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悪役令嬢の召使いに転生した

「ノトリアス伯爵家次女シュリスカ・ノトリアスの従者、アステリア・クラマシス。レベル、そ、測定不可能………」


王立学園の大広間、壇上。私が水晶に手をかざすと、水晶に亀裂が入り、フラクタルのように離散した。だが本来、水晶が割れて消滅することはない。尋常でない魔力を測り取らない限り………。

有り得ないとでも言うかのように、学園の教師たちが目を大きく開けて私を凝視していた。


不味いと思い、我が主シュリスカ様をそーっとバレないように見るも、時すでに遅し。


シュリスカ様に怒られるぅぅ……………。


壇上に突っ立って水晶の故障を願う私を見るシュリスカ様は意外と短気なのだ。貧乏揺すりはするし、あ、ほら爪も嚙んでるし。


召使い、侍女、従者……様々な呼び名があるが、そういう存在として、我が主に恥をかかせてしまったのは主に従う者としてあるまじき行為である。


……ごめんよ、あるじー。


シュリスカ様の召使いとしてできる限り注目を浴びないようにしようと誓ったはずなのに、既にそれを諦めなければならなくなった。どうしてこうなったのか、私は現実逃避をするように思い返す。



私が乙女ゲームの悪役令嬢の召使いに転生したことがはっきりと分かったのは5歳のころだった。

自分はいつの間に召使いという職業に転職したのだろうと思ったのがきっかけだ。


そこでふらりと脳裏にちらつくのは、フードを深く被った長身の男性。薄く口元に浮かべた気味の悪い笑み。


「……っ………」


それからは連鎖するように思い出した。

私がかなり陰気な女子大生であったこと。ゲームばっかりしていたこと。あの日は気怠ながらも帰宅の最中であったということ。

でも、そこからの記憶が途切れたようにないのだ。だが確実なことが一つあった。

私は電車で乙女ゲームをしていたら通り魔か何かに背中を刺されたのだ。どうして背中に痛みを感じない?傷一つない?


それを機にして、しだいに違和感が募る。ここはどこで、自分は誰なのか、と。


私は知っていることがあまりにも少ない。自分、そして姉の名前、あと貴族の従者であること。この領地の名前。それ以外は親の顔も思い出せないし、領地の外にも出たことがなかった。


そこで情報量の不足を憂いだ私は身の回りの物品を漁った。後で伯爵家長女に使える姉に摘まみだされ、説教を受けたのはまた別の話として。地下倉庫には携帯電話やテレビなどといったものはなく、あるのは中世ヨーロッパを体現したようなものばかり。その中には魔道具や魔導書といったものが存在した。文字はよく読めなかったが、少なくとも現代のどこを探してもあのような奇怪な道具や書物はないだろう。


よって、私はこれらのことからここが異世界であると結論を出したわけである。


それを知って1年。私は6歳になり、文字の読み書きができるようになった。子供と言うのは本当に覚えるのが早い。仕事も徐々に板についてきて、大量にあった屋敷の業務を覚え、淡々とこなせるようになったのだ。


そんな、ある日のことだった――――私の運命を変えるような、衝撃の人間に出会ったのは。


「シュリ、スカ様…………」


――偶然だった。


――そして一瞬でもあった。


屋敷の人間と廊下ですれ違うことはそう少なくない。

しかし、初めて会ったその人は私を一瞬で魅了した。


腰まで流れる光沢を有した黒紫色の髪。

お人形のような白い肌。

上品さを感じる高い鼻。


その全てが私の目をくぎ付けにして離さない。


―――綺麗だ。


本当に、心の底からそう思った。


だが――――。


「悪役令嬢……………っ………」


不意に私は単語をこぼす。あぁ、頭がずきずきと痛む。フラッシュバックする液晶画面内の光景と目の前の光景が酷似する。加えて、私に纏わり付く茶髪の髪。


最初は何かの偶然かと思った。いや、そんな都合の良い展開は訪れるはずがないと高をくくっていたのかもしれない。


だが。


ヘンな紫色の髪色をした姉貴。

才色兼備だという噂を聞く伯爵家長女。

能力主義であり、常に姉と妹を比べる伯爵。


そして何より―――


黒髪だからという理由で閉じ込められているらしいシュリスカ様。


―――もう確信した。


私は異世界転生を果たしたのだ。


それも悪役令嬢の()使()()に!


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