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馬車は平民街を抜け、貴族街を走る・・もちろん、説明付きな。

そうしてその中でもやけに立派な屋敷?・・これ、屋敷じゃないぞ。


城じゃないかぁぁぁぁ・・


王様直々に裁いて処刑とか、あの領主そんな大物だったのかよ。

いや、待て待て、強いほうが好都合と言ったんだ。

まさか、闘技場で盛り上がるから強いほうが好都合とか・・公開処刑・・

嘘だよな、そこまでされたら他国に亡命しないとやっていけないぞ。

そりゃ『げんえい』もありはするが、気の抜けない暮らしは疲れるだけだ。

参ったな、どうすっかな・・う、何を引っ張る。おい、待てよ・・脱がすな、おい。


それから流れ作業のように、周囲の景色が流れていく。


世の娘達ならここで、玉の輿とか騒ぎそうなものだが、とんでもない。

どのみち身分が違うからなれる訳がない。

もし本当にそのつもりなら、城に連れて来る前にどこかの貴族の養女にすべきだ。

つまり、後宮の線は消えた。となると処刑だけど、これもおかしな話だ。

見世物にして殺す為にわざわざ白金貨100枚で身請けってのも難しいな。

そうなると・・こんなドレス着させて、後宮じゃない場合は・・陰謀か。

他国で暴れさせる予定でどっかの国へ輿入りの、お付の娘ぐらいにしておいて実は本命とかさ。

いやいや、いくら何でも外交に問題が出るような事に、外部の娼婦を殺し屋は無いわ。


となると人身御供・・これも強さは要らないよな。

いや、まかり間違って倒すようなら・・アリか。

脅威の相手、人身御供だけど、強いならもしかして・・

となると相手は水を苦手とする・・か。


「父上、見つけました」

「ほんに間違い無いのじゃな」

「ははっ、間違いなく水の魔力を有しておりますれば」


ほお、やはりか、となると相手は恐らく・・


     ☆


ツキミ 『サツキ=ミドリヤマ』 


レベル28  『130』


クラス 水魔術師


HP  680/680 『36400/36400』

MP  1400/1420 『10140/10140『(∞)』』


上着

中着

足着

布靴   

 

腕輪 『魔導腕輪×2 闘争心【大】・性欲【小】・精力【中】・体力【大】・精神【極】』


『狼の恩恵』 


生活魔法(種火・洗浄・飲水・清掃・灯火・)


『錬金術【24】 土石【1】・石粉【5】』

『土魔法【18】 盛土【1】・土壁【8】・土穴【16】』

『風魔法【19】 微風【1】・強風【6】・烈風【16】』

 水魔法【64】 流水【1】・放水【3】・洗浄【10】・放流【12】・水槍【16】・小回【16】・中回【20】・大回【24】・快復【48】・欠損【60】

『闇魔法【15】 薄暗【1】・日影【5】・日没【12】』


『【フルランゲージ】』

『【マジックボックス】』 

『【セックスチェンジ】』 

『【ボディチェンジ】』

『【マッスルパワー】』  

『【プレミアムテン】』   

『【トリガーマックス】』 


『魔導体 (マナ吸収・経験吸収・スキル吸収)』

『とつげき』『けり』『なぎはらい』『ひしょう』『げんえい』『すいみん』


     ☆


「娘よ」

「は、はい」

「そなたには恨まれても致し方無いと思うておるが、他に道が無いのじゃ、許せよ」

「人身御供でござりまするか」

「なんと、察してそのような落ち着きを」

「身分違いでいきなりお城。揃える事も無く、なれば混ざるはあり得ぬ事。もとより娼婦上がりなれば尚更の事」

「聡明じゃの」

「して、どのような悪鬼がこの国を狙うておるのでしょう」

「ファイヤードラゴンじゃ」

「成程、なれば我が水で鎮めよと」

「うむ、やってくれるかの」

「生きて戻りしその折は」

「ふむ、そうじゃの。そなたには貴族の位を授けようぞ」

「承りてござります」

「うむ、頼むぞ」

「はっ」


よしよし、報酬は要らなくても望まないとな。

そうか、やはり伝説と言われる火竜かよ。

相手にとって不足はねぇぜ、くくくっ・・


魔力付加の弓攻撃の恐ろしさ、思い知らせてやるぜ。

ワイバーンじゃイマイチ、弱過ぎて実験にならなかったからな。

あんな1発で即死する相手より、もっと耐えてくれないとな。

伝説と言われるぐらいだ、さぞかし耐久力も高くて強いんだろうな。


期待しているからな、くっくっくっ・・


ふむ、お胸さんを何かのスキルって事にしちまうか。

スキルを解けば胸なし女になるんだし。

いやいや、見せる事も無いか。

うお、何を引っ張る・・

おい、何処に連れて行く。


若様に連れられて、奥のほうに奥のほうに・・


「いいか、山道を登っていくと、洞窟がある。その中に居るからな」

「そこに行けば良いのでございますね」

「いやそうじゃない」


は?


「そこを通り過ぎて山を登るんだ。そしてな、頂上に穴が開いている」

火山の穴のような物かな?

「そこから直下の火竜めがけて大量の水を流し込め」

倒す算段かよ。こいつ、人身御供のつもりじゃないのかよ。

「いいか、相手は伝説とも言われる強大な竜だが、弱点は水だ」

まあそうなんだろうね。

「全力で水を流し込めば、あるいは・・いや、絶対に倒してくれ」

「我が魔力尽きるまで流し込みましょう」

「いいか、必ず生きて戻れよ。オレはお前の帰りを待っているからな」

ほえ?また娼婦の暮らしに戻してくれるとか?それならそれでありがたいけど。

うお、おい、いきなり・・飢えてんのかよ、王子様ともあろう者が、やれやれ・・


ふうっ、1ヶ月ぶりの快感・・


「いいな、いかに娼婦上がりとて、伝説の火竜を倒したとあれば、認めぬ者はおらん」

どうにも話がおかしくないか?

「生きて戻りしその折は・・だからな、必ず生きて戻るんだぞ」


え、何、聞こえなかった。折りは?何だから?・・奇跡?

生きて戻ったその時は奇跡だから、認めないといけないって言ったのかな。

何を認めるんだ。うーん、どうにも分からないな・・


まあいいや。


     ☆


偽装カバンを担ぎ、もらったドレスを着て山のふもとまで馬車に乗せられてゴトゴト・・

確かに彼方にでかい赤い点がぽつりとあるな。

その周囲には魔物は居ないようだ。

やっぱり怖いのかな・・それとも食われるから、まあ両方かも知れないな。


「おい、娘。逃げるとどうなるか分かってるな」

「え、そんな事、考えた事も無かった」

「何だと」

「討伐って聞いてるよ」

「はっはっはっは、あれを倒す?バカかてめぇ」

「無理だと思うんだ」

「当たり前だろ。このオレの仲間が何人死んだと思ってる」

「それはレベルが低かったからじゃない?」

「なら、てめぇはいくつだよ」

「そういうの、先にそちらが言うものだよね」

「ああ、言ってやらぁ。オレが48、死んだ副官が42だ、後は30台が5人死んでいる」

「全部足すと抜かれたな。うーん、そんなに強いのかぁ」

「全部足すぅ?ふざけんな、いくつだ、レベルはよ」

「130の若輩者ですけど」

「あんだと、そんな若さで?あり得るかよ、バカらしい。ふん、もう寝るぞ」


まあいいや、信じないならそれでさ。ワイバーンが瀕死になる矢の更に上を開発したら粉砕したんだ。

でもあれの更に上を今、考えてんだ。もっとMPを注ぎ込んでやれば。

しかしな、あれは安定化が難しいんだよな。


(水の魔力付加)

濁流の矢 MP200 オーク即死

奔流の矢 MP500 オーガ即死

貫流の矢 MP1500 ワイバーン瀕死

暴流の矢 MP5000 ワイバーン粉砕


ここまでは何とかなったんだけど、この更に上となると、倍注ぐか。

MP1万流して安定化させて・・渦巻きのようにしてやれば、巧くすれば貫通するか。


超流の矢 MP10000


これでどれぐらいの効果があるかだな。

最初に濁流の矢をゴブリンに撃ったら、跡形も無く消滅したからな。

あれで魔力付加の凄まじさを実感したんだ。

もちろん、矢も考えられる限りに強力にしてある。

特にヤジリにはユニコーンの角を削って付けてある。

転身したばかりは処女だから、難なく近づけてそのまま倒したと。

ちょっとインチキみたいだけど、魔物は魔物だしな。

あれで角以外の活用法で偽肉になったから良かったと。


しかしな、1撃で何とかしないと、撃ったら恐らく急速マナ欠乏症で貧血もどきになるからな。

倒したら素材回収してとんずらするからそれは良いが、倒れて見つかったらややこしい事になっちまう。


頼むぞ、遠くに離れていてくれよ。


オレが戻ってくるまでじっとそこから動くなよ、隊長さんよ。

ふむ、赤点は動いてないな。飛んで行きたいけど、マナギリギリだからな。

10140のうち10000を使おうってウイニングショットなんだし、余計なマナは使えんぞ。


途中で着替えて狩り装束となり、ドレスは突っ込んでおく。

あんなのじゃまともに動けん。

この鎧もかなり強化されたけど、元は猪の皮鎧。もう殆ど原型留めてないけどな。

自作ならではのオーダーメイド風にしっくりくる造りになっている。

あの狩りの経験がこんなに役立つとはな。

成程、奥で眠っているようにも感じるな。

穏やかな、緩やかな、そして深い・・どうにもあれを消すのは不条理を感じるな。

人間より成熟を感じる雰囲気なのに、人間の邪魔になるからと殺そうと言うのか。

オレも人間の部類なら人間に加担しないといけないか。

もっとも、どちらに近いかなんて、自分でも分からないんだけどな。


魔導弓とは言うものの、持ち手に魔物の皮を巻いたら名前が変わったってだけの洋弓だ。

ボックスから特製の矢を取り出して番え、らせん状に魔力を纏わり付かせていく。

接敵で爆発的に魔法が行使される、魔力付加の矢。発動する魔法は水系最大の水槍だ。

これでダメならガス欠だ・・頼むぞ・・


【超流の矢】


シュンとそのまま下方の物体に突進していく。

うう・・やっぱり・・これは・・きちぃ・・少し・・離れて・・うお、揺れる・・何でだ・・立ってられん・・くそ、気分悪いのに、酔いそうだ・・仕方が無い。


『ひしょう』


もう、マナがヤバいのに・・

遠くへ、もっと遠くへ・・

うおお、後ろで噴火が・・

やべぇぇ・・


お、水蒸気爆発、やれたのかな。


爺さんの基礎科学の講義の恩恵で分かるけどさ。

ただの中卒なオレなら思い付きもしなかったろう。

また助けてもらったな・・爺さん・・


隣の山まで何とか飛び、そのまま木に寄りかかって気を失う。

近くに魔物の気配すらもなく、赤点も近くに無いと思っての事・・

だからさ・・


     ☆


ツキミ 『サツキ=ミドリヤマ』 


レベル16  『134』


『クラス 水魔術師』


HP  280/280 『36400/37520』

MP  400/420 『    4/10452『(∞)』』


弓   『魔導弓 洋弓・魔力付加』   

矢   『魔導矢 トレント材・飛竜の翼・ユニコーンの角』 

面頬  『飛竜の鱗』   

皮鎧  『飛竜の鱗鎧』

手甲  『飛竜の鱗』

膝当て 『ユニコーンの膝当て』 

 

腕輪 『魔導腕輪×2 闘争心【大】・性欲【小】・精力【中】・体力【大】・精神【極】』


『狼の恩恵』 


生活魔法(種火・洗浄・飲水・清掃・灯火・)


『錬金術【24】 土石【1】・石粉【5】』

『土魔法【18】 盛土【1】・土壁【8】・土穴【16】』

『風魔法【19】 微風【1】・強風【6】・烈風【16】』

 水魔法【18】 流水【1】・放水【3】・洗浄【10】・放流【12】・水槍【16】・小回【16】

『水魔法【66】 流水【1】・放水【3】・洗浄【10】・放流【12】・水槍【16】・小回【16】・中回【20】・大回【24】・快復【48】・欠損【60】』

『闇魔法【15】 薄暗【1】・日影【5】・日没【12】』


『【フルランゲージ】』

『【マジックボックス】』 

『【セックスチェンジ】』 

『【ボディチェンジ】』

『【マッスルパワー】』  

『【プレミアムテン】』   

『【トリガーマックス】』 


『魔導体 (マナ吸収・経験吸収・スキル吸収)』

『とつげき』『けり』『なぎはらい』『ひしょう』『げんえい』『すいみん』』『ぶれす』『ほうこう』『いかく』『まかいふく』『ひむこう』


(水の魔力付加)

濁流の矢 MP200 オーク即死

奔流の矢 MP500 オーガ即死

貫流の矢 MP1500 ワイバーン瀕死

暴流の矢 MP5000 ワイバーン粉砕

超流の矢 MP10000 火竜即死


     ☆


目が覚めると馬車の中。


くそ、逃げようと思ったのに、見つけやがったな。

いや、それよか、ドラゴン素材、盗られちまったか。

オレが倒したのに、横取りかよ、世知辛いねぇ・・


そのままぼんやりと馬車に揺られる。

まだまだマナが足りないようで、起きる気力も沸いて来ない。

うつらうつらしていたが、揺れで眠りに落ちたようで、気付いたら・・


「よくぞ・・よくぞ戻った・・オレは信じていたぞ」

そんな半泣きで言われても困るんだけどな。王様と全財産を賭けでもしてたのかよ。

「言われしままに水を流し込みましたが、どうなったのやら」

「大爆発を起こしてな、あれは倒されたぞ」


水蒸気爆発で倒せたのか、やれやれだな。


「では、私はこれで」

「何を言っている」

「え、でも、もう用事は終わったんでしょ」

「オレは言ったはずだぞ。無事に戻った折には、妃だとな」


え?


き・さ・き? 


き・せ・き、じゃなしに?


こ、これは異世界言語理解の罠か。

これって全然、理解じゃないんだよな。

単なる自動通訳なんだ、だから日本語に変換されて聞こえるからさ。

理解するのなら単語が違うんだから、こんな事にはならないはずだ。


くそぅ、また騙されたぁ・・


     ☆


先日と同じ勢いで王子様は突撃してきて、数日振りの快感を得た。

馴染むと言うのはなんだけど、妙に落ち着く感じが実に嫌だ。

男って意識が段々女に染まっているような、そんな恐怖すら・・感じないか。

最初は逃げようと思ったのに、そんな気持ちも薄れていき、なし崩し的に留まる。

療養の名目で王宮の端のほうの部屋を賜り、日々のんびりと寝て過ごす。

このままじゃいけないと思いつつも、どうしても逃げる気が起きない。


そんなある日の事、街に緑色の輝点を発見する。赤ばかりで緑は初・・まさか・・


場所は貴族街の一角、その屋敷の事を聞けば、ずっと行方不明だったあるじが

つい最近、戻って来たとの事。魔導工学の第一人者で、魔導兵器の研究者とか。

階梯は子爵との事で、留守をずっと預かっていた息子が後を継いでいたらしい。

なのでそのままとして、本人は研究の日々になっているとか。そしてその者の名は。


クーディロ=ミドゥーリャ


こうじろう=みどりやま・・安易だよな、爺さん、くっくっくっ。

そうか、オレのネーミングセンスの悪さは爺さん譲りかよ。


まあ、血の繋がりは無い可能性のほうが高いんだけどな。

子爵が庶子など持てば、余計な相続問題に発展する。

戻る気でいた爺さんがそんな爆弾を抱え込むはずもなし。

となると、オレって後々、世界間転移を覚える可能性があるんだな。


王子には街を散策してくると告げ、その屋敷を訪ねてみる。


門番には腕輪を隠居したあるじに渡して欲しいと・・


「この腕輪がどうした」

「渡せば分かります」

「このような物、渡す訳にはいかん」

「あなたの一存で良いんですね」

「当たり前だ、おら、とっとと帰れ」

「今の住まいは王宮」

「な・・そんな大それた嘘を、ただでは済まんぞ」

「ふーん、君ってさ、うちの王子より偉いんだ。凄いね」

「なん・・だと」

「そのうち妃にと望まれていてね、どうしようか迷ってるんだよ」

「そこまでのたわ言・・捨ておけん。覚悟・・グギャ」

「何をするか」

「それはこちらの台詞。火竜退治の勇者に対し、余りな無礼。覚悟は良いかしら」

「なっ・・ま、まさか」

「何をしておるか、騒々しい」

「申し訳ございません。この女がたわ言を・・」

「久しいね、爺さん」

「なっ・・ど、どうして」

「穴に落ちちゃった」

「あやつに望んだのかの」

「山の中に開いてた穴」

「そのような物が・・まあよい、こちらに来るがよい」

「あいよ」


研究室に案内され、穴に落ちてから冒険者をやっていた事を話す。

後は金に困ってあちこちで働いていて、水魔法に才があってそれを伸ばしていたところ、人身御供に望まれたけど、全力で水を出すという王子の作戦が図に当たり、水蒸気爆発で火竜が死んだ話をした。


「なんとのぅ、それにしても逞しいのぅ」

「爺さんの山で狩りしてたからね、いきなりでも魔物が狩れたんだよ」

「なれぱあの弓は役に立ったのかの」

「今でも現役」

「それは嬉しいのぅ」

「今ね、王子がね、妃にしたいって煩いんだ」

「そ・・それは、しかし」

「今は女性だよ」

「何故じゃ、おぬしは」

「そういうスキル」

「そのような物、ワシは」

「多分ギフトだと思う。神様からのプレゼント」

「成程のぅ、それなればまだ」


「良かったね」

「何がじゃ」

「爺さん特製の魔導体、立派に成長して火竜を倒してさ」

「お・・ぬし・・それを・・知って・・」

「血の繋がりは無いんでしょ。庶子とか子爵には致命的だ」

「済まぬ、ワシは、いかに戻りたいからと言って、当時の・・ワシは・・」


うるうるしている爺さんを軽く抱きしめる。


「良いんだよ、怒ってないから」

「なしてじゃ、ワシはあのような非道を」

「普通の身体ならもう死んでる。爺さんのお陰で今まで生きて来られたんだ。感謝してるよ」

「ううう・・ううう・・済まぬ・・済まぬの・・ううう・・」


それで鍛えずに目処のほうに走ったのか。

良かった、マッドサイエンティストじゃなくて。

望郷心の暴走なら仕方が無いよね。

能力があり、手段があり、その手法が邪とて、それ以外に無いならオレだってやるかも知れないしな。


「それで、発表はしないの?」

「そのような事、せんでよい」

「じゃあどうしよう。王子の求婚断るには、魔導体だからとかそういう理由が無いと」

「それでおぬしは・・ううむ、そうのじゃのぅ」

「確かに女になるスキルを使ってるけど、心は男だしね」

「今は男の心なのかの」

「つまり、元は女なのね」

「あれが・・望んでの・・ワシは、つい、魔に魅入られたのじゃ。してはならぬ事を」

「ああ、バカ親が跡継ぎに男を望んだんだね」

「うむ、じゃがの、ワシが可能性さえ示唆せねば」

「それで王子に抱かれて落ち着くんだね」

「おぬし、既にもう」

「いやぁ、王子って積極的でさ」

「それなればもう後戻りは出来ぬぞぃ」

「あはは、やっぱし」


それから爺さんと、行方不明の時のつじつまと、オレの事を決める。

強制転移で世界間じゃなくて、遥か遠方の国って事にする。

んで、オレを拾って育てていたけど、幼馴染との将来の誓いを見たと。

なのでもう自分の役目は終わったと、そっと離れて故郷へ帰ったと。


一方、オレはそのまま幼馴染と村で過ごす予定が、狩りから戻ったら村は盗賊で全滅。

復讐の為にひたすらレベルを上げて、水の才を知ってそれを伸ばしたのだと。


「おぬし、物書きになれそうじゃの」

「あれ、詐欺師じゃないの?」

「折角のワシの心遣いを、自ら認めるかの」

「あはは、やっぱし」


なんだかんだ言っても家族だよ、爺さんは。


     ☆


「養父だと」

「いかにもじゃ。幼馴染と幸せに暮らしておるとばかり思うておったがのぅ」

「盗賊は倒したよ。敵は取った」

「強ぅなったのぅ」

「うん」

「そうか、それであのような水の魔力を」

「なので村で墓守して過ごすから帰って良いよね」

「それはいかん」

「えー、良いじゃない」

「お前はもうオレのものだ」

「ああ、ピエール、ごめんなさい。私の事を恨まないで」


爺さんが呆れているな。オレだって嫌だよ、こんな三文芝居。

それでもしばらく日を置いて、気長に攻めるつもりになった様子。

なのでこちらも爺さんの研究室に入り浸り、魔導体としての調整をする事になる。

どうやら完成一歩手前で目処のほうに飛びついたらしく、どうせならとそれを願った。

それと共に、体内に魔石がある事も知った・・やっぱりそうだったんだな。

今は女の身体を魔石を燃料にして、男に見せているだけらしい。

爺さんはそれを解除しようとしたが・・


「それはしなくていいよ」

「じゃがそれではおぬしが」

「今さ、スキルとの兼ね合いがあるからさ、下手に解除したらヤバいのよ」

「ううむ、ワシより遥かに進んだスキルじゃのぅ」

「そりゃ神様のスキルだし」

「ううむ、そのような存在がおったとはの」

「後さ、なんとなーくだけど、お腹に何かあるような」

「まさかおぬし、既にもう」

「もしそうならさ、産んで渡したらお役御免になるよね」

「それまで待つと言うのかの」

「なんかさ、馴染むんだよ、あの王子ってさ」

「実はの、おぬしの種じゃがの、ワシの連れ合いのものなのじゃ」

「じゃあ婆さんのクローンとか」

「そこまでは言わぬよ。ただの、おぬしの親父はの、無いのじゃ」

「ああ、赤紫色の小粒のぶどうかぁ」

「ほっほっほっ、言い回しが上手じゃの。まさにその通りじゃ」


     ☆


それからもオレの魔導体としての調整は継続された。

本来、全ての魔法が使えるはずが、途中だったらしい。

そういう訳で、光魔法と火魔法が追加される事になる。

体内の魔石に既に刻んであるそうで、それの解放になるとか。


そしてマナの上昇係数に欠陥が見つかり調査の結果、どうやらHPとMPの逆転現象が起こっているとか。

なのでそれの修正でステータスが変わった。

それにしても、調整で色々ステータスが変わるのを見ていると、本当に創られたって実感するな。

それがどうとか言うんじゃなく、自分という存在の再確認って言うのかな。

やっぱり分かって良かったとも思っている。

あのまま不思議な存在として生きていくより、こうして理解したほうが楽だ。

諦念じゃないよ、オレはこれで本気で生きられる。もう迷わない、オレは魔導体だ。


後、ステータスにこんなのが追加された。


回復魔法【0】 水魔【99】で開放

空間魔法【0】 3種【99】で開放

完全魔法【0】 全種【99】で開放


上2つは何となく分かるけど、下の意味を聞いてみた。


「それはの、全ての魔法が扱えるスキルじゃ」

「でも、全部99とか意味が無いような」

「それがそうでないのじゃ。実はの、普通の魔法は上級までじゃが、これは最上級魔法すら可能なのじゃ」

「つまり、普通の魔法の上級版になるって事ね」

「うむ、そうなるの。そしての、それには理論上、どのような魔法も可能なはずじゃ」

「漠然としてるね」

「かつてイメージと教えたであろう」

「もしかして、イメージでどんな魔法でも使えるとか」

「あくまでも理論上じゃがの」

「面白そうだね」

「ほんにそれで良いのじゃな」

「どうせなら極めたいじゃない」

「ほんにおぬしのような娘に、ワシはとんでもない事を・・」

「ほらほら、暗くなってるよ」

「うむ・・そうじゃの・・うむ、うむ」


「ああそうそう忘れてた。あいつ、こっちに来てるかも」

「あの送りし者かの」

「行方不明になってたし」

「何かあったのかも知れぬの」

「往復はやれないよね」

「あれは恐らくはおぬしの申した穴の利用であろう」

「やっぱり?うん、そう思った」

「じゃがおぬしはいずれ覚えるはずじゃ」

「じゃあ修行して来ないとね」

「それを名目にするのじゃな」

「そうそう、隣に立っても時々居なくなっても良いなら現状で、そうじゃないなら目一杯」

「ほっほっほっ、考えたの」

「もし妊娠なら戻って来るし」 

「そうじゃの」


     ☆


王子様に進言すると物凄ーく悩んだ後、それならひとつ頼まれてくれと・・


「それをやったら修行して来て良いんだね」

「良いか、必ず戻るのだぞ」

「うんうん、分かってるって、王子様」

「ネイス・カーティク・フェン・コルドバイド・スリエンだ」

「じゃあ、ネイスで良いんだね」

「ああ、それで良い」


そしてネイスと共にあの山に向かう。

どうやら火竜亡き後、飛竜の住処になったらしく、その長と協定を結びたいらしい。


「下等竜って話だけど、通じるのかな」

「無理でも何とかしないといけないのだ。この国は軍備が弱い、だからそれを補う為の飛竜部隊を編成しなくてはならん」

「じゃあ不可侵の代わりに卵寄こせって言うのね」

「ああ、おぬしが傍に居れば、長も滅多な事はすまい。だから頼むぞ」

「うん、脅しちゃおう、くすくす」

「オレも脅されそうだな」

「あら、試してみる」

「そうしようか」


     ☆


馬車は揺れながら走る。

それは何も道のせいばかりではなく・・


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