少年の日の思い出
「やったぁ!」
「でかしたぞよ!」
「――!」
急に魔王様とソーサラモナーが現れ、女勇者に抱き着いて一緒にピョンピョン飛んで喜ぶ。セクハラ甚だしいが……命あってのことだ。
「間一髪だったぞよ!」
「だから俺が言った通りだっただろ!」
ソーサラモナーは何もしていない――!
「でも、本当に良かった……世界が救われました。まさに女勇者こそ真の勇者です」
勇者はこうでなくてはならない……か。
「ハッハッハ! ぜんぶ美味しいところを持っていかれたな、デュラハン!」
……それな。
「なあに、またいつの日か戻って来るぞよ」
「「……」」
ぜんぜん笑えないんですけれど……。
とりあえずは遠のいた危機に……世界中が安堵した。
「魔王様、隕石を落とす魔法など、ただ自爆するだけの魔法でございます」
平和を目指す魔王様らしからぬ魔法で御座います。核兵器や生物兵器のようなものです。
魔王城内の魔食堂で開かれたささやかな打ち上げの後、魔王様と一緒に男湯に浸かっていた。今日は……一段と疲れた。
「若気の至りだ。予も小さい頃は荒れておったのだ」
「……」
荒れていた頃などあっただろうか。昔からボンボンだった気がする。ボンボンはコミックではない。冷や汗も出ない。お風呂に肩まで浸かっているから……。
「そもそも、あの時、デュラハンが予のことを馬鹿にしたから悪いのだぞよ」
「あの時とは……」
昔を思い出す。そういえば、魔王様と喧嘩をしたことがあったような……。
「やーいやーい。デュラハンの顔無し!」
「魔王様のガニ股」
「ガニ股は失礼ぞよ」
「……申し訳ございません」
「やーいやーい。デュラハンの魔法音痴」
「魔王様の青白い顔」
「青白い顔も失礼ぞよ」
「……申し訳ございません」
「やーいやーい。デュラハンの全身金属鎧のカッチカチ!」
「魔王様の……」
「失礼ぞよ」
……。
「いや、子供の喧嘩くらいは対等でお願いします。さらには回想シーンでございます」
度重なる無礼はお許しください。
「いや、許さんぞよ。覚えたての魔法を食らうがよい」
「私には魔法は効きませんよ。いかに魔王様とはいえ」
フッ。それだけが取り柄なのです。
「『落ちろ隕石☆ゴートゥー涅槃!』」
――ネーミング! すっごい凶悪そうな魔法に思わずしゃがんで頭を手で覆った。小さい頃から首から上は無いのだが……。
「……なにも、起こらないぞ。ひょっとして失敗だったの」
「……冗談だぞよ。友達のデュラハンにそんな禁呪文、使うはずないじゃないか。アハハハハ」
「アハハハハ」
アハハハハ……。
「使っとるやないか――!」
思わず湯船から立ち上がり魔王様に湯飛沫がたっぷり掛かった。
「これほどまで落ちてくるのに時間が掛かるとは。手頃なサイズの隕石が近くになかったのだろうなあ、たぶん」
……すっごく時間が掛かった。おかげ様で死に掛けたのだが……。
「少年の日の思い出ですね」
また湯船に肩まで浸かった。
「……アオハルぞよ」
「冷や汗がでます」
「女勇者が隕石を弾き返す瞬間に、予が『時間停止』の禁呪文を唱えたのだ」
脱衣室で魔王様が身体をタオルで拭きながらそう教えてくださった。
「え、そうだったんですか」
小さなハンドタオルで体の隅々まで拭く魔王様……ちょっと嫌だ。バスタオルを使っていただきたい。一番後に顔とかを拭かないで欲しい。最初に拭いて欲しい。
「その他にも『慣性無視』や『リアリティー無視』などの禁呪文もオンパレードで唱えたのだ」
「理由の後付けですか」
「伏線の回収ぞよ」
「……」
聞こえはいいが……冷や汗が出ます。伏線とは違う気がします。
「予が何もせずに高みの見物などしてはおれぬだろ」
「……たしかに」
今回の事件の張本人ですから……トラブルメーカーの名に相応しい。
「褒めても何も出んぞよ」
「……」
――誰も褒めていませんからっ!
魔王様、もう二度と隕石の魔法は使わないで下さい――!
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