頼みの綱は女勇者
四天王の反対を押し切り、魔王様に人間界へと瞬間移動してもらった。
魔王様が女勇者の参加を許可したのは、少しでも自分の負担をお減らしになりたいのだろう。元凶のくせに楽をしたいなんて……さすがは魔王様と称賛すべきか。
コンコンと女勇者の住むポツンと一軒家をノックし、いきさつを説明した。
「え、いいわよ」
二つ返事――。
「すまない。頼りにしている」
「わたしに任せておいて。あなたはわたしが必ず助ける。わたしの命に代えてでも……」
そっと頭を胸に押し付けてくる……。
いや、ちょっと待って。そういう感動的なシーンは苦手なのだ。――なんか滅茶苦茶リアルになってしまうではないか。
――成功しちゃまずいみたいな空気になるではないか!
……ただの誤爆だよね。隕石がピカッと大気圏内に突入して、ゴゴゴゴ―! って迫力満点で迫ってきて、私が「今だ!」って叫んでも魔王様が耳をほじっていて聞こえずに「あんぎゃ―!」カラコロカラコロと転がってピエーン的な……軽い短編だよね?
クレ4シンちゃんの映画版みたいに感動的な話にはならないよね! 冷や汗が出る。最近では主要キャラが死ぬ映画とかアニメとかが多過ぎて~――!
女勇者の肩に手を乗せ、そっと引き離す。近過ぎる。
「安心しろ。私は魔王軍四天王の一人、最強の騎士、宵闇のデュラハンだ」
隕石の一つや二つに屈することなど――ない! ガントレットでガシッと鷲掴みにして、いい物を拾ったとNASU航空宇宙局への手土産としてやろう。冷や汗が出る。
「……無理はしないで。お願いだから」
「ああ。誓おう」
私は無理などしない。ポカンと突っ立っていればいいだけだ。
この作戦は、魔王様とソーサラモナーと女勇者の腕に掛かっているのだ。
「明日のお昼頃に魔王城玉座の間に集合予定だ」
「うん。必ず行くわ」
「昼食を用意しておこう」
「ゴクリ」
ヨダレを飲み込んで返事しないで。
帰りがけに人間界の国王にも隕石のことを教えるため、女勇者と城を訪れた。
「なんじゃっと! 隕石が……落ちてくるだと~」
かなり年老いた国王が玉座から跳ね上がって驚く。まだまだ生き長らえそうだ。
「そうだ」
「ひょっとして、あれが落ちてくるのか」
「あれ?」
国王の城は窓が大きくて……ひょいとそこから見上げると、青空に小さな光る点が見えた。
「うん。そうそう、あれあれ」
小さい点が少しだけ大きくなった気がする。気のせいかもしれない。
「あれって、……めちゃくちゃ大きいぞ」
「フッ、点のようにしか見えぬが」
国王の目には取れないゴミでも入っているのだろうか。それとも節穴か。
「いやいや。いやいやいやいや! 冗談ではなく、望遠鏡で科学者どもに調べさせておったのだ。あの隕石は、直径約五千キロメートルもあるのだ!」
「……フッ」
それがどれくらいの大きさなのか、検討もつかないぞ。五千キログラムなら大変だがな……五トンだから。
「月よりもデカいのだぞ!」
「なに?」
月よりもデカいと言われても……ピンとこないぞ。月など小さいではないか。ここは剣と魔法の世界だ。お月様の世界ではない。大気圏突入して炎上しさらに小さくなれば、ピンポン球程度にまで縮むだろう。
「落ちてこれば、どの大陸よりもデカいのだぞ!」
まだピンとこないぞ。
「もうひと越え」
「ムムム。では……魔東京ドームがすっぽり入り過ぎてガバガバ!」
「――そんなバッカーナ!」
――あの点のような隕石が魔東京ドームよりも大きいというのか! そんな大きな隕石が落ちてこれば、ペッタンコにされてしまう! ピョンキ□様のように……冷や汗が出る。
「本当に大丈夫、デュラハン……」
心配そうに女勇者が隣で見つめてくる。
「案ずるな。作戦がうまくいけば私は死にはしない」
砂漠に大きな凹みができるだけだ。
「うん。わたしが必ず助けてみせるわ」
「ああ……ありがとう」
見つめ合う二人を国王が物凄く凝視してくる。
「……いや、取り込み中に悪いが、デュラハン殿が死ぬ死なないかのレベルではなく、この星が砕けるか砕けないかのレベルなんだけれど……大きさ的に」
「――!」
「なんだと!」
お星様レベルだと――☆キラッ? グヌヌヌヌ……国王め、まさか嘘をついている訳ではあるまいな。
「いや、ガチッス」
「……さすれば……」
その凄まじい威力の禁呪文が……魔王様の仕業などと口が裂けても言えない。言わない。口ない。口内炎はある。
「国王よ、我ら魔族はこの来たるべき緊急事態に最善を尽くす。よって、人間界でも最善の策を講じよ」
「あ、ああ。うん。パニックにだけはならないよう人間界でもこのことは極秘としよう。隕石が落ちてくるのはいつか分かっておるのか」
「ああ。明日の昼過ぎだ」
「はや! もうお手上げやん」
国王は両手をパーにして上げ、万歳をしている。まだ成功した訳ではないのに気の早いことだ。
失禁にだけは気を付けろと言いたい。
魔王城、玉座の間へと戻ってきた。
「魔王様、ピンチでございます!」
女勇者に瞬間移動で送ってもらったのだ。女勇者は一日に二回だけしか瞬間移動の魔法を使えないそうだ。
「どうしたのだデュラハンよ。女勇者とイチャイチャできなかったのか」
イチャイチャって……嫌な響きだぞ。チョメチョメはもっと駄目だぞ。
「人間界の国王が調査したところ、あの隕石が落ちればこの星も木端微塵になるそうです!」
「ホッホッホ」
笑っていらっしゃる……。
「冗談は寝て言うがよい。あんな小さな隕石。落っこちてきても痛くも痒くもないわい」
いや、痛いです痒いです。私が。
「望遠鏡を国王より借りてきました。覗いて見てください」
国王から借りてきた望遠鏡を手に魔王様を窓際まで案内する。
「うお! 眩しい」
ざまあ見ろ。さらには目の周りに黒い墨がいっぱい着いているのは内緒だ。
「魔王様、望遠鏡では絶対に太陽を見てはなりません」
「――先に言って! そういう大切なことは覗く前に言って! っていうか、デュラハンがこの位置で覗けと言ったぞよ~」
「言っておりませぬ。そんなことより! こっちを見てください」
望遠鏡の先を点のような隕石へと向け直す。
「……」
「ほー。表面の凸凹まで綺麗に見える。人間界の技術も侮れぬの」
「はい。レンズは嘘をつきません」
冷や汗が出ます。
魔王様と再度二人で作戦を練り直すことにした。
「この星全体に魔力バリアーを張りましょう。割れるような固いバリアーではなく、少しでも衝突の衝撃を吸収するような、ベチョベチョヌルヌルのバリアーです」
スライム状のゼリーバリアーです。
「そんな都合のいいバリアーなどないわい。そもそも、バリヤーなのかバリアーなのか、ハッキリして欲しいぞよ」
「バリアーでよろしいかと。よく街中でバリアフリーを見かけます」
「なるほど」
「では次の策です。落下地点近くにいる人やモンスターを早急に退避させましょう」
「退避って……もう夜だぞよ。明日の朝からでよいではないか。夜に人やモンスターが移動すると、大抵の場合、誰かがコケて怪我をする」
……それは駄目だ。一人も怪我人など出してはならない。安全第一は何事よりも最優先される。
「最後の策として、魔王様は私に力を送ってください」
「どうするのだ。もしや、我が無限の魔力を受け取り魔王の座を狙うというのであれば容認しかねるぞよ!」
それは、私の命あってこその謀反でございます。
「なんとか受け止めてみます」
「どうやって」
「両手で」
「――! 見せ場を持っていくつもりか」
「テヘペロ」
さらには受け止めた隕石をNASU航空宇宙局に持っていく予定です。「取ったどー!」でございます。心ばかりのお礼を貰えるかもしれません。
「ズルいぞよ」
「なんなら代わりますか」
「ごめん、それだけは、ちょっち勘弁して欲しいぞよ」
ちょっちって……冷や汗が出る。古過ぎて。
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