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第8話 ギルド内の真パワーバランス。

「「すまんっっっっっっっっっっっっ!!」」


 轟音のような謝罪が冒険者ギルド中に響き渡った。


 俺とシルキアとプリアデがそろって通された、ギルドマスター専用執務室の応接テーブル。


 特注の巨大ソファ。

 そこにやや窮屈そうに身を縮めながら、都市テファス冒険者ギルドマスター、ゴルドガルド・カッツェ。

 3メートルを誇る巨人が深く深くテーブルにつくほどにスキンヘッドの頭を下げる。


「「おまえたちの話もロクに聞かずに、スタンピードから逃げた腰抜け扱いしたこと、心より謝罪する! 

 許してくれとは言わねえ! だが……このとおりだっっ!!」」


 再びギルド中に響き渡る、謝罪という名の轟音。


 ビリビリと内臓にまで響く、誠意という名の威圧に防御もできずに対面の俺たちがさらされる中。


「でもでも、しょうがないですよぉ! ギルマスぅ!」


 同じくその渦中にいるはずの、ギルマスのすぐとなりにちょこんと座る、例のずっとギルマスの太い脚にすがりついていた三つ編みツインテ眼鏡っ娘。

 いまは、深々と頭を下げた巨人の腕にピタッと小柄な体で抱きつくようにして。眼鏡の奥の緑の瞳で俺たちをジイッと見つめながら口を開く。


「まさか、こんな短時間でスタンピードの依頼で成果を出して帰ってくるなんて、誰も思ってなかったんだからぁ!

 ……んぅ? むしろ本当の本当に、いったいどうやって戦場から帰ってきたんですぅ?」


「えーっと、その前に一つだけ。ずーーっとスルーし続けようと思ってたけど。それでもやっぱりどうしても気になるから、いいかしら?」


「はい、なんですぅ?」


 そしてプリアデは、俺たちの誰もが気になりつつ。

 ……でも、なんかなぁ。絶対に面倒そうだし、たぶんスルーしたほうがいいかな? と思っていた疑問を口にした。


「ず、ずいぶん仲がよさそう? なんだけど、あ、あなたとマスター・ゴルドガルドって、どんな関係なの?」


 すると、にんまりと笑って三つ編みツインテ眼鏡っ娘は宣言した。


「これは、名乗るのが遅れて大変失礼しましたですぅ。

 わたしは、メイジー・カッツェ。15歳の成人したてほやほやの、うら若き乙女ぇ。

 ここにいるマスター・ゴルドガルドの妻ですぅ」


 途端、ビキッと顔を引きつらせて、プリアデがふかふかのソファの背もたれ、その限界まで後ずさる。


「せ、成人したて、ほ、ほやほや……!? そ、そう! ず、ずいぶんと歳の離れた奥さまね! そそ、そういうのは、こ、個人の自由だから、あ、あたしは、いいと思うけど!」


「ま、待てっ!? 超絶誤解してんじゃねえ!?」


 その瞬間。弾かれたようにゴルドガルドが真っ赤にした顔を上げた。


「おいこら! プリアデ・ペディントン! D級のくせに、この俺にあんな目を見張る啖呵切っておいて! 何を素直に騙されてやがる!?

 こいつは姪だ! 名字が同じなのも、そのためでっ! まだ小さい頃から、いろいろ遊んでやったから! やたら懐いてるってだけのっ!

 おい! おまえも悪ふざけばかりしてないで、なんとか言えっ! メイジーっ!」


「てへっ。うっかり、間違えちゃったですぅ」


 まったく悪びれた様子もなくペロリと小さく舌を出し、さらにメイジーは続けた。


「正しくは妻(予定)でしたぁ。将来を誓いあった約束のあかしもぉ、ここにぃ、ほらぁ」


 見せびらかすように高く掲げたメイジーの左手の薬指には、キラリと指輪が光っていた。


 さっきの「妻です」宣言では微動だにせず、「うん。なかなかいい茶葉ですね。【家】には劣りますが」などとお茶など嗜んでいたシルキア。

 ──が、まさかの物証。

 今度はビクゥ! と弾かれたようにソファの背もたれの限界まで後ずさり、さらに端ぎりぎりまで体を寄せて目に見えて怯えてみせる。


「ばっ!? そ、それはガラス玉のおもちゃの指輪だろうがっ!? しかもまだいまより幼いおまえが!

『やだやだぁ! 買ってくれるまで、ぜぇぇったいおうち帰らないぃっ!』

 ってわーわー泣いて駄々をこねるから、仕方なく買ってやったやつ! しかもなぜか当時ブカブカのやつを! 

 なんでいまごろになってつけてんだ!? そんなもん、いつまでも後生大事に持ってんじゃねえっ! つーか、百歩譲っても、職場に持ってくんなっ!」


「やぁん! ゴルガルおじちゃん、こわぁい!」


「べ、ベタベタひっつくのは何度言ってもやめやがらねえから、もうとっくにあきらめたが……!

 しめしがつかねえから! 職場では、ギルドマスターって呼べって、いつも言ってんだろうがっ! メイぃっ!」


 こめかみを引きつらせたゴルドガルドと、ピッタリと腕に寄り添ったまま、てへぺろひらりとかわすメイジー。


 ……あー。よくよく見れば、いま至近距離で顔つけ合わせてるこの二人、確かに瞳が同じ緑色だな。なるほど、血縁ね。


 それにしても、ギルマス……マジでしてやられてんなぁ。


 まるで夫婦漫才。いつものことというように息ぴったりのやりとりがギルドマスター形勢不利に繰り広げられ、ポカーンと俺たちがそろって唖然とする中。


「では、あらためましてぇ。ギルド職員を代表して、いまだ想像だにできない事態とはいえ、いわれのない疑いをあなたたちにかけたことを。

 妻(希望)のメイジー・カッツェが、夫(予定)のマスター・ゴルドガルドの不始末もあわせて、心より謝罪いたしますぅ」


 そうしてメイジーは、深々と綺麗な所作で頭を下げた。


「もう、それで……いい…………!」


 巨大な両手で顔を覆い、深々とした苦悩とともに、その隣でソファに深く沈むゴルドガルドが絞りだす。


 ……苦労してんなぁ、ゴルドガルドのオッサン。あと、尻に敷かれそうだ。


 ……たぶん、一生。

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