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ショートショート11月〜5回目

適当がもたらす損害について

作者: たかさば

 東岡さんは、適当な人だ。

 いつも深く考えずに、返事をする。


「すみません、急な用事が入っちゃって、29日のシフトお願いできませんか』

「多分大丈夫だと思うよ~」


 大丈夫だったためしがない。


「どうしよう、これ…廃棄に回した方がいいですよね…?」

「うーん、イケるんじゃない?とりあえず出してみよ、ダメだったら謝ればいいし」


 イケたためしがない。


「なんか目がかすむんですよね、病院行った方がいいかな?」

「ああそれ私もよくなるよ~、すぐに治るし気にしてないけど!もっとひどくなってからでもいいんじゃない?命がヤバくなるパターンなんてそうそうないって!」


 大事おおごとになってしまうパターンしか見たことがない。


「ひどい事言っちゃったから彼氏に嫌われたかもしれない、どうしよう…」

「心から謝ればすぐにラブラブに戻れるって!クヨクヨしてるのが一番良くない!落ち込むぐらいなら、フルパワーで謝り続けた方がいい!」


 誤った判断をして破滅の道に進んだ人を何人も見てきた。


「サークル仲間に気になる子がいて…告白するか悩んでるんすよね」

「当たって砕けろっていうじゃない!縁が切れるわけじゃないんだから、とりあえず告白しちゃいなさいよ!」


 取り返しのつかない大惨事になってしまった人から、何度も恨み節を聞かされた。


「ごめーん、やっぱ駄目だった!明日は自力でなんとかしてね!」

「自分の身体の事なんだからしっかりしなきゃダメじゃない!やっぱ目の事は怖いね!私も気をつけよ…」

「若いんだから次の人探せば?いっそのことマッチングアプリ登録しちゃいなさいよ!モテるわよ!」

「フラれたことを人のせいにしてるうちはモテないと思うよwww」


 しょせん他人事…それが東岡さんのポリシーだ。

 自分の一言で他人がどうなろうと、知ったこっちゃないのだ。


 悩んでいる人が聞きたい言葉を瞬時に見抜いて、サクッと言葉にして返す…それが東岡さんなのである。


 一瞬だけの安心感を得たいのであれば、東岡さんに相談すれば間違いない。

 だがしかし、その安心感はただの安心感たる一瞬の感情でしかなく…、何の問題解決にもなってはいない。

 直面したくない現実から一時的に解放されたとて…最終的には恐ろしい展開が待ち受けているだけなのだ。


 ……本当に相手の事を考えるのであれば、求めている言葉を差し出すのではなく、現実を知らせた方が良いはずだ。


「急なシフト変更はできないので、自分のスケジュールを組む方を調整するようにしてください」

「少し遠いですけど○○眼科は丁寧ですから、ライブに行くのをやめて通院したらいいと思います」

「騒ぎ立てるよりも自分の至らないところを見つめて反省するのが一番重要なのでは?楽観視しすぎですね」

「伝える事しか考えてないうちはアナタに恋愛する資格はないと思いますよ」


 俺は、その人にとって…一番必要だと思われることを、情報として提供しているだけだ。


「……なに、あの冷血漢!」

「人の心、ないよね…」

「絶対にモテないタイプだよ、あの人」

「聞く人間違ったわ」


 自分の感情を最優先して…噂話をする、職場の面々。


「あーあ、優しい上司がいてくれたらなー」

「知ってる?露敏支店の店長って、めっちゃやさしいんだって!」

「あの店雰囲気良いよね」

「やっぱ助け合いだよ、人の心に寄り添う上司がいないとなあ」

「早く副店長のミカちゃんが出世してくれたらいいのにね」

「確かに!優しいしかわいいし、一緒に飲みに行ってくれるし!」


 俺の感情など全く気にすることなく…言いたいことを言う職場の面々。


「またあの人いい加減な事言ってる…」

「だって話の内容がないもん、話すだけ無駄…」

「ババアが必死になって使うおべっかって見苦しい…」

「そういえば新しく入った子聞いた?もうレジの大山さんに食われちゃったって…」

「クリーンの人めちゃめちゃ足クサいよね…」

「チーフフラれたらしいよ、上司としか見れないって言われたんだって…」

「この職場地味に社内恋愛が盛んでウケる…」

「取り残されてるのもいるけど…」


 ………。


 私語の多い職場だな……。


 俺は、年末の契約更新時の昇給は絶対にしないぞと…心に誓い。


 自分の仕事をするために、通信機器の電源を落としたのだった。

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