悪魔と契約を交わした少女
「悪魔はいつも人と交渉するチャンスを狙っているという。悪魔と契約すると代償として命を奪われると言われている」
「先生、何を書いてるんですか?」私の問いかけに先生は「日誌を書いてるんだ」と言った。先生は毎日教室の机や職員室でその日の日誌を書いていた。その姿は度々生徒や他の担任の先生に目撃されていた。
私がたまたま学級日誌を手に取りペラペラと巡っていると、先生にすごい形相で止められた事があった。キョトンとする私に先生は「取り乱してすまない」と謝罪した。「あんなに取り乱すなんてどうして?」と思った。でも気にしなかった。先生が書いているのはいつもの事だったから。
でもどうしても気になった私は放課後こっそりと日誌を見てしまった。先生はどうして日誌を誰にも見せないのか?気になった私はペラペラと巡っていく。そこには過去の日付でその日の事が書かれていた。そして今日の日付には今日起きた事が書かれていた。「なんて事もないただの日誌だ」と思い胸を撫で下ろした。
そして帰ろうとした時、扉が開き先生が立っていた。先生は穏やかな表情で口を開いて言った。「日誌を見たのか?その日誌は書いた通りになるんだ。その日誌が続く限り平和が続くんだ。書いている限りな」先生?私は先生の顔を見た。それはさっきまでと違い悪魔のような冷たい顔をした先生になっていた。
「先生、それはどういうことなんですか?」私は尋ねた。「そのままの意味だ。その日誌はただの日誌じゃない。書いた事が現実になる。」私は信じられなかった。
「僕だって信じられない。だが現実にそうなっているんだ」先生が続けていった。「僕がどうして黙々と日誌を書いているのか?それは書かないと僕たちが消えてしまうからだ!」私は意味を悟れなかった。「分からないだろう?そう誰も気が付かない。今僕たちがいる世界は普通じゃない。僕たちは本当はもういない存在なんだ」私はますます混乱した。
「それは一体?」先生は「僕たちのクラスは事故にあったんだよ。修学旅行の途中で列車事故にね。その時に僕たちは死んだ」そして続けた。「僕たちは確かに死んだ。僕だけはその事を覚えている。僕だけはね。僕は死んだ。でも気がつくといつもの教室にいた。それは事故に巻き込まれる前の過去だった。どうしてそんな事になったのか僕にも分からない。僕が意識を取り戻した時、僕は手に日誌を持っていた。まだ何も書かれていない真っ白な日誌をね」私は頭が真っ白になっていた。
私は頭が真っ白になった。先生の話し方や態度から、先生の言葉が嘘とは思えなかった。それほどヒシヒシと伝わる何かがあった。冗談ではない雰囲気。そう、先生の話は本当としか思えなかった。
混乱した私は先生の顔を見た。やはり悪魔のような表情だった。「悪魔!」と思わず言ってしまった。すると先生は「悪魔?そう僕は悪魔だ」と否定しなかった。その時、私は立ちくらみを感じた。世界がクラッと回転するかのように。いつしか私は列車の中にいた。私はそこが先生の言う修学旅行の列車の中だと直感した。突然の急ブレーキと悲鳴、そして衝撃!私は悲鳴を上げた。
私はハアハアと息を切らしていた。先生は変わらずに扉の所に立っていた。「思い出したね?」先生の声はいつしかしわがれた老人のようになっていた。「ええ、思い出したわ。あの時、私は死にたくないと願った時、あなたが現れた。あなたは私に契約をしようと言った。私は承諾した。私はあなたと、悪魔と契約をしてしまった。私の願いは事故の前に戻る事、学校の生活を続ける事だった」悪魔は言った。「そうだ、交渉は成立した。代償としてお前の命を頂こう。それが悪魔と人間との契約だ」私の魂は日誌に飲み込まれて消えた。そして、この世界も消滅した。
「ああっ、助けて。死にたくないの。私はただ、普通の日常を、いつもの学校生活を送りたいだけなの。誰か、助けて!ここから、救い出して!!」クラスの誰かが日誌を手に取った時、ふいに声が聞こえたような気がした。