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第3話

全ては順調だった

アレーヌと皇太子――クラデ・ジ・アクセルの婚儀は恙無く執り行われる。

それは国を挙げての素晴らしい物だった。


だがその後、思いもよらない事態が彼女を襲う。


――突然の皇帝の崩御。


皇帝は持病を長らく患っていた。

だが近年はかなり病状が落ち着いており、暫くは問題ないだろうと思われていたのだが、皇帝は皇太子とアレーヌの婚儀後、僅か一週間後に状態が急変して落命する事となる。


それから更に一週間後。

新皇帝となったクラデがアレーヌに対し、とんでもない宣言を行う。


「クラデ様!?どういう事です!?」


「君との縁は、前皇帝である父に無理やり組まれた物だ。私は君を皇后とは思っていない。だから今後君に指一本触れる気はないし、必要最低限の公務以外で顔を合わせる気もない」


「そんな!皇帝陛下が決めた約束を反故になさるおつもりですか!?」


「もう父上はこの世にいない。今の皇帝は俺だ。先代の勝手にした約束など知った事ではない」


アレーヌにとって正に寝耳に水の事態だった。

多額の資産を皇室に寄贈してまで得た約束を、クラデが反故にすると言ってきたのだ。

彼が宣言通り行動すれば、自分との間に世継ぎが生まれてこない。

皇妃の産む男児が跡継ぎになってしまう。


「陛下との約束の為に、私は全財産を捧げております。守る気が無いとおっしゃるのならば、それらを私にお返しください!」


「ふ、アレは皇后になるために納めた物だろう?父とした約束など、書面に残っていない以上言いがかりでしかない」


「書面ならば――はっ!?まさか!!」


反論しようとしていたアレーヌに、クラデが鍵を取り出して面前に掲げる。

それを見て彼女は息を飲んだ。

そのカギに見覚えがあったからだ。


――皇帝との間に残された契約書。


彼が手にしていたのは、その書類を預けてある貸金庫のカギだった。


「嘘よ……」


幼い頃から自分に誠心誠意仕え、唯一信頼できる執事に彼女は鍵を預けておいたのだ。

それがクラデの手にあるという事は、彼が裏切ったか、処分されている事を意味していた。


――そう、彼女は最大の切り札を既に失っていたのだ。


「君が国に寄贈した資産は、セリンへした事への慰謝料として受け取っておくよ」


「そんな……」


慰謝料として受け取るには莫大な資産だ。

それこそ子爵令嬢を殺したとしても、取る事の出来ない程の額。

それを当たり前の様に接収すると宣言したクラデを、アレーヌはただただ茫然と見つめる事しかできなかった。


その後の彼女に待っていたのは、正に転落というにふさわしい物であった。


新皇帝となったクラデは、徹底的にアレーヌを冷遇し続ける。

元々裏でやりたい放題やっていた彼女には真面な味方などおらず、最高権力者である皇帝に睨まれた事で完全に孤立してしまう。

そしてそんな絶望的な状況の中、彼女にセリン皇妃の懐妊という、トドメに近い知らせが届いた。


生まれてきた子は、後継者たる男児。


その日、アレーヌは怒りと憎しみで狂ってしまう。


「殺してやる!そうよ!あの女と子供さえいなければ!陛下は私と子をなすしかないのよ!」


皇妃や世継ぎを殺せば、自分との間に子をもうけざる得ない。

そう考えた彼女は、セリンとその息子を毒殺しようと試みた。

だがその企みは失敗に終わり、更に犯人が自分であった事もあっさり露見してしまう。


狂って正常な判断力を失った狂人が仕掛けたずさんな計画なのだから、それは当然の事だった。

そして如何に皇后の肩書があろうと、皇妃と世継ぎの暗殺となれば待っているのは極刑のみだ。


騎士に捕らえられたアレーヌは、皇城の地下にある牢へと閉じ込められ、今やその終わりを待つだけの身となってしまっていた。


「神様……何でもします。必要なら、この魂だって捧げます。だから……だから……」


狂った様に彼女は天井を見て呟く。

まるでそこに神がいるかの様に。


「私を追い詰めた者達に!苦痛と罰を!!」


そう叫ぶと同時に彼女は自らの舌を噛み千切り、自らの命を絶った。

狂人となった人間の哀れな最期だ。

そこに一切の救いはない。


――その筈だった。


――だが、彼女の声は届いていた。


――そう、神の元へと。

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