fragment1
才能。
それは限られた極僅かの人間が生まれ持った天性の能力だ。
そして多分、私はそれを持っていた側の人間だと思う。
勉学に勤しまずともテストでは常に周りの人間よりも高い点数が取れた。
スポーツでも特段練習せずともすぐに高い技量を得ることができた。
他のことだってそう。周囲がいそいそと努力してやっとのことを私はすぐにこなすことができた。
才色兼備。
八方美人。
そんな呼び名で呼ばれることもあった。しかしそのたびに私は内心呆れていた。理解ができなかったのだ。どうして周りの人間はこんな容易なことさえできないのか、と。
そしてそれは私の双子の妹も例外ではなかった。
『どうして貴方は紅葉みたいに、うまくできないの!!』
よく母親は瑞葉のことを私と比較して叱っていた。その度に気の弱い瑞葉は自分の殻に閉じこもって塞ぎ込んだ。私はその光景を耳にする、もしくは目にするごとに、自分の双子の無能さについて理解に苦しんだのだ。
できない双子の妹とできる双子の姉。
気づけばそんな組み合わせで呼ばれるようになっていた。たしか大学2年の夏、くらいだっただろうか。私も妹も同じ大学に進学していたので、その名を耳にすることはよくあった。
それからしばらくが経ってある日のこと。私は退屈な大学の講義から帰ってきて、いつものように乙女ゲームに手をつけようとしたところで急に妹が私の部屋に入っていた。そして入るなり、もう耐えられないとでも言うかのように私に向かって叫んだ。
「どうしていつも私の努力をお姉ちゃんが奪うの!!お姉ちゃんがいるせいで、私、誰にも認めてもらえないっ!!」
その表情は私への憎悪と嫌悪、孤独な惨めさをぐちゃぐちゃにかきまぜたような、何とも言い表せない表情だったことを記憶している。
そして同時にそれは身に覚えのない謂れだったことも。私は特段彼女に悪いことをした記憶はないし、そもそも私は瑞葉に興味がなかったので、それをするメリットさえ見いだせない。私はその意思を表明すべく彼女に対して何かを言い放った。
「――――――」
「っ……」
それが何か、もうぼんやりとして不明瞭な記憶であるから思い出せない。しかし、その言葉を聞いた瑞葉は苦虫を嚙み潰したような、ひどくショックを受けたような顔であんぐらと口を開けていて、目に宿された光は失われていた。そうしてしばらく私を見つめた後、糸が切れたように自分の部屋に戻っていった。
それから私は家にいても彼女の顔を見ることはなくなった。両親曰く、部屋に引きこもったまま出てこないらしい。ただ、与えている食事には手を付けているらしく、毎回食器には手をつけた形跡があるみたいだった。
私は、というと瑞葉は自分に嫌なことが起こると殻に閉じこもる癖があるので気にも留めておらず、相変わらず大学と家を往復する生活を続けていた。
皆、私が薄情で冷酷な人間だと言うけれど、それは違う。私は単に興味がないだけなのだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ唯一興味があるのは、乙女ゲームのことだけ―――その中の一キャラクター、シュリスカ・クラマシスだけ―――なのだ。
彼女は素晴らしい。悪役令嬢の脇役でありながら、その凛とした立ち振る舞いに、私は一瞬で目を惹かれた。そしてそれだけではない。
腰まで流れる光沢を有した黒紫色の髪。
お人形のような白い肌。
上品さを感じる高い鼻。
見た目もすごく私の好みなのだ。
シュリスカ様は私の理想を具現化したような存在、それはまさに私が推す―――いや、崇拝するに値する存在だった。
だから、何であろうと。
それを穢れたものにし、冒涜するアレを私は絶対に許さない。