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1 追跡

1話1話が短すぎたので、そっくり消して再投稿です。

1 追跡




ちーっす、オレさ、ちょいと変な奴見つけちまってさ、そいつの追跡ってぇか、調査と言えば良いのかな。

うん、まあそんな感じな事、やろうと思ったんたな、これが。


理由?まあそれは後で言うよ。

ちょっと重い・・事も無いけど、冒頭で話すような事じゃないからさ・・それはともかく。

オレさ、中卒で働く事になっちまってさ・・勉強が嫌いだったんだよ、頭悪いしよ。

そしたらさぁ、うちの親がさぁ。


「今時、高校にも行かないとかあり得ないわ」


とか抜かす訳。

良いじねぇか、義務教育は中学までなんだからと、当時はそう思ったね。


で、これがまた仕事が無い。

普通に考えたらそれも当然だ。

ここでオレは閃いた。

田舎の爺さんに世話になろうって。


安易だよねぇ・・オレ、今から思っても呆れるぐらい安易だと思うよ。


うちの爺さんさ、親戚中でも変わり者って評判の・・はっきり言って変人だ。

でもさ、犯罪的に変人って訳じゃねぇよ。

そんな爺さんなら行かねぇよ。


そうじゃなくて、ちょっと世間の常識から外れているって感じの変人な。

だってさ、異世界とか信じてるんだ。

しかもそいつを真面目に研究とか。

爺さんって、この国にどんだけ居るか知らないけど、多分、うちの爺さんだけじゃねぇかな。


でまぁ、田舎の家に行った訳よ。

これでも小さい頃は、こいつ頭大丈夫か?とか思いながらも話合わせてたよ。

だって機嫌が良いとお菓子くれるからさ。


最初に研究室に遊びに行った時、中で寝ちまってな。

気が付いたら翌日の朝って、あん時はちょっと焦ったね。

爺さん、気を悪くしてないかと思ったけど、妙に機嫌が良くてほっとしたのを覚えてる。

それからも何度か研究室で寝ちまってたけど、起きたらサッパリしてたな。

行くのが日課みたいになってたんだ。

話聞いてると寝ちまうけど、行けばお菓子くれるしさ。


爺さん若い頃は、どっかの大学とかで研究者みたいな事、やってたらしいんだけどさ。

どうにもその、異世界とやらに取り憑かれちまったらしくてさ、学会追放とか食らったしいんだわ。

当たり前だよな。真面目な研究している奴らの中に混ざって、自分だけ空想科学やってんだから。


それはともかくさ、家に行って爺さんの研究の跡を継ぎたい、とか殊勝な事を言う訳よ。

そしたらまぁ、あの爺さん、なんかうるうるしちまってさ、自分の研究が認められた、とか思ったんだろうな。

それからオレは爺さんの助手みたいな事をやるようになり、食うに困らなくなったと。


そのままだったら良かったんだけどなぁ・・

オレが爺さんの助手をやるようになって、3年が過ぎたところか。

目処が付いた、とか言って消えちまったんだ。


ちょうど世間じゃ行方不明ってのが多発してて、爺さんも巻き込まれたと思ったんだ。

けどさ、その目処ってのが気になってさ、ネットで色々調べてたんだわ。

そしたらさ、あるじゃないのさ、異世界ツアーていかがわしいブログがさ。

そいつ、相良って名前で異世界への案内人とかしてるんだわ。


こいつは詐欺だと思ったね。


なんでっって?

だって爺さん、定期解約してその金と共に消えたからさ。

こりゃ騙されて殺されたと思ったよ。


でも証拠も何も無い訳だ。


で、爺さんと共にやった研究。

これがまた実に胡散臭いと言うか・・

爺さん的な理論の話だけどよ、魔法もこの世界で使えるとか言うのさ。

ならなんで使えねぇのかって聞くと、マナが無いから使えんって。

あれば使えるらしい・・そう思い込んでいたんだ、爺さんは。


で、こっからが変人の変人たるゆえんでさ、あると仮定して魔法の構築を考えるとかさ。

無い物をあると仮定して、それの活用って無理じゃね?とか普通思うよな。

それでも跡を継ぐと言っちまった以上、真面目に信じている風にやるしかなくてな・・


今から思えば、爺さんにオレ、何されたんだろうと思うんだ。

だってさ、あれ、人体実験だよな。

毎週、1回は爺さんの研究の為に、眠らされて何かやられてたんだ。


嫌だねぇ、胃袋を掴まれてると逆らえねぇのな、これが。

でもまぁ、特に身体に異常は無くてさ、なし崩しに受けてたんだわ。

消える1年前ぐらいからはもう、当たり前になっちまっててさ、自分でとっとと睡眠薬飲んで台の上で横たわる訳よ。


ああ、素っ裸でな。

そりゃ最初は恥ずかしかったさ。

でも、人間慣れだね、うん。


んで起きても別にさ、身体に異常とか感じなかったし。

だからまあ、あれを食費と宿泊費って思う事にしたんだわ。

後は身体能力のテストと言うのかさ、トレーニングマシンみたいなので色々やらされる訳よ。


お陰で逆に体力付いちまったぐらいだな。

オレ、元々小さな頃から動くのだけは好きでよ、ボクシング漫画とか拳法漫画にハマっちまって、あるだろ、そういう経験?

んでまあその真似事みたいな事をやってた訳よ。


その頃と比べても体力付いたなぁって思うぐらいになってたんだな。

後は研究の関係で色々知る事になるんだけど、そもそも研究を継ぐ為には基礎科学とか言うのが必要らしくてさ。

爺さんに色々教わる羽目になってよ、ここで気付いちまったんだ。


勉強嫌いが何でここで勉強してんのかって事。


けどもう仕方が無いわな。

あんなに目をうるうるさせた爺さん、初めて見たんだし。

今からあれは嘘でしたとか言ったら、翌日鴨居にぶらさがっているかも知れないと思ったのさ。


けどさ、幸いにも爺さんの教え方が良くてさ、中学の時のあの眠気とか全然無いんだ。

なんかよ、頭にスーッと沁みこむ感じに入るんだわ。

んで理解が及べばなんか面白くなって来たんだわ。

元々、クラスでの扱いの問題で進学諦めてただけだし。

だからさ、実験と検査と勉強の3年間はそれなりに充実していたと思うよ。


今ではマナの取り扱いとかさ、爺さんの理論上だけど何とかやれそうな感じだし。

体力もかなり付いているし、ここいらで都会に出てみようと思ったのさ。

別に爺さんの復讐とかじゃねぇよ。

そりゃ爺さんを騙して殺したかも知れない奴が今ものうのうと生きていると思ったら、ちょいと殺意は沸くけどよ。


けど、殺しちまったら終わりだろ。

この国の検挙率、どんだけあると思ってんだ。

即座に捕まって、あっという間に裁判になって、証人に証拠で実刑で、寄せ場じゃ苛められて娑婆じゃ無職。

んで裏社会って相場が決まってる。


てかさ、殺しだと20年とか無期とかになっちまう。

そんな人生終了な事、やりたくねぇよ。

法律が無かったら?そりゃぁ・・


てか、ホントに爺さん、どんな事をオレにやったんだ。

なんか倫理がおかしいんだけどよ。

頭ん中、いじくってねぇよな。

法律が無かったら殺すよ、多分オレ。

想像しても別に何とも思わないんだ、これおかしいだろ。


オレ、どうなっちまったんだ・・

ここまで考えて、いきなり冷静になっちまう。

これもおかしいよな。

けどさ、爺さんって、オレに優しくてさ。

小遣いもくれててさ、ネットで買い物とかもやれてさ。

だから少しだけ蓄えもあったんだ。

だから都会に来れたんだけどさ。


まあ、行く前にあいつのブログに書き込んだよ。゜

異世界に行きたいって。

爺さん、生きてんのか、それとも死んじまったのか・・


ええと、どこまで話したっけ・・

ああ、オレがあいつのブログに異世界に行きたいって書いた話までだったな。

そしたらそいつ、半年ぐらい掛かるとか言いやがってよ。

金が無いって書いたせいかも知れねぇけどな。


だからさ、オレはあいつのヤサを探ろうと思ったのさ。

あいつってツアーは大体駅を待ち合わせにしてんだ。

それをブログに書く訳よ。

いやぁ大胆だよな。


んで、終わったらまた駅で解散になる。

だからその後をつけてやりゃ知れると思ったのさ。

これでも追跡は得意だぞ。

幼い頃に近所の猟師から色々教わってな。

あん頃は田舎に住んでたし。


まあ、狩りの体験談聞いただけだけど。


で、最初の話に戻るんだけど、今は電車の中だ。

大胆なせいなのか既に内偵食らってる。

今も捜査員が列車に同乗してんだわ。

なんでそんな事が分かるのかって?

オレも知らねぇよ。

なんでか分かるんだから仕方ねぇだろ。

狩りの時の獲物の気配が分かるのと、同じ理屈だと思うんだけどよ。


その気配ってのもあやふやだけどな。

分かるのは事実だから認めて使うしかないだろ。


ああ、まだ自己紹介してなかったな。


オレの名前は緑山五月・・こらこらこらこら、オレっ娘とか思った奴・・そう、そうそう、お前だ、お前。

違うから、これはな、イツキと読むんだよ。オレはれっきとした男だ、オ・ト・コ・・


うちのバカ親がな、5月に生まれたからって五月って付けたんだ。

なんかよ、オレを女と間違えて名前決めたとか言うんだぜ。

そんなの股座見れば分かるだろうに。

でよ、今更また考えるのはって言ってな、イツキと読めるからってよ。

そんなの読めるだけで、普通はサツキって読まれちまうだろ。


だからオレの密かな夢は成人したら改名ってのが・・

話が逸れたな・・はふうっ・・


どこまで話したっけ・・ああそうそう、それでな、年齢は18才に・・明日なる予定だ。

つまりバースデーイブな。

まあそんな事はどうでも良いけどさ。

とにかく、あいつが詐欺師なのは確定として、どうやってその詐欺を確立させているか、これを知ろうと思ったのさ。

で、殺してたら・・爺さんの事はすっぱり忘れて生きて行こうと思ったのさ。

もちろん、通報はするけどな。



列車は都会から田舎への向けて走っていく。

昔、確かこの辺りまで遠足に来たよな。

今ちょうど目の前の山、必死こいて登ったけど、こうやって見ると低い山だよな。

なんであんなに苦しかったんだ。


ああ、あん時はそう、服がきつくてさ。

親の趣味に付き合わされて・・

あの変態バカ親の趣味に・・

息子染めて嬉しいかっての。


え、どんな趣味かって?

聞くなよ、頼むから、後生だから。

オレは中卒まで我慢したんだ。

義務教育が終わって、それで逃げたんだ。

勉強が嫌いなのも本当だけどな。

あの趣味に付き合ってたら、オレまで変態になっちまう。

そう思ったらもう耐え切れなくてさ。


逃げて真っ先に行ったのはデパートだ。

トイレで着替えて・・嬉しかったぜ。

忌まわしきブツは、トイレの汚物入れに叩き込んでやったさ。

これでもうまともになれたと思ったよ。


はぁぁ、思い出すと殺意が沸くな。

あれ、もうこんなとこまで。


あの山はもうとっくに過ぎ、田舎風景が広がっている。

田植えの終わった田んぼには、青々とした苗が・・って緑だよな。

国語のセンセーに何でかって聞いたら、そういうものだとか言われて。

納得は出来なかったけど、質問はよくしてたんだ。

何でかって?そりゃ国語のセンセー美人だったからさ。


田舎の風景・・良いよなぁ。

なんで都会に出ちまったんだ、うちのバカ親は。

あのまま田舎暮らしのほうが良かったのによ。

本当なら爺さんの近所で農家だったはずが、都会で仕事見つけたとか言いやがって。

妙に逃げるように都会に出ちまって・・


もしかしてあのバカ親の趣味がバレたのか。

それで都会に逃げたんだな。


え、趣味が気になるって?

聞かないでくれよ、頼むから。

はぁぁ・・この変態って思われるの、嫌なの。

違うから、親の趣味だから。


いいか、話す前に言っとくぞ。

オレは一度たりとも喜んだ事はねぇ。

つまりな、あのバカ親はな、小さな頃から・・


はぁぁ・・ブリーフ買ってくれなかったんだ。

オレが小遣いで買って穿いても、洗濯したら戻って来ないんだ。

自分でこっそり洗っても、干したら消えるんだ。


じゃあ何を穿いてたかって?

パンツだよパンツ。

パンティとか言いたくねぇよ。

女物の、あの変に布地面積の少ない。

薄くて肌が透けて見えるような。

尻が半分見えるような。


オレのアレが小さいからってバカにするなぁぁぁぁ・・

違和感が無かったとか言うなぁぁぁぁぁ・

小学の頃、体育の着替えで、普通なら変態とか・・

なのに、当たり前に受け入れられてたとか言うなぁぁ・・

女子と着替えさせられてたとか言うなぁぁぁ・・

はぁはぁはぁ、オレは変態じゃねぇ・・


その証拠に中学ではちゃんと男と着替えてたぞ。

体育のある日は隠し持ってたブリーフ穿いてたからな。

なのに男連中が妙にキョドりやがってさ。

オレは男だぁぁぁ・・


はぁはぁはぁ・・


中2の夏休み前の出来事思い出しちまったな。

隣のクラスの奴がさ、オレに言ったんだよ。


「好きです、付き合ってください」


速攻でぶちのめしたよ。


「舐めてんのか、ああ?てめぇ男が好きななら他でやれ」


って言ってやったさ。

そしたらクラスの奴ら、ゲラゲラ笑ってさ。


「ああ、またやられてら」

「無理ねぇよ、普通はそう来るよな」

「オレは今でも好きだけどな」

「げっ、ここに本物が」


ああ、思い出すだけで気持ち悪くなる。

クラスの中にもあっちの趣味が居たんだから。

あの中学の扱いでもう高校は無理だと・・

まあこれが真の理由かな。


あ、もう着く頃合か。


ああ、本当に田舎は良いよな。

落ち着いた佇まいの家々に、静かな駅前。

あの喧騒が無いのは落ち着いて良い。


列車から降りて、観光客のように周囲を見てほっとする。

相良のグループは何か話し合いしてる感じ。

オレはそのまま周囲の風景を楽しんでた。

久しぶりに田舎に来たから、結構本気で楽しんでた。

周囲には捜査員らしい気配が5つ。


5人?


まあいいや。

さて、尾行開始だ。


見た目は冴えないおっさんだけど、中々に奥は見せねぇ奴らしい。

自分を小さく見せて油断を誘うタイプか。

食えねぇ奴だな。


ほお、山に登るのか。

普段着で登る山じゃないとなると、そこまで上には登らないか。


こいつは拙いな。

1人、分岐しやがった。

こいつは別物だな。

捜査員じゃないのか。

オレの尾行に気付いた?

オレはだたの観光客だぞ。


仕方が無い、今回は諦めるか。

あいつとは違う道に入るが、そのまま付いてくる。

くそ、無理だったか。

仕方が無い、相対してやるか。


「君、ちょっと良いかい」


オレは内心・・どうして動揺しないんだ・・それなら平静に答えられるな。


「はい、何ですか」

「君はいくつかね」

「職質なら身分証明の提示を願いますか」

「ほお、それが分かると言うのもなんだね」

「いや、普通分かるでしょ、いきなり年齢を聞くってさ」

「まあそれはそうなんだがな」

「そんな軽装でこの山は危険だとか、普通ならこうでしょ」

「それで、どうなんだね」

「17才です」

「となると高校3年か」

「中卒3年ですね」

「高校には行ってないのか、また珍しいな」

「ええ、その事で親と喧嘩して絶縁になりましたから」

「どうしてと聞いても良いかな」

「勉強が嫌いだから」

「それなのに私が刑事と分かった訳だ」

「刑事ドラマが好きでしたから」

「それだけかい」


実にしつこいな。あーあ、もうツアー終わっちまってる頃だろう。

やっぱり無理だったな。


「何か容疑があるんですね、何の容疑です?」

「それならば言おう。君には緑山幸次郎殺害容疑が掛かっている」


うん、実に平静な心だな。

こういう場合は倫理の変節に感謝かな。

てかさ、こいつ、オレを女と見ている?


そりゃ髪は伸ばしてるし、爺さんはそのほうが好きだったし。

そりゃバカ親の趣味につき合わさせるのは嫌だったけど、爺さんならまあ良いかなって。

だってバカ親が都会に出ちまって爺さん、ずっと独りだったんだしな。

婆さんも若い頃に死んだと聞かされてて、その婆さんの若い頃にそっくりとか言われたらさ。

別に女装でも良いかって思えたのさ。

爺さん、あれで凄く喜んでくれてたし。


しかしいきなり容疑者扱いか。

しかもこいつ、官名詐称したよ。

いくら録ってるからと言っても、それを言うとヤバそうな気配だ。

声はいつもの癖で高めにしてるけど、このままでいけるか?


「私がお爺さんを?あり得ないわ」


よしよし、気配に変化無し、いけてるな。


「証拠もあるんだよ」


本当にあったら今頃、とっくに令状で拘置所だろ。


「それで?」

「ふーん、動じないね」


ふーんってアンタはどっかの殺し屋か。


「それで、どうしたいんですか」

「君、彼のツアーに参加申し込みしたらしいね」


やはりつるんでるのか。

共同正犯か、協力者か、どっちみちまともじゃねぇ。


「でも、お金が無いの」

「お金が無くても構わないらしいよ」

「それは変ですね」

「とにかくさ、心配無いから」


気配が変わった、拉致する気か。

オレの疑心を見抜いて捜査員ごっこを止めたのか。

こいつ、やたら優秀だな。


「今は困るんです」

「どうしでだい、異世界に行きたいんだろう?」

「半年後と言われたから、バイトしようと思ってて」

「でもそんな気配も無かった」

「サイトで調べてたから」

「とにかく、彼に会ってみてくれるかい」

「半年後に」

「今すぐに・・くそ、待て」


山の中に分け入っていく。

まだ追いかけて来ているな。

不思議な感覚だ。

頭の中にまるでレーダーでもあるかのように、あいつの動きが読める。

それと同時に、この辺りの地形まで分かる。


もう迷わない。


何かされたのは事実と認めて、有効活用してやるさ。

それにしても、全く疲れないな。

あいつを引き離していると言うのに。


相良達は少し離れて何かしている。

内偵の奴らは少し離れて様子を見ている。

うん?1人消えた?

内偵の奴ら、動かないな。


まあいい、とにかくあいつの正体が分かった。

恐らく探偵だ。

だから内偵の動きが読めるんだろう。

だからこそ、内偵にバレないようにさっき何かの手段で・・


うお、この先にでかい地面の亀裂が・・

飛べるか、この幅。

頭の中の情報のままに、加速して加速して加速して・・


てやあぁぁぁぁぁ・・ザザザザァァ・・


ふうっ、何とか越えたな。

振り返ると立ち止まるあいつ。

やれやれ、助かったぜ。


にこにこして手を振ってやる。

悔しそうな顔、てかちょっと怖い。

心は揺れないけど、あれは恐らく殺気。

うえっ、なんでスマホが震える。

こいつ、裏の探偵か。

まあそうだよな、相良の手だし、可能性は高いか。


となれば、この平静な心のままに成り切ってやるさ。

どっかの裏筋のヤバい姉御にな。


『君、只者じゃないね・・彼とは契約なの?探偵さん・・それを知るのか』

お、合ってたな、よししよ、この調子で。

『刑事が5人っておかしいよね、普通はペアで動くものだし』

これは刑事ドラマからの情報だ。

『お前、何者だ・・それを聞くの?探偵さんが』

クラス委員長、あんたの口調借りるぜ。

あの、お高くとまったかのようなあの口調をよ。

『合わないんだよ、お前とあっちじゃな・・イメージかしら』

ハッタリだ・・

「ああそうだ』

ふうっ、合ってた。


『親にも聞いた。勉強嫌いで高校にも行かずに、行方不明になったロクデナシってな』

くそぅ、他人に何話してんだ、うちのバカ親は。

『祖父から連絡は行かなかったのね・・そうらしいな。何かの研究をしていたらしいが、それも分からん』

分からん?よし、ここはひとつ、またハッタリで。

『燃えたんですものね・・お前が燃やしたんだろう・・知りませんわ』

うお、合ってたよ。てか、燃えちまったのかよ、研究室。

『とにかく、このままで済むと思うなよ・・探偵さん狙われる人生、それも面白そうだわ』

良くねぇよ、怖ぇぇよ・・心は揺れないけど・・

『何が目的だ・・そうね【それなのに私が刑事と分かった訳だ】・・ふうっ、で、いくらだ』

1億とか・・いかんいかん、つい欲が。てか、これ罠だよな。

『あらあら、消したいのは分かるけど、君の官名詐称は私の切り札、そう簡単に消せないと思ってくださるかしら』

うひょー、かっけぇぇ。


てかキモいよ、この口調。

くれぐれも言っとくがこれは芝居だからな。

芝居だ、しーばーいー

はぁはぁはぁ・・


『ちっ』


舌打ちしたよ。何とかやれてるって事だ。よしよし、このまま・・

『あの相良さんの本名、教えてくださるかしら・・知らんな・・つまり、あれは偽名ですのね・・ぐ・・』


我ながら凄いな。

ちょっと成り切れば、いくらでも思い付くぞ。

オレも詐欺師になれたりしないよな。


そこのやつ、結婚詐欺とか言うなぁぁぁ・・


『もう付きまとわないでくださるかしら』

これで止まるようなら楽なんだけどな。

『脅しか・・さようなら・・待て・・ブツッ』


さて、着信拒否と・・はふうっ・・


あれ、本当にオレが話したのかって思うぐらい、別人な感じだったな。

マジで詐欺師になれそうなんだけどよ。


てか、あいつ、変な事言いやがったな。

オレは確かに小屋は焼いたけど、爺さんの研究室は地下室だ。

まさかあいつ、知らんのか、入り口を。

それで小屋を研究室と思って・・ああ、そう言う事ね。


あそこはオレの住んでいた場所だったんだ。

爺さんは一緒にって言ったんだけど、爺さんのイビキが凄まじいんだわ。

あれはドラゴンだとマジで思ったね。


ゴワアアア、ゴワアアア・・


これの横で寝れるやつ、マジ尊敬するから。

後はさ、兄弟が旅に出る前に家を焼くアニメに影響されて、オレもって・・

いやぁ、我ながら陳腐だね。

振り返らない、それがオレの誓いだ・・とか格好良く決めたつもりでさぁ。


スマホ忘れて慌てて取りに帰ったってのは内緒だ。

ちょっと軽い火傷したけどさ、それぐらい別に良いさ。

この少し端っこが溶けたスマホがオレの誓いだ。

もう二度とあそこには戻らない。


研究室には戻るよ。

あそこは小屋じゃないし。


お、あいつ、大回りしてこっちに向かう気か。

レーダーみたいなのを広げる感覚で広域になったんだ。

そうしたら赤点がこの亀裂みたいなのを大回りしてんだよな。

いやはやしつこいね。


まあいい、そうと決まれば一目散。


疲れないままに野山を駆けて3時間余り。

これ、オリンピック出られそうな感じだよな。

爺さんのあの実験のせいとしか思えないんだけど・・


おっし、見えた。

国道に合流してそのまま走っていく。

行き先は研究室だ。

一度戻ってオレの装備取って来ないと。


ああ、言って無かったな。

オレさ、山で狩りしてたのよ。

田舎だから猪とか兎とかさ。

んでさ、料理もオレ。

だって爺さん、夕食に何を出したと思う。


美味しいメシパックとレトルトカレーだ。

聞いたらストックが1年分はあるとか言ってさ。

見たら親子丼の素とか、牛丼の素とか・・

オレ、さすがに情けなくなったんだ。

だって田舎だよ。


田舎と言えば近所付き合いがあって、物々交換とかやれたりさ。

そんな訳で、山で色々狩って近所の農家で野菜と交換してたんだ。

何で料理がやれるかって?

家でも小さい頃から当たり前にやらされてて、当時は普通だと信じてたよ。

母親と一緒にな。

それが間違いだと思わされたのは小学高学年の家庭科の授業だ。

オレ以外、男連中、まともに料理やれねぇの。

これで騙されたと思ったね。


思い出したら食いたくなったな、爺さん好評の酢豚。


筍とか野菜と交換してもらって、酢猪・・

仕方ねぇじゃねぇかよ、豚の親戚だろ、あれ。

オレの頭ん中じゃあれは豚だったんだ。


それでも工夫はしたんだ。

一度炊いてアク掬ってさ、それからから揚げにしたんだ。

多少は柔らかくなってて、これはいけると思ったんだ。

そしたら爺さん、猪のから揚げだけ残すんだ。


歯が悪いから肉は食えんって、寂しそうに言うんだよ。

それからオレは燃えたね。

ご近所さんと合同でさ、圧力鍋でひたすら炊いたよ。

もちろん、山分けって条件でだけど。

食べてくれた日は嬉しかったねぇ。

何処に行っちまったんだ、爺さん・・


ふああぁぁ、ねみぃ・・


あれから一晩中、あちこち走り回っててさ。

何とか始発に乗り込んで、もうじき田舎だけどさ。

あいつの赤点は相当に離れている。

だけど、動きがやたら速くなったから、車か何かだろう。

もしかすると、あんまり時間的余裕は無いかも知れない。

オレの行き先なんて、あの田舎ぐらいしか無いもんな。


もう少し寝ておくか・・


うっ・・何だ何だ、この警報みたいな感覚は・・うえっ、赤点がいつの間に。

次の駅の構内か、そこは。

テレポーターかよ、てめぇはよ。

さすがに裏の探偵、優秀だぜ。

さてどうするかな。

この窓、快速電車だから開くんだよな。


駅で徐行になり、停車寸前に窓から飛び出して・・

走る走る走る・・

赤点が動き始めた。

嫌になる程に優秀な奴だ。


いかに勝手知ったる田舎でも、あいつもある程度は分かるか。

よし、ここを回って、ここから・・よしよし、まだあった。

目印の石ころを拾って、壁を押す・・ズズズ・・

中に入って戻したら真っ暗だ。

なのに頭の中では分かる。

これ、面白いな。


爺さんの先祖が残した抜け穴って奴な。

教えてくれたけど、使う日が来るとは思わなかったぜ。

よし、ここから・・くっ、重い・・が、うぐぅぅぅぅぅ・・

はぁはぁはぁ・・

やれるもんだな。

油圧で上げ下げしてたってのに。


あったあった、オレの装備。

あれ、あれは?

なんで光ってるんだ。

まあいい、持って行くか。


検査の時に腕に嵌めてた腕輪だ。

両腕に付けると両腕がぼんやり光る。

これ、夜光塗料と思ってたけど、ずっと光ってるから違うんだろうな。

う・・この感覚・・検査の時の・・くうぅぅ・・これ、着けると・・なんかさ・・


こう、妙に力が溢れると言うか、野生的になると言うか・・食いたい・・


腕輪着けると村のあの子とエッチした記憶が蘇る。

あいつ、オレを女と思ってて、そっちの気があったみたいで、挿入したら・・


「あら、妙にリアルな玩具ね」


とか言いやがってさ、オレも男とは言えねぇから。


「そうなの、高かったのよ」


とか言って楽しんでたんだけど、あれも詐欺だよな。


だーかーらー、結婚詐欺とか言うなぁぁぁ・・


いかんいかん、今そんな事を考えている場合じゃねぇ。

装備を整えて、そこらの物を適当に袋に入れて・・

これでもう当分来る事も無いか。


赤点は屋敷の表に回ったか。

よし、またあそこから出るか。

そろりと開けてそろりと閉める。

さて、しばらく山に篭るぞ。

裏の探偵とか冗談じゃねぇし。


山のオレの基地に行けばしばらくはいけるだろう。

狩り小屋とも言うが、あそこには干した猪の肉もあるはずだ。

ま、無くても狩れば良いだけだしな。

うっ、こっちに来る?

くそ、なんでオレの居場所が・・


スマホの電源を切ってみる。

やはりやられてんな。

裏なら何をしているか分かったもんじゃねぇ。

もったいないが、ここいらに罠を置いておくか。

自家製クレイモアもどき、食らいやがれ。


大したもんじゃないんだ。

近付くとさ、卵をぶつけるだけの道具なんだけど、あれから何ヶ月かな。

もうとっくに腐ってるよね。

腐った卵ってかなり臭いから、服とかに付いたら大変なんだ。

皮膚に付いたら風呂でゴシゴシ洗っても、中々臭いが取れねぇんだなこれが。


仕掛けて離れて待機。


接近でどうのこうのはやれないから、こいつはリモコンだ。

この電波100メートルしか無理だけど・・

お、来た来た・・もうチョイ、もうチョイ・・ポチッ・・


くっくっくっ、モロに食らいやがったぞ、あいつ。


さて逃げろや逃げろ・・


はははは、あいつ、吐いて、くくくくく・・


ざまあ見やがれってんだ。


顔にベッチョリ、くくくくく・・


でも、捕まったら殺されるな、きっと。

でも心が平静なんだ。

ならさ、捕まるまで逃げるってのも面白そうだろ。

爺さんが居なくなってさ、オレ、張り合い無くしちまったのかな。

オレの料理を旨い旨いって食ってくれてさ・・

本当に何処に行っちまったんだよ。

本当に殺されちまったのかよ。

爺さん・・うおっ、あの野郎。銃とか持ってんのかよ。


裏も裏、大裏だ。


となると、こっちだな。

ここは気を付けないと、落とし穴があるんだよ。

それも天然の。


よっ・・ほっ・・はっ・・・とっ・・ふうっ、まだやれたか。


さて、ここからこっちに・・お、今何か音がしたな。

赤点が止まってるな、落ちたか、くくく。


アレ多分、猪の巣穴の古いやつな。

だから中に色々と腐ったものが、くくく。


基地に到着して中に潜り込む。

久しぶりに来るけど、変わってないな。

お、干し肉発見。硬いけど食えるか。

赤点は止まったまま・・

ふうっ、しばらく寝るか。


起きたら赤点は遠ざかっていた。

諦めたとは思えんが、何かの用事でも出来たんだな。

あんなに有能なら、顧客とか多そうだし。


この辺りはオレの庭・・とまでは言わんけど、爺さんの山なのは間違いない。

だから自由に狩りとかやれたんだけど、ここでしばらくのんびりするかな。

都会の喧騒も疲れるだけだし、出来るならここでずっと・・

ふあぁぁぁ・・もうちょいと寝るか・・


     ☆


あれから1ヶ月、まだ来ないな。

猪も狩って干し肉の追加もかなり出来た。

塩と胡椒の在庫が怪しいが、まだいけるだろ。

あれからスマホの電源は入れてない。

個人でGPS探れるとは思えないが、裏は何をするか分からんって爺さんに言われてる。


てか、今から考えると爺さんも裏に狙われた事があったのか。

妙に詳しかったけど。


この皮鎧もかなり磨り減っているな。

猪対策に猪の皮を使うってのもなんだけど、これでかなり助かったのは事実だ。

弦が朽ちてんな、この弓。張り替えとくか。


弓の弦の買い置きは・・あれ、オレこんなに・・

ああそうか、卒業ん時にまとめ買いしたんだわ。

もうここら辺り来ないからって。

3ダースもあるからどうしたのかと思ったぜ。

荷物に入れとこう。

さて、明日は兎狩りでもしてみるか。


4羽獲れたから毛皮なめして、肉は燻製にして・・

塩コショウだけだけど、あっさりして旨いな。

そういや、もう矢が無かったんだったな。

作っておかないと・・

使い回してたんだけど、この際まとめて作るか。


     ☆


そして3ヶ月目にスマホの電源を入れる。

あれから全く来ないんだ、さすがに準備も終わってるし、対決したいしな。

じらし作戦は嫌いなんだ。

来るなら来い・・


来ねぇじねぇかよ、何してんだよあいつ。


仕方が無いからスマホでニュースとか・・


うえっ、あいつ、行方不明?

なんだよ、ツアーもう無いのかよ。

予約はどうなった。

半年後とか言ってなかったか。

だから連絡入れようかと思ったのに。


契約違反だな。


やれやれ、探偵さんと真剣勝負、楽しみにしてたってのに。

気が抜けちまったな。

これからどうしようか。

まあいい、荷物纏めてひとまず山を降りるか。


拠点移動するならこの工具類も持って行かないとな。

高かったんだからさ。

薬品類もこの際全部だ。

山鳥の羽はもう無いな。

全部矢にしちまったからな。


干し肉を全部となめした皮を全部・・兎の毛皮、意外と売れるんだよな。

この辺りって何故か兎の宝庫でさ、3ヶ月で猪2頭、兎18羽が獲物だ。

んで、干し肉は猪大量。

兎はみんな食っちまった。


後は山鳥が3羽かな。

あいつは焼き鳥にしたんだけど。


今も噛んでる天然ガムって感じに弾力があって・・

焼いて干したんだ。

そうしたら日持ちのする天然ガムになる。

干し肉は食事だけど、こいつは嗜好品だ。


あいつの赤点は遥か彼方・・

広域にしても相当遠いぞ・・


あれから山伝いに移動するのは念の為だ。

相当に遠い赤点、だから恐らく今は問題は無いとは思うが。

油断は出来ねぇな。


しっかし荷物がさすがに重いぞ。

里で物々交換忘れてたな。

てか、猟師に売れたりするんだよな。


あれ・・なんだろう。

妙にあそこ・・

頭のアレで見ると、そこだけ黒い。

んで、目で見るとかすかに揺らいでいる。


ターン・・


うっく、何だと。

くっ、掠めたか。

まさかあいつ、人を雇ったのかよ。

拙い、血の匂いで探られる。

この変な物が何か分からんが、このまま進むしかないか。


うお、落ち・・るぅぅぅぅぅ・・


目指せ2000文字以上。

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