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      事情聴取  陸

 そうして、その後藤林家の関係者は、この部屋に待機させられたまま、色々な調査、捜査、事情聴取などが続けられていった。


 困った事に私も帰してもらえない。


 正冶郎の遺体は、写真を色々な角度から取られ、正冶郎の部屋の細かな部分も撮影をした上で、夕方、警察車両に載せられ運ばれていった。


 しかしながら夜になっても刑事達は帰らず、特に鍵束を持っていた富子と、一緒にいたという徳次郎に対し事細かく詳細を聞き続けていた。


 確かに二人が共犯だったとしたら密室の件も説明が付くし、現場不在証明における相互確認に関しては意味を成さない物になってくるからだ。警察もそこが重要だとみて重点的に詳細を聞いているようであった。


 しかし二人は頑なに双方でかばいあったりしていないと説明し、その上で実際一緒にいた旨を説明していた。また納戸の位置が台所の横であり、居間の斜め前である事から、母親と百合子に目撃されずに主人慶次郎の部屋に赴くのは難儀ではないかとも目されている部分もあった。


 現場不在証明の確証がある以上、不用意に逮捕する事が出来ないので、刑事たちはああでもないこうでもないと遺体が発見された部屋の調査、屋敷の見取り図を広げ話し合いを続けているのである。


 夜十一時近くになり、さすがに藤林家の人々は疲労し苛立ち始めた。


「あの、すいません、さすがにもう遅いので、私達、部屋に戻って休んで良いでしょうか?」


 疲れた顔で母親が聞いてきた。


 その後ろには百合子、正一郎が付き添っている。


「あ、ああ、そうですね、もうこんな時間なのですね。わかりました。どうぞお休みを取ってください」


 二階堂警部も疲れた顔をしながら答えた。


「それで、被害者の部屋には入らないようにお願いします。まあ部屋の前には刑事が待機していますので基本的には入れませんが……。それと刑事が玄関と、勝手戸の前に待機していますが、外出もしないようにお願いしますね」


 基本的にまだ謎だらけなので、誰が犯人かは分からない。しかしながら殺人事件の犯人をまんまと逃がす訳にもいかないので、可能性がある人間をこの家から出さないようにしておかないといけない状況になっているのだ。


「はい、分かりました」


 母親がそう答えたあと、母親、百合子、正一郎は各々の部屋の方へ去っていった。


 しかしながら私には帰る部屋が無い、そして実家に帰りたい所だが、帰って良いという言葉はまだ無い。まあ仮に解放されたとしても、もう時間も時間なので終電も終わってしまっている事だろう。いずれにしても帰れず、私は刑事達が待機するこの広間に居続けるしかない。


「……す、すいません、私も寝て良いですか?」


 藤林家の人々がいなくなった後、私は二階堂警部に声を掛けた。


 さすがに精神的にも疲れ果てゆっくり眠りたい所である。


 私も一応女だから警察が気を使って、どこか良い部屋を見繕ってくれるかもしれないだろうと考えた。


「ああ、小説家の先生、すいません縛り付けてしまって、私等を気にせず、どうぞ、そこで横になっていて下さい」


 二階堂警部は目を通していた書類から目を離し、一瞬こちらに視線を送ると、ぶっきら棒に返事をした。


 矢張り、ここで寝るのか……。


 休んで良いとは云ってくれたが、女の私に対する気遣いも特にないようである。


 私は近くにあった座布団を集め、それを三つ並べその上に寝転がってみた。掛け布団代わりに一枚の座布団を腹の上に乗っけてみる。


 嗚呼、暖かい布団が恋しいわ……。


 しかし寝るとは言ったものの、明るいし、話し声は聞こえてくるしで、あまりよく眠れない。とにかく私は体を休めようと横になっていた。そして眩しさを抑える為にチューリップハットを深く被り光を遮ってみる。


 私はその姿勢で、色々考えてみた。


 さすがに明日には解放してもらえるとは思うが、もし事件が解決しなければ監視が付いたり、今後警察署に呼び付けられたりと、大変な事が続きそうである。さすがにそれは煩わしい気がする。そんな私の置かれている状態を逸早く脱するにはどうすれば良いのだろう? 


 その答えは至極簡単である。事件が解決さえすれば良いのである。そう考えた私は、自分でもこの事件を解いてみようと考え始めた。推理小説家の端くれとして、一応やれるだけやってみようと思ったのである。


 まず動機から考えてみた。怨恨というのは取りあえず無視して、私は正冶郎が死んで得をするのは誰かというのを考えてみた。


 こういう大きな屋敷を持つ家には相続や跡目問題が起こる事が多い、家の主人が亡くなった後、一般的には長男が家を引き継ぐ事になる。しかし、今回は次男が殺された。となると跡目問題に関しては余り影響は出なさそうである。


 だが単純にそうだとは云えない。この事件は布石で今後正一郎も殺されるような事があるなら、百合子が怪しい事になる。極論を云えば、藤林家の人間を全て始末して、徳次郎や富子、将太、真奈美が利を得るという考えも無い訳ではない。


 さすがにその考えは、かなり飛躍しすぎている気もするが……。とにかく現時点では何とも云えない状態である。


 動機に関しては持っている情報が少なすぎて絞りきれないので、続いてどうやって犯行を行なったかを考えてみる事にした。


 まず問題となるのはあの密室をどう作り上げたかである。正直それが解けなければ話にならないし、事件の解決の兆しには遠く及ばないのである。逆にあの密室をどうやって作り上げたかさえ解れば、犯人が自ずと見えてくる可能性も高いとも云えるのである。


 因みに私が推理小説を書く上で、密室を作るパターンは三つあった。


 それは第一に心理的に密室に見せる方法と、第二に扉など隙間を外から気付かれないように固めて密室にしてしまう方法、そして第三に何らかの方法を使って鍵を閉める方法である。


 まず、第一の心理的な方法と云うのは、本当は密室ではないのに、鍵か掛かっているなどと説明して、戸を破壊して開けた後、一番最後に部屋に入り、その部屋の鍵を気付かれないように部屋の中に落としたりするやり方である。壊した戸の中に鍵があるので密室だと錯覚してしまうという訳だ。


 次に扉を固めてしまう第二の方法と云うのは、戸の隙間を氷や接着剤などで固めて物理的に開かなくするものである。更に取っ手を破壊したりすれば、内側から鍵を掛けられているように錯覚させられる。痕跡を上手く処理すれば本格的な密室に見えてくると云う訳だ。


 そして、最後の何らかの方法を使って鍵を閉めると云う方法は、鉄の棒を引っ掛ける型の鍵のなどで、引っ掛かる部分の隙間に氷を差し込んで、その上に鉄の棒を乗せておくやり方などである。時間が来ると氷が溶けて自然に鍵が掛かるという仕組みになっている。


 今回の件をその三つの方法を照らし合わせて考えてみると、第一の方法を使った場合では、犯人は戸の傍にいなければならない。戸の前には百合子と、富子がいたので、百合子か富子が犯人と目される事になる。しかし今回の場合は扉を壊した訳ではなく鍵を開けて中に入ったのだ。富子、百合子の順番で……。


 その上で鍵が部屋の入口付近に落ちていたのなら百合子の可能性もあるが、鍵は正治郎のポケットの中から発見された。それに百合子の後ろにいた私には百合子が鍵をポケットの中に入れ込んでいようには見えなかった。そしてそんな時間も機会もなかったと思われる。


 それでは第二の方法が使われたと仮定してみるも、これに至っては、戸の破壊もしていないので無視して良いと考えられる。


 となると第三の方法が一番怪しくなってくる。


 戸の形状は片開きの襖戸である。鍵の形状はもう一度確認しなければいけないと思うが、確か表側は引き手の下に鍵穴があったと思う。


 部屋の中側は確か襖に似合うような色形をしていたが、サムターン形式だったような記憶がある。それをいかに閉めるかが肝だと私は考えた。


 しかしながら、うろ覚えでは限界がある。もう一度それを見てみないと正直それ以上の想像はできない。私は明日になったらそれを確認してみようと考えた。


 そんな風に、横になりながら、あれこれ考えているうちに、座布団の掛け布団に身を預け、いつのまにか深い眠りに落ちていってしまった。

さすがに私も精神的に疲れていたのかもしれない……。

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