第ニ幕
夜も更け、辺りは夏蝉の音が響いていた。その日は随分と暑く、男はなかなか寝付けずにいたので散歩に出た。男はふらりと公園に立ち寄った。男がベンチに腰を掛け、暫く休んでいると蓮のような美しい女が隣に座ってきた。
女 お隣、よろしいでしょうか。
男 (慌てて)あ、はい。…こんな遅くに、何か。
女 いえ、考え事をしていますと寝付けなくて。
男 聞いても。
女 ええ、先日友人から紹介していただいた殿方から好意を明かしていただいたのですが、私がお断りしましたので、友人にどのように伝えるのが良いかと。
男 僕が思うに、何か言い回すより素直に明かした方が気持ちが伝わるかと。
女 そうですね、正直に話します。ところで、貴方は何を。
男 いえ、ただ暑くて。
女 近頃は日が強勢でいますから。ですが、月涼しとも言いますし、こうして空を見上げると心地好いですね。
男 (見上げて)玉鏡ですね。
女 あら、寝付けずに此処へいらしたのでは。
男 不思議なこともあるものだ。
女 なにか。
男 此処へ来るまでは耐え難い暑さだったものが、今や全く感じない。それどころかキミと会うために此処へ来た気さえしてくる。
女 まったく不思議ですね。貴方とは初めてお会いした気がしません。
男 僕もだ。まるで、朔からつごもりまで共にいた。
女 (見上げて)今夜は望月です。欠けていくだけですよ。
男 すぐに既望になる。
女 本当によろしいのですか。
男 ああ、朝曇りから朧まで。
女 また明日、ここで。
やがて、地平から昇ってきた日は女の頬を曙色にそめた。