告白
今日こそは、そう思いながら藤井牧乃は登校した。
狙いは小学校からの片思い、加代健司への告白だ。昨日は詰めかける野次馬、そして美術部では加代健司は来ず、話しかけることすらままならなかった。
今日こそは絶対に、そう決意を胸に校門をくぐった。
共に登校する学校の生徒達の視線など気にしない。慣れている。
そして昨日できた友達の影を確認して後ろから話しかけた。
槙乃「弥恵ちゃん!おはよ!」
弥恵「あ、おはよーー!!・・・すごいね男子の視線」
槙乃「はははは、ごめん、迷惑だよね」
弥恵「そんなことないよ、私に向いてるわけじゃないし、マッキー可愛いから仕方ないよね」
槙乃の呼び名は、昨日の下校の時いつのまにかマッキーになっていた。
槙乃自身も、そのあだ名は少し気に入っていた。
槙乃「ははは、ホントごめん」
謙遜はしない、だって事実だから。行き過ぎる謙遜は嫌味だと、槙乃自身わかっていた。
弥恵「大丈夫大丈夫!謝んないでよ、少し恥ずかしいけど、まあ、気にしないから」
実は弥恵自身、加代健司と同じ部活ということで、注目されていたこともあり慣れてはいた。
誰とでも気さくに話す弥恵は、友達が多い、そのせいか、恋の伝言役になることは少なくない。その大半は加代健司関連だ。もちろん加代健司関連については成功したことは一度もないが。
だから弥恵自身、今度はこの男子からマッキーへの伝言役が増えるのではないかという不安がよぎり、苦笑いを浮かべた。
教室に着くとすぐに野次馬が集まる。そんなことを気にせず、槙乃は加代健司を探す。クラスに見受けられないが机には鞄がかけてある。登校済みだ。
だが野次馬のせいで声をかけるのは難しそうだ。やるのは放課後だ。絶対に見逃さない!
と槙乃は改めて決意した。
そしてホームルーム直前、加代健司は飯塚隆志と共に教室に入ってきた。
槙乃薄っすらと昨日の美術室の匂いを感じた。
それからも休み時間の度に加代健司はそそくさと教室を出て行く上に自分は野次馬の対応でなかなか話しかけられない。
そんなこんなで等々、放課後になってしまった。
次こそは!帰りのホームルームが終わった直前、教室を出る加代健司を槙乃は追った。
野次馬には適当に、ごめん先生に呼ばれてるのと、笑顔で交わし教室をでた。
そして走ってはいけない廊下を走る。
加代健司は4階への階段を登っていた。
槙乃「待って健司くん!」
追いつき袖を掴む。
健司は少し固まる。
健司「こ、こんにちは、どうしたの?」
爽やかフェイスで振り向く健司、
内心はパニックだ。
槙乃「覚えてる?私、小学校のころ、、、」
健司「ああ、うん覚えてるよ、槙乃ちゃんだよね、転校した」
槙乃「うん!!そう!!」
覚えててくれた。それだけで彼女は嬉しかった。
槙乃「少し時間いい?すぐ終わらせるから」
健司「・・・・・う、うん、いいよ」
健司はこのあと起きることを予想できた。
そして断れない自分を恨んだ。
西棟の4階を上がり屋上の扉があるスペースに使ってない机が置かれている。
もちろん屋上の扉は鍵が閉められ南京錠までセットしてある。
4階には空き教室や、美術部、吹奏楽部しかない。要するに放課後ある程度時間が経てば誰も来ないし、吹奏楽部の楽器の音である程度の話し声はカットできる。
だから健司は良くここを利用する。
吹奏楽部はここまで来ないし、
もし聞かれたとしても、美術部の理解ある人ぐらいだ。
少しの沈黙、槙乃は覚悟を決めて、息を吸い込んだ。
槙乃「ずっと、、、ずっと好きでした、、、独りぼっちだった私と友達になってくれた時から・・・・・転校した後もずっと・・・・・」
潤んだ瞳、赤い頬、恥ずかしそうに捻り出した愛くるしい声、普通の男ならこれで堕ちる。しかし健司は違った。
健司にとってはよく見た表情、色んな女の子もこんな顔で告白をしてきた。
だからこそ、健司はいつもの爽やかフェイスで槙乃の告白を聞いた。
「だから、、、その・・・・」
健司はゴクリと唾を飲み込む
「また・・・・・友達になってください」
槙乃の精一杯の告白、だが健司には想定外の告白だった。
付き合ってください。と言われたなら断ることができた。
友達、それじゃ断れないじゃないか、
と心の中で愚痴る。
槙乃「ダメ・・・・・ですか?」
健司「そ、そんなことはないよ。ありがとう、・・・うん、よろしく」
とっさに出た言葉、健司は後悔した。
これがもし付き合って下さいの答えだったら、カップル成立だった。
どっと汗が滴り落ちる。
槙乃「・・・じゃ、じゃあ、私、行くね。本当にありがとう。・・・・その、部活入るから、その・・・・・色々、教えて・・・ね?」
健司「うん、何かあったら言って・・・・」
槙乃「うん!そうする!・・・そ!じゃあ・・・先に部室に行ってるね」
槙乃は赤い顔でそう言うと、ちょこちょこと駆け足で階段を降りて行き、4階の美術室にむかった。
そんな嬉しそうな槙乃と相対して、
残された健司は疲れ切った顔で壁に手をつき、今年最大のため息をついた。
そして
健司「面倒くセぇー」
と呟いた。