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食べへんの?(2)

「お姉さんについてきてー」

 

ご機嫌なピスに続き、ニチネとメリは森の中を飛ぶ。姿は見えないが、遠くで色んな鳥の楽しそうに鳴く声が森に響いている。


「この辺だっけ?」

「そうよ」


 森を抜けると、木の上に木造の家があちこちにあった。遠目だが、人間サイズのエルフたちが過ごしているのが見える。


「すごいやん!秘密基地みたい。こんな風に暮らしてるんや」


興奮するニチネをよそに、ピスは、


「じゃあ、もう見たし帰ろっか」

「何言うてんねん。そういうの食わず嫌いやで」

「ニチネ、さっきから食べることばっかりー」

「何言うてんねん」


言い合いをしていると、一人のエルフが振り向いた。


「気付いたんかな」


近くのエルフと指を差してこちらを見ている。不穏な雰囲気を感じ取ったメリは、


「やめたほうがよさそうね。行きましょ」


 メリに続き、そそくさと森の中へと戻る。


「近くにほかの村ってなかったかしら」

「うえぇー、もういいんじゃない?」

「嬉しそうやな」


しばらく森を彷徨っていると、開けた場所に出た。


「畑や!」


 背の高いものや低いもの、色々な色の植物が植えられた畑だ。ニチネは黄緑色の実を見つけ、手を伸ばす。


「これ、食べ頃ちゃうん?」

「ここの畑は食用じゃないのよ」


 声の近さに驚いて思わず手を引っ込める。顔を上げると、目の前の植物の間から人間サイズの女性の顔がこちらを見ていた。ぷるんとした唇が目を引く赤さだ。


「食べれるんだけどね、顔に塗るのよ。肌に良いから」


 女性が葉っぱをかきわけると、ピスが声を上げた。


「あ!」


 とんがった耳がついているのが目に入る。


「ニンフなんて珍しいわね。いたずらしちゃだめよ」


 長い髪の毛を一本に結んだエルフの女性は、南の島に広がる海のような青い瞳でウインクする。メリは前に出て、


「私たち、エルフに会いに来たのよ。近くの村では何となく歓迎されてなくて、別の村に行こうとしてたんだけど」

「エルフは近くに村を作らないわよ。ある程度距離を取るの」

「そうなの?」


 ニチネは畑を見回して、


「お姉さんがこの畑を作ったん?すごいやん」

「そうよ。私モルフィー。ニンフに褒められたのなんて初めてよ。仲良くしてね」

「あたしニチネ。エルフと会うの初めてなんや。よろしくな。こっちはメリとピス」


 モルフィーと指と手で握手を交わしていると、ピスがもごもごと言い出した。

「エルフって美人なのにお手入れもちゃんとするの……?」

「あたしは美人ってほどでもないわよ。もっとほかにそういう子がいるわ。それに、お手入れしないと差は出てくるし」

「十分美人やけどな」


 メリはモルフィーをまじまじと見て、


「同じ種族じゃないとあまり見分けが付かないんじゃないかしら。ニンフも別の種族から見たら同じように思われてるみたいだし。ところでその美容法、ニンフにも効くのかしら?」

「それはやってみないと分からないけど、試してみる?」

「ピスもやってみたいんじゃない?」

「えっ……!うん」と、ピスは小さく頷く。

「じゃあ、アングーリ塗ってみる?」


 モルフィーは、先ほどニチネが手を伸ばした黄緑色の実をもいだ。


                  *


 畑の横にあるテーブルで、モルフィーはアングーリを切り、ボウルに液体を絞り出し始める。ニチネは覗き込みながら、


「なぁ、エルフが畑を作るって普通のことなん?なんかあんまりイメージなかってんけど」

「確かに変」

「ピス?」と、メリがたしなめる。

「あはは。そうね、珍しいのかも。美容のために何かするエルフはけっこういるけど、育てるまではいかないかな。まあ、だからあたし浮いちゃってるんだけどね」

「でもすごいんちゃう?。こんなにたくさんの植物育てるの。大変やで」


 見渡す限り、ざっと二十種類ほどの植物が目に入る。雑草と思われるものはほとんど生えておらず、きちんと手入れされていることが分かる。


「一人で育ててるから小さい畑だけど、けっこう気に入ってるの」


 スプーンで液体をすくい、ニチネたちに配る。


「お肌に押し付けるようにゆっくり付けてみて」


 言われた通り顔に近付けると、青い野菜のような匂いがする。


「さっぱりするわね」

「でしょう?」


 ピスはおずおずと、


「あたしね、髪をもっときれいにしたいんだけど、そういうのってある?」


 モルフィーはぱっと笑顔になり、


「髪の毛?あるわよ、ちょっと待ってて」


 席を立ち、近くの小屋に入っていった。メリは嬉しそうに、


「良かったわね。ほら、良いエルフもいるでしょう?」

「そうかもね」


 ピスは嬉しさを隠すように口を尖らす。


「(ニンフも美容には敏感なんやな。あたし、化粧もほとんどせんかったし、中学生の頃からほぼそういうの変わってへんけどな)」


 気を回した母親が買ってきた化粧水が何年も減らずに残ってしまったことを、苦笑いで思い出す。


「(あれはさすがに怒られたわ)」


 残った液体を手の甲に塗り、その肌触りに感動している二人を見ながら、


「(こういうのもニンフなんやなー。見習お)」と、感心しているニチネだった。

「あったわよ。これ」


 手の平に小瓶を乗せて持ってきたモルフィーは自慢げに、


「トリアンダーって花の種から採った油よ。今年初めて挑戦したからこれだけなんだけど、付けてみて」


 瓶からピスの両手に油を出し、


「髪にもみ込むの。特に毛先にね」


 ピスが髪をほどき、油をしばらくもみ込んでいると、いつの間にか金色の髪がツヤツヤに輝いてきた。


「きれいやん!」


 甘い花の香りがピスから漂ってきている。


「この油あげるわ」

「いいの?」

「ちょっとしかないし、これだけじゃ私はそんな使えないもの」


 小瓶を受け取り、大事そうに抱えるピス。


「ありがとー!」


 ピスのいつもの調子に、ニチネは呆れ返る。


「現金やな」

「ニンフは(きん)なんて持たないよー?そんなことするの人間だけだって」

「だから、ちゃうって」


 メリがうるんとした瞳をニチネに向ける。


「?どうしたの」

「エ、エト……ことわざみたいなもんやろ」と、目をそらす。

「それを言うなら、取り外せる耳を持っている、じゃない?前にエルフに聞いたことあるわよ」

「何や、それ」


 ことわざについて話し合っていると、モルフィーは小屋から皿を一枚持ってきた。


「食べたそうにしてたし、みんなでどうぞ」

「ええの?!」


 小さく切ったアングーリの乗った皿にニチネは飛びつく。一欠片を口いっぱいに頬張ると、しゃきしゃきとしたみずみずしい食感にわずかな甘みを感じた。


「野菜やな」

「そうよ。本当は風味の強い野菜なんかと一緒のほうがサラダとしては美味しいんだけどね」

「(美味しいんやけど、ドレッシングとかマヨネーズとか油、欲しいなぁ)」


  ちらりとピスの小瓶に目を向けると、しっかりと抱きかかえながらアングーリを口にしていた。


「(さすがに言えへんな)」

「苦かった?」

「え、そんなことないで?美味しいよ」

「良かったぁ」

「こんなにたくさん頂いちゃって申し訳ないわ」

「いいのよ。せっかく遊びに来てくれたんだし」

「こんな歓迎してくれて嬉しい。ありがとう」


 微笑み合っているメリとモルフィーにニチネは癒される。


「そうや。お礼に食べ頃の実、食べに行かへん?」


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