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第20話 決めていた、朝。

 ーーあえてカーテンを閉めなかった客室の窓から、昇りはじめたばかりの朝の光が差し込む。 


「……うん。そろそろ、いいかしら」


 あたし、昨夜なったばかりのホヤホヤB級冒険者プリアデ・ペディントンは、パチリと目を開けると。


 ついに一睡もすることなく一晩を過ごしたベッドから、音を立てないように、ゆっくりと立ち上がった。


 ーー別に寝心地が悪かった、とかではない。むしろ最高だったと思う。

 こうして一睡もしていないにもかかわらず。横になるだけで多少なり魔力や体力の回復ができているのだから、むしろ本当にすごい。


 昨夜いろいろと、ベッドに組み込んだ魔導装置による回復効果の仕組みについて、あたしに説明してくれたときのヒキールの言葉を借りれば、"超絶快適"といったところだろうか。


 ……まあ、あたしには、やっぱり理屈はさっぱりわからないのだけれど。


 そのときのヒキールの子どものようにキラキラとした瞳と、あたしになんとか伝えようとする必死さを思いだす。


 口もとから思わず、くすりと笑みがこぼれた。


 ーーそう。だから、ベッドのせいじゃなく。


 一睡もできなかったのは、単純にあたしの側の問題だ。


 昨夜。マスター・ゴルドガルドやメイジーと別れ。

 ヒキールとシルキアの二人から、この【家】に再び招かれ。


 簡素と言いつつも、街の外で食べるには十分に豪勢な夕食をシルキアに振る舞わられ。

 二人と談笑し、夜遅くにはなったけど、これも街の外では考えられない広々としたお風呂に再びゆっくりと浸かり、汗を流し。


 やわらかなベッドに入り、シーツにくるまれ、あたしはそれからずっと、考える。考えつづけて、決めた。


 ーーいや、本当は、最初から決めていたのかもしれない。


 昨夜。寝間着でなく、軽鎧を脱いだ冒険者装束のまま、ベッドに入ったそのときから。


 ーー残念ながら、一晩経っても、変わらずに。


 パチリ、と。

 留め金の音も響かないように気をつけながら冒険者装束の上に軽鎧を身につけ、腰に剣を差す。


「……うん。よし、行きましょう」


 客室の扉を少しでも軋まないように、慎重に開く。


 足音がしないように廊下をゆっくりと、一歩一歩踏み出す。


『もしもヒキールたちの夢と、あたしの夢が少しでも重なることがあったら』


 確かに、そう思った。


 そしてきっと、重なると、思う。


 ……本当の意味であたしが、自由になれた、そのときなら。


 けど、いま、あ̶た̶し̶の̶夢̶、あたしの目的は。


『だから、あたしは決めたの! お父さまからも、あの家からも自由になるって! この剣一本で稼いで! ラグリッチ男爵からの借金を綺麗さっぱりに全部返済して!』


 ただただ、あたしを縛りつづけている鎖から、自由になることで。


『頼む……! 俺の夢を、自由、を、奪わないで、くれ……!』


 ーーそのために、あたしのわがままのために。


 あのきらきらとした目をした少年ヒキールの自由を奪うことは、できない。

 

 ……したく、ない。


 【家】の入口の扉は、とてもとても、静かに開いた。


 じゃり、と一歩外に出て。

 すぅ、と新鮮な朝の空気を吸い。振り返り、なんとなく、見上げる。


「プリ……アデ……?」


 暖かな朝の光が差し込む【家】の2階のバルコニー。


 昨日、夕焼け空の下。


 三人でお茶をした、でもいまは誰もいないはずの、そこで。


「……ヒキール」


 ーー驚いたように目を見開き、


 ヒキールが、【家】から出たばかりのあたしを、見つめていた。

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