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21/21

第21話 アプリ開発なんてもう嫌い!! でもこのアイデアなら売れるかも…

サーバー代で、私は死んだ。


7万円。


たった、一ヶ月。


だが、放っておけば、毎月。


無人の城に、払い続けるはずだった家賃。


私は震えた。


広告は、止めれば止まった。


血は、止まった。


だが、サーバーは違う。


止めたら、サービスが死ぬ。


私は、月額の出血を、自分で契約していた。


そこで、私は学んだ。


いや、学んだ気になった。


もう、城は建てない。


二度と、あの7万円の城は建てない。


私は調べた。


Firebase。


その中にある、Firestore。


クラウドのデータベースである。


サーバーを自分で持たなくていい。


アプリから直接、データを読み書きできる。


来た人の分だけ、お金がかかる。


誰も来なければ。——ほぼ、タダ。


私は膝を打った。


これだ。


これが、最初から欲しかった。


無人の城に、家賃はいらない。


人が来てから、払えばいい。


ただし、私はそこまで馬鹿ではない。


いや、そこそこ馬鹿ではある。


いや、むしろ天才である。


だが、一応、考えた。


APIサーバーは、いらないのか。


全部をアプリから直接やっていいのか。


ランキングを集計する。


不正な投稿を弾く。


通知を送る。


外部サービスとつなぐ。


そういう処理には、サーバー側のコードがいる。


本物のサービスには、やはり裏側がある。


私は一瞬、あの城を思い出した。


EC2。ロードバランサー。RDS。マルチAZ。


やめろ。


その名前を出すな。


私はもう、城主ではない。


調べると、答えがあった。


Cloud Functions。


必要なときだけ動く、小さなAPIである。


常に立っているサーバーではない。


誰かがレビューを書く。


そのときだけ、動く。


誰かがいいねする。


そのときだけ、動く。


ランキングを更新する。


そのときだけ、動く。


誰も来ないとき、サーバーは寝ている。


私のAWSの城とは違う。


あの城は、誰も来なくても明かりがついていた。


だが、これは違う。


人が来たときだけ、電気がつく。


私は感動した。


サーバーは、いる。


だが、城はいらない。


私はようやく、それを知った。


少なくとも、誰もいない城の明かり代を、毎月払い続けるよりは、ずっといい。


私はAWSの城を畳んだ。落城である。

もう何度王を辞めたことか。


そして、Firebaseに引っ越した。


データはFirestore。


必要なAPIはCloud Functions。


認証もFirebase。


通知もFirebase。


私は、城を捨てた。


小屋にした。


いや、小屋というより、必要なときだけ現れる屋台である。


客が来たときだけ、シャッターが開く。


誰も来なければ、店主も寝ている。


最高である。


固定費は、ほぼゼロになった。


血は、止まった。


サーバーが必要なアプリも、もう怖くなかった。


来た分だけ、払えばいい。


誰も来なければ、ほぼタダ。


たくさん来たら、そのとき考えればいい。


私は少しだけ、大人になっていた。


いや、もうずっと前から大人である。ボーボーだ。


そして。


ほんの少しずつ、だが、売上が立つようになった。


最初の4ヶ月で、7万円。


その後、少しずつ安定して、残り8ヶ月で、16万円。


月、数千円。


良い月は、数万円。


いくつかのアプリを合わせて。そこそこ。


そう、そこそこ、である。


大成功ではない。


バズってもいない。


世界も来ない。


ジョニーも、まだ来ない。


だが、毎月、何かしら入ってくる。


私は初めて、個人開発で食えるかも、と思った。


食える。


なんて甘い言葉だろう。


一年前の私は、アプリで食える人間を、雲の上の存在だと思っていた。

いや、震えて眠れとか言ってた気もする。


だが今、私は毎月、何かしらを得ている。


これは、もしかすると。


もしかするのではないか。

むしろ、右肩あがり、もしかしたのではないだろうか。


私はふと、計算をしてみる気になった。


これまでの収支である。


——答え合わせである。


私は紙を出した。


まず、入ってきたお金。


これまでの総売上。


最初の4ヶ月で、7万円。


その後、少しずつ安定して、残り8ヶ月で、16万円。


全アプリ、一年分を合わせて。


——23万円。


一年で、23万円。


「食えるかも」と言った割には、少ない。


いや、冷静に考えれば、そこそこではある。


個人開発で、一年23万円。


悪くない。


悪くないはずだった。


次に、出ていったお金。


ここからが、本番である。


Mac。


ローン込みで、20万円。


Apple Developer。


一年分で、1万5千円。


AI Agent。


月、1万5千円。


一年、12ヶ月で。——18万円。


部下の給料が、私の総売上に迫っていた。


広告費。


血を流しながら溶かした、5万円。


AWSの城の家賃。


月7万円。


さすがに一ヶ月で気づいて、畳んだ。


——7万円。


経費、合計。


——約53万円。


私は一年で、約53万円使って、23万円稼いだ。


差し引き。


——マイナス、約30万円。


そこそこ売れても、私はまだ、30万円負けていた。


私は紙を見つめた。


おかしい。


食えるかも、と思っていた。


だが、計算すると、私は食うどころか、食われていた。


しかも、まだ終わりではない。


私は、一番見てはいけないものを、計算してしまった。


時間である。


私はこれまで、何時間、これに使ったのか。


私はちゃんと計算した。


平日。


仕事から帰って、毎晩3時間。


週5日で、15時間。


それを、一年。


一年は、およそ50週。


15時間 × 50週。


——750時間。


そこに、土日の追い込みを足す。


スパムと戦い。


gitで泣き。


100文字に世界を詰め。


広告で血を流し。


サーバーの城で迷った、休日。


ざっと、450時間。


平日と休日。


合わせて。


——1200時間。


私は電卓に打ち込んだ。


マイナス、30万円。


割る、1200時間。


——マイナス250円。


時給。


マイナス250円。


私はもう一度、打ち直した。


桁を間違えたかと思った。


間違っていなかった。


だいたい、時給マイナス300円。


正確には、250円くらい。


2026年6月27日の最低賃金全国加重平均で1,121円。

最低賃金どころではない。

賃金が、ない。

逆に払っている。


私は1200時間働いて、30万円払っていた。


働くほど、お金が減る。


これは、もう仕事ではない。


——課金である。


私はアプリ開発というゲームに、時給250円を払って、課金していた。


私は紙を置いた。


時給、マイナス300円。


正確には、250円。


だが、300円でいい。


どちらにせよ、負けている。


これが、私の一年間の。


——答えだった。


完全に、やめる。


時給マイナスの仕事を続ける馬鹿は、いない。


私は紙を丸めて、壁に投げつけた。


——アプリ開発なんて、もう嫌いだ。


嫌いである。


大嫌いである。


考えてみてほしい。


私はこれまで。


スパムと言われ。


★1をつけられ。


ダウンロードは1で、それは私だった。


広告は1日3円で。


世界に出ても、四ヶ国で。


万バズしても、誰も入れず。


広告に賭けて、血を流し。


サーバーに城を建てて、破産した。


何ひとつ、うまくいっていない。


出ていくばかり。


私はもう、疲れていた。


やめよう。


普通の人生に戻ろう。


会社でコミットして。


先輩にレビューしてもらって。


定時で帰る。


それでいい。


私はもう。


アプリなんて。


——二度と、やるか。


ボケ。


金輪際、やるか。


こんな、時給マイナスのゲーム。


二度と、だ。


その夜。


私はヤケ酒を飲んだ。


安い酒だった。


飲んで。


一人愚痴って。


そして、死んだように寝た。


——翌朝。


私はいつものように起きて、いつものように満員電車に揺られていた。


頭が痛い。


最悪の朝である。


私はぼんやりと、窓の外を見ていた。


そのとき。


何かが、目に入った。


ホームの広告だったか。


隣の人のスマホだったか。


——もう、覚えていない。


なんでも、よかったのだ。


とにかく、私は何かを見て、そして、思ってしまった。


「あ。


これ。


——アプリにしたら。


売れるかも。」

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