩けば小麦畑の森にたどり着くのだ。そして利用者の減少で廃止となった路線も通り越し、小麦畑の隙間を縫うようなあぜ道、緩やかな斜面のけもの道、土ぼこりの多い石段なども通過する。二人にとってはそれなりに慣れ親しんだ道である。
それにしても……と優介は思う。物事を遂行させようとする時の彩穂の推進力は凄まじい。まるで道がさくさくと動いてしまうようだ、と。
ようやく二人は、もう一度同じようなあぜ道、さっきよりも数の多い石段を登った後、市内一面が見渡せる小高い丘にたどり着いた。
「やっぱりここか……」
もう途中からは、どこへ向かっているかを勘付いていた優介。
そこは佐倉地区で随一の絶景スポットで、『サクラナイト』と呼ばれる場所だったのだ。由来は文字通り、佐倉の夜景が見渡せるからである。
ただ近年ではサクラナイトを遥かに凌ぐ知名度で『サクラミステリー』と呼ばれている。もちろんこれもそのままの意味で、佐倉にできたミステリーサークル。
そしてこのサクラミステリーはなかなかのいわくつきで、形を成している部分から少し離れたところ一帯にぐるりと塀が囲んであったのだ。だから迂闊に侵入することができないだろう。
しかし昼間であれば入場することもできる。幾何学に基づいて作られた優美な線をなぞってみたり、刈り取られた作物の断片が物理法則ではありえない方向に変化しているのを眺めたりがすることは可能であった。それに都合がつけば、基地からの空遊もできるらしい。するとそうすれば、上から見たミステリーサークルの景色が一段と乙なのか、これを目当てにした申し込みには長蛇の列ができてしまうと噂があった。
ただ、そのような佐倉地区随所の観光名所が、一転して立ち入り禁止の区域の場所になってしまうのだ。夜間は――。
と、その話になれば、今から八年前に、突如として現われたミステリーサークルが一世を風靡したところから遡らなくてはならない。
当時は空前絶後の大騒ぎであって、北日本だけではなく事実上他国扱いと化していた南日本にまで広がるぐらいであった。つまり、本当に世間を揺るがす重大ニュースだったのだ。
だから、この場所でのミステリーサークルという存在意義はとてつもなく大きくて、主にイギリスを中心に世界中に散らばっていたミステリーサークル(人為的に作られたとされていて、これらのミステリーサークルは二十世紀のジョークだとされている)とは、少しばかり趣が違う。
それも研究調査機関の成果によって、確実に人為的ではない自然現象ではありえない茎の倒しかた、なにか神の見えざる手が働いているのではないか、あるいは未知のエネルギアが存在している、と。そんな政府の公式見解も発表されていたのだから。
ただ、そのことに対する反響も凄まじかったのは言うまでもなく、例えばある科学者は、それを竜巻やプラズマといったものだと信じて疑わなかったし、物理学者はその幾何学な形がいかにしてできたのかを必死に解明しようとしていた。
しかしだんだんと、それは真綿に水がじわじわと浸透していくように、当時は宇宙人の襲来が関係しているのではないかという噂が世間に広がっていった。そしてミステリーサークル関係の情報は変に一人歩きし、パルプルテパルプルテというお告げを聞いたなんて人の言葉が流行る始末。
やがてその影響もあってか、この宇宙人襲来説で佐倉地区の存在が一躍有名になっていった。また、それを前面に押し出しての街おこしも計画されたりもした。
でもその矢先であった。さかん行われた報道に規制が敷かれはじめパタリと消える。すると今度は、それに伴って周囲の警備が増えていき、厳戒態勢という言葉で括るのが一般的になっていたのだ。
ということで民衆の過熱を抑えるためだろうという論拠を経て、今に至るのである。
ちなみにサクラミステリーの謎にはもう一つおまけがあって、その近くにただ一本だけ植えてあった古株の桜の大樹が、サクラミステリーが誕生して以来八年間も花を咲かせていないという話がついてくる。
「で、ここにきてさー、なにをするんだ?」
優介が不安そうな声で聞き返すが、その声を無条件でさえぎる彩穂。
「い〜いっ。優介っ。これからわたし、大事なこと言うんだから、よ〜く聞きなさいっ」
パーソナルなテリトリースペースよりもほんの少しだけ優介に近づく。そして、自分との空間にほんのわずかな距離を開ける彩穂。後ろで両手を組んでほんのつま先立ち。しているかしていないかぐらいの微妙な背伸びだ。
それに対して、なんだかむずがゆいような感覚がして視線をそらす優介であったが、彩穂は構うそぶりも見せない。
「それは一昨日の事なの」
急にトーンを落としてポツリとつぶやく彩穂。そんなに最近のことかーと、優介は心の中で毒づいてしまう。なぜなら、もっと重要なことで長い間内に秘めていた想いでもぶつけてくるのかと考えていた。
むろんそのようなことを言うと、気まぐれな逆鱗に触れかねないので内緒ではある。
「じつはね、サク兄の部屋から、大事そうに切り取られたスクラップを見つけたの。お盆の日にね……」
「――サク兄さんか……」
サク兄。彩穂の口からさらっと出たのだが、実の兄貴である小手川 サクのことだ。それは彩穂にとって、あるいは優介にとっても少しばかり辛い過去。だって、彼は二年前の夏のお盆の日、その日を境にいなくなったのだから。
――俺はある真理の探究をする。だから、やらなければいけないことができた。
そう言い残して家を出て行ったサク兄は、忽然と姿を消してしまったのだ。
そして彩穂はその時、もうこれ以上涙は流せないんじゃないかって程泣いていた。悲しみの慟哭に暮れるその姿は声をかけられないほどで、彩穂にとってそれぐらいにショックな出来事であった。
実際に、幼いときに他界した父、あの頃は特に仕事で忙しかった母、まだ幼かった妹の未萌を残してまでの兄の判断は、到底受けいれられないものなのかもしれない。
さらに大学の四年生だったサク兄は、ジャーナリズム関係の就職が内定していたので、全て投げ打ってしまったことになるのだから。
そして彩穂はというと、感情に任せるまま嘆いた時期を過ぎ、吹っ切れたようにいつもと変わらない彩穂になっていた。
変わってしまったこといえば、盲目的なまでにサク兄は帰ってくると信じていたことだけであろう。いつか自分達の所に帰ってくると――。
「あのね、疑っているかもしれないけど、とても信憑性にあふれる情報なんだから」
「疑ってはいない」
サク兄という単語が耳に入り、彼がまだいたころで、よく遊んでいた幼かったころの思い出がふわぁーとよみがえってくる。
紙飛行機、スケッチブック、広辞苑、バイオリンだった。そのときのマストアイテムは。
「ねっ、だから優介っ、聞きたいでしょ!」
彩穂の瞳がきらきらと輝きだした。でも、とりあえずは無表情で様子を窺う優介。それはとても心配だったから。今回はいつもよりも三割増ぐらいで、厄介なことなりそうだと確信を持っていたのだから。
はい、ここまで読んでくださった方、内容的に読みにくい部分でありながら本当にありがとうございます。
これ、恋愛小説じゃあーないですよね。設定詰めすぎですよね。膨らましすぎですよね。
伏線回収できるのかなぁー?! そろそろ新キャラ出したい?!(っておい)
もちろんここが一番キツイところです……はい、申し訳ないです。
でも、もしかしたらSFに切り替えたほうがいいのか悩んでいますね。
いやそれよりも次辺りで、世界観の説明よりも演劇部的な活動をしてもらわないと。
とまあ、それはともかくとしまして、作品の名前を近々変更する予定ですのでご了承ください。
なぜなら構想を練っていた時からずっと考えていたんですが、どうもしっくりこなくて……。
結局、ファンタジー調な題名をなんとなくつけてしまいました。だから変更する予定です。
そして変更するのには、愛とか恋とかが入れたほうがいいのかもしれません。そうしたら読者が増えるのかもしれません(笑)もっとインパクトのある名前を、と。
もちろんその前には、この場にて連絡は致しますので。
それと改行を大幅に増やしました。特に携帯の方は読みにくかったと思います。
とまあこんなんですが、どうか見捨てないでくださいませ。引き続き感想もおまちしています。