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第6話 ギルド。騒動は…穏便に?

 ──地方都市テファス。


 ここ、バーズナン王国の南部に位置する中規模な地方都市で、人口は約10万。


 中心が行政区と貴族や豪商といった富裕層。それから外へと平民居住区、産業区、商業区といった、はっきり言えばよくある構造だ。


 街の規模に相応しく強固な円周上の物理防壁と魔力障壁に覆われ、敵の侵入を防ぐ。

 防衛を担う騎士や兵士団もそれなりに精強らしい。


 まあ、俺たちと【俺の家】の活躍で、もう解決して心配はないわけだが。

 

 そうでなければ、あのオーク五千体のスタンピードはおそらく戦略的撤退。

 冒険者、騎士兵士団合同で都市での籠城戦に持ち込む羽目になったんじゃないだろうか。


 数はあまり多くないみたいだが、防壁には外的対策の魔導砲も備えてあるし。そしてなにより、プリアデから聞いた。


 ──この都市には、音に聞こえた元A級冒険者。それも二つ名持ちの英雄がいる。


 そして、商業区と産業区の境。


 わいわいと賑やかな酒場や食事処の喧騒を横目に、ようやくたどり着いた冒険者ギルド。


「おお、ここが!」


 ──中に入った俺は、物珍しさ丸出しで、辺りをきょろきょろと見回した。


「……んー? なんか、思ったより少ねえな?」


 俺とシルキア、そしてプリアデが揃って訪れたそこは、石造りの立派な外観の建物に反して、中は閑散としていた。


 複数ある受付カウンターにいるギルド職員も、いまは一人だけ。それ以外の職員は、パタパタと表と裏を行ったり来たり。いまも三つ編みツインテールを揺らして、一人駆けていったところだ。

 そして、少数いる見るからに荒くれらしき男たちは、全員赤ら顔で、漏れなく飲んだくれている。


 打ち合わせ用のテーブルに突っ伏して酒瓶を抱え、いびきを立ててぐーすか幸せそうに寝てる奴まで。


 ……まだ夜に入って間もないっていうのに。もしかしてあいつら、昼からずっと飲んでたのか?


「ヒキール。あたしやあなたも参加した例のオークのスタンピードがあったでしょ? 街にいた冒険者の大半は、あれに参加してるのよ。たぶんギルド職員も裏で忙しくしてるし。

 いつもなら、この時間は依頼を終えた冒険者と対応する職員たちで、もっと賑わってるわ」


「おお、なるほど! そうか! ……ん? じゃあ、ここで飲んだくれてる奴らは、いったいなんで……あ、そうか! スタンピードの依頼に参加できないくらい、弱っちいってことか!」


「ちょっ……!? ひ、ヒキール! 間違いなく本当のことかもだけど、こ、声が大きいわよっ!」


 ドンッ!


「おいごらぁ! 聞き捨てならねえなあ! そこの生意気なガキに、金髪の綺麗なお嬢ちゃん!」


 中身がこぼれるのもかまわず酒瓶で強くテーブルが叩かれた。

 ガタガタといっせいに立ち上がった荒くれ男たちが5人、ズカズカと俺たちのもとにやってくる。


 この騒ぎでもぐーすかと寝ている男は、むにゃむにゃと幸せそうに寝言を言っていた。


 取り囲む荒くれ男たちの中で一番の大男が酒臭い息で上からまくし立てる。


「おい、ガキぃ! てめえこそ、銀髪美人メイドに、金髪冒険者の嬢ちゃんと! タイプの違う綺麗どころ2人も侍らせて! 

 それも3人そろって冒険のぼの字も知らないような新品みてえな衣装でなんのつもりだ! ああ!」


 唾を吐き散らし、まるで見当違いなことを言う大男に、俺はゆるゆると首を振る。


「は? 違えよ。何言ってんだ、あんた。俺たちはスタンピードの依頼を達成したばかりの帰りだし。

 それに俺たちのこれは新品じゃなくて、俺の発明した特殊な汚れ落とし剤と、なにより俺の自慢の姉で家族、ここにいる超万能メイドなシルキアの腕で新品同然なピカピカに──」


「あああっ! ガキぃっ! ごたごたごたごた、うるっせえぞ!」


 業を煮やしたように叫び、野太い腕が振り下ろされる。


「ちょっ、ヒキール!?」


 慌てたプリアデが叫ぶ中。はあ、とため息を吐いた俺は、そばに控えるシルキアに視線を向けた。


「……シルキア、これ、不可抗力でいいよな?」


「ふふ。はい、もちろんです。ヒキールさま」


 シルキアがこくりとうなずいた、直後。


「あぎがああああぁぁっ!?」


 バヂッ! 野太い悲鳴を上げて、大男が仰け反り背中からドォンと床に倒れる。


 無惨に、まるで焼け焦げたようになった腕。


 俺が全身にまとう青い火花のような魔力の残滓を見ながら、プリアデが呆然とつぶやいた。


「ひ、ヒキール……!? もしかしてあんた、いまのこれ、あの【家】と同じ……!?」


「ん? ああ! このゴテゴテした外套一つで、簡易魔力防御障壁機構になってるんだ。いいアイデアだろ?

 ただでさえ何もしなくても俺にはキツイのに、【家】の外は何かと物騒だからな」


「「な、なんだ、こいつ……!? た、ただのガキじゃねえ……!?」」


 取り囲んでいた男たちがいっせいに後ずさる。


「おいぃ、子分ども。なんの騒ぎだぁ?」


「はっ!? ぎ、ギガスさんっ!」


 そのとき。男子トイレの扉が開き、のっそりと大男が現れた。


 ーーデカい。さっき結界に弾かれた男が小柄に見えるほどのデカさだ。2メートルを優に超えている。


「へへ、終わりだ! ガキ! 脳みそまで筋肉がぎっちりバッチリ詰まった! 腕っぷしだけが取り柄なギガスさんなら、さっきのてめえの妙な手品も!」


 ……えええ。おまえ、子分のくせにナチュラルに親分の悪口めちゃくちゃ言ってねえ?


 荒くれたちの中で一番小柄な男がぎゃあぎゃあと指を差しわめく中。


 ギガスと呼ばれた大男がズゥンと俺を見下ろし聳え立つ。


「あー、よくわからねえが、ガキ。とりあえず、てめえは潰す。

 そんでそこの綺麗な女二人には、げひひ。とりあえず酌でもしてもらおうかぁ。オレさまのこのぶっとい両腕にバッチリ侍らせてなあ」


 ……まあ多分、この脳筋大男が俺の簡易防御障壁を突き破ることはないだろう。


 ーーけど、いまの台詞は。


「……あ?」


 太い首を傾げる脳筋大男に向けて、俺は右手をかざした。


「あ、じゃねえ! 汚い手で俺の家族に触れようとしてんじゃ、ねえよ! ──〈衝電撃〉っ!」


「ぎぎががあああぁぁっ!?」


 右手首の魔導具の腕輪が唸り、光る。

 行動停止程度に出力を抑えた、それでも強力な電撃。

 それを受けた脳筋大男がひざからくずれ落ち、ズゥンと泡を吹くと、一撃で気絶。


「うう、嘘だろぉっ!? あ、あの腕っぷしだけが取り柄の超脳筋ギガスさんまで、い、一撃でっ!?」


「──ああんらぁ? まぁたギガスちゃんたちが暴れてると思ったら、なんか初々しくてカワイイ男の子がいるじゃなぁい?」


「はっ……!? さ、サキュアさんっ!」


 またしても、今度は女子トイレから。

 やたらと胸を開いたけばけばしい衣装を着た女が現れた。

 多分美人……と言っていい顔立ちとは思うが、かなり化粧が厚い。


「へ、へへへへっ! こ、今度こそ終わりだな! ガキっ! こう見えてこのサキュアさんは、ギガスさんよりも上なC級冒険者! 

 目をつけた駆け出し男冒険者のファーストキスを奪うのが生きがいというマジクソヤバい女で、“初物食い”の不名誉な異名を持った……そうだ。俺も昔、キラキラとした駆け出しの頃に、無理やり……う、ううああぁぁっ……!?」


 ……えええ? 今度はなんか自爆して、勝手にトラウマ抉られてるんだけど?


 っていうか、あの男が駆け出しの頃って、あのサキュアって奴、いま何歳だよ? 

 ていうか、ちょっと問題ある冒険者多すぎだろ! このテファスギルド!


「うふふふふん。あらあらぁん、怖がらないでぇん。すぐに終わるわぁ。優しくし・て・あ・げ・る・からぁん」


 ……うーん。けど、マジで困った。


 魔力防御障壁は攻撃に反応するようにしか設定していない。かといってギガスのときみたいに衝電撃を使うのも、なんだか気が引ける。


 一歩後ずさる俺のそんな気持ちを察したのか、プリアデが「ヒキール!」と、かばうように一歩前に立つ。


 ――そしてそれよりも速く、シルキアが、一足で駆け、跳び、


 迫るサキュアの前で空気を切り裂き――メイド服のスカートが空中で二度連続で翻った。


 シルキアの靴先が鋭く二度鼻先を掠め、


「ひ、ひぃあっ!?」と小さく悲鳴を上げ、反撃をする間もなくサキュアが尻もちをついた。

 俺からはほとんど背中しか、前髪で表情が見えないシルキアがサキュアを見下ろす。


 ――その一瞬、確かに空気が凍てついた。


「ひ、ひぃぃぃぇぇっ!?」


「ふふ、これは失礼しました。あなたの鼻の頭に、虫が止まっていましたのでつい……脚が二度も。

 ところで、まさかあなたはーーヒキールさまにとまろうとする悪い《《虫》》ではありませんよね?」


「ひゃひゃひゃひゃ、ひゃいいぃぃっ!?」


 全身から脂汗と両目から滂沱と涙を流しながら、こくこくと壊れたように「ひゃいぃ!」と何度も何度も何度もうなずくサキュア。


「はい。結構です」


 メイド服のスカートをつまみ、尻もちをつくサキュアの前、丁寧にシルキアが頭を下げる。


 凍てついた空気がほどけ、同時にパリンとサキュアの厚化粧がひび割れる。


 ……えええ? マジでどんだけ塗ってんだよ。



「ふふ、さすがね。シルキア。あたしの出番なくなっちゃったけど」


「失礼しました。プリアデさま。ふふ、なるべく《《穏便》》に済ませたかったものですから」


 合流し、わかりあったように爽やかに笑顔を交わす女性陣2人を前に、俺は視線をその先に向ける。


 先ほどの、魔法でもないのにギルド中の空気を凍てつかせたシルキアがよほど怖かったのか。

 サキュアはいまも涙をぽろぽろと流し、ひざを抱えてガタガタと震えていた。


 ……穏、便? けど、あれ? 涙で化粧がほとんど落ちてるけど意外とサキュアの肌、綺麗だな?


 そして、これでようやく一件落着かと思ったそのとき。


「「てめえらぁっ! スタンピード討伐にも参加しないクズ冒険者くずれどもがぁっ!

 このクソ忙しいのに俺のギルドで、何暴れてやがるっ!」」


 ――ギルド中をビリビリと怒号が震わせた。


 さっきまでの騒ぎの間ですら、ずっとぐーすかと寝ていた男があわてて飛び起き、テーブルの下に潜り、頭を抱えて激しく震えだす。


 騒動を起こしていた不良冒険者たちがそろって顔を青ざめさせた。


「こっちですぅ! ギルドマスター! あの見た目駆け出しっぽい3人組の冒険者たちが、素行の悪い不良冒険者たち相手に、ちぎっては投げの大暴れをぉっ!」


 ズゥンッ……! と地響きを立てるような足音。


 そして、ギルドの奥から。


 ギルドに来たときにちらりと見かけた、三つ編みツインテールで眼鏡をかけた少女のような女性職員をなぜかまるで子どものようにひしと脚にすがりつかせた身なりのいい──巨人。


「「てめえらぁぁっ! いったいなんのつもりだあぁぁっ!」」


 拡声魔導具も使わずに、ビリビリと建物全体を震わせる怒号。


 さっきの大男ギガスが小柄に見えるほどの人間離れした巨躯。

 身の丈3メートルを超えるスキンヘッドの超大男が怒りに目を血走らせて現れた。


 ……え、えええええっっ!? いやいやいや、いくらなんでも、ちょっとデカすぎねえ!?

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