第39話 そして再び【家】は"一歩"を踏み出す。
照りつける太陽の下。
少し雲の多い青空の、【俺の家】の前。
「くかか! 本当にいろいろっ世話になったのう。おぬしらと過ごした時間は、本当に得難いほどに楽しく愉しい、本当に久方ぶりの最高のひとときじゃった。
それに最後にはまさかの、こんなすばらしい"らぶりぃ"なサプライズまでもらってしまったからのう」
そう言ってアマシュは、自らの衣装の袖をぴらりと広げ、くるりとその場で一回転してみせる。
そう。
最初のまるでサイズの合っていない、ブカブカの桃色花模様の羽織と着流しではなく。
超万能敏腕メイドのシルキアがアマシュのサイズぴったりにこの短時間で仕立て直し、破れた部分や縁をフリルやレースたっぷりに飾りつけた。
素のキモノの良さは生かしつつも、いまのアマシュにぴったりの幼女らしいかわいさと愛らしさ全開に生まれ変わった衣装を。
「本当に本当にすばらしい出来じゃのう……! シルキアよ、本当にありがとうなのじゃ! おぬしはわしの知るかぎりで、最高のメイドじゃ!
それと、これも本当にもらっていいのかのう?」
「ふふ、お褒めにあずかり光栄です。アマシュさま。ですが、どうかお気になさらず。"我が【家】の客には最高のおもてなしを"がメイドとして、家族としての私の信念ですので。
はい。もちろんお持ちいただいて結構ですよ。私の使っていたおさがりではありますが、子ども用メイド服、大切にしていただけたならうれしいです」
「うむ! もちろん大切に、大切に着させてもらうのじゃ!」
そう言ってアマシュは、うれしそうにポンポンと巾着型の魔法鞄をたたいた。
「さて」
つぶやき一度目を閉じると同時に、アマシュのその小さな体から放たれる気配が一変する。
空気が震える。ひしひしと肌に感じる、圧倒的な"圧"と魔力。
「では、往く前に、約束を果たそうかの。──しかと刮目せよ。プリアデ」
プリアデに、自らの弟子に視線を向け。すらりと音もなくアマシュが腰の真紅の長刀を抜き放つ。
その一挙手一投足、いや、指先や瞳のほんのわずかな動きさえも見逃すまいと。プリアデは瞬きすら忘れたようにそれを見ていた。
アマシュの体が、手が、刀が真紅に輝く。
「──〈世斬〉《よぎり》!」
上空へと、一閃。
それはまるで、世界そのものが二つに割かれたかのような。
そして、紛うことなく天が、空を舞う雲が斬り裂かれ。
自らが斬り拓き、雲一つなくなった青い空に、アマシュは音もなく跳び上がる。
「くかか! ではな! 今日は最高に楽しく、愉しかったぞ! シルキア! プリアデ! ヒキール! 湿っぽいのは苦手じゃから、大仰な別れなどはせぬぞ!
それに、おぬしらとはいつか必ず、もしかしたら近いうちに、また必ず会うことになろうからな! それまで精進せよ! くっかっか! わしはいまから、その日その瞬間を心から楽しみに、愉しみにしておるのじゃ!」
そして、真紅の刀を腰に納め空中でくるりと身を翻すと。
「さぁて! 今度こそ一つ腕慣らしと次に"あやつ"と会うときのための土産に魔石をとりに、わしはヴォルガノ火山に、火【竜殺し】でもしにいくかのう! くっかっか! かーかっかっか!」
来たときと同じように。
パァン! と空気を激しく震わせ、己が真紅の魔力の光を尾としてきらめかせながら、アマシュは青空の彼方へと駆け去っていった。
その背を見送り、雲一つない青空を見上げながら、俺はこぶしを握りしめる。
──あれが、S級冒険者。【武天】アマシュ・ヘイヴンズ。
俺たちが【俺の家】と家族勢ぞろいでも、本気の戦闘なら、いまだまったくとどかない天上の存在。
「──待って。いまの魔力の動き、もしかして……! あれがヒント……! なら、あとはあたし次第ってことね……!
うん! そうと決まれば、こうしちゃいられないわ! 行きましょう! ヒキール! シルキア! 次の目的地に!」
じっと考え込んでいたプリアデが顔を上げる。
「アマシュに負けてられないわ! あたしたちは、これからよ!」
「ええ。そうですね。プリアデさま。私も、負けていられません。〈空蹴〉。アマシュさまとヒキールさまのおかげで会得したあの技術には、まだまだ先がありそうです。
次にお会いするときにはメイドとしてだけでなく、アマシュさまに今度こそ、ぎゃふんと言わせてみせましょう」
澄み渡る青い空のように、どこまでも前を見つめるまっすぐな瞳。
どこまでも深く澄んだ紫水晶のように俺を見つめる温かな瞳。
──俺は、ワクワクしていた。
あれが、頂。いや、その一つなら。
──俺たちは、【俺の家】は、まだまだもっともっと、強くなれる。
秘境に魔境、そして未踏領域。
まだまだ知らない場所や冒険、そして新たな出会いが、これからもいくらでも俺たちを待ち受けている。
「よっし! 行くぞ! プリアデ! シルキア! 次に目指すは、隣国! 石の国オルスト!
そして狙うは、魔物最強種が一つ──結晶竜だ! やるぜえぇぇっっ!」
「「ええっ! (はいっ)!」」
高々と透き通る青い空に俺たちはこぶしを突き上げ、誓いを立てる。
そして、次なるまだ見ぬ冒険へと。
蒼穹の下。
──俺たち家族は、【俺の家】は確かな、新たな一歩を踏み出したのだった。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
ひとまず、これで完結となります。
評価いただけると嬉しいです。
ではまたいずれどこかで。




