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1−2

 




 一九九九年、ノストラダムスの偉大なる終末大宣言。

 そして二〇一五年、小手川 彩穂の暴虐なる週末大宣言。

 この二つの事柄に明確な違いがあるとすれば、齢十五歳、青井 優介にとってどのような影響力をもたらしているかどうか……。ただそれだけのことだとしたら、後者の方が恐ろしいものである。



 今度は何を企んでいるんだ? こんな時間に。しかも機嫌を損ねてしまったし……。

 優介は先ほどの演技に夢中になりすぎて、大仰な振る舞いで倒れたのがいけなかったと思っていた。それは、その時に転がっていた消しゴムが背中に突きささったのもあるけど、さすがにあの演技はやりすぎたのではないかと考えていたからだ。


「はあ……」


 そしてあの時痛みを与えてくれた先のとんがった消しゴムを、ポーンと机の上に放り投げる。しかし乱雑した机の上は、それを受け入れことなくコロコロと跳ね返ってしまった。


「あー、もうあれだな……。先の尖がった消しゴムは一生買うことねぇな……」とぼやく優介。


 今はもう軽くなった痛みを抱えながらも、よっこいしょと立ち上がる。

 すると今度は、さきほどまで慣れない動きをしていた大腿部がピキピキと……。そう、大腿部がるという暴挙に出はじめたのだ。


「こここここむらがえし!! こむらがえしがぁぁ――――!!」

と叫びつつ、ベットの上に飛びのってのたうちまわっていた。





 しばらくして痛みが治まった優介は、床に転がっていた消しゴムを机の上に置く。

 すると、残りが五日に迫った夏休みの宿題が視界に入って意気消沈してしまい、ようやくあげたはずの重い腰をまたどっかりと下ろしてしまった。

 そこで彩穂が急に言い出した大宣言、それは前回いつだったかと考えはじめ、二週間ほど前の出来事だったことを思い出したのだ。


「トランポリン衝動の所為! それが急に見たくなったの!」


 これはその時に彩穂が言いだしたことだった。

 なんでも人とマットの反発力、調整力、空中動作におけるコーディネート力が見たかったらしく、優介はデンマーク体操(リズミカルで連続的な動きが世界各国に大きな影響を及ぼしたらしい)みたいな、柔軟性、強靭性、巧緻性が鍛えられる動作を頻繁にやらされていた。しかもその前に、トランポリンの上でジャンプすることがいかにも楽しいんだってことをえんえんと語られ、全くやる気なかった優介がもう無性にトランポリンの魅力に取りつかれてしまったのだった。

 夏休み、学校寄って、トランポリン、男女二人で、夢中になって。

 これは……??? 今から考えると物凄く怪しいよな。

 けれども、だ。やっぱり彩穂のやつは準備がいいというか、なんというか。

 きっとあの時は、学校内の全てを網羅しているスペアーキーを使ったのだろう。体育倉庫室に忍び込んで――というかこんなことぐらいは大したことないか――。

 じゃあ……? それならば今回は? 彩穂の企んでいることとは?

 さっぱり見当がつかないながらも、優介は彩穂の思惑を考えてみた。

 まさか、またトランポリンだろうか。でもさすがに、暗がりではそれはないか――。


「ったく……あ〜や〜ほ〜のぶぁ〜かぁ〜」


 ふるふると稼働していた扇風機のところまで行って声を震わせた。すると予想通りに、部屋いっぱいこもったようなビブラートの音が響き渡る。




 ――あれっ? なんか妙に懐かしいなこの感覚。




 優介は、なんの脈絡もなしに思い立った単語をポンポンと並べていく。それは、身近な人の名前から始めて、モノの名前、アメンボ赤いなあいうえお的な言葉遊戯、この地方の昔言葉など見境なく続けていた。

 きっと心に引っ掛かる何かを思い起こそうと喚起させていたのだろう。もう童心に返ったかのごとく、扇風機の前で声を送っていた。





「あ〜あ〜われわれは――――?!」


 この時だった。もう何分も声を出し続けていた優介だったが、ここで何かに気がついたらしく途中でセリフを止めたのだ。


 ――そうか。この感覚だ。昔、まだ子供の時だったか? 


 ――この街でミステリーサークル騒ぎがあって、何度も何度もこうやって宇宙人の声真似をしたんだっけ。今みたいに音を振動させて、我々は宇宙人デス、と。もちろん宇宙人の声なんて知らない。だけど、脳内にはその声がデフォルトと化していて、何の疑いもなく信じ込んでいた。それで、この話を彩穂のやつにすると、彼女は目をきらきらと輝かせていたんだ。

 そうなるともう、宇宙人が絶対言いそうもないセリフや、扇風機が宇宙人と交信するための機械、どうして地球人なんかと交信するのかといった背景を一緒に考えて遊んでた。こうやってよく遊んでいた。

 そうだったよ。あの時はなぁ……、存在しないものについて考えること。ファンタジーとかSFとか……。そんなことを考えるのが楽しくて楽しかった。空想は無限大で、繰り広げていた世界も壮大だった。

 優介は考え深げに思い返す。

 あれから八年だ。今は現実ってものを認識してきたのかもしれない。非現実ってものは現実生活で補えない脳内の保管であって、ある一種の――そう、現実逃避の類だってことを――。 だから今の世の中、宇宙人とか未来人、超能力者、異世界人など、そんな悠長なことは言ってられないのかもしれない。それよりも人のほうに目を向けなければいけないのか……。

 と、このように優介が考えていたことは現状でも現実問題として挙げられていた。

 なぜなら、今置かれている世界が戦々恐々としていたからである。

 針の上で逆立ちをしているぐらいの奇跡の星――地球。そこに天文学的確率ともいえる有機生命体の存在。それでさえ存在していることが稀有でありながらも、やがて地球は人類によって汚染されていった。

 その発端はなんてことないものだったりする。

 中国で自転車をこいでいた人々がいっせいに自動車に乗り換えた、熱帯地方のインドの企業や家庭が一気にクーラーを導入して電力を使うことになった、などなど。

 それは人が生活の利便性を追求した結果であって、別段問題はなかったはずだった。

 しかし、そのおかげで各国のパワーバランスが崩れ、過度なエネルギーの放逐がさかんにおこなわれ、そうして起こったのは国それぞれのいがみ合い、交渉の断裂、やがて自国を閉ざすように閉鎖。自由貿易は影を潜め、海外旅行すらままならない状態になっていった。

 しかも今更、環境問題だ、人類が傲慢にも進化だと思い込んでいたがそれは退化だ、技術革新だと考えていたのも戦争のための破壊工作だ、あるいは思弁の果てに生み出された神という絶対的な存在は、民族や宗教など様々なものが錯綜する今の現実を生み出したんだ、と。

 そんな論調がさかんに叫ばれ始めていた。

 そしてここ北日本でも、いつ起こるか分からない南日本とのビックバン。

 エネルギー自給率が四パーセント足らずだった南日本が、近年になって新エネルギーを発見したのだ。これも大きくパワーバランスに変化をもたらしていった。

 あー、とてもダウナーな気分だ。この蒸し暑さのようなはっきりしない世界。からっと透き通るような暑さではなく、じわじわと忍び込んでくるような暑さ。一服の清涼剤みたいな存在が現われてくれればいいんだ。それも全てを超越する存在。例えば、彩穂みたいな強引なやり方でもよいのかもしれない。平和が保障されるのならば……って考えすぎか。

 だけどな……、彩穂に関して言えば昔からずっと変わらないんだよな。プラス思考で、いつも何か面白いことはないかと考えていて、鬱屈とした気持ちに新しい風を吹き込んでくれる。ま あ、限度をはるかに超えて迷惑に感じることも多々あるんだが――。

 優介は扇風機の風を顔いっぱいに受けながらも、ぼんやりと思考を巡らせていた。





「おにーちゃーん。なんか、おせんたくする物なぁ〜い?」


 どうやらいつのまにかうとうとしていたようだ。

 洗濯機がくるくると回転している音。それと優介の妹である青井 優希の声がした。

 しかし、くぐもった声でよく聞き取れない。


「えっ? 優希―? 今さあー、洗濯って言った?」


「えー。あー。今、優希のことぉー洗濯板って言ったでしょー?」


「い、いや、そんなこと言ってないって!」


「あっそー。ならいいけど。でおにーちゃん? おせんたくはっ?」


「え、あ、特にはないから」


「あっそー」


「あっ! 優希ー。そういえばさ、さっきカゴに入れたカーゴのズボン、洗濯機にもう突っ込んだ?」


 優介は聞いておいてすぐに、この問いはないなと自省する。何のために洗濯をしているんやら。そこにズボンがあったら不自然じゃないか、と。


「あったりまえでしょ〜! おっせんたくなんだからぁ〜!」


 予想通りにかしましい声が返ってきた。優介はあのぷにぷにした優希のほっぺが軽くぷくぅーと膨らんでいるだろうと考える。


「そうだよな……」


「ねぇ〜、なんかまずかったの〜? おにいーちゃんってばー♪」


「いい加減やめろって。そのアクセントの呼びかたは……。こっちが恥ずかしくなる」


 何度言ったらわかるんだ優希のやつ。でも、相手にしたらきりがない。


「で、どうしたの? どっかに出かけるのー?」


 階段を駆け上がってき登ってきた優希が、部屋に入ってきた。


「あー、もう少ししたら出かけてくるからー」


「ええぇぇええ〜〜! それって、あやねぇーとデート?」


「違うな」


「ほんと?」


「うん」


「ホントに?」


「あー」


「本当なのかな、かな?」


「本当だって……」


「だったらーっ、優希の目を見て、優希の話を聞いてー」


 優希が真剣な表情で、そしてすぐ近くまで近づいてきて言った。


「少しは心の洗濯したほーがいいねー、おにーちゃんはー」


「あっそー」


 優希のからかい半分な声を聞きながらも、辺りにジーンズがないか見回していた優介。しかし履きかけのジーンズは見当たらない。

 しょうがない。新しいのでも履くか。

 しかし、だな……。このズボンをはき換えるという行為、これ今日で何回目だろうか。

 指折って数えはじめる優介。その数は片手だけには治まらない。そして、自分は一日に七回もズボンをはき換えるのかと、桐タンスの軽い引き出しを開けながらも苦笑していた。













































はい、ここまで読んでくださった方貴重な時間を割いてくださりありがとうございます。

ですが――とうとう強引にもSF的な世界感を出してしまいました。

そして作者は、ここで見切られてしまいそうで心配なのです。

しかも最後は、もうライト小説定番の――狙いすぎの感もある妹キャラで中和を図ろうとしたあさはかさ……。

こんな堅苦しいところが苦手だという方、斜め読みで結構でございます。

それとスイーツな恋愛小説を期待されていた方申し訳ありません。てかいませんよね、大丈夫ですよね……。

というよりかは、あらすじでネタばれ感があるのに前に進まない物語のほうが問題かもしれませんね。

では、引き続き感想のほうをお待ちしています。作者の糧になるのでどうか一言お願いしますね。

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