02-01. 論じて拠らえず
〔1〕
「石造りのさして大きくもない広間を抜けると、そこは樹海遺跡であった」
「高き日の照りが目を眩ませた。遠くで怪鳥の鳴き声が響いた」
「振り返れば出てきた建屋は、半ばを樹海に呑まれ沈んだ古神殿のようであった」
「駅長さんはいない」
「まっすぐな耳でさみしい」
「うむ」
「であるか」
「情緒は醸せましたかね?」
「そこそこね」
「そこそこかぁ」
「で」
「ここはどこーよ」
「マップとかリージョン情報は見れねーの?」
「いきなりメタいとこ行くなぁ……」
「この、おれらがさっきまで中にいた神殿っぽいの」
「微妙にピラミッドっぽい雰囲気があるというか、そのくせ意匠や装飾はパルテノン神殿っぽいっていうか」
「だが石積みというには切れ目らしきものが見えない。これは……」
「たとえばスーパーサーメット的な?」
「それっぽい印象は受ける」
「そして木々の這う根に浸食されている。百年や二百年じゃこーはならねーだろっていうダイナミックさ」
「まさかの千年単位でござるか? しかしその割には基部に崩壊など見受けられず」
「そーいやさー、さっきまでいた内部、別に日の光の差しこむ窓があったわけでもないのに真っ暗じゃなかったよね?」
「む」
「あーあれ。なんかこう、床とか壁とか天井が微妙に発光していたぞ」
「紋様というか、回路パターン的なものが走ってる感じだったな」
「おれはいわゆる魔法陣的な印象を受けたぞ」
「おれは電子回路のプリントパターンみたいな印象も受けた」
「ちなみに目覚めてすぐの時はけっこう強めに発光してたが、次第に収まっていってしばらくしたらかなり弱々しい発光が残るだけって感じになってた」
「ほう……。よく見ているな」
「視点が低かったからね! 肉の壁に埋もれてて他に視線も通らなかったし……」
「まごうことなきタル使いの悲劇」
「ていうか操作してて酔うんだよな、あれ。視点が低すぎることといい雑草オブジェなんかにいちいち埋もれることといい」
「あれがいいって人も多かったんだろうが、残念ながらおれには合わなかった」
「だから倉庫キャラとしては初期にパターンを試すための少数しか作らなかった」
「つまり……おまえたちは貴重なタルさんズよ。すごいなーあこがれちゃうなー」
「はっは、それほどでもないタルぅ」
「で」
「周囲を見渡す限りだと……大樹に低木、堆積した土壌やらに大方埋もれてこそいるが」
「ああ。ところどころ露出している硬質な石肌めいた鋭角物やら、たぶんだが後ろの古神殿的なあれと同じで遺跡の一環なんだろう」
「地面もよく見ると舗装されてるみたいだぞ。堆積土壌を軽く蹴っ飛ばした手応えからすると」
「この場所近辺はまだ埋もれが浅いっぽい印象だな」
「あるいは元々が高台的な配置だったのかもしれん」
「あー……。それって運次第ではあの出入り口まで埋もれていたかもってことか」
「うげー」
「まあ、結果は何とかオーライできたわけよ。そこは喜んどこーぜ」
「だーな」
◆
「しかし、この独特の雰囲気」
「うん?」
「何かに似てると思いませんかね」
「あー」
「あるんだけど、ぶっちゃけ指摘していいものかどうか迷ってた」
「似てる似てないだけで言っちゃうなら、ジタロメに似てる感じ?」
「ふむ……かもしれん」
「ロメポン狩りがお懐かしゅうございます」
「不意スピンかきーん!」
「きんこーん、ぱりょ~ん」
「そっちか」
「核熱トス役が見つからなかったんですね、分かります」
「実は分解連携のエフェクトが一番好きだったかも」
「わかる」
「核熱もね、Lv2〆の三連携で150%がっつり削れてた頃の核熱はまさに核熱どかーんて感じで好きだったよ」
「わかる」
「なぜLv3連携の実装で倍率をああしてしまったのか」
「問いたい、問い詰めたい」
「連携だけで狩られたくないのは分かるけど、オーソドックスな三連携でLv2〆するなら75%ダメじゃ悲しいわ」
「そこは100%いってくれよぉ~、ってなぁ」
「Lv3を特別扱いしたいのも分かるし後段が繋がる繋がらないのリスクも分かるんだけど、属性を兼ねすぎたLv3連携は正直大味になっちゃっててな」
「わかる。が、ここでグチを長引かせてもしょーがない」
「そうだな」
「ところでロメポン狩りと言えば」
「なん?」
「まだ月門パス取れてなかった頃、レベラゲパーティ終了後に探すの手伝ってくれたパス持ちの人がいて、さ」
「あぁ~、あれはすげー嬉しかったなぁ」
「おかげで見つけられて、以後は緑の球出しに気後れしなくて済むようになった」
「ありがてぇ。ありがてぇ」
「あの頃はそういう人が当たり前のようにいてくれたんだよなぁ~。まさにMMO冥利に尽きるなっていう思い出だわ」
「うむ」
「うむ。異議なし」
「だから、あれなのかもな」
「ああ。そんな風に心を向けて十年がけの、いわば“魂をすり込んで”きたわけだ」
「しょせんは画面越しのことだと、そうも言えてしまう。しかし」
「“幻ではあっても、嘘ではない”」
「と、そうだとも言えるのだから」
「何か一つ不可思議の掛け合わせがあったならば、いまのような事態だってありえるのかもしれないと」
「否定するばかりの筋合いでは……ないのかも、しれないな」
「そう、だな」
「ああ」
「そう思う」
◆
「ところでもしここが本気でジタロメ的な場所だとすると」
「あ」
「Lv70前後の強敵さんがうようよいらっしゃる可能性がなきにしもあらず」
「ちょ、ま」
「おれらLv1なんスけどぉ~ww」
「めっさ初期装備オンリーなんスけどぉぉ~~www」
「クラスも初期化してるし、スタンダード六種だけや」
「しかも酷い偏り方してる。まず過半が格闘士やぞ」
「そして残りも四割近くが戦士という。この倉庫キャラ仕様が丸出し具合」
「白魔が三名しかいねぇ」
「黒魔は二名しかいねぇ」
「赤魔なんておれ一人きりヒムオw」
「そして魔法修得用スクロールが初期所持品の一つずつだけ」
「ということは」
「最下級の術しか使えねぇじょん!」
「しかもレベル上げたところで、魔法屋さんやら競売所さんやらから入手できる可能性がいまのところ見えないわけで」
「あ、これ」
「言っちゃう? 言っちゃうの?」
「詰、ん、だ、か?」
「言ったぁ~!」
「う~ん。どうだろう」
「実はいままで言わないでおいたこのおれの気遣いとか」
「/slap motion <t>」
「あいたwww 無言で引っ叩かないでくださいよww」
「しかもそのやり方だと無言と言いきれない微妙さがww」
「で」
「とりあえずは」
「周辺を慎重に探索してみるしかない、かな」
「だな」
「ならそのためにもパーティの組み方とか、戦力の割り振りと確認しっかりやっとくべや」
「あいよー」
「おぅいぇす」
「サチコメ書きます?w」
「球出して並ぶかw」
「おう出来るならやってみろwww」
よく訓練された熟成ビーフなら八時間待ちくらい余裕ですし。おすし。