どこですか?誰ですか?記憶ないけど頑張ります。
よし、もう一回整理しよう。
目の前に見えるは知らない天井。周りに見えるは誰も寝ていないベッドが複数。ベッド横にある小さな机には何も乗っておらず、窓から見えるは晴天のみ。近くに行って外を見ようにも、身体中に包帯が分かれており、動かすだけで痛みが走る。
うん、なにこれ。
ベッドが複数あって、包帯巻かれた怪我人が寝てるんだからここは病院だろう。しかし問題はその寝ている怪我人だ。自分自身なぜここにいるのか分からない。いや怪我してるから病院にいるんだろうけど、なんで怪我したかも、どうやってここに来たかも、あまつさえ自分の名前すら覚えていない。
、、、詰んでね?
てか、なんでこんな状態で冷静に何度も状況分析なんてしてんだよ。自分で自分が怖いよ。とにかく人を呼ぼう。これ以上は困惑やら痛みやらその他言語化できない様々な感情のせいでどうにかなりそうだ。
「すみませーん!」
痛ったー!なにこれめちゃ身体に響くんですけど!出来るならこれ以上叫びたくない。頼むから誰か来てくれー!
そんなことを思っている間に、ドタドタと足音を立て部屋に看護師と思われる女性が入ってきた。
「よかったー、起きたんですね!デュークさんが貴方を連れてきてから3日も起きなかったから心配してたんですよ!あ、気持ち悪いとか頭痛いとかないですか?今先生読んでくるからもうちょっと待っててね!」
言い終わるが早いか、看護師はまたドタドタと音を立てて出て行った。
いや待って、3日も寝てたって何?デュークさんて誰だよ、そんなチェスの駒みたいな人知らないよ。つか体調を聞いておきながらこっちが喋る前に出てったよあの人。
その後、看護師は男の先生を連れてきて、色々と検査をされた。身体を見てなんだか驚いていたようだけど、気のせいだろうか。
一通り検査が終わると先生は色々と状況を説明してくれた。要約すると、3日前に死にかけだった俺をデュークという人がここまで運んできてくれたらしい。それはもう重症であと数時間遅ければ命はなかったという。傷の状態から見るに狼か野犬か、そういう類のものに襲われたみたいだ。この辺りに狼が出るような場所はないらしいから野犬に襲われたのだろうと先生は笑っていたが、犬に襲われ死にかけ、その上記憶を無くすとは。なんだかショックだ。野生の力、恐るべし。今までもしていないとは思うが、今後何があっても動物をいじめるようなことはしないと心に固く誓った。
記憶の方も、ショックで混濁しているだけで一時的なものの可能性があるとも言っていた。
持ち物はなかったようなので治療費の支払いもできないし、第一このままでは家にも帰れず野垂れ死ぬところだったので可能性があるだけでもありがたい。今は役所に報告して家族を探していもらっているらしい。
このままいけばあと1週間程度で退院できるくらいまで回復するらしいのだが、はやすぎないか?3日前に生死を彷徨うような怪我をしたばかりなのに、そんなものが1週間程度で治るものなのだろうか。医者が言うからには正しいんだろうが、、、おかしいと思う俺がおかしいのだろうか。記憶と一緒に世界共通の常識も抜け落ちたんじゃないだろうな。
しかし、どうしたものか。あと1週間で退院だが、それまでに自分のことを知っている人が現れなかったら、、、孤児院とか行けるんだろうか。孤児院って何歳まで受け入れてもらえるんだ?つか俺何歳だよ。
改めて自分の体を見る。
体動かすと痛いなあ。でもこれは大事なことだからな、今後の人生に関わることだ。しっかりと自分の立場を見極めねば。、、、うん、小さい。いや、大きくはないだな。少なくとも成人はしていないと思う。してないよな?まだ毛も生えてないんだ。こんな成長が遅い成人がいてたまるか。もしいるなら見てみたいものだ。
こうして考え事をしていると、この状況にそこまで動揺していない自分に驚く。いや、さっき自分の状況整理して詰んでね?とか思ったけど。しかしその程度だ。普通ならもっと取り乱したり、不安に駆られたりするんじゃないだろうか。元々がこんな性格だとするなら、以前の俺はさぞ冷静沈着で何事にも動じない心の持ち主だったのだろう。
何事にも関心がない、危機感が足りないだって?やめてくれ、ただでさえ犬に殺されかけて笑われてんだ、これ以上みじめな思いをしてたまるか。
というか、人が死にかけたんだぞ?それを本人の目の前で笑うってどうなの?医者として。もっと励ますとか、不安にさせないような言葉をかけてくれるとかなかったのかね。あーなんか落ち着いたらイライラしてきた。だいたいーーーー
「おう、入るぞ。おう、あん時は焦ってたし血まみれでボロボロだったしであんましっかり見てなかったが、そんな顔してたのか。」
荒々しく扉を開けて、男が入ってきた。
いかにも体育会系というかなんというか。鍛え上げられた筋肉を持ち、爽やかな笑顔を向けている。年は25歳くらいだろうか。
「あの、すみません、俺のこと知ってるんですか?」
「なんだ覚えてないのか。まあ無理もないよな。俺はデューク。3日前に死にかけてたお前を見つけてここまで運んで来たんだ。さっき先生から君が目を覚ましたと連絡を受けて、こうして様子を見に来たんだ。いろいろと聞きたいことがあるんだけど、話せそうか?」
そういうと、男はベッド横の明日に腰掛ける。
キン肉マンだしちょっと怖かったけど、思ったよりいい人そうだ。デューク。そういえば看護師が言ってたな。とすると、俺は今この人のおかげで生きてるのか。
「先生からお名前は伺っていました。命を救っていただき、ありがとうございました。何がなんやらよくわからなかったので、話を聞きたいと思っていたところです。」
「よし、じゃあいろいろと聞いていくぞ。こっちも仕事なんでね。嘘はつかない方が身のためだぞ。」
とたん、デュークの顔から先ほどまでの笑顔が消える。
仕事?先生からどの程度記憶があるか確認するよう言われたのかな。医者がそんなこと頼むか?、、、いや、あの医者ならあり得る。笑われたからな、恥ずかしかったわ惨めな思いをしたわ、それはそれは嫌な思いをしたんだ。あの爺さん、許すまじ。それにしても身のためって、大げさすぎないか。
とくに嘘をつく理由もないし関係ないか。
「まず、お前の名前は何だ。」
「わかりません。」
「どこから来た。」
「知りません。」
「どうしてあんな怪我をして死にかけていた。」
「先生によると傷口から見て野犬に襲われたらしいです。笑われました。」
「、、、おい。ふざけるなよ?」
「ふざけてません。今言ったことは全部真実です。」
「名前も何もわからねえわけないだろ。言ったよな、嘘はつかない方が身のためだって。隠し事しても無駄だ、本当のことを言わない限りお前は自由にならんぞ。お前が子供だからこっちも気を使ってこうして面と向かって話してるが、お前の体に聞いてもいいんだぜ。」
先ほどまでのさわやかな笑顔とは裏腹に、デュークの目は殺意にも似た威圧感を放っていた。
なんだこれ。なんでこんな問い詰められてんだ。なにか怪しまれてるのか?とにかく、この人は何か勘違いしているみたいだ。勘違いなら正さねば。
「あの、さっきから言っていることは全部ほんとのことです。何も覚えていないんです。先生から聞いていませんか?怪我が原因で記憶喪失になっているんです。」
「んな苦し紛れの言い訳が通用すると思ってんのか。そんなのいまから医者に聞きに行けばすぐ嘘だってわかるぞ。」
言い方から察するに、何も聞いていないのか。だからと言って、この言い方はないだろ。確かに聞き手からしたらふざけているかもしれないが、こっちだって真剣に答えてるんだ。決めつける前にまずちゃんと情報は集めてほしいね。
「ええ、どうぞ聞きに行ってください。これで俺の言っていることが本当だったなら、謝ってくださいよ。」
「いいぜ、ちょっと待ってなくクソガキ。」
そういうと、デュークは言動とは違い静かに部屋を出て行った。
何なんだ。本当に意味が分からない。俺が何したってんだ。ただでさえ記憶がなくなって混乱してるのに、なんでここまで強く疑われなきゃいけないんだ。
数分後、気まずそうな顔をしたデュークが戻ってきた。
「まじかよ。」
「まじです。なにか言うことがあるのでは。」
「、、、、かった。」
「聞こえません。」
「すまなかった。お前の言うことを頭ごなしに否定し、話を聞かず問い詰めてすまなかった。」
思っていたより素直に謝るんだな。
「いえ、もういいですよ。普通、こんな子供にあんな態度されたら、何も知らなかったのなら舐められているように感じますよね。」
「お前、見た目以上に大人なんだな。」
「やっぱりそう思います?何歳なんでしょう、俺。」
「自分の年も忘れてんのか。うーん、背格好ははうちの娘のと近いし、10歳くらいじゃないか?しかし10歳にしちゃ言葉遣いはしっかりしてるし肝も据わってるしなあ。」
「まあ、今はどれはどうでもいいです。それより説明してください。なぜ尋問のようなことをしたんですか。」
「それは私が説明しよう。」
「団長!」
いつの間にか、男が扉に前に立っていた。ただ立っているだけなのに威厳を感じる。団長って言ってたな。なんの団長だろう。
「もう一度聞くよ、少年。記憶がないというのは本当かい?」
何だろう。この人の瞳に引き込まれる。変な感じだ。
「本当です。自分がだれかなんて、こっちが知りたいです。」
男は黙り、手を口元にあててこちらを見る。、、、長くないか。20秒くらいずっと黙って俺のこと見てきてんだけど。悪いことなんてしていないのになんだか気まずい。気まずさに耐えかねて目をそらす。そうしてやっと男が口を開いた。
「君が記憶がないのは本当のようだね。怖がらせるようなことをしてすまなかった。私たちは君が危険人物ではないか確かめる必要があったんだ。わけあって君のことは上に報告していなくてね。この件に関して知っているのはこの病院の院長のアルノさんとその助手、それにデュークと私だけなんだ。というのもね、これ、君が持っていたものなんだけど、見覚えあるかな。」
男はそう言うと、ポケットからペンダントを取り出した。細いチェーンの先に綺麗な透き通った緑色の石がついている。
「覚えてないですね。これがどうしたんですか。」
「うん、これね、魔石なんだよ。綺麗に透き通っているだろう、とても純度が高いんだ。でね、これなんだけど、この国のものじゃないんだよね。」
魔石。高純度の魔力の塊。純度が高ければ高いほど透き通り、その透明度に比例して価値が高まる。魔石には魔力をためることができ、それを利用した道具は魔道具と言われる。純度の高い魔石は魔力をためるだけでなく特殊な力を持ち、武器として利用されるのが主流であった。戦争のなくなった近年では貴族が自身の階級や財力を示すための道具となっている。
「現状、魔石を生成できるのは魔法国家のアルスという国だけでね。魔石を使った魔道具は確かに近年庶民も手にすることができるほど身近なものになった。けどね、これは別格なんだよ。貴族の方々が自身の階級を示すものと同じかそれ以上の純度だ。それを君が持っていたんだ。どこかの貴族から盗んだものではないかと疑うのも無理はないよね。」
マジか。俺そんなもの持ってたのかよ。あれ、記憶なくなったことは納得してくれたみたいだけど、泥棒疑惑は全く晴れて無くない?ピンチじゃね?潔白を証明するものなんてないし、俺自身自分が泥棒じゃないと信じ切ることもできないし。なにも覚えてないし。
「えっと、もしかして、俺、凶悪犯罪者だったり、、、します?」
恐る恐る聞く。さすがに震えてきた。そういえばこの人さっき団長って呼ばれてたよな。もしこの人が騎士団の団長だったら、、、終わった、、、新たな俺が目覚めて初日、人生終了じゃん。
「いや、そうじゃないんだ。すまない、君を怖がらせるつもりで言ったわけではないんだ。とにかく、これを見てくれ。」
そういうと団長は震える俺の手にペンダントを乗せる。
その瞬間。今まで透き通っていた魔石は光を放ち、部屋中を緑色に染めた。
「これは、、、?」
「驚いただろう。この魔石、君にだけ反応するみたいなんだ。こんな現象、私も見たことも聞いたこともない。でね、私は少々人とは違う目を持っていてね。ほかの人や物の魔力が色や形としてみることができるんだ。そうするとね。君の魔力の色と形がこの魔石の魔力と全く同じなんだ。不思議だろう?血のつながった親族同士で色や形が似ていることはあるんだけどね、まったく同じ、それも人と魔石が同じというのは初めてだ。どういうことかわかるかい?」
「つまり、この魔石は俺の記憶だといいたいんですか。」
「そこまでは断言できないけどね。可能性は高いと思う。それから、君はこんなものも持っていたんだ。」
そう言ってポケットから三角形の、小さなピンバッジのようなものを取り出した。
「これ、勲章なんだ。私ももらったことがあるから間違いない。と言っても私がもらったものとは違うものだけど。さらに追加に、私はこれを見たことがある。これはね、アルス帝国の魔法騎士団という人たちの身分証なんだ。」
アルス帝国。古来より魔法や魔道具の研究が進み、また魔法を扱うことができる人材が多く輩出されて、魔法を生み出し魔法を生かし生かされている国。またの名を魔法先進国アルス。「アルスなくし魔法なし」という言葉は大陸全土でもささやかれている。
「つまり、俺がアルス国の魔法騎士だといいたいんですか?流石にそれは無理がありますよ。見ればわかるでしょう、俺はまだこんな子供ですよ。岸になんてなれるはずがない。」
「違うよ、話にはまだ続きがあるんだ。身分証といっただろう。この勲章は誰のものかも特定することができるんだ。特定したはいいけど、これにはとんでもない秘密が隠されていたんだ。」
まてまて、話についていけないぞ。さっきから何なんだ。
「それでいろいろ考えたんだけど、やっぱり君に頼むしかないんだ。お願い、聞いてくれるかな。」
「ちょ、ちょっと待ってください。さっきから全然話についていけないんですけど。いきなりいろんな情報がありすぎて頭がパンクそうなんです。つまり、どういうこと何ですか。」
「結論からすると、私は君がだれかを知っている。君が私に協力してくれるというのであれば私は君が以前の君に戻れるよう手を尽くそう。それだけでなく、今後の君の生活も保障しよう。どうだい、悪い話ではないだろう、君は僕と協力してとある問題を解決する。私は君が元の生活に戻れるよう協力する。ウィンウィンじゃないか。」
いやいや、肝心の内容について全く触れてないんですけど。今のところ怪しさしかないんですが。しかし、自分の記憶についての手がかりがこれしかないのも事実だ。この提案を断れば魔石も返してもらえない可能性が高い。ここは罠と分かっていてもこの人の取引に乗るしかない。
「わかりました。で、俺は何をすればいいんですか。」
男がにやりりと笑い、待ってましたとばかりに言う。
「共にアルス帝国を滅ぼそう。」
小説というものを初めて書きました。
とても拙い文章で読むに堪えないとは思います。
とりあえず短編で物語の始まりみたいなのを書いてみました。
感想とかあると嬉しいです。