真昼の決戦
砂漠の中央に一人立たされた……。
ここから数十キロ離れた所から魔王様とソーサラモナーと女勇者が見守ってくれている。望遠鏡で。
一つしかない望遠鏡にドキドキしてしまう。
順番とかで揉めてはいないだろうか。三人とも落ちる瞬間が見たいのは必至――。一番恐ろしいのは、誰も見ていない時に隕石が当たっておっちんでしまうことだ……。
だが、私は紳士たる騎士。魔王様に絶対の忠誠を誓う身。いつでも命は預けている――。それに対し……、サッキュバスとサイクロプトロールは魔王城で普段通りの生活をしているのが……ガチで腹が立つ。
もっと出番が少なくなってしまうぞ――。
空に……月よりも大きく見える隕石が生々しい。物凄くグルグル回転している。ひょっとすると力を貯めてスピードを付けて落っこちてくるタイプなのだろうか。
より一層の大ダメージを敵に与えるために――? とんでもない極悪禁呪文じゃないか~!
ああ、緊張してきた。手に汗を握る。銀色のガントレットから手汗がポタポタ流れ落ちる。これ、どういう原理なのだろう。
いかん、手なんかに気を取られていてはいけない。集中しなくてはならない。また空を見上げた。私の両手両腕に、この星の行く末がかかっているのだ――。
でも、やっぱり手汗が気になる。なんか、汗って乾くとネチャネチャしてしまうのが嫌だ。ハンカチーフはあるが水がない。砂漠だから暑い。
いかんいかん! 手なんかに気を取られていてはいけない。集中しなくてはならない。また空を見上げた。ああ……地獄だ。一度気になるとソワソワしてしまうじゃないか。砂漠に水を持って来なかったのも大失敗だ。隕石を受け止める前に熱中症で倒れてしまうぞ。
隕石は昼の太陽を隠し、空に大きく広がっていく――。あと……何秒だ! 真下で見ていると距離感がぜんぜん掴めない――!
数十キロ離れたところでも……ひょっとすると同じように見えているのではないのか――?
「しまった――!」
だったら失敗だ! 当たる直前が分からないではないか!
急に女勇者が目の前の空間へ瞬間移動で現れた――。
「――!」
「……きちゃった」
きちゃったって?
「馬鹿! お前は瞬間移動の魔法を一日に二回しか使えないのだろ!」
こんなところで使ってしまってどうする!
「いいやああああああ!」
――空を見て悲鳴を上げないで! 声にビックリしちゃったから!
悲鳴を上げたいのはこっちだから――!
大気圏に突入した隕石が一瞬にして真っ赤に変色したかと思うと――衝撃波よりも早く隕石が壁になって二人の頭上に迫り来る――!
――仕方ない、作戦変更だ。普段は滅多に抜かない白金の剣を抜いた。
我が究極の奥義で……隕石を切る――!
「究極奥義! ――デュラハン・ブレッドで打ち砕く!」
「ブレッドなの」
「ああ。ブレッドだ。固いフランスパンも難なく切れるところから命名したのだ」
「ネーミング!」
ゆっくり息を吐いて白金の剣を構え、そっと目を閉じた。
すると……。
『デュラハンよ……剣で切るのではない――打ち返すのだ』
「はっ! 誰だ!」
急に耳元に直接話し掛けてくるのは!
『予を信じるのだ』
「――魔王様!」
魔王様の声が聞こえる! 耳元で囁くように! 首から上が無いのだが、今はそれどころではない。
『剣の……ほら、峰打ちというか平打ちというか、とにかく横の部分を使うのだ。切っても駄目だ』
――ええい、やかましい。集中しているのだからちょっかい出さないで!
『予を信じるのだ――』
……信じるだと?
「信じるってなんだ! そもそも魔王様が自ら蒔いた種! なぜ私の頭の上に隕石が落ちてくるんですか!」
『――! 今さら逆ギレ?』
「キャア―! 落ちてくるわ!」
まだ大丈夫。あとコンマ数秒はある。
「逆ギレしたくもなります! こんな砂漠のど真ん中に私一人だけを置いて、さらには剣で隕石を切れだの切るなだの……見殺し甚だしいです」
泣きたいぞ。空を覆いつくす隕石に。
『せっかく予がデュラハンの力を一時的に無量大数まで引き上げる『能力強化』魔法をかけてやろうと思ったのに~』
「――!」
――その手があった! チート魔法、「能力強化」無量大数!
「――お願いしますっ!」
早く!
『じゃあ、謝って』
「……」
時間が無いのに~!
「ごめん……ね」
『いいよ』
魔王様の愛は無限でいらっしゃる。
『能力強化ー!』
耳元で声デカ過ぎ――!
「うおおおおお? おおおおおお?」
……なにも起こらないぞ……ひょっとして、能力アップの魔法は、私には効力が無いのをお忘れか?
あかんやん――! はい、絶体絶命決定~――! さらば女勇者よフォーエバー……。
……完……。
「わたしがやるわ!」
「――!」
「白金の剣を貸して、早く!」
女勇者の豆一つない綺麗な手が差し出される。
「え」
ひょっとして、能力アップしたのは……女勇者? 白金の剣を手渡したが、どう見ても腕も足も太くなっていない。胸のサイズも同じだぞ。
「本当に大丈夫なのか」
パッと見なんにも変わっていないぞ! チッパイままだぞ!
「任せといて! ジロジロ見ないで! こう見えてもわたしだって毎日剣の鍛錬を欠かしたことはないのよ」
無茶苦茶不安だぞ! この断末魔の土壇場でウィンクしないで!
「駄目だ、やっぱり返すのだ、ここは私が――」
「大丈夫だから、わたしを信じて応援してて」
応援すると言われても――何もできないぞ。
……そうか、応援歌とかか!
「『打球がライトスタンドを~一跨ぎ~!』」
魔王様も一緒に歌っていらっしゃる。応援歌に冷や汗が出る、古過ぎて。
目の前まで迫る隕石は、隕石というより――もはや空一面を覆う壁となった。潰されるような圧迫感に息を飲む――!
目を閉じたくても閉じられない――! 首から上が無いから――!
「いまだ!」
「打てー!」
カキ―ン!
打ちよった……。
目前まで壁になって急接近してきた隕石なんぞを……女勇者が白金の剣で遠く彼方へ打ち返しよった。……ライトスタンドよりも遠くへ。
「やった……ぞ」
キラッと輝いて隕石は遠く彼方へ消え去ったのを見たとき、あー、剣と魔法の世界で本当に良かったと実感した。
物理と科学の世界じゃなくて本当によかった……。
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