主との出会い
結局、私の読みは当たっていて、私の睡眠に対する負の定義によってしっかりとダークエネルギーに変わったというわけだ。まぁ、とは言っても日々のレベル上げの足しになるくらいのエネルギーだから、特に鍛錬に大きな影響はないんだけど。
それから特に何もなく2年が経ち、私は主人に仕える年齢になった。屋敷の仕事は疎かにはしていなかったので、クラマシス家次女、アステリア・クラマシスに使える人間として最低の水準を超えていると判断された、らしい。姉貴曰く、
『貴方は今日からアステリア様にお仕えする身。くれぐれもご無礼のないようにしなさい』
なんだとか。いつもは妹である私に甘いのだが、この時だけは厳しい口調で私に諭してくれた。これから本格的に主人に忠誠を誓う存在として私の身を案じてのことなのか、単に私の評価が姉貴の評価にもつながるからなのか。それは定かではないがまぁ、何はともあれ姉貴はクラマシス家長女のメイドをしている。経験者の話は聞いておくのが良いだろう。
そう結論付けた私は早速、ずっと会いたかった念願のゲームキャラと対面すべく彼女の部屋に足を運んだ。
その途中で思ったことなのだが、
「すごく遠い……」
どうしてか他のメイドから聞いた彼女の部屋は、まるで屋敷の外に追いやるかのように隔離されていた。母屋のようなそこは、なんだか薄暗く本当に人がいるとは考えられないような異質さを放っている。
そう言えば、この国は黒髪を嫌煙する傾向があったか。転生時のときの知識が久しぶりに頭によぎる。乙女ゲームへの転生はほぼ知らない状態で始まったと思っていたが、たまには便利なこともあるものだ。
「失礼します。シュリスカ様、いらっしゃいますか?」
数秒の沈黙があった。誰もそれを破ろうとしなかった。私は踵を返す。
「まあ、本当にこんなところにいるわけな―――」
「―――だれか、いるの……?」
「っ……」
今、確かに人の声がした。かすれていて、力のない声だった。それはまるで虚ろな瞳で何もしたくない、と主張するかのような、そんな弱弱しい声だった。
(これが、シュリスカ、様……?)
そんなはずはない。だって、私が知っているシュリスカ様は傲慢で、不遜で、常に人を見下す。挙句の果てには他人を虐めて、自殺未遂にまで追い込んだ、そう、その姿はまさに――――
「―――悪役令嬢、なはず、なの、に………」
気づけば私は主人の許可もなく母屋の扉を開けていた。だが今はそんなことはどうでもいい。
かろうじて小さな窓から日の光が入る母屋の隅には少女が一人、膝を抱えて座っていた。私とそう変わらない幼さの、みずぼらしい姿をした少女だった。目は光を宿していなくて、体はやせ細っているし、フケのたくさんあるぼさぼさとした髪をしている。
陽の光を浴びて黒紫に輝く髪。
宝石のような美しいアメジストの瞳。
それなのに人を寄せ付けない圧倒的悪。
―――――それら全てを包含した唯一無二の存在は、もう、いないのだと知った。
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