苛立ち
一足先に隆志は美術部に顔を出していた。
すぐにキャンバスの前に座りコンペに向けての作品のイメージを模索する。
ガラリと扉が開く。
入ってきたのは部長松崎紗栄子と高木弥恵だ。
弥恵「飯隈おっすー、あれ?加代くん今日も休みなの?」
隆志「しらん」
無愛想に答える。
弥恵「もう少しそのイライラ治したら?槙乃ちゃん居心地悪そうだったんだから」
隆志「だからしらん、どうせ健司目的だろ?振られたらやめるやつだろ」
部長の紗栄子は、はあ、とため息をつきながら絵の続きに取り掛かる。
弥恵「そんな言い方なくない?」
隆志「だからしらん」
弥恵「だから!あんたの」
弥恵の言葉を遮るように扉が開く。
入ってきたのは転校生の藤井槙乃だ。
槙乃「お疲れ様です」
弥恵「あ、マッキー、お疲れー」
紗栄子「お疲れ」
槙乃は挨拶を交わし、自分を用意を整える。
たまに弥恵が手伝う。
明らからに昨日よりも楽しそうに準備をする槙乃に弥恵は不思議に思う。
弥恵「マッキー、なにかいいことあった?」
槙乃「え?いや・・・普通だと思うけど・・・」
弥恵「そ、そっか
槙乃「うん!」
明らかにそんなことはないとわかる。弥恵は気にはなるが、深入りはしないでおこうとそこで追及をやめた。
遅れてガラリの扉が開き、入ってきたのは健司だった。
槙乃の時と同じようにお疲れ様と挨拶を交わす。
不自然な槙乃の健司に対する視線。普段より元気のない健司の表情と、部長の紗栄子と弥恵はは何か察したようだった。
そんなことも気にせずに隆志は黙々とキャンバスを睨みながら筆を迷わせていた。
しばらくして顧問の小池が扉を開ける。
小池「お、藤井きてたのか」
槙乃「はい!あ、先生、私美術部はいります!!紙、もらっていいですか?」
小池「まあ、いいけど、そんなに早く決めなくてもいいぞ、他の部活もあるし、」
槙乃「いえ!絵描くの楽しいですし、決めるなら早くしたくて」
小池「あ、ああ、そうか、じゃあ、後で持ってくるよ」
こんなに短い会話の間、何回健司をチラ見したことか、
その度に気まずそうにする健司を見て、部長達同様に察した小池。
小池(モテる男は大変だな)
と同情する中、羨ましくもある小池だった。
それからも美少女槙乃はチラチラと健司を伺う。
しかし先程までの気まずそうな態度とは打って変わって、真剣にデッサンに集中していた。
今や槙乃の視線なんて気にもしていない、
時折、弥恵や槙乃達が小池に質問する意外には全く喋らない。
隆志、健司、紗栄子に関しては真剣そのものだった。弥恵は真剣というより楽しそうに近い。
何度か話しかけようと試みる槙乃だが、この日その真剣な健司達をみて口、声をかけることはできなかった。
日が落ち、空がオレンジ色と紫色のグラデーションになる頃、顧問の小池が声をかける。
小池「そろそろ上がるぞ」
その言葉に隆志が始めて反応を示した。
隆志「え!?まだ・・・・・あ」
小池「もうだよ、ほら施錠はじまるぞ」
隆志は不服そうに道具を片付けた。
ーーー下校ーーーー
この日は美術部皆で帰っていた。
弥恵が歓迎会をしようと言い出した。
隆志「ふざけんな俺はいかん」
健司「そんなこと言わないでさ」
弥恵「マクドで食べるだけだって、オタッキーいつバイト休みか聞いてよ」
健司「わかった、聞いとくよ」
槙乃「へぇ、前嶋くん、バイトしてるんだ」
弥恵「うん、色んなところ行ってるみたい。意外と真面目だよねー。わかったら教えて紗栄も行くよね!」
紗栄子「うん、でもそれなら小池先生に許可とった方がいいと思う」
弥恵「そっか、じゃあ、明日聞いてみるか」
隆志「おい待てよ、いかねーし、つか体験入部だろ、続くかもわかんねーのに」
弥恵「もう!またそゆこという」
健司「隆志、あんまいうとまた・・・」
隆志「気にしてねーよ」
紗栄子「・・・・はあ」
槙乃「・・・・続ける。3年まで続ける、その間で賞だって取れるぐらい上手くなる」
隆志「は?お前が何が目的か言わねーけどな、こっちは皆真剣にやってるんだよ。恋人作りのために入ったんなら邪魔だからとっとと辞めちまえよ」
バチンと隆志の頬に弥恵がビンタをした。
ギロリと隆志は睨む。
槙乃「や、弥恵ちゃん!」
隆志「なんだよ、お友達が図星突かれたからキレたのか?」
弥恵「どうしてそんな・・・ありえない、マジありえない」
紗栄子「弥恵ちゃん」
紗栄子はそっと弥恵の方に手を置いて二人の間に立つ。
紗栄子「飯隈、それは言いすぎ、コンペ前でイライラしてんでしょうけど。落ち着きなさい」
落ち着いた声で紗栄子は隆志を諭す。
鼻から息を吐き隆志は気を無理矢理落ち着かせた。
隆志「・・・・・こんな感じで、歓迎会とか行けねな。じゃあな」
そう言って隆志は足早にその場を後にした。
健司「ごめんね藤井さん、俺からあいつに言っとくから」
槙乃「いや、大丈夫、私もなんか・・・ごめんなさい」
弥恵「マッキーは謝らなくていいよ!あいつが言い過ぎたのが悪いんだから!」
健司「ごめん、じゃあお疲れ」
健司も隆志の後をおって足早に立ち去った。
槙乃は落ち込みながらも健司の後ろ姿をずっと見つめていた。
ーーーーーーーー
その後も紗栄子、弥恵で槙乃を励ましながら、帰り道を歩いた。
駅のホームに付く。
槙乃「じゃあ私違う列車だから」
弥恵「そっかじゃあね!また明日!」
紗栄子「さよなら、またね、今日のことは気にしないで、部活気にくかったら休んでも大丈夫だから、私から先生に言っとく」
槙乃「あ、ありがとう、でもいく、続けるって言ったし」
弥恵「そっか、じゃあ一緒にいこ、どうせあいつ先に部室いるから気まづいろうし」
槙乃「ありがとう弥恵ちゃん、そうさせてもらう、じゃあ、またね」
弥恵「うんまたね!」
紗栄子「また」
ーーーーーーーー
電車の中、弥恵は隆志を叩いた手を見ていた。
まだ叩いた感触が忘れられない。
紗栄子「弥恵ちゃん、気にしなくていいから」
弥恵「うん、」
紗栄子「大丈夫、あいつは気にしないから」
弥恵「・・・うん、ありがとう、」
紗栄子「今回は言い過ぎたあいつが悪いんだけど、出来れば許してあげて、多分藤井さんが絵を始めてすぐ賞獲るって言ったから、多分カチンときたんだと思う。・・・・あいつ、あれだけ頑張ってるのに賞取れない時だってあるから」
弥恵「紗栄だって頑張ってるじゃん、勉強もしてるんでしょ?絵画直す人」
紗栄子「うん、絵画修復士、でも、あいつ程頑張ってはいないと思う」
弥恵「そんなことないと思うけど」
紗栄子「ある、あいつがあれだけイライラしてるのね真剣すぎるからなんだよ。訳あって家じゃ描けないし、だから唯一絵画が描けるあの部室で1秒も無駄にしたくないんだと思う」
弥恵「・・・・」
紗栄子「ほんとはあいつのことあんまり言っちゃダメなんだけどね。まあ、だからから、他に気が映っちゃってるぐらいじゃあいつの頑張りには到底追いつけてないの。」
弥恵「他って」
紗栄子「・・・・・まあ、色々と」
弥恵「もしかして紗栄って、あいつのこと好きなの?」
紗栄子「え、それはやめて本当ない」
心底嫌そうな顔で紗栄子は即答した。
弥恵「ご、ごめん、」